ブール&ブライ ~ ボルドー右岸の秘められた銘醸地

世界遺産に登録されているブライの城塞

ボルドー地方右岸のワイン産地と聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは、世界に冠たるサンテミリオンあるいはポムロールでしょう。しかし、ガロンヌ川とドルドーニュ川が合流し、広大なジロンド川となる河口付近には、お買い得品がゴロゴロの穴場産地が存在します。それが「ブール(Bourg)」と「ブライ(Blaye)」です。
メドック地区の対岸に位置し、素晴らしい景観を誇るこのふたつの産地は、ボルドーの中でも古い歴史を持ちます。しかし、近代以降は、バルクワインの供給源という日陰の存在でした。生産者たちのマインドセットが変わったのは、ここ30~40年ほどのあいだで、品質至上主義へと大きく舵を切っています。とりわけ、有機栽培やビオディナミへの転換はボルドーの他地域を牽引する勢いで進んでおり、マルベック種の見直しなど、独自のテロワール表現にも積極的です。本記事では、素敵なコストパフォーマンスを誇る注目地域、ブールとブライを深く掘り下げていきます。

本記事は、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」が監修しています。ワインを通じて人生が豊かになるよう、ワインのコラムをお届けしています。メールマガジン登録で最新の有料記事が無料で閲覧できます。


【目次】
1. 概要:ブール&ブライのワインとは?
 ● 3つのAOCの位置と対象コミューン
 ● 3つのAOCの認定年と主要生産規則
 ● 主要ブドウ品種とスタイル
 ● 歴史
2. ブール&ブライのテロワール
 ● 土壌の特徴/a>
 ● 気候の特徴
3. ブール地区の代表的シャトー紹介
 ● シャトー・ロック・ド・カンブ(Château Roc de Cambes)
 ● シャトー・ファルファ(Château Falfas)
 ● シャトー・フガス (Château de Fougas)
 ● シャトー・ブリュルセカイユ(Château Brulesécaille)
4. ブライ地区の代表的シャトー紹介
 ● シャトー・ベルティヌリ(Château Bertinerie)
 ● シャトー・ジゴー(Château Gigault)
 ● シャトー・レ・ジョンケーレ(Château Les Jonqueyres)
5. ブール&ブライのまとめ


1. 概要:ブール&ブライのワインとは?

3つのAOCの位置と対象コミューン

ブールとブライの両地区は、ボルドー市の北に広がるジロンド県内に位置し、ジロンド川(およびドルドーニュ川下流)の右岸に寄り添うように南北に連なっています。対岸に、マルゴーやサン・ジュリアンといったメドック地区の高名な村々を望む絶好の立地です。この地域の原産地呼称(AOC)としては、「コート・ド・ブール(Côtes de Bourg)」、「ブライ・コート・ド・ボルドー(Blaye Côtes de Bordeaux)」、そして「ブライ(Blaye)」の3つが存在します。

まず南側に位置する「コート・ド・ブール」は、ブール(Bourg)の町を中心に広がる産地です。ガロンヌ川とドルドーニュ川が合流し、まさにジロンド川が形成される地点の右岸にあり、ボルドー市からは北へ約20キロメートルの距離にあります。このAOCは、ブール、ゴリアック(Gauriac)、ランサック(Lansac)、モンブリエ(Mombrier)、ピュニャック(Pugnac)、タウリアック(Tauriac)、バヨン(Bayon)など、15のコミューン(市町村)にまたがっており、起伏に富んだ丘陵地帯が特徴です。

バヨン村の教会を望むコート・ド・ブールのブドウ畑

バヨン村の教会を望むコート・ド・ブールのブドウ畑

一方、ブールの北から北東に向かって大きく広がるのがブライ地区です。こちらは非常に広大なエリアであり、北はシャラント県(コニャックの産地)の境界近くまで達しています。ブライ地区をカバーする主要なAOCが「ブライ・コート・ド・ボルドー」であり、構成するのはブライ(Blaye)、カル(Cars)、サン・シエ・シュル・ジロンド(Saint-Ciers-sur-Gironde)、サン・サヴァン(Saint-Savin)など、42のコミューンです。

そして3つ目のAOC「ブライ」は、地理的な対象エリアこそブライ・コート・ド・ボルドーと同一ですが、より厳しい生産基準を満たしたワインのみに与えられる、特別なAOCとして機能しています。

3つのAOCの認定年と主要生産規則

3つのAOCには、いずれも複雑な歴史的経緯があります。

コート・ド・ブール(Côtes de Bourg)

1936年に赤ワインのAOCとして認定され、その後1945年に辛口白ワインも追加で認定されました。ワインのラベルには「Côtes de Bourg」のほか、「Bourg」や「Bourgeais(ブルジェ)」の表記も認められています。2009年、ボルドー地方内に点在する丘陵地の産地が、合同で「コート・ド・ボルドー」という新しいAOCを創設した際、ブールは独立心を重んじ、連合には不参加、独自のAOCを貫く道を選びました。

ブライ・コート・ド・ボルドー(Blaye Côtes de Bordeaux)

このAOCのルーツは、1938年に認定された「プルミエール・コート・ド・ブライ(Premières Côtes de Blaye)」に遡ります。2009年、前述の「コート・ド・ボルドー」連合が結成された際、ブライ地区はその中心的なメンバーとして加わり、名称を「ブライ・コート・ド・ボルドー」へと改めました。赤ワインと辛口白ワインの生産が認められています。

ブライ(Blaye)

AOCブライ・コート・ド・ボルドーと同じエリアで造られますが、赤ワインのみに認められた上位のAOCです。1936年に認定されたこのAOCは、2000年に「プルミエール・コート・ド・ブライ」よりも一段階上の品質を示すプレミアムな呼称として再定義されました。プルミエール・コート・ド・ブライと比べて、最低植樹密度、最大収量、最低アルコール度数といった生産規則が厳しく設定されています。ただし、この原産地呼称でワインを瓶詰めする生産者はまだ少なく、そのブドウ畑の面積は、ブライ・コート・ド・ボルドーの数千ヘクタールに対し、わずか数十ヘクタールにとどまっています。

なお、かつてはAOCコート・ド・ブライ(Côtes de Blaye)という辛口白ワイン専用のAOCもあったのですが、2020年の収穫をもって消滅しました。

ボルドー、ブール&ブライ地図

主要ブドウ品種とスタイル

ブールとブライは、ボルドー右岸の他地域と同様に、メルロを中心としたワイン造りが行われていますが、多少の独自性も見られます。

赤ワインの品種とスタイル

両地区とも、黒ブドウの主体はメルロです。ブールのブドウ畑全体におけるメルロの植栽比率は約67%、次いでカベルネ・ソーヴィニョンが約18%、マルベックが約10%、カベルネ・フランが約5%となっています(2018年統計)。一方、ブライではメルロが約70%、カベルネ・ソーヴィニョンが約20%、マルベックが約10%を占めます。

ここで特筆すべきは、マルベック(別名:コット)の存在感です。ボルドーの他地域では、補助品種としてわずかにブレンドされるに留まるマルベックですが、ブールとブライでは重要な役割を担っています。特にブールは、ボルドー全域で最もマルベックの比率が高い産地です。このブドウは、ワインに深みのある色合いと、特有のスパイシーなアロマ、黒系果実の風味を与えてくれます。さらに近年では、気候変動への対策や個性の追求から、カルメネールやプティ・ヴェルドといった品種の栽培も、少量ながら認められるようになってきました。

マルベックの房

マルベックの房 ©Ian L

ブライの赤ワインは、果実味が前面に出た、若いうちから親しみやすく丸みのあるタイプです。一方で、南に位置するブールの赤ワインは、ブライよりもタンニンがしっかりとしており、骨格が強い造りになる傾向があります。とはいえ、これはあくまでも一般論。広い面積の両産地には、多様なテロワールが存在するため、繊細で優雅な小品から、凝縮感にあふれたフルボディまで、多彩なスタイルを楽しめます。

白ワインの品種とスタイル

赤に比べて生産量はずっと少ないものの、素晴らしい品質のワインが存在します。主要品種はソーヴィニョン・ブラン(ブールで約41%、ブライで約90%)で、これにセミヨン、コロンバール、ソーヴィニョン・グリ、ミュスカデルがブレンドされます。特徴的なのは、この地域がコニャック(ブランデー)用の原料に、コロンバールやユニ・ブランといった白品種を多く栽培していた歴史です。その名残で、コニャック用の品種が今でも栽培・ブレンドされています。特にコロンバールは、長期熟成には向かないものの、若いうちに飲むと非常にアロマティックで生き生きとした魅力的なワインを生むブドウです。両地域の白は、柑橘系やトロピカルフルーツの華やかな香りと、クリスピーで爽やかな酸味が特徴の、活気に満ちた辛口です。

歴史

ブールとブライにおけるワイン造りの歴史は、対岸のメドックよりも古く、古代ローマ時代にまで遡ります。紀元前にはすでに、ローマ人がこの地に定住し、ジロンド川沿いの斜面にブドウの木を植え、水運を利用してワインを運んでいました。

中世に入ると、ブライとブールは重要な港町として栄え、イギリスや北欧へワインを輸出する拠点になります。当時のメドック地区はまだ沼地が多く未開発であったため、ブールとブライがボルドーワインの主な供給地のひとつだったのです。17世紀には、ブライの町が防衛拠点として重要になり、高名な軍事技術者・建築家のヴォーバン領主セバスティアン・ル・プレストルによって、巨大な城塞(シタデル)が築かれました。城塞は、ユネスコの世界遺産にも登録されています。

ブライの城塞 ©Olivier Aumage

ブライの城塞 ©Olivier Aumage

18世紀から19世紀にかけても、この地域の名声は健在でした。1850年に出版されたボルドーワインの歴史的なガイドブック「コックス・エ・フェレ(Cocks & Féret)」の初版においては、ブールのワインは「フィネスとボディに優れる」と賞賛され、隣のブライよりも評価は好意的です。同書にはまた、ブライに、当時の最高価格帯で取引されていたシャトーがふたつ存在していたとも、記録されています。なお現在、メドック地区の中堅格付けシャトーを指す「クリュ・ブルジョワ(Cru Bourgeois)」という用語は、もともとは18世紀のブール地区産優良ワインに用いられていました(ただし、フランスで中産階級や資本家を指す言葉、「ブルジョワ(bourgeois)」自体が、この地区で生まれたわけではありません)。

両産地の有り様を大きく変えたのは、19世紀後半に起きたフィロキセラの被害です。それ以前、ブールのブドウ畑の約80%はマルベックで占められていました。しかし、マルベックはフィロキセラ対策のための接木(台木)との相性が悪かったため、生産者たちはより栽培しやすいメルロへと、大規模な植え替えを決断したのです。これが、今日のメルロ主体の産地形成へとつながっています。

20世紀後半に入ると、ブールとブライは、ネゴシアンにバルクワインを大量供給する拠点としての色合いが濃くなりました。しかし、21世紀に入ってから、状況は劇的に変化しています。シャトーの世代交代や、新たな可能性を求めて外部からやってきた国内外の投資家の参入により、収量の制限、手摘みの導入、設備の刷新などが進みました。注目すべきは、環境への配慮です。両地区では、有機栽培(オーガニック)やビオディナミへの移行が、ボルドー地方の中でも目立って進んでいます。これは少なくとも間接的には、品質向上へとつながる努力でしょう。「日常消費用」の地位に落ちていたブールとブライは今、大きく跳躍する寸前まで来ています。

2. ブール&ブライのテロワール

土壌の特徴

ブール地区の土壌:台地とシエナ・レッドの粘土

比較的コンパクトなブール地区の土壌は、主に粘土と石灰岩で構成されています。川沿いの西側境界部に露出しているのは、サンテミリオンと同様の、非常に硬いヒトデ石灰岩(calcaire à astéries)です。歴史的に、この強固な石灰岩は建築資材として切り出され、対岸のマルゴー村のシャトー建築など、ジロンド川周辺の建物の多くに用いられました。石灰岩を切り出した後に残った広大な地下採石場跡は、温度と湿度が年間を通じて一定に保たれるため、19世紀末から20世紀初頭にかけて、スパークリングワインの理想的な地下熟成庫として利用されていた歴史があります。

建材にも使われるヒトデ石灰岩(calcaire_à_asteries)

建材にも使われるヒトデ石灰岩(calcaire_à_asteries)©Geofan

石灰岩の台地の上部は、「シエナ・レッド(Sienna-red)」と呼ばれる独特の赤みを帯びた粘土質土壌です。また、斜面には砂利質が見られ、場所によってはフロンサック地区にも見られるような、柔らかいモラス(molasse:砂岩、礫岩、泥岩の混合物)を含む石灰岩土壌もあります。東部のテュイヤック(Teuillac)村周辺には黒い砂質土壌が見られ、アロマティックな辛口白ワインを生む潜在性があるエリアです。全体として、川から離れて内陸へ向かうにつれて土壌はよりローム質となり、フィネスや力強さよりも、親しみやすくフルーティーなワインができる傾向があります。

ブライ地区の土壌:広大な面積がもたらす多様性

ブールに比べてはるかに広大な面積を持つブライ地区は、土壌が極めて多様であり、大きく3つのセクションに分けられます。

第一に、ブライの町周辺から南にかけての西側セクションです。ジロンド川に面した南西および西向きの斜面が広がり、地質学的には「ブライの石灰岩(calcaire de Blaye)」(中期始新世・ルテシアン期)や、さらに東・南に位置する「プラサックの湖成石灰岩(calcaire lacustre de Plassac)」(後期始新世・プリアボニアン期)と呼ばれる石灰岩が主体となっています。粘土や砂利の層も混在しており、特に川沿いのプラサック村の周辺には、古代ローマ人が豪華なヴィラ(荘園)を構えてブドウを栽培し、水運の便を活かしていました。

第二に、北部のサン・シエ・シュル・ジロンド(Saint-Ciers-sur-Gironde)を中心とするセクションです。この地域は石灰岩よりも砂や砂利、粘土が主体となります。この地域に見られる黒い砂質土壌は、ソーヴィニョン・ブランから香り高い辛口白ワインを生み出すのに最適です。

第三に、カヴィニャック(Cavignac)からサン・サヴァン(Saint-Savin)にかけての東部セクションは、川から離れるにつれて粘土の比率が高まり、北向きの斜面も多くなります。砂や砂利、石灰岩が混在する変化に富んだ地帯ですが、一部は標高が低く水はけの悪い場所です。

これら多種多様な土壌の性質を深く理解し、各区画にメルロ、カベルネ・ソーヴィニョン、マルベックなどの品種を適切に植え分けるのが、質の向上を目指す生産者たちの重要な課題となっています。

気候の特徴

ボルドー地方は、北緯45度に位置しながらも、暖かな北大西洋海流と、海岸線からブドウ畑を守る広大なランドの森のおかげで、穏やかな海洋性気候の恩恵を受けています。年間日照の2,000時間超は、ブドウの生育に好ましい値です。ブールとブライは、地方全体の優れた気候をベースにしつつも、川の恩恵による独自の微気候を誇っています。

両地区の気候を語る上で欠かせないのが、目の前を流れる広大なジロンド川とドルドーニュ川です。幅の広い河口は巨大な「水鏡」として機能し、太陽光を反射して斜面のブドウ畑に豊かな光をもたらします。さらに、膨大な水量が果たすのは、周囲の気温の急激な変化を和らげるという役割です。ブドウの芽吹きを脅かす春の遅霜の被害が緩和され、秋にはブドウがゆっくりと完熟できる環境が整えられています。

中でもブール地区は、ボルドーの中でも特に日照と暖かさに恵まれた、一種の「ホットスポット」と言えます。ボルドー地方全体の平均と比較して日照時間が約10%多く、夏と冬の気温も1〜2度高いです。降雨量に関しても、ヴィンテージによりますが、地方平均より10%から25%少なくなっています。加えて、南向きの斜面が生み出す熱量の多さが、晩熟なマルベックをも完熟させ、時には力強すぎるほどの骨格を持った赤ワインを生み出す原動力なのです。

ブライ地区もまた、海洋性気候の影響を強く受けます。大西洋の影響をより受けやすいため、降雨量は多いものの、年間240日という恵まれた日照日数をもち、これは対岸のメドック地区よりもわずかに多い値です。広大な丘陵地帯に位置するブドウ畑は、斜面のおかげで水はけに優れ、北向き以外なら太陽の恵みも得られます。

日照に恵まれるブライのブドウ畑

日照に恵まれるブライのブドウ畑

3. ブール地区の代表的シャトー紹介

シャトー・ロック・ド・カンブ(Château Roc de Cambes)

  • AOC名: コート・ド・ブール
  • 現在の所有者: フランソワ・ミジャヴィル
  • ブドウ畑の面積: 14ヘクタール
  • 品種構成: メルロ85%、カベルネ・ソーヴィニョン15%
  • 年間生産本数: 約45,000本
  • セカンドワインの名前: ドメーヌ・ド・カンブ(Domaine de Cambes)(※AOCボルドーとしてリリース)

コート・ド・ブールの頂点に位置するスターシャトーであり、アペラシオン全体を牽引する存在です。ジロンド川沿いの景勝道路に位置し、ブールの中で最も恵まれたロケーションに畑を有しています。現在の名声を築き上げたのは、サンテミリオンの傑出シャトー、テルトル・ロートブッフ(Tertre-Rôteboeuf)をトップランクに引き上げた功績で知られる天才醸造家、フランソワ・ミジャヴィルです。自らを「粘土石灰質土壌におけるブドウ栽培のスペシャリスト」と自認するミジャヴィルは、この畑のポテンシャルをいち早く見抜き、1987年に買収しました。テルトル・ロートブッフと同じ栽培・醸造手法で造られる赤の品質評価は極めて高く、価格もブールの中では突出しています。ピュアな黒系果実の風味が豊かにあり、口あたりは滑らか、中盤の持続性と長い余韻が特徴です。しなやかなタッチですが、堅牢な骨格がその背後には隠れています。

ロック・ド・カンブのシンプルなラベル

ロック・ド・カンブのシンプルなラベル ©ラックコーポレーション

シャトー・ファルファ(Château Falfas)

  • AOC名: コート・ド・ブール
  • 現在の所有者: ヴェロニク・コクラン
  • ブドウ畑の面積: 20ヘクタール
  • 品種構成: メルロ55%、カベルネ・ソーヴィニョン30%、カベルネ・フラン10%、マルベック5%
  • 年間生産本数: 約120,000本
  • セカンドワインの名前: レ・ドモワゼル・ド・ファルファ(Les Demoiselles de Falfas)

ガロンヌ川とドルドーニュ川が合流するバイヨン・シュル・ジロンド村に位置する、美しい景観を持ったシャトーです。ワイン造りの歴史は古く、14世紀にまで遡り、1612年に建てられたシャトーの建物は国の歴史的記念物に登録されています。1988年、アメリカ出身の弁護士ジョン・コクランと妻のヴェロニクがこの地所を購入し、新たな歴史が始まりました。ヴェロニク・コクランは、フランスにおけるビオディナミ農法のパイオニアのひとり、フランソワ・ブーシェの娘です。そのため、夫妻がシャトーを取得したあとすぐに、ビオディナミへと転換が図られ、ボルドーにおける自然派の先駆シャトーとなりました。しなやかさと自然な活力が同居する、エレガントなスタイルのワインです。シャトー・ファルファそのものも十分に素晴らしいのですが、スペシャル・キュヴェである「ル・シュヴァリエ(Le Chevalier)」も、特筆しておくべきでしょう。平均樹齢75年の古樹の果実、その70%がカベルネ・ソーヴィニョンという異色かつ野心的な作品で、逞しい長期熟成型、新樽で18ヶ月間熟成させています。

1861年時点のシャトー・ファルファ

1861年時点のシャトー・ファルファ

シャトー・フガス (Château de Fougas)

  • AOC名: コート・ド・ブール
  • 現在の所有者: ジャン・イヴ・ベシェ
  • ブドウ畑の面積: 21ヘクタール
  • 品種構成: メルロ64%、カベルネ・ソーヴィニョン29%、カベルネ・フラン7%
  • 年間生産本数: 約100,000本
  • セカンドワインの名前: キュヴェ・プレスティージュ(Cuvée Prestige)(※本文参照)

ネゴシアンの一族に生まれたジャン・イヴ・ベシェが、1976年に魅力的な邸宅とともに購入したブドウ畑です。当初は一般的なワイン造りを行っていましたが、1993年、わずか1ヘクタールの区画からスペシャル・キュヴェ「マルドロール(Maldoror)」を造り始めたのが、シャトーの大きな転機となりました。それまでは、並級品であるキュヴェ・トラディシオンと、樽熟成を経たキュヴェ・プレスティージュを生産していたのですが、マルドロールの導入にともない、キュヴェ・トラディシオンの生産が中止となります。当初は生産量の10%に過ぎなかったマルドロールは、その品質の高さから徐々に生産比率が増え、現在ではシャトー生産量の約90%を占める実質的な「グラン・ヴァン」に成長しました。マルドロールには、高樹齢のブドウが使われていて、カベルネ・ソーヴィニョンのブレンド比率が約25%です。オーナーは、新樽比率80%で18ヶ月間熟成させたそのワインを、「左岸と右岸の中間」的なスタイルと呼んでいます。

シャトー・ブリュルセカイユ(Château Brulesécaille)

  • AOC名: コート・ド・ブール
  • 現在の所有者: マルティーヌ&ジャック・ロデ夫妻、ギヨーム・ロデ(息子)
  • ブドウ畑の面積: 26ヘクタール(白が2ヘクタール)
  • 品種構成: メルロ59%、カベルネ・ソーヴィニョン27%、カベルネ・フラン12%、マルベック2%(白:ソーヴィニョン・ブラン75%、ソーヴィニョン・グリ25%)
  • 年間生産本数: 約150,000本
  • セカンドワインの名前: シャトー・ラ・グラヴィエール(Château La Gravière)

トリアック(Tauriac)村にある粘土石灰質の小高い丘に、ひとかたまりのブドウ畑を所有するシャトーです。歴史は古く、1868年に出版されたコックス・エ・フェレのガイドブックにおいて、すでに「クリュ・ブルジョワ」として格付けされていました。1924年に現オーナー一族のピエール・レカペが購入し、1974年からは娘のマルティーヌと夫のジャック・ロデが、そして2017年からは息子のギヨームが情熱を引き継いでいます。過去20年あまり、着実な品質向上に努めてきました。亜硫酸無添加キュヴェの生産に取り組むなど、新しい挑戦も怠っていません。評価は常に安定しており、コート・ド・ブールの手堅い銘柄として愛好家に信頼されています。ワインのスタイルとしては、メルロ主体の産地にあって、カベルネ・ソーヴィニョンとカベルネ・フランのブレンド比率が、合計約40%と高めに設定されているのが特徴です(グラン・ヴァンの場合)。カベルネは、しっかりとした骨格と適度な緊張感をもたらします。ごく少量(年産9,000本程度)生産される樽発酵・樽熟成の白ワインは、柑橘系の豊かなアロマとふくよかな酒躯を持ち、賞賛の的です。

4. ブライ地区の代表的シャトー紹介

シャトー・ベルティヌリ(Château Bertinerie)

  • AOC名: ブライ・コート・ド・ボルドー
  • 現在の所有者: ヴィニョーブル・ベルティヌリ(バントニー一族)
  • ブドウ畑の面積: 60ヘクタール(白が6ヘクタール)
  • 品種構成: メルロ60%、カベルネ・ソーヴィニョン30%、カベルネ・フラン5%、マルベック5%(白:ソーヴィニョン・ブラン100%)
  • 年間生産本数: 約400,000本
  • セカンドワインの名前:シャトー・マノン・ラ・ラグーヌ(Château Manon La Lagune)

キュブヌゼ(Cubnezais)にある大きなシャトーで、ブライ地区を代表する存在です。ダニエル・バントニーが1960年代前半に品質向上のためテコ入れをし、ふたりの息子が2003年に壮麗な地下セラーを完成させました。ブドウ畑は4箇所に分かれていますが、標高はどこもおよそ100メートルです。土壌は粘土石灰質ですが、一部粘土や砂が多い場所もあります。樽発酵・樽熟成で仕込まれた、複雑で強い白の品質評価がとりわけ高いです。ここの畑では、ソーヴィニョン・ブランが、琴の形をしたリル(Lyre)仕立てで育てられています。ボルドー大学で開発された、比較的新しいブドウの仕立て方で、1987年から国立農業研究所との共同プロジェクトとして、ベルティヌリの畑で試験導入されました。赤白ともに、古木から取れる最高のブドウ/ワインは、スペシャル・キュヴェであるオー・ベルティヌリ(Haut-Bertinerie)の名で瓶詰めされます。

リル仕立てのソーヴィニョン・ブラン

リル仕立てのソーヴィニョン・ブラン ©Vignoble Bertinerie

シャトー・ジゴー(Château Gigault)

  • AOC名: ブライ・コート・ド・ボルドー
  • 現在の所有者: クリストフ・ルブール・サルズほかの共同経営
  • ブドウ畑の面積: 32ヘクタール
  • 品種構成: メルロ100%
  • 年間生産本数: 約100,000本
  • セカンドワインの名前: なし

ボルドーで成功を収めたネゴシアンであるクリストフ・ルブール・サルズが、1998年に購入して修復したシャトーです。著名な醸造コンサルタントであるステファン・ドゥルノンクールが、当初から醸造のアドバイスを行っています。品質志向の生産者としては珍しく、機械収穫を公言するシャトーです。かつては手摘みで収穫していましたが、機械摘みのほうが、葉や枝などの混入物が少ないと確信したため、転換しました。特醸品であるキュヴェ・ヴィヴァ(Cuvée Viva)は、豊麗かつ力強い赤です。以前には過熟感が強くなる時期もありましたが、近年はフレッシュさと洗練された酸味、活力を備えたワインへと進化を遂げています。今では、シャトー・ジゴーを名乗るワインよりも、このキュヴェ・ヴィヴァのほうが、生産量で勝るようになりました。

シャトー・レ・ジョンケーレ(Château Les Jonqueyres)

  • AOC名: ブライ・コート・ド・ボルドー
  • 現在の所有者: パスカル・モントー
  • ブドウ畑の面積: 11ヘクタール
  • 品種構成: メルロ90%、カベルネ・ソーヴィニョン5%、マルベック5%
  • 年間生産本数: 約40,000本
  • セカンドワインの名前: イフ・ド・ジョンケーレ(If de Jonqueyres)

1977年、現オーナーであるパスカル・モントーが、サン・ポール(St-Paul)村にあるこのシャトーを祖父から引き継いだ当時は、わずか5ヘクタールしかブドウが植わっておらず、畑の状態も良くありませんでした。しかし、パスカルは、一族が所有する他の土地を徐々に統合して畑を拡大しつつ元詰めを開始、真摯な品質向上努力によって、「ブライでも優れたワインが出来る」のだと、世間に示しました。パスカルは、同地区で初めて収量制限を行い、新樽を導入したパイオニアのひとりです。2012年には有機栽培の認証を獲得しました。同年から生産が始まったスペシャル・キュヴェ、ランフェール(l’Enfer)も、大変に興味深いワインです。1947年の古木(メルロとマルベックが半々)の果実を収穫し、手で除梗したのち、500リットルの開放型オーク槽で発酵させています。

5. ブール&ブライのまとめ

ブール、ブライという地名は、日本ソムリエ協会やWSETの資格試験を受験した人でもなければ、「見たことも聞いたこともない」のが普通でしょう。その名を知る人でも、この産地を狙ってワインを探す人は、今のところ極めて限られているといわざるを得ません。しかし、良いモノは実際にあるのです。ロック・ド・カンブだけは、テルトル・ロートブッフの親戚ワインとして、ある程度の知名度を持っていますが、他はそうでもありません。つまり、のれん代が価格に上乗せされていないわけで、お買い得なのです。上は1万円超えまでありますが、価格帯に応じた良品が両地区ともに見つかりますから、ぜひお宝を掘りにいってみてください。

空から見下ろすブールの町

空から見下ろすブールの町

世界遺産に登録されているブライの城塞

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