世界が注目!日本固有のブドウ品種、甲州の魅力を徹底解説

ブームが続く日本ワイン。なかでも日本の固有品種である甲州から造られた甲州ワインは、海外のコンクールでも金賞を受賞するなど世界からの注目が高まっています。

今回は日本が誇る甲州について、その驚きのルーツから多様化するスタイル、産地や楽しみ方などを徹底解説していきます。日本ワインを押さえるには、まず甲州から入れば間違いなしですよ!

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【目次】

1. 大和撫子のような甲州ワイン、その特徴とは?
2. 驚きの甲州のルーツ
3. 甲州ブドウの特徴と栽培方法
 3.1. もう「何もない」なんて言わせない!発掘されたポテンシャル
 3.2. 伝統的な仕立ては棚栽培
4. 多様化する甲州、醸造法で変わるスタイル
5. 甲州の有名産地―山梨以外も注目
6. 世界で存在感を増す甲州ワイン
7. おすすめマリアージュと意外な楽しみ方
8. まとめ


1. 大和撫子のような甲州ワイン、その特徴とは?

甲州ワインを一言でいうならば、上品で繊細。大和撫子のような楚々としたたおやかさを持つワインです。香りは控えめで、和柑橘のような爽やかな香りと穏やかな酸味、すっきりとした味わいが基本のスタイル。主流は辛口白ワインですが、実は辛口が好まれるようになったのは日本ではここ半世紀弱のこと。それまでは欧米の食文化に慣れていなかった日本人の口に合うのは、「甘味ブドウ酒」でした。

東京オリンピック(1964)や大阪万博(1970)の流れで起こった1972年の第一次ワインブームを皮切りにワイン消費量が急激に伸び始めたのが1970年代。1975年にはついに辛口ワインの消費量が甘口ワインを抜き、ワインも食の欧米化に伴い辛口へとシフト、食中酒として飲まれるようになります。最近では辛口白ワインのなかでもさらにスタイルが多様化し、従来のすっきりしたタイプだけでなく、樽を使ったふくよかなタイプ、はたまた果皮を漬け込んだオレンジワインなどさまざまな甲州ワインが発売されています。

甲州のスパークリングワインもおすすめです。例えば2001年に発売されたキザンワイナリーの「キザン スパークリング トラディショナル ブリュット」」は、瓶内二次発酵方式による甲州スパークリングのパイオニア的存在。この1本に背中を押され甲州のスパークリングワインに挑戦した造り手も多いとか。今では安価で美味しいスパークリングや、オレンジワインの微発泡などさまざまなスパークリングワインが手に入るようになりました。

2. 驚きの甲州のルーツ

マスカット・ベーリーAと並び日本の固有品種として愛されている甲州ブドウ。生食もできるため、本格的にワイン産業が興る明治初期以前から日本では栽培されてきました。甲州の正確な来歴については記録が残っておらず、奈良時代に僧行基がブドウを持ち込んだとする説や、平安時代末期に雨宮勘解由が野生状態の甲州を見出して栽培を始めたとする説が伝えられてきました。

甲州のルーツが科学的に解明されたのは2013年。酒類総合研究所のDNA解析により、なんとヴィ二フェラ(欧州系品種)のDNAが約7割、残り3割が中国の野生種であるヴィティス・ダヴィーディのDNAであることが判明しました。これにより、「コーカサス地方からシルクロードを渡り、中国の野生種と交雑しながら日本に伝わった」と証明されたことになります。日本固有の品種が、先祖はブドウ発祥の地であるコーカサス地方だったというのは、感慨深いですよね。

3. 甲州ブドウの特徴と栽培方法

3.1. もう「何もない」なんて言わせない!発掘されたポテンシャル

ブドウの特徴としては、まず果皮の色にご注目。秋に勝沼へ訪れると棚にブドウの房がたわわに垂れ下がっているのをみかけます。通常の白ブドウは、熟すと黄緑色になるのですが、甲州の場合はグレーがかかった淡い藤紫色。陽の光にかざすと透明にきらめき、とても美しいんです。このように果皮が白ブドウと黒ブドウの中間的なブドウをグリ品種(グリは灰色の意)といい、欧州系品種だとピノグリやゲヴュルツトラミネールが代表格です。

果実の大きさは中程度で、食用にもワイン用にもできます。比較的糖度は上がりにくく、ワインにするとアルコール度数も控えめになります。香りもおとなしく淡泊、かつ後味に苦味が残ることも多いため、「水っぽくて苦い、個性のない凡庸な酒」という評価をされた厳しい時代もありました。90年代後半、日本でワイン消費が右肩上がりで拡大する一方、甲州ブドウの人気は下がり生産量も激減。食用ブドウとしての人気が落ちたこと、安価な輸入ワインが入るようになり甲州ワインの需要が減ったことなどが原因でした。

そこで甲州ブドウのポテンシャルを発掘し輝かせるためにメルシャンが2000年に始めたのが「甲州プロジェクト」。その一環としてワインの香りの権威であるボルドー大学の故・富永敬俊教授との共同研究もスタートしました。明らかになったのが、ソーヴィニヨン・ブランと共通する柑橘香の基となる成分「3MH」が甲州にも含まれること。この衝撃の事実が、「甲州には何もない」という説を覆し造り手に希望を与えたのです。このように甲州の良さを引き出すために様々な研究が行われ、栽培・醸造技術が磨かれることで品質が上がりスタイルも多様化してきたといえます。

最近では、甲州のクローンについて研究も進んでいます。山梨県では2008年から甲州の優良系統を選抜する事業を行い、その結果KW01(フレッシュタイプ)、KW02(高収量タイプ)、KW05(凝縮タイプ)と特徴の異なる3系統を推奨系統として指定しています。

3.2. 伝統的な仕立ては棚栽培

甲州は果皮が厚いため、シャルドネなどの欧州系品種と比べると比較的病気に強く、高温多湿な日本の気候条件に適したブドウです。晩熟の品種といわれていますが、栽培環境やワインのスタイル等によって収穫時期も変わり、9月中旬から10月後半と幅があります。最近は温暖化の影響で収穫時期が早まっているという生産者の声もよく聞きます。

仕立てとしては、中央葡萄酒のように垣根栽培に挑戦し成功している造り手もいますが、ほとんどは日本に根付いている伝統的な棚仕立て。甲州は樹勢が強く新梢の伸びが旺盛なため、一本の木を大きな棚状に仕立てて数多くの果房を付けさせる仕立てが一般的です。

そして雨が多くベト病や灰色カビ病の被害も多い日本で伝統的に培われた技術が、傘かけ。ブドウ一房ずつに傘紙をかけるという気の遠くなる作業で、外国人が畑を見学すると、日本人の職人気質に一様に驚くそうです。

4. 多様化する甲州、醸造法で変わるスタイル

冒頭述べたように、最近では甲州にもさまざまな醸造方法が取り入れられ、多様なスタイルの甲州ワインを楽しめるようになりました。その軌跡は、日本ワイン業界をリードするメルシャンの商品開発の歴史を見ると実にすっきりと頭に入ってきます。

フレッシュ&フルーティー

日本人の嗜好が辛口に向かい始めた1976年、ジャストなタイミングで発売されたのが「勝沼ブラン・ド・ブラン 1975」です。フレッシュ&フルーティーなワインで世界をリードしていたドイツの技術を参考に、「甲州でもこういうワインが造れないか?」と研究がスタート。果汁を清澄化して低温発酵*させるというドイツの技術に加え、約200株のワイン酵母から選抜した「M1酵母」を使用するなどメルシャン独自の技術をプラスして日本初のフレッシュ&フルーティータイプの甲州が造られました。

*低温発酵:ワインをステンレスタンクで発酵させるときに、低めの温度で発酵させるとエステル香という華やかなフルーツの香りがプラスされフルーティーなワインになる

シュールリー

辛口甲州と切っても切り離せない重要な技術が、シュールリー製法です。シュールリーはもともとロワール地方のミュスカデに古くから使われていた醸造方法。発酵終了後にワインをそのまま澱の上(sur lee)で寝かせることで、フレッシュさを保ちながら澱由来の旨味や厚みをプラスすることができます。ミュスカデも香り控えめなすっきりしたワインなので、甲州にも応用できると踏んだわけです。こうして生まれたのが「東雲甲州シュールリー 1983」。さらにメルシャンは、企業秘密ともいえるシュールリー製法を勝沼のメーカーに情報公開することで、業界全体の品質向上に寄与。現在もシュールリーは辛口甲州の代名詞となっています。

樽発酵・樽熟成

フレッシュ&フルーティーからシュールリーと、すっきり系甲州のレベルが上がってきたら、次なる野望はしっかり系甲州を造ること。試行錯誤の末に産声を上げたのが1993発売の「甲州小樽仕込み 1992」。甲州を果汁の段階から小さな樽で発酵させ、樽熟成したボリュームのあるタイプでした。樽発酵はステンレスタンクに比べ温度管理が難しいのが難点ですが、現在では醸造技術の向上によりその精度も高まっています。樽の産地や大きさ、年数(新樽の使用率)、育成期間など樽の使い方でも甲州ワインの味わいは大きく変わります。

オレンジワイン

最近ではあちこちで見かけるようになったオレンジワイン。赤ワインを造るのと同じように果皮を漬け込み、醸した状態で発酵させて果皮の味わいを引き出したワインです。日本のオレンジワインのパイオニアが「甲州グリ・ド・グリ 2002」。従来そぎ落とされていた「グリ品種」という甲州の特徴的な色や味わいをワインに引き出した、厚みのある甲州です。味わいには旨味や渋みが加わり、幅広い食事と合わせやすいワインです。

アロマティック系

柑橘の香り(柑橘香の元成分「3MH」)を最大限に引き出し生まれたのが、2005年に発売された「甲州きいろ香 2004」です。ほぼ同時期に勝沼醸造の「アルガブランカ イセハラ」というソーヴィニヨン・ブランと間違うような香りの強いワインも発売され、これらのワインにより甲州の柑橘香ブームが巻き起こりました。柑橘香を引き出すには、ボルドー液という銅などの重金属を含む農薬を減らすこと(銅が香り成分を吸着してしまうため)、香り成分が最大となる完熟手前で収穫すること、VL3酵母という、香りを引き出すのに相性の良い酵母を使うこと。酸化に非常に弱い香りなので、酸素を遮断して仕込むことも重要です。

5. 甲州の有名産地―山梨以外も注目

山梨県勝沼市

日本のワイン用ブドウで最も生産量が多い甲州(全体の15.1%)。生産量3376tのうち93%が山梨(3138t)で、島根(116t)、埼玉(60t)と続きます。

甲州の本場・山梨県では「本葡萄」として愛され、一升瓶ワインを湯呑みで飲むような昔懐かしい地酒文化が根付いています。1874年にはじめて山梨県で本格的なワインが造られたのも甲州からで、まさに甲州は日本ワインの歴史そのものです。

栽培は、日本での甲州発祥の地とされる甲府盆地東部に集中。特に大文字焼きで有名な鳥居平の急斜面はグランクリュ的存在で、「鳥居平」という地名を商品名に冠した上質な甲州ワインが造られます。最近では産地による甲州の特徴の違いも探られるようになり、「〇〇甲州」のように、産地名を入れた甲州も増えてきています。

山梨県以外にも全国で栽培されており、江戸時代からの古い歴史があるのが山形県。ただし降雪のある山形では、収穫時期の遅い甲州の栽培が農家の負担になるため栽培量は近年激減しています。宮崎や大分など九州でも甲州は栽培されているほか、近年話題になったのが島根の甲州。2019年の「日本ワインコンクール」で島根ワイナリーの甲州が部門最高賞を受賞し、山梨県以外のワインが初めて選ばれたことで業界に激震が走りました。このように産地やスタイルが多様化・品質も向上し、甲州の更なる可能性が見出されています。山形の甲州は酸がしっかり、宮崎の甲州はトロピカル…など、日本各地の甲州を飲み比べてみるのも面白いですよ。

実は海外での成功例も。ドイツのラインガウは2003年より甲州を垣根仕立てで栽培。栽培面積は0.7haと少ないですが、日本にも輸入されています。そして2022年、ついにナパでも甲州ワインが誕生!なんと苗木は95年前に宮崎大学が寄贈したもの。2017年の山火事で焼け焦げてしまったブドウ木に接ぎ木をし、2021年に1tの甲州ブドウの収穫に成功しました。海外育ちの甲州がどんな味わいなのか、非常に気になりますね!

6. 世界で存在感を増す甲州ワイン

世界のワイン市場での日本ワインの立ち位置は、今まさに大きく変わり始めています。2010年にはOIV(国際ブドウ・ワイン機構)に甲州が日本の品種として初めて認可され、EUに輸出する際にラベルに品種名が表示できるようになりました。同じく2010年からはKOJ(Koshu of Japan)という輸出プロジェクトも始まり、「和食と甲州」を売りに世界市場へのプロモーションを拡大。少量ですが、香港、台湾、中国、シンガポールなどアジアへも輸出されるようになりました。

世界での評価も高まり、コンクールでの受賞歴も確実に増えています。2014年には、中央葡萄酒が北斗市明野にて垣根栽培で造る「明野 甲州」が権威ある「デカンタ・ワールド・ワイン・アワード」で日本ワイン初の金賞&地域最高賞を受賞。最近だと2021年の「IWC (International Wine Challenge)」で「シャトー・メルシャン 笛吹甲州グリ・ド・グリ2019」がオレンジワイン部門で金賞を受賞し、話題になりました。

現在の食トレンドも甲州にとって追い風といえるでしょう。2013年には和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたほか、世界的な和食ブームが続いています。食もワインも軽やかなスタイルが好まれる今、かつての「水っぽい」という欠点は、逆に「みずみずしい」という長所になります。世界のどこにもない甲州ワインの魅力を、ついに世界が発見したのです!

7. おすすめマリアージュと意外な楽しみ方

甲州に合う料理は、なんといっても和食です。素材の味重視の繊細な風味をもつ和食に、これまた繊細なアロマの楚々とした甲州は、これ以上にないお似合いのカップル。てんぷら&塩にすっきり系辛口甲州やスパークリングは定番ですし、甲州の余韻にあるほろ苦さは、山菜や鮎など苦味のある大人の食材にもぴったりです。また、甲州にある和柑橘のアロマが、すだちやゆずなど和食に添えられる食材と合うため、統一感のあるマリアージュになるのです。

お寿司やお刺身など、合わせるワインを選ぶ料理にも甲州はおすすめです。実は甲州ワインは生魚の生臭さを抑え、食べやすくしてくれるといわれています。メルシャンの研究によると、生臭み成分は、ワインの鉄分と魚の酸化脂質が混ざり合うこと生じることが判明。甲州ワインは鉄分が比較的少ないという調査結果があり、生魚の生臭みが出にくいというわけです。

玄人におすすめの楽しみ方が、熟成した甲州にトライしてみること。「甲州って熟成するの?」と驚かれる方もいるかもしれませんが、良い甲州は甘口も辛口も何十年も熟成します。実際、勝沼のまるき葡萄酒やシャトー勝沼など、熟成にこだわり、地下セラーで何十年も熟成させてからリリースする造り手もいます。琥珀色に変化し、キャラメルやナッツなどの香ばしい香りを呈した甲州は、こっくりと味わい深いですよ。

8. まとめ

ブドウに強い個性がないからこそ多様なスタイルを造れる甲州。比較的リーズナブルに美味しいワインが手に入るのも魅力です。ますます世界から脚光を浴びる前に、ぜひトライしてみて下さいね!

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