イタリア北東部と、隣国スロベニアの複雑に入り組んだ国境地帯において、長い歴史を有し、アイデンティティを守り抜いてきた白ブドウ品種があります。その名はリボッラ・ジャッラ(Ribolla Gialla)。これはイタリア側の呼称で、スロベニアではレブラ(Rebula)がその名です。中世の時代から銘酒と崇められてきたこのブドウは、20世紀末以降の多様なスタイルの台頭によって、実にユニークな存在になりました。飲む者に強い印象を残すブドウ、リボッラ・ジャッラ/レブラの魅力を、本記事では十分にお伝えしていきましょう。
【目次】
1. リボッラ・ジャッラとはどんなブドウか
1-1. スタイル(白、オレンジ、スパークリング、甘口)
1-2. 風味の特徴
2. リボッラ・ジャッラの栽培特性
3. リボッラ・ジャッラの歴史と起源
4. リボッラ・ジャッラの主要産地と代表的生産者
4-1. イタリア コッリオ(Collio)
4-2. イタリア フリウリ・コッリ・オリエンターリ(Friuli Colli Orientali)
4-3. スロベニア
4-4. その他の産地
5. リボッラ・ジャッラのサービス方法とフード・ペアリング
5-1. サービス方法
5-2. フード・ペアリング
6. リボッラ・ジャッラのまとめ
1. リボッラ・ジャッラとはどんなブドウか
1-1. スタイル(白、オレンジ、スパークリング、甘口)
リボッラ・ジャッラは多才で懐の深いブドウなので、多様なスタイルのワインへと姿を変えます。これには功罪があって、複数スタイルの乱立には、アイデンティティを見えづらくするという批判もあるでしょう。とはいえ、古典品種の二大巨頭シャルドネとリースリング、ロワール原産のシュナン・ブランも、大変に器用で多彩なブドウです。リボッラも、それぞれのスタイルで品質を高い水準に保つのが、肝要だと思われます。
辛口白ワイン
このブドウが本来持っている、搾りたての果実のような繊細な美しさを最大限に引き出すスタイルです。栽培段階で収量を厳格に制限し、醸造の際には繊細な品種アロマを守るために、低温管理の下で主にステンレスタンクを用いて発酵が行われます。木樽(オーク樽)が使用される場合もありますが、リボッラの身上である花、タンジェリン、レモンのような清らかなアロマが、ともすれば覆い隠されてしまうため、慎重に適用しなければなりません。出来上がるワインは軽やかで瑞々しく、心地よいミネラル感と美しい酸味が真っ直ぐに伸びる、比較的若飲みの上質な辛口白ワインとなります。
オレンジワイン
2000年代後半に始まった、世界的なオレンジワインへの熱狂において、リボッラ・ジャッラは間違いなく主役を演じました。この品種は白ブドウでありながら果皮が厚く、豊かなフェノール化合物(タンニン分)を豊富に蓄えています。先駆者は、フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州(以降、FVGと表記)内のオスラヴィア(Oslavia)地区に暮らす造り手、ヨスコ・グラヴネル(Josko Gravner)とラディコン(Radikon)でした。1990年代末、ジョージア産の「シーラカンスのような古代ワイン」に衝撃を受けた彼らは、白ブドウのリボッラをまるで赤ワイン用黒ブドウのように扱い始めたのです。果皮や種子を発酵容器に投入し、数週間から、時には数ヶ月以上にも及ぶ極めて長いマセレーション(果皮浸漬)を施します。発酵や熟成に、通気性のある伝統的な粘土の素焼き壺(アンフォラ)を使うのも、ジョージア流でした。出来上がるワインは、深い琥珀色や黄金の輝きを放ち、しっかりとした渋味の骨格をまといます。口中に広がるのは、凝縮された黄色い果実の風味、ドライアプリコット、ハーブ、そしてナッツや独特のオイリーなミネラル感、塩味を帯びた深遠な複雑さです。このオレンジワイン(あるいはアンバーワイン)は、オスラヴィアのテロワールと現代イタリア人生産者の感性、そしてジョージアの古めかしい製法が美しく融合した結晶でした。「新奇な復古」の噂は口伝てに広まっていき、以後オスラヴィアは、オレンジワイン・ブームの震源地になります(本家本元、ジョージア産オレンジワインが国際市場に出てくるのは、ロシアとの政治的分離がなされた2010年代後半以降です)。
スパークリング
リボッラ・ジャッラが本来有している、驚くほど豊かな酸味は、スパークリングワインのベース(原酒)として完璧な適性を備えています。世界的成功を収めた隣州(ヴェネト州)のプロセッコ(Prosecco)に追いつき追い越せと、フレッシュで親しみやすいシャルマ法の泡が多く生産されているほか、「シャンパーニュ方式」(メトド・クラシコ)による本格的スパークリングワインも、リボッラの守備範囲です。スパークリング用のリボッラは、高い熟度が必要とされず、かつ収量が高くてもワインへの品質の影響が大きくないため、主に平野部で栽培されています。
甘口ワイン
稀ですが、秋の穏やかな気候下で、果実がボトリティス・シネレア(貴腐菌)の影響を受けると、アンズ、ハチミツなどの豊潤で複雑な風味に彩られた、卓越した甘口ワインも生まれます。このほか、陰干ししたブドウから造る甘口(パッシート)も見逃せません。
1-2. 風味の特徴
リボッラ・ジャッラから造られるワインの風味は、他のどの国際品種とも異なる、極めて強烈な個性を有しています。アロマの核となるのは、瑞々しく清らかな白い花や、生き生きとした果実のニュアンスです。ワインをグラスに注ぐと、フレッシュなキンポウゲやアカシアの花のみずみずしい香り、柑橘類の果皮、タンジェリン、青リンゴ、洋梨、さらには焼いたリンゴのような温かみのある香りも繊細に立ち上ります。味わいの構成要素において最も顕著なのは、強烈で、唇をすぼめたくなるような美しい酸味でしょう。収量を厳しく制限した傾斜地のブドウ畑からは、白コショウや、濡れた石や火打ち石を思わせる、卓越した塩味やミネラル感も感じられます。

リボッラ・ジャッラの房
クラシックなスタイルのリボッラ・ジャッラは、アルコール度数が一般に11.5%〜13.5%程度と比較的控えめで、ボディはミディアムからライト、軽快さと飲みやすさを誇ります。とはいえ、いかに口当たりがよいと言っても、単純に軽いだけではありません。果皮由来のしっかりとしたフェノールの厚み(渋味)が程よい「グリップ感」として口内に留まり、中盤で心地よい緊張感と骨格が感じられるでしょう。
さらに、この品種には長期熟成能力もあり、ワインが瓶内で数年過ごせば、その姿は大きく変化します。色は深いゴールドになり、香りとしては濃縮された黄色い果実やドライフルーツ、ナッツ類、蜜蝋などが顔を見せるようになるのです。
2. リボッラ・ジャッラの栽培特性
非常に小さく繊細な房をつけるのが特徴で、その形状はピラミッド型または円錐円筒形をしています。房の重量は、少なければ80グラム程度にしかならず、最大でも130グラムをめったに超えません。果粒のサイズは中ぐらいから大粒。果皮はしっかりとした黄色を呈しています(ジャッラ Giallaは、イタリア語で「黄色」の意味)。
生育サイクルの面では、春の発芽が遅いのが特徴の品種です。開花とヴェレゾン(果実の着色期)は平均的な時期に訪れますが、収穫は秋深くになります。
樹勢は旺盛で、多産です。肥沃な平地の土地で野放図に栽培したりすれば、ブドウ樹は驚くほどの量の房を実らせてしまいます。そうした場合、出来上がるワインは水っぽく味気ない上に、リンゴ酸由来の強烈な酸味ばかりが角立つ、残念なバランスになるのを避けられません。リボッラは、水分ストレスに強いので、樹勢を抑える目的をも含め、水はけのよい傾斜地が、高品質スティルワインの生産用には選ばれます。乾燥や高温にも耐え、ベースの酸度が高い点は、気候変動・温暖化対策用の品種としても注目される栽培特性です。
病害の観点においては、不規則な不結実現象である「結実不良(ミラランダージュ)」が起きやすい品種であり、さらにはカビ系の病害に対する耐性も比較的低いです。
リボッラ・ジャッラには今日、多様な遺伝的クローンが存在します。2017年にカルロ・ペトルッシがイタリアで選抜した優良クローンである「VCR 72」、「VCR 100」、「VCR 394」、「VCR 417」、さらにはFVG州農業振興公社(ERSA FVG)によって登録された「ERSA FVG 180」 などがその代表です。
3. リボッラ・ジャッラの歴史と起源
リボッラ・ジャッラ、あるいはそのワインに関する最古の確実な文献記録は、13世紀末にまで遡ります。1296年3月20日、時のローマ教皇ボニファティウス8世が、トリエステ司教とヴェネツィアのサン・ジョルジョ・マッジョーレ修道院との間で勃発していた、「ラボーラ(Rabola)」と呼ばれるワインの販売権をめぐる紛争を、自ら仲裁したという公的な記録です(ラボーラはリボッラの最古の異名)。ローマ教皇直々にですから、この頃リボッラのワインは非常に重要だったのだろうと想像されます。
実際、当時のリボッラは、主にドイツやオーストリアをはじめとする北方の君主や貴族たちから、神聖なる最高級ワインとして絶大な人気を博していました。1382年にトリエステがハプスブルク帝国に併合された際、オーストリア公レオポルト3世が、宮廷への忠誠の証として、毎年「最高級のリボッラ・ワイン100壺」を首都ウィーンに献上するよう領民に要求したほどです。
4世紀のちの18世紀になっても、リボッラへの高い評価は変わっていません。オーストリア女帝マリア・テレジアが1751年に布告した土地税の記録においても、レブラ(リボッラ)の植えられたブドウ畑は、「最高の香りを持つワインを生み出す地」として、最上位に位置づけられていました。
リボッラは、歴史が長い故に、その起源が謎に包まれたまま、多くの別品種とも混同されてきたブドウです。しかし、近年のDNA解析技術の目覚ましい進歩によって、今ではその出自の半分が明らかになっています。リボッラの親品種の片方は、白ブドウのグエ・ブラン。シャルドネ、ガメ、アリゴテ、ミュスカデ(ムロン)といった、100を超える多数の高名なブドウを生み出したとても古い品種です(しかしながら、グエ・ブランそのものは、今ではほとんど栽培されていません)。現時点では、残り片方の親品種はわかっていませんが、それが突き止められると、リボッラ誕生につながった自然交配がどの場所で発生したかが推定できる可能性があります。
近年の研究論文では、興味深い新事実も明らかになりました。スロベニアのブルダ地区には、「レブラ・スターラ(Rebula Stara)」(スロベニア語で「古いレブラ(=リボッラ)」の意味)と呼ばれる品種があります。2010年頃の研究で、「この品種はレブラ(=リボッラ)とは別品種だが、親子関係の可能性あり」だと示唆されていました。2020年に、この仮説がさらに深く検証された結果、レブラがグエ・ブランそのものだと分かったのです。グエ・ブランは、イタリアやスロベニアでは、長らく絶滅していたと考えられていたのですが、ひっそり仮面を付けて残っていました。「古いレブラ」という呼び名は、最新のDNA鑑定の知見を先取りしていたわけで、「昔の農夫の観察眼」には感心させられます。
かつてイタリア北東部には、緑がかった果皮を持つリボッラ・ヴェルデ(Ribolla Verde/ヴェルデは「緑」を意味するイタリア語)という別品種も存在していました。1825年にアチェルビなる人物が発表した、イタリアのブドウに関する重要な論文においても、リボッラ・ヴェルデとリボッラ・ジャッラが個別に登録され、その頃から両者が明確に区別されていたと知られています。リボッラ・ヴェルデは、リボッラ・ジャッラと比べて品質の低いワインしか生まないため、イタリア北東部での栽培は以前から、平坦地のごく一部に限られていました(スロベニア側のほうが、このヴェルデの栽培面積は広かったようです)。いずれにせよ、今ではほとんど栽培されていません。そのため、現代において単に「リボッラ」と言えば、リボッラ・ジャッラを指すようになっています。
4. リボッラ・ジャッラの主要産地と代表的生産者
リボッラ・ジャッラ(スロベニア名:レブラ)は、イタリア北東部FVG州と、国境を接するスロベニア西部の丘陵地帯で、真の個性を開花させます。政治的な国境線こそ引かれていますが、地質学的にも気候的にも一帯はひとつの「境界なきテロワール」を形成しており、1940年代までは同一の地域として結ばれていました。近年では、志高き生産者たちが「ブルダ・ホーム・オブ・レブラ(BRDA Home of Rebula)」という国境を越えたプロジェクトを立ち上げ、リボッラ/レブラの魅力を世界へと発信しています。
4-1. イタリア コッリオ(Collio)
FVG州ゴリツィア(Gorizia)県に広がる丘陵地帯コッリオ(Collio)またはコッリオ・ゴリツィアーノ(Collio Goriziano)は、地滑りを起こしやすいほどの急傾斜が続く、イタリア屈指の白ワインの銘醸地(D.O.C.)です。北側にそびえるジュリア・アルプス山脈が冷涼な北風を遮り、南側にあるアドリア海からは穏やかで温暖な地中海性の海風が吹き込むため、理想的な微気候に恵まれています。

コッリオ丘陵
コッリオの最大の特徴は、独自の複雑な地質にあります。地元で「ポンカ(Ponca)」と呼ばれるこの土壌は、約5,000万年前の始新世に、比較的浅い湖のような水底で泥灰岩と砂岩が交互に堆積して形成された、層状堆積岩です。脆く崩れやすいポンカ土壌は、砂岩の層が優れた排水性を保証する一方で、粘土質を含む泥灰岩の層がスポンジのように適度な水分を蓄えるため、夏の乾燥期にもブドウ樹にじわじわと水分を供給し、深みのあるミネラルと強い酸を蓄えた高品質なブドウを育みます。
コッリオ内には、砂岩と泥灰岩の比率や標高、風の流れの違いによって多様なサブゾーンが存在しますが、リボッラがとりわけ名高いのがオスラヴィア(Oslavia)地区です。コッリオの東端、ゴリツィア市に近い場所に位置し、標高は150〜180メートル。スロベニアの山々から吹き下ろす冷たく乾燥した夜風と、日中の強い日照により、日較差が激しいのが大きな特徴です。この環境下で育つリボッラ・ジャッラは、柑橘類を思わせる鋭い酸と、火打ち石のような強いミネラル感を手にします。前述した現代オレンジワイン発祥の地が、ここオスラヴィアです。高名な生産者は数多いですが、ジョージアの伝統を復古させた先駆者ヨスコ・グラヴネル(Josko Gravner)およびラディコン(Radikon)が、その筆頭にきます。

ヨスコ・グラヴネルのオレンジワインの仕込み場。アンフォラ(粘土の素焼き壺)が地中に埋められている ©株式会社ファインズ
このほか、オスラヴィアの北に位置するサン・フロリアーノ・デル・コッリオ(San Floriano del Collio)地区は、非常に冷涼な気候で知られます。代表的な生産者に、グラディス・チウッタ(Gradis’ciutta)がいて、白のリボッラ・ジャッラが高く評価されています。中でも、「スヴェティ・ニコライ(Sveti Nikolaj)」というキュヴェは、スロベニアのブルダ地区で収穫されたブドウを、イタリアに運んで醸造するという、文字通り国境を越える興味深い試みです。
4-2. イタリア フリウリ・コッリ・オリエンターリ(Friuli Colli Orientali)
コッリオの北西に隣接し、ウーディネ(Udine)県を南北に縦断する広大な丘陵地帯が、フリウリ・コッリ・オリエンターリ(Friuli Colli Orientali、以下FCO)のD.O.C.です。地質的にはコッリオと同じポンカがベースとなっていますが、敷地面積が広いため、北部は冷涼で雨が多く、南部は温暖でなだらかな丘陵地が広がるなど、多様な個性を持ちます。FCO全体のスタイルとしては、コッリオのリボッラ・ジャッラに比べると、骨格がわずかにスリムで、酸味がより爽快、エレガントな仕上がりになりやすいのが特徴です。
域内の高名なサブゾーンはロザッツォ(Rosazzo)地区で、コッリオのオスラヴィア地区と双璧をなす、リボッラ・ジャッラ二大聖地の一翼と言えるでしょう。ロザッツォでは、フリウラーノ主体の白ワインを生産した場合のみ、その名でD.O.C.G.が名乗れますが、リボッラを使った場合には、FCOのD.O.C.ワインとなります。ロザッツォは、アドリア海からわずか25キロメートルほどしか離れていないため、常に温暖な海風が吹き込み、一方で北部にある高い丘が冷たい北風を遮るため、温暖で日照量に富んだ微気候です。ロザッツォ産リボッラ・ジャッラは、他のどの産地のものよりも大柄な骨格を持ち、並外れた深みと持続性、気品に満ちた美しい酸、上品な塩味を宿した白ワインとなります。代表的生産者の筆頭は、エンツォ・ポントーニ(Enzo Pontoni)率いるミアーニ(Miani)です。ペッタリン(Pettarin)と名付けられたそのリボッラ・ジャッラは、多くの批評家たちから、「イタリア最高峰の白ワインのひとつ」と讃えられています。ミアーニのワインは、リボッラに限らず極端な低収量ゆえに、生産本数がごくわずかで、激しく入手困難です。

ロザッツォのブドウ畑(春の夕暮れ時)
他の注目すべきFCOのサブゾーンとしては、ブットリオ(Buttrio)があります。鉄分を豊富に含む粘土質の強い赤ローム土壌が特徴で、その影響かこの地区のリボッラ・ジャッラは、よりスパイシーな風味があり、口当たりも肉厚です。代表的な生産者としては、レ・ヴィーニェ・ディ・ザモ(Le Vigne di Zamò)がいます。
4-3. スロベニア
スロベニアにおけるレブラは、栽培面積こそ全体の4%程度ですが、国のアイデンティティの一翼を担う重要品種と、歴史的に考えられてきました。主産地である西部のブルダ(Brda)地区においては、全植栽面積の約2割をレブラが占めています。ブルダの東に位置するヴィパヴァ渓谷(Vipavska Dolina / Vipava Valley)が、もうひとつの重要産地になります。スロベニアの造り手たちは、レブラが持つ果皮の強靭さと熟成ポテンシャルを深く理解しつつ、スキンコンタクト技術や樽熟成を用いており、生まれ出ずるのは複雑かつ深遠なワインです。
最重要産地であるブルダは、イタリアのコッリオ地区の地続きとなるスロベニア側の丘陵地帯で、かつてはゴリシュカ・ブルダ(Goriška Brda)とも呼ばれていました。傾斜が20%を超える急斜面が連なる険しいテロワールで、標高も高いです。ここにはイタリアのポンカと同様の、泥灰岩と砂岩が積層する痩せた土壌が広がっており、スロベニア語では「オポカ(Opoka)」と呼ばれています。代表的生産者として、五世代にわたる名門マリアン・シムチッチ(Marjan Simčič)、同国最大の協同組合にして、世界最大のレブラの生産者であるケット・ブルダ(Klet Brda)、アレシュ・クリスタンチッチ(Aleš Kristančič)率いる自然派ワイナリーのモヴィア(Movia)などがあります。

ブルダの急斜面
ヴィパヴァ渓谷は、北のトラノーヴォ高原、東をナノス高原、南のカルスト高原に挟まれていて、ブルヤ(Burja)と呼ばれる冷たく乾燥した局地風が吹き抜ける、細長い谷あいの地です。地中海からの温かい空気と、トラノーヴォ高原からの冷たい空気が交差するため、ブドウには酸味と果実味が同時にもたらされます。代表的生産者として、ともに自然派のブルヤ・エステート(Burja Estate)とゲリラ(Guerila)などがあります。
4-4. その他の産地
新世界にある産地の中で、リボッラ・ジャッラへの熱心な取組みが見られるのは、カリフォルニアです。パイオニアは、ルーナ・ヴィンヤーズ(Luna Vineyards)の共同設立者であるジョージ・ヴァレ(George Vare)で、2001年にヨスコ・グラヴネルの畑から違法輸入した苗木を、ナパの地に植えました。ヴァレは、「カル・イタル(Cal-Ital)」と呼ばれた、1990年代からのイタリア品種導入ブームを先導した人物のひとりです。
残念ながら、カル・イタル・ムーヴメントも、ヴァレによるリボッラへの挑戦も、一時的な盛り上がりで終わってしまいました。しかし、2010年代に入ってから、「ニュー・カリフォルニア」と呼ばれる一群の生産者たちによって、リボッラが再評価され始めます(「ニュー・カリフォルニア」とは、アルコールを穏当な水準に抑え、酸と果実味のバランスを追求する造り手たちの総称です)。スティーヴ・マサイアソン(Steve Matthiasson)、アルノ・ロバーツ(Arnot-Roberts)、ライム・セラーズ(Ryme Cellars)らのリボッラは、いずれも高い評価を受けています。
5. リボッラ・ジャッラのサービス方法とフード・ペアリング
クラシックな辛口白、複雑で強いオレンジ、瑞々しいスパークリング(スプマンテ)、そして贅沢なデザートワインまで、多彩なスタイルを持つ品種ですので、サービス方法、相性料理ともに一様ではありません。ただし、すべてのスタイルに共通する要素、すなわち高い酸度、心地よい塩味、適度なグリップ感は、試行錯誤の前提となります。
5-1. サービス方法
クリーンかつフレッシュな辛口白ワインであれば、温度は7℃~10℃あたりの低めの温度帯がよいでしょう。しっかり冷やしてやると、花、柑橘類などのハツラツとしたニュアンスが、美しい酸味と共にキリッと引き締まり、素晴らしい清涼感につながります。ワイングラスは、中ぶりで卵型の標準的な白ワイン用グラスでよいでしょう。デカンタージュは不要です。

オレンジワイン(果皮浸漬を施した濃密なスタイル)については、強くは冷やさず、12℃〜15℃程度という、「軽い赤ワイン」と同等の温度帯で提供するのがベストでしょう。オレンジのリボッラ・ジャッラには、ブドウの厚い果皮から抽出された豊かなフェノール(タンニン分)があります。温度が低すぎると、このタンニン分が不要に強調され、とげとげしい味わいに感じられてしまうからです。ワイングラスについては、ボウル部分が大きく膨らんだブルゴーニュ型のグラス、あるいは大きめの白ワイングラスを使用します。十分に空気に触れさせてやると、アンフォラや大樽での長期熟成によって育まれた深遠な風味が花開くでしょう。
スパークリングは、6℃〜8℃までしっかりと冷やして供します。軽快でフルーティーなシャルマ方式のカジュアルな泡ならば、よくあるスリムなフルートグラスでOKです。一方、瓶内二次発酵によって、酵母由来の澱と共に熟成された泡は、ややボウルの膨らんだ大きめのシャンパーニュグラスを使用したほうが、複雑な香りを楽しめます。
甘口(貴腐・陰干し)については、10℃〜12℃程度の「そこそこ冷たい」温度がちょうどよいでしょう。甘味が強く、少量ずつしか飲めないため、小ぶりな食後酒用グラスで楽しむのが一般的ですが、ダイナミックな香りを楽しみたければ、大ぶりの赤ワイン用グラスに注ぐのも一興でしょう。
5-2. フード・ペアリング
クリーンかつフレッシュな辛口白ワインであれば、海の幸やフレッシュなハーブ、スパイシーな調味料を使用した料理と、素晴らしい親和性を示します。ほんの一例にすぎませんが、チキン・ピカタ、スパゲティ・ボンゴレ、ムール貝の白ワイン蒸しなどです。
オレンジワインのリボッラは、渋味と滋味・旨味(セリヴァリーな風味)を備えているため、通常の白ワインでは受け止めきれないような、より重厚でスパイシーな料理と素晴らしいマリアージュを見せます。ラム肉のロースト、スパイスを使った鴨肉・ジビエ・豚・鶏などのグリル、生ハムやサラミ、長期熟成したハードチーズなど、「赤ワインの相手」から選ぶほうがベターです。
スパークリングには、シャープな酸味に加え、炭酸ガスも口の中をリセットしてくれる性質があるので、脂分の豊かな前菜がぴったりでしょう。野菜のフリット、サーモンのブルスケッタなど。
甘口(貴腐・陰干し)については、デザート全般が合います。かつて、FVGには、秋のゆで栗や焼き栗を、発酵中のワイン果汁と合わせる習慣があったそうです。熟成したリボッラにはナッツの風味が豊かに出ますので、熟成した甘口ならば、栗はよき伴侶になってくれるでしょう。
6. リボッラ・ジャッラのまとめ
ワインの喜びの大きな部分は、多様性によって占められています。シャルドネ、ソーヴィニョン・ブラン、イタリア系品種ならばピノ・グリージョやグレーラ(旧名称:プロセッコ)がいかに人気者だといっても、それだけではつまりません。今後の活躍が注目されているイタリア系白品種には、ヴェルメンティーノ、ヴェルディッキオ、フィアーノなどがありますが、リボッラ・ジャッラもその並びに入る有望株です。長い歴史と確かな氏素性、多才・器用さ、明確な(そして秀逸な)個性、気候変動への適応力と、訴求点は多数あります。品種名も、リボッラと短縮すれば、発音しやすく覚えやすいほうでしょう。現時点においては、FVGとスロベニア以外での展開例が少ないため、グローバルに実力を発揮できるかは未知数ですが、特別育てにくい品種というわけではありません。これからの飛躍に注目、期待し、見守っていきましょう!
執筆者:アカデミー・デュ・ヴァン編集部
1972年にパリで誕生したアカデミー・デュ・ヴァンは、日本で最も歴史あるワインスクールです。ワイン・日本酒・チーズなど、お酒と食の学びを通じて、ワイン初心者の方だけでなく第一線で活躍するプロフェッショナルの方々からも支持されています。スクール運営をはじめ、テイスティングバーやワインショップ、イベントなど、学びと体験をつなぐ多彩なサービスを展開しています。
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