「お酒に強くなくても、ワインは楽しく学べる。その楽しさを伝えたい」そう語るのは、東京・日本橋を拠点に、ITと教育の分野で事業を手がける福嶋勝浩さんです。学生たちにコンピュータの基礎や情報の扱い方を教え、子どもたちにはロボット制作やそろばんを教えるなど、福嶋さんは長く「教えること」と向き合ってきました。そんな福嶋さんが、50代になってから自ら「生徒」としてワインスクールの扉を開きます。きっかけは、食事の席で感じた小さな違和感でした。
【目次】
1. 「お任せします」としか言えなかった
2. 50代で、もう一度「生徒」になる
3. ワインスクールで気づいた「教えること」の奥深さ
4. 試験を通じて気づいた、ワインとの向き合い方
5. 二度の挑戦でつかんだ2次試験合格
6. 「飲めないから」こそ、伝えられることがある
7. 酒類販売免許の取得
8. ワインを通じて、人がつながる場所へ
1. 「お任せします」としか言えなかった
仕事関係の人たちや仲間と食事をするとき、「この料理には、どんなワインが合うだろう」「今日は赤にしようか、白にしようか」周りの人たちは、楽しそうにワインを選んでいきます。一方、私はもともとアルコールに強い方ではありません。普段からたくさん飲む習慣もなく、ワインリストを渡されても、何を基準に選べばよいのか分かりませんでした。
そのたびに口にしていたのが、「お任せします」という言葉でした。その場の流れを乱さずに済む便利な言葉です。しかし、何度も繰り返すうちに、心のどこかに小さな引っかかりが残るようになったのです。会話の輪の中にはいる…、けれどワインの話になると、気後れしてしまうような感覚です。
「わからないから仕方がない」そう思っていたはずなのに、50代を迎えた頃、「このまま、年を重ねてもずっとワインを選べないままでいいのだろうか」と、ふと自分に問いかけました。ワインに詳しい人になりたかったわけではありません。ただ、食事の時間をもう少し楽しめる自分になりたかったのです。

ワイン選びはお任せしていた頃
2. 50代で、もう一度「生徒」になる
「人に任せるだけではなく、自分の言葉でワインを選べるようになりたい」と、私はインターネットでワインスクールを探し始めました。そこで目に留まったのが、職場から通いやすい場所にあったアカデミー・デュ・ヴァンでした。早速、無料体験会に申し込んだものの、ワインをほとんど知らない自分が行ってもよいのだろうか…、そんな不安な気持ちもありました。
でもそのときの無料体験会を担当した講師の言葉が心に残りました。「ワインは、うんちくを語りすぎると嫌われることもあります。でも、スクールで出会った人たちと語るワインは楽しいんです」その言葉を聞いたとき、「ワインは知識を競うためのものではなく、人とつながり、食事の時間を豊かにするものなのだ」。そう思えたことで、不安が少しやわらぎました。
「せっかく学ぶなら、きちんと向き合ってみよう」そう思い、私は初心者向けのコースに申し込みました。その一歩が、ワインとの関わりを少しずつ変えていくことになったのです。
3. ワインスクールで気づいた「教えること」の奥深さ
ワインスクールに通い始めた頃は、産地、品種、香り、味わいなど、知らないことばかりでした。覚えることは多く、最初は戸惑いの連続でした。しかし、同じクラスの仲間たちがとても明るく、楽しい人たちでした。「少し飲みに行きませんか」「ワインについて、もう少し話しませんか」そんな声に誘われるうちに、授業後の仲間との時間も楽しみの一つになっていきました。
そして何より心を動かされたのは、授業そのものの楽しさでした。講師の教え方が、本当に素晴らしかったのです。難しい内容を、自然に興味が湧くように伝えてくれる。知識だけでなく、その場の空気までつくってくれる。受講生が緊張しすぎず、楽しみながら学べるように導いてくれる。
私は長く「教えること」に関わってきました。だからこそ、ワインの授業を受けながら、改めて講師としての在り方を考えさせられました。教えることは、知識を正しく伝えるだけで終わるものではなく、相手が「楽しい」「もっと知りたい」と思えるように、学びの入口を整えることなんだと思うようになっていったのです。
ワインの授業は、私にとって学びの場であると同時に、講師としての自分を見つめ直す時間にもなりました。そして初心者向けのコースが終わる頃には、ワインは単なる飲み物ではなく、人と人をつなぐものになっていました。
当時のクラスメイトとは、今でもワイナリーを訪ねたり、定期的に集まったりする関係が続いています。私にとって、ワインの原点はこのときにあります。

初心者向けのクラスStep-Ⅰのクラスメイトとワイナリー巡り
4. 試験を通じて気づいた、ワインとの向き合い方
その後、私はワインエキスパート資格試験の対策クラスへ進みました。最前列に座り、必死にメモを取って、授業後も復習を欠かさない…。それでも、最初はなかなか思うようにいきませんでした。覚えることが多く、地名や品種、気候、土壌、法律など、知識は次々と積み重なっていきます。
しかし、オーストラリアの講義が、私にとって一つの転機になりました。かつて少しだけオーストラリアで過ごしたことがあったため、勉強を進めるうちに、風景や空気感が自然と思い浮かんできたのです。地図の上の文字として覚えるのではなく、気候や地形、そこで育つブドウ、そこから生まれるワインの雰囲気を、一つの情景として捉えることができたのです。
そのとき、ワインは単に文字を暗記するのではなく、土地の背景と結びつけて理解していくとスムーズなのだということに気づいたのです。

ワインエキスパート受験対策クラス。最前列右に福嶋さん
5. 二度の挑戦でつかんだ2次試験合格
やがて向き合うことになったのが、ワインエキスパート二次試験のテイスティングです。私は二次試験に向けてテイスティングの練習を重ねましたが、最初の二次試験では結果につながりませんでした。振り返ると、自分の感じたことをそのまま答えようとしていたのだと思います。試験には、求められる答え方があります。感じ取ったものを、相手に伝わる形に整える必要がある。
そのことに気づき、翌年、再び二次試験に挑みました。この年の二次試験では、例年と大きく違う条件がありました。コロナウィルスの影響を受けた年で、感染予防のため、テイスティングしたワインを吐き出せなかったのです。通常であれば、口に含んだワインを吐き出すことができます。しかし、その年は飲み込むことを前提に試験に臨まなければなりませんでした。アルコールに強くない私にとって、それは決して小さな問題ではありません。ワインを少量で判断できる方法を身につける必要がありました。
酸味、果実味、渋み、アルコール感を、限られた量の中で感じ取らなければならない。飲めない自分に合う量で、必要な情報を拾い上げる必要がありました。少量でも答えを導き出せるように、アカデミー・デュ・ヴァンの対策講座で練習を重ねました。そして迎えた翌年の二次試験。私は、限られた量のテイスティングでも落ち着いて回答し、合格することができたのです。
振り返れば、ワインエキスパート試験は、ただ知識を覚えるだけのものではありませんでした。ワインを感じ取る力。それを言葉にする技術。そして、自分の体質に合った方法でワインと向き合うこと。そのことを、私は試験を通じて学んでいきました。飲めない自分でも、工夫し、時間をかけて向き合えば、ワインの世界に入っていける。それが、私にとってのワインエキスパートへの道のりでした。

ソムリエ・ワインエキスパートの受験仲間と

ワイン以外の「その他のお酒」も受験仲間と対策
6. 「飲めないから」こそ、伝えられることがある
ワインエキスパートの資格取得後、私はアカデミー・デュ・ヴァンの認定講師制度に出会いました。自分はアルコールに強いわけではありません。ワインの世界で、特別な経歴があったわけでもありません。それでも、私には一つの思いがありました。かつて自分がそうだったように、ワインを前にして少し戸惑う人がいる。何を選べばよいか分からず、不安に感じる人がいる。そんな人に、少しでも安心してワインの世界に入ってきてほしい。
長く教える仕事に関わってきた私にとって、授業で大切なのは、知識の量だけではありません。受講生が「分かる」「楽しい」と感じられる時間をつくること。その思いは、ワインを教える場でも変わりません。受講生の経験や目的は、それぞれ違います。ワインを初めて学ぶ方もいれば、もっと深く知りたい方もいる。食事を楽しみたい方、資格を目指す方、日常に新しい楽しみを増やしたい方もいます。だからこそ私は、一人ひとりが安心して学べる時間を大切にしています。学んだことが、次の食事の席で少し役に立つ。
ワインを選ぶときに、少し自信になる。帰るときには、「来てよかった」と思ってもらえる。それが、私の目指す授業です。

アカデミー・デュ・ヴァン認定教室の講師に
7. 酒類販売免許の取得
認定講師として歩み始めた後、酒類販売免許を取得しました。きっかけは、やはり自分自身の経験でした。「飲めないから、何でもいい」「分からないから、誰かに任せる」かつて自分がそうしていたように、食事の席で少しだけ遠慮している人がいるかもしれない…だからこそ、ワインだけではなく、ノンアルコールの選択肢も大切にしたいと考えるようになりました。
飲める人も、飲めない人も、同じ食卓で楽しめる。「今日はこれを合わせてみたい」と、自分で選べる。その小さな喜びを届けたいと思ったのがきっかけです。販売は、私にとって単に商品を扱うことではありません。食事の時間に、もう一つの楽しみを添えることでもあります。飲めない自分だからこそ、届けられるものがある。私は、そう感じています。
8. ワインを通じて、人がつながる場所へ
ワインを学び、教え、販売にも関わるようになって、私の中で少しずつ見えてきたことがあります。ワインは、詳しい人だけのものではありません。たくさん飲める人だけのものでもありません。飲めない人にも、選ぶ楽しさがある。初心者にも、語る楽しさがある。食事の席に、そっと会話を生む力がある。
かつて「お任せします」としか言えなかった私は、今、その楽しさを伝える側に立っています。いつかは、人が集まり、学び、語り合い、食事の時間を楽しめる場所をつくりたい。それが、私のこれからの夢です。
かつて食事の席で「お任せします」と言っていた福嶋さんは、アカデミー・デュ・ヴァンでワインを学び、ワイン講師、販売と大きく変わりました。何よりも飲めないからこそできることがたくさんあることを証明してくれているようです。
プロフィール
福嶋勝浩さん(ふくしま・まさひろ)
アカデミー・デュ・ヴァン認定教室
- 星座:いて座
- 血液型:A型
- ワイン以外の趣味:漫才の動画を見る
- 好きな食べ物:お蕎麦
- もし生まれ変わったら何になりたい?:また自分自身に生まれ変わりたい。
- 酔っぱらったらどうなる?:眠くなります。
- 人生を変えたワイン:甘いワイン。アカデミー・デュ・ヴァンのStep-Ⅰで出会ったソーテルヌ。ワインを続けようと思いました。






