アシルティコとは ~ ギリシャのスター品種を徹底解説

サントリーニ島のアシルティコ

アシルティコは、ギリシャのエーゲ海の島々、特にサントリーニ島が起源であると言われています。白ワインでも力強く骨格がしっかりして重みがあるワイン。香りは比較的ニュートラルで、果実感よりも、いわゆる塩味や海を感じさせるようなミネラリティ中心。そして高い酸味が特徴。スパークリングの他、ヴィンサントと呼ばれる甘口ワインにも使われます。今や、ソムリエのお気に入りのお洒落なワインの一つ。ミシュランの3つ星レストランでもワインペアリングで、ボルドー、ローヌやトカイの世界の一流ワインと共にオンリストされています。

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【目次】
1. アシルティコの品種の特徴とワイン造り
 1-1. 産地とブドウ品種に適合:伝統的な仕立て
 1-2. 醸造~アシルティコの造り方
 1-3. 甘口ワイン~ヴィンサントかヴィン・サントか
2. サントリーニ:エーゲ海の宝石はアシルティコ最良の産地
 2-1. ワイン造りの長い歴史
 2-2. 厳しい環境が生んだ古木の繁栄
 2-3. 試してみたい有名生産者たちのワイン
3. 産地拡大の気配:サントリーニを超えて
4. アシルティコのまとめ


1. アシルティコの品種の特徴とワイン造り

1-1. 産地とブドウ品種に適合~伝統的な仕立て

アシルティコは樹勢が強くて、比較的多産な白ブドウ品種。芽吹きは遅くて成熟にも時間が掛かります。

その年に花を咲かせ果実をつける結果枝の基部、つまり枝の根元の芽の結実性が低いため、短梢剪定だと収量が落ちます。ですので、長梢剪定が適しています。

ギリシャ・サントリーニ島で伝統的な仕立てが、クールーラ。籠のように枝を編み込んで、その内部にブドウを実らせます。地元ではカラティとも呼ばれるこの仕立て。長梢を編み込んで、幹の周囲に籠状に巻き上げます。

地面からは10~20センチとかなり低い仕立て。強い日差し、風や砂塵からブドウ樹を守ります。ヘクタール当たり1,800~2,200本ほどと低い植栽密度。収量もヘクタール当たり1~3トン程度とかなり低くなります。そして、このクールーラは必ずしも畑で直線的な列で栽培されている訳ではありません。ブドウ樹が枝を伸ばした所で、自然に繁殖することも。

アシルティコのクルーラ

クールーラと、垣根仕立てを対象とした2019年からの2年間にわたるアテネ農業大学の研究。サントリーニ島のように厳しい気候や環境の下では、クールーラの方が向いているという結果が実証されました。

乾燥条件下でも水を効率良く利用できて、光合成も有利。熱波の際でも、樹冠内部の温度が低く、湿度が高く保たれて果実の被害が低下。結果、収量も高く、糖度も維持できたという結果となりました。

葉を多く露出できる垣根仕立ての方が、光合成には有利というのが一般的な考え方。でも、乾燥・高温の厳しい環境下では、水の利用効率や温度や風をさえぎる樹冠の構造などの複合的な影響が作用するというものです。

クールーラや垣根仕立てだけでなく、クラデフティコと呼ばれる株仕立ての一種も、アシルティコの伝統的な仕立て。こちらは、地上から20~30センチ程度で、長梢を樹幹の周囲で輪状に巻きます。クールーラよりは強風被害が少ない産地で活用。地面からの距離が少し遠いので、風通しが良く、ブドウ樹の健康には好影響。でも枝を幾重にも巻きますから、アシルティコのように枝に柔軟性がある品種でないと採用は不向きです。

甘口ワインのヴィンサントに使われるブドウの収穫。過熟して部分的に乾燥して、糖分が1リットル当たり370gに達しなければならないという規定があります。潜在アルコール度数表示では、21%と言う高アルコール。収穫後も5~10日程度は乾燥させて甘味や酸味を凝縮させます。

1-2. 醸造~アシルティコの造り方

PDOサントリーニの白ワイン醸造は、15℃~16℃程度の発酵温度でステンレスタンクを用いることが普通。高めの温度で発酵する生産者もいますが、規則上、最高発酵温度は20℃に設定されています。

そして、酸化しやすいと言われることもある品種なので、抽出は丁寧に。全房圧搾で丁寧で穏やかな抽出をする生産者もみられます。

酸が高いのが特徴で、総酸度は1リットル当たり7~9.5グラムに達する場合も。酸味を強みとする品種の最右翼、リースリングにも匹敵します。アルコールは、最低12.5%が規定ですが、実際は13%を超えるワインが普通。中には15%から16.5%という高アルコールのワインも。酒精強化ワイン並みです。

その酸を大事にする意味でも、サントリーニでは、マロラクティック発酵は避ける傾向にあります。もっとも、pH3.0前後が多いため、自然にはマロラクティック発酵が起きにくいということもあります。

最近、PDOサントリーニでは、アシルティコの最低ブレンド比率の規定が75%から85%へ増加。収量も、最大ヘクタール当たり8トンから6.5トンへと厳しい規定に移行。アシルティコの品質の高さ、凝縮度と塩味や鉱物的なニュアンスなどを感じるミネラリティが評価されたのです。

ですので、実際はアシルティコを使ったワインのほとんどが100%に近い単一品種ワインになる傾向。ブレンドする場合は、白ブドウ品種アイダニ、アシリとのブレンドが使われます。

そしてPDOサントリーニでは、樽熟成せずに火打石のようなミネラルを感じられるスタイルで造る方が主流。樽は使用しても、最低限に留めるか古樽の使用に限定。あるいは木樽の代わりにアンフォラを使う選択をする生産者もいます。他方、澱熟成は広く採用されます。澱熟成は還元的な香り生みますので、火打ち石的なニュアンスにも貢献。

もちろん、アシルティコに果実香がないと言う訳では無くて、有核果実の花梨やメロンなどのトロピカルフルーツ香が感じられます。アテネ農業大学の研究では、果実の香りを感じるモノテルペンや青葉を思わせるグリーンノートのC6化合物がアシルティコからは特定されました。

PDOニクテリと呼ばれるスタイルでは最低3か月の樽熟成が必要。最低13.5%のアルコール度数ですが、やはり14.5~15%は普通です。余韻は長く高品質。

ギリシャ本島では、サントリーニとは異なる白ブドウ品種、セミヨンやマラグジアとのブレンドが評価されています。マケドニアのパゲオンPGIを本拠地とする生産者ビブリア・ホーラのキュヴェ、オヴィロスホワイトは、アシルティコとセミヨンが半々のブレンド。フレンチオーク熟成。ドイツ・ノイシュタットで開催される国際コンクールのムンドゥス・ヴィーニでヨーロッパ最優秀辛口白ワインに選出されたこともあります。

1-3. 甘口ワイン~ヴィンサントかヴィン・サントか

©slava296 – stock.adobe.com

甘口のPDOヴィンサントは、最低51%のアシルティコ使用が義務。そして、最低2年の酸化的な熟成を経ることが必要です。実際は、5年から10年の長い熟成を経て琥珀色をしたワイン。残糖は、1リットル当たり200~300グラム迄の高い甘味を持つワインもあります。

イタリアで、有名なヴィン・サントですが、ブドウ品種が異なります。トレッビアーノとマルヴァジアが使用品種。

そして、イタリアでは「ヴィン・サント(Vin Santo)」として、ヴィン・サント・デル・キャンティ・クラッシコDOCやヴィン・サント・ディ・モンテプルチアーノDOCなど、産地毎に複数の原産地呼称が存在。一方、ギリシャでは「ヴィンサント(Vinsanto)」と表記され、PDO名称として保護されているのはサントリーニのみです。

2. サントリーニ:エーゲ海の宝石はアシルティコ最良の産地

サントリーニ島

ギリシャのサントリーニ島以外で生産がおこなわれているアシルティコのワイン。でも、高級ゾーンはやはりサントリーニ産です。国際的なワイン価格比較を行っているサイト「Wine-Searcher」でも、高額ランキングのトップ10の内9つのワインが、サントリーニ産。

サントリーニ島は、過去の火山噴火によって形成されたカルデラ地形で有名です。キクラデス諸島に属し、北緯36度に位置。珊瑚礁に囲まれて、300メートルの崖からエーゲ海を臨む絶景。アシルティコの栽培面積は、約800ヘクタール。ペズ―レスと呼ばれる石積みの段々畑で栽培されるアシルティコは圧巻の景観です。

ティーラとも呼ばるサントリーニ。その名称は13世紀に名付けられたと言われます。巨大噴火によって堆積した厚さ30~50メートルに及ぶ火山灰、軽石、溶岩の層の下には、非火山性の変成石灰岩や片岩からなる基盤岩。その一部は地表に露出しています。土壌に粘土質が少なく砂質の割合が高いのが特徴。ブドウの生育に不可欠な窒素やリンは乏しく、ブドウ樹は厳しい環境下で生育します。

2-1. ワイン造りの長い歴史

サントリーニ島の南西端にあるアクロティリ遺跡。ここでブドウ栽培の痕跡が確認できます。先史時代の都市遺跡で、紀元前1630年頃とされる火山の噴火で壊滅。エーゲ海のポンペイとも呼ばれます。ブドウ栽培は、今から3,600年以前に遡ります。

サントリーニ島のアクロティリ遺跡

サントリーニ島のアクロティリ遺跡

12世紀から17世紀まではヴェネツィア共和国下でワインがヨーロッパへ輸出されます。その後、オスマン帝国による征服はあったものの、農地が少ないことから征服者の入植は限定的で、貿易は引き続き発展。

18世紀からはロシアへの輸出が盛んになります。特にヴィンサントがロシア正教会の聖餐用のワインとして重宝。アルコール度数が高い辛口白ワインの需要も高まりました。しかし、20世紀初頭のロシア革命で輸出が途絶。そして、貿易は西欧中心へと移行しました。

2-2. 厳しい環境が生んだ古木の繁栄

地中海性気候で年間を通して温暖。23℃~14℃の気温に恵まれています。夏場でも、35℃以上になるのは、通常は3日程度。でも、熱波や水不足でブドウの成熟や収量の確保には厳しい環境です。通常は10月から4月の間に雨は集中します。一方、乾燥した夏のブドウ樹への水分補給は、夜間から朝にかけて発生する海水の蒸発、アネドッサと呼ばれる海霧に頼ります。

2019年は1月からの3か月間で550ミリの降雨を記録。甲府盆地で年間1,100ミリほどの降雨に見舞われる、多雨の日本からした大した降雨量とは感じません。しかし、サントリーニでは、年間平均降雨量が350ミリ程度。前代未聞の降雨量と現地では心配の声が広がりました。

砂質の割り合いが高く、フィロキセラ耐性が高い土壌。そのため、100年を超えるような自根の古木が魅力です。500年のブドウ樹もあるとの話も。火山性の土壌は、水はけが良く土壌はアルカリ性で、pH8を超える土壌も。

畑は島の南部や南西部に集中。南東部は石灰石が見られますが、ブドウ畑が立地する土壌は、砂質や岩がちな土壌です。

メルテミと呼ばれる強い北風。ブドウ樹には被害を与える一方、夏場は病害を抑えると共に、気温を和らげる効果もあります。お蔭で、成熟をゆっくりと迎えることができて、うどん粉病対策も硫黄を1~2回散布すれば十分という生産者もいます。

2-3. 試してみたい有名生産者たちのワイン

SIGALAS、Argyros等、サントリーニの有名生産者のワイン

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サントリーニには、20軒程度のワイナリーが点在しています。

ドメーヌ・シガラスは、40ヘクタールほどの畑を保有し、年間3万ケースほどの生産規模。同社のニクテリのスタイルは、過熟した果実を収穫。穏やかな全房プレスで抽出。発酵・熟成ともに樽を使い、バトナージュも行います。澱熟成は20か月というブルゴーニュのシャルドネに匹敵するような贅沢な造りです。アルコール度数は15パーセントに達します。

サントワインズはもともと、1911年に農家の利益を守ることを目的にサントリーニ・ブドウ・ワイン保護基金として創立。その後、協同組合として1970年にスタート。今では1,200の農家が加盟しています。年間60万人とも言われるサントリーニでのワインツーリズム観光客の一大拠点。ワインの他にもトマトジャムやアーモンド入りの伝統的なお菓子も取り扱って、観光客に親しまれています。

サントリーニに現存する歴史あるワイナリー。1903年創業のエステート・アルギロスや家族経営のガヴァラス・ワイナリーが挙げられますが、近代的なワイナリーと言った意味合いでは、1947年に建設着手されたヴェネツァノス・ワイナリー。断崖の地形を利用したグラヴィティフローを利用したワイナリー。ブドウやワインをポンプではなく自然落下で移動させる設計です。

3. サントリーニを超えて:産地拡大の気配

ギリシャ本島でも、アシルティコの栽培は増加しています。

ペロポネソス半島のPDOモネンヴァシアーマルヴァジアではブレンド用に使われます。白ブドウの最低51%を占めるモネンヴァシア主体の甘口ワインへの補助品種。

マケドニア地方のPDOスロープス・オブ・メリトン。エーゲ海を臨むハルキディキ半島のシソニアの傾斜地の畑に位置します。白ワインは、アシリを中心としたブレンドを主体としたPDOで、アシリが50%、ロディティスが35%、アシルティコは比率が抑えられていて15%と補助品種の扱い。

この産地でアシルティコ単一品種を造る生産者、ポルト・カラス。アシルティコ100%のワインは、PDOの規定外となりPGIハルキディキを名乗ることになります。このワイナリーでは、ボルドー大学のエミール・ぺイノー教授がカベルネ・ソーヴィニョンの醸造コンサルタントをしていました。

こうしたギリシャ本島のアシルティコは丸みがあって果実味が豊富な傾向があります。香り豊かで柔らかい触感のワインが特徴的。そして、ビブリア・ホーラのオヴィロスホワイトのセミヨンとのブレンドで見たように、国際品種を含めた品種とブレンドされることもあります。

アテネ農業大学では、北部ギリシャとサントリーニのアシルティコから造ったワインを比較研究して、その違いを指摘しました。サントリーニのワインは酸が高くて濡れた石や金属のようなミネラル的な要素が中心。一方、北部ギリシャは、有核果実やリンゴなどの強い果実香が主体というものです。

ギリシャ・クレタ島もアシルティコの評価が高い産地。有名生産者で、まず名前が挙がるのがリララキスです。100%アシルティコのキュヴェ、ヴォイラが有名。標高約580mの畑から造られる単一畑のワインです。

カリフォルニアのローダイでは、ギリシャ系のペルレゴス・ファミリー・ヴィンヤードが2021年にアシルティコの初収穫。アシルティコを使ったスパークリングワインや白ワインが好評を得ています。ローダイ・ワイングレープ委員会は、アシルティコがこの産地で25年後にはメジャーな品種になるとの予測。地中海性の気候がアシルティコの栽培に向いているのと、品質が高く、酸が高い辛口ワインの愛好家に受け入れられるだろうと考えているのです。

オーストラリア、クレア・ヴァレージム・バリー。2006年に夫婦でサントリーニへ休暇で訪問。初めて飲んだアシルティコに魅了されました。ガイアワインズやエステート・アルギロスの協力を得て、苗木を輸入。クレア・ヴァレーはサントリーニと比べると冷涼で雨も多く、気候が異なります。でも、温暖化の対処にも役立つ筈と、クールーラでの栽培も採用しています。

その他にも、まだまだ試験栽培の域を出ないとの指摘もありますが、南アフリカの有名生産者マリヌーは質感の豊かさとフレッシュさを兼ね備えたアシルティコを高く評価。イタリア、アルト・アディジェの老舗有名ワイナリー、アロイス・ラゲダーもアシルティコを栽培しています。この生産者は、ドロミティ山脈の麓に立地。アシルティコの生き生きした酸味を、迫る温暖化の波に向けて大いに期待しています。

ボルドーの研究プロジェクトのヴィットアダプト(VitAdapt)。その研究成果が、温暖化対策のアルバリーニョやトゥーリガナショナルなどの代替品種採用を後押ししたことで知られています。実は、アシルティコも高温・乾燥条件に耐性が高いと注目されていたようです。将来、もしかしたらボルドー産のアシルティコが飲めるかも知れません。

4. アシルティコのまとめ

今回は、飲みごたえあるコクと酸味の両方に恵まれたギリシャの白ブドウ品種、アシルティコを勉強しました。特徴ある籠のような形をした仕立ても、サントリーニ島の自然に上手く適合して、高品質なワイン造りに貢献していることがわかりました。そして、実はオーストラリアやイタリアでも栽培。

流行に敏感なソムリエや愛好家、ブラインドテイスティングの猛者たちを中心に日本でも徐々に注目を集めている品種です。まだ試していない方はぜひ一度テイスティング。その特徴的とも言われる酸味や塩味、果たしてエーゲ海の息吹が感じられるものなのか確認してみてください。

サントリーニ島のアシルティコ

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