ブラウフレンキッシュはカベルネのような国際品種ではありません。新世界ではニッチな実験品種の域を出ておらず、代替品種という地位にもまだ至っていません。しかしながら、ホームグラウンドの中欧においては磐石の地位を築いた黒ブドウが、ブラウフレンキッシュ(Blaufränkisch)です。その勢力圏は、オーストリアとハンガリーを中心に、ドイツ、チェコ、スロバキア、さらにはバルカン半島まで及びます。入り組んだ国境をまたぐたびに呼び名が代わり、そのほとんどが発音困難なのは高い障壁ですが、ワインの品質と個性については文句の付けようがありませんし、栽培面積だってなかなか立派でしょう(2016年時点の統計で、世界合計約1.7万ヘクタール)。共産主義の時代には、日常的なハウスワインの原料でしたし、ブルゴーニュ原産のガメと混同されてもいました。しかし今では、「ピノ・ノワールやネッビオーロのような、テロワールの翻訳者」として再評価され、中欧の宝として世界中の愛好家やプロが熱い視線を注いでいます。
【目次】
1. ブラウフレンキッシュとはどんな特徴のブドウか
● 風味の特徴
● スタイルの多様性
2. ブラウフレンキッシュの栽培特性
3. ブラウフレンキッシュの起源と歴史
● 名前の由来と伝説
● DNAが明かす出自
4. ブラウフレンキッシュの主要産地と代表的銘柄
● オーストリア
● ハンガリー
● ドイツ
● その他の中欧諸国
● 新世界各国
5. ブラウフレンキッシュのサービス方法とフード・ペアリング
● サービス方法
● フード・ペアリング
6. ブラウフレンキッシュのまとめ
1. ブラウフレンキッシュとはどんな特徴のブドウか
風味の特徴
ブラウフレンキッシュから造られるワインは、一般に深みのある濃い色(青みがかった濃い紫)を呈します。アロマの核となるのは、ブラックベリー、ダークチェリー、プラム、エルダーベリーといった完熟した黒系果実の香りです。しかし、単なる「フルーティーなワイン」では終わりません。注目すべきは、そのスパイシーなニュアンスでしょう。クローブ、ナツメグ、シナモン、胡椒といった香辛料の風味です。いっぽうで、果実が完熟していないと、ピーマン、グリーンハーブといった植物的なアロマが現れます。
口に含むとまず感じられるのが、生き生きとした酸味です。この酸こそが、ブラウフレンキッシュに緊張感(テンション)と長期熟成能力を与える鍵であり、温暖化が進む現代においても、フレッシュさが保たれる要因となっています。タンニンは中程度から強めで、若いうちは力強く、時に野性味を帯びますが、瓶熟成を経て得られるのは、ベルベットのような滑らかな質感です。酸とタンニンの構造に加え、後述する土壌の個性を鋭敏に反映する性質ゆえに、ピノ・ノワールやネッビオーロ、あるいはサンジョヴェーゼとしばしば比較されます。
スタイルの多様性
品質ポテンシャルの高いブラウフレンキッシュですが、広く栽培されているブドウですので、テロワールの諸条件と造り手の意志により、生まれるワインの幅は広いです。
まず、フルーティーで軽快なスタイル。ステンレスタンクや、ワインにオーク風味を与えない大きな古樽で熟成させた、果実味・酸味を生かしたワインです。若いうちから楽しめ、少し冷やして飲むのにも適しています。チェリーやベリーの果実味が前面に出た、フレッシュな飲み心地です。
対するは、長期の瓶熟成も可能な、強い骨格をもつプレミアム・スタイル。品質向上のために厳格な収量制限が行なわれ、オークの小樽を用いて熟成させられたワインたちです。1990年代から2000年代にかけては、骨格の強い他の黒ブドウ同様、新樽を多用したパワフルで濃厚なスタイルが流行しました。しかし近年では、過度な樽香を避け、ブドウ本来の果実味とテロワールの表現を尊重しようとする、フィネス重視のスタイルへと回帰しています。最高級の銘柄は、かなりの長寿です。
ブラウフレンキッシュは、ロゼワインやスパークリングにも仕立てられます。ともに、高い酸がこうしたスタイルのワインにも適するのです。特にハンガリーで造られるロゼは、夏場にソーダで割って楽しむワインカクテル、「フレッチ(Fröccs)」のベースとしても人気があります。
最後に、ナチュラル・アプローチ。例に漏れず、ブラウフレンキッシュも近頃は、自然派ワインの原料品種になっています。有機栽培ほかの自然な農法で栽培し、人為的介入、特に亜硫酸の添加量を抑えたワインが増えてきました。熟成容器に、素焼きの壺(アンフォラ)が用いられる銘柄もあります。中欧の自然派界隈でも、果皮との接触期間を短くし、淡い色調とピュアな果実を引き出した、軽やかで滋味深い赤が台頭しているのですが、これらは単なる若飲み銘柄とは一線を画する存在です。
ブラウフレンキッシュは、単一(100%)で用いられるのが比較的多い品種ですが、ブレンドの主体、あるいは補助的な存在になる場合もあります。ブレンドされる品種は、たとえばオーストリアならばツヴァイゲルト(Zweigelt)、ザンクト・ラウレント(St. Laurent)といった他の地場品種がほとんどです。
2. ブラウフレンキッシュの栽培特性
ブラウフレンキッシュを栽培する上で最も重要な特徴は、「発芽が早く、晩熟である」という点でしょう。芽が早く出るため、春の遅霜のリスクがある一方で、完熟するには長い成育期間と暖かい秋を必要とします。冷涼すぎる土地では酸が鋭くなりすぎ、青臭さが残るリスクがあるものの、パノニア平原からの暖気を受けるオーストリアやハンガリーの一部は、ブラウフレンキッシュにとって理想的な気候条件です。

オーストリア、ブルゲンラント州のルッツマンスブルク(Lutzmannsburg)村の銘醸畑ゾンベルク(Sonnberg)では、卓越したブラウフレンキッシュが生まれる。©Steindy
ベト病、ウドンコ病にかかりやすいのが、主な病害リスクになります。樹勢が強く、樹に任せてしまうと大量の房を実らせてしまうため、高級品用途では収量制限が不可欠です。夏の乾燥には強いので、水が不足しがちな土地に向いています。
ブラウフレンキッシュは、「テロワールを映す鏡」としての才能を持っています(どの品種にも当てはまる話ですが、程度問題として)。たとえば、石灰質土壌ではエレガントで張り詰めた酸を、粘土質土壌では肉厚でスパイシーなボディを、粘板岩土壌ではミネラル感と独特の塩味を表現するなどと、生産者たちに語られています。
3. ブラウフレンキッシュの起源と歴史
名前の由来と伝説
ブラウフレンキッシュという名前は、ドイツ語の「青(Blau)」と、中世において高貴な品種を示した「フランク王国の/高貴な(Fränkisch)」を組み合わせた言葉に由来します(対して、冴えないブドウは、「粗野な、卑しい(Heunisch)」と呼ばれました)。これは、フランク王国のブドウ(フランキッシュ)は優秀で、東方のフン族のそれ(ホイニッシュ)は劣等という、ナショナリスティックな差別ではあるものの、古くからブラウフレンキッシュが高く評価されていたのが窺えます。ブラウ(青)という名の通り、果皮は青黒いです。

©Rosenzweig
ブラウフレンキッシュという名前が文献に初めて登場したのは1862年、オーストリアの首都ウィーンで開催された博覧会においてです。その後、1875年にフランスのコルマールで開催された国際ブドウ分類学委員会で、正式な名称として採用されました。ドイツでの呼び名、レンベルガー(Lemberger)が、文献に登場したのは1877年と、それからまもなくです。この名は、オーストリアのシュタイアーマルク州の小さな集落レンベルク(Lemberg)から、ブラウフレンキッシュがドイツに運ばれてきたためと考えられています。ハンガリーにおける呼び名、ケークフランコシュ(Kékfrankos)については、文献に初登場したのが1890年で、これはドイツ語のブラウフレンキッシュを、そのままハンガリー語に訳した呼び名です。
ケークフランコシュという名の語源については、興味深い異説があります。19世紀初頭のナポレオン戦争時代、ハンガリー北西部にフランス兵が駐留していました。兵たちがワインを買う際に、価値の低い現地の紙幣ではなく、より価値の高い自国の「青いフラン紙幣(Blue Francs)」を使ったので、その名がついたという説です(「ケーク(Kék)」は、ハンガリー語で「青い」を意味する言葉)。ただし、上述した文献への初登場年(1890年)に照らすと、時系列が合わないので、ワインの世界にあふれる「ナポレオン都市伝説」のひとつなのでしょう。
DNAが明かす出自
長らくブラウフレンキッシュは、ブルゴーニュ原産黒品種のガメやピノ・ノワールと同一、あるいは近縁であると誤解されていました。ブルガリアでの別名「Gamé」や、ルーマニアでの別名「ブルグンド・マーレ(Burgund Mar)」(「偉大なブルゴーニュ」の意味)」は、その名残です。
しかし、近年のDNA解析により、その真の出自が明らかになりました。ブラウフレンキッシュは、中世のパッとしない白ブドウ品種「グエ・ブラン(Gouais Blanc / 別名:ヴァイサー・ホイニッシュ Weißer Heunisch)」と、希少な黒ブドウ品種「ブラウエ・ツィンメットトラウベ(Blaue Zimmettraube / 別名:スブルズィーナ Sbulzina)」の自然交配によって誕生したと判明したのです。片親であるグエ・ブランはガメの親でもあるので、ブラウフレンキッシュとは「異母兄弟」の関係にあり、上述の誤解には一定の根拠がありました。自然交配が起きた場所については、オーストリア、ハンガリー、クロアチアのいずれかの場所と想定されていて、近年の研究では、現在のスロヴェニア北東部である可能性が高いとされています。いずれにせよ、ブラウフレンキッシュは、生粋の「中欧生まれ」なのです。なお、現在、オーストリアで最も広く栽培されている黒ブドウ品種、ツヴァイゲルト(Zweigelt)は、ブラウフレンキッシュと、ザンクト・ラウレント(St. Laurent)の人工交配(1922年)によって生まれました。

©Bauer Karl
ブラウフレンキッシュは、その名の中に「フランク王国の/高貴な(Fränkisch)」の文字を抱えているにもかかわらず、片親のグエ・ブランの別名(上記)には、「粗野な、卑しい(Heunisch)」が含まれています。歴史の皮肉です。
4. ブラウフレンキッシュの主要産地と代表的銘柄
ブラウフレンキッシュは、中欧全域に広く分布していますが、テロワールごとの表現力や品質への注力という点において、オーストリアが一頭地を抜く存在なのは間違いありません。一方で、栽培面積においてはハンガリーが圧倒的な規模を誇り、ドイツでも独自の進化を遂げています。ここでは、各国の主要産地と代表的生産者を素描していきましょう。
オーストリア
オーストリアにおけるブラウフレンキッシュの栽培面積は、約2,600ヘクタール(2024年統計)で、全ブドウ栽培面積の約5.8%を占めます。子供であるツヴァイゲルト(黒ブドウの栽培面積トップ)に、大きく水をあけられていますが、全般的な品質評価において、軍配が上がるのはブラウフレンキッシュのほうです。主な産地は、ハンガリー国境に接するブルゲンラント(Burgenland)州と、ドナウ川流域のカルヌントゥム(Carnuntum)地域です。特にブルゲンラント州では、土壌や気候の異なる複数のDAC(原産地呼称)が存在し、それぞれが大きく異なる個性のブラウフレンキッシュを生み出しています。
まず、ミッテルブルゲンラント(Mittelburgenland DAC)について。ブルゲンラント州中央部に位置するこの地域は、古くからブラウフレンキッシュの栽培が盛んで、「ブラウフレンキッシュラント(ブラウフレンキッシュの地)」という別名を持つほどです。栽培面積の約半分をこの品種が占めており、オーストリアで最初に赤ワインのDACとして認定されました。土壌は深く重い粘土質が主体で、保水性が高く、乾燥した夏でもブドウ樹に水分を供給できます。気候はパノニア平原からの暖気の影響を強く受け、ブドウは十分に完熟可能です。ここで造られるワインは、一般に濃厚な黒系果実とスパイスの風味、堅牢なタンニンの構造を備えた、フルボディで力強いスタイルになります。代表的生産者は、なんといっても、ローランド・フェリッヒ(Roland Velich)が率いるモリッツ(Moric)です。ブラウフレンキッシュの世界的評価を一変させたパイオニアのひとりで、「ブルゴーニュのようなエレガンスとテロワールの表現」を目指し、古木が植わる単一畑に注力しています(一部の畑は、ライタベルクDAC内です)。

©Scops~commonswiki
アイゼンベルク(Eisenberg DAC)は、ブルゲンラント州の最南部に位置し、「鉄の山」を意味する名の通り、鉄分を多く含む緑色片岩や粘板岩などの土壌が特徴です。急斜面の畑が多く、かつては交通の便が悪かったため「忘れられた土地」でしたが、現在はその独自性で熱い注目を集めています。土壌由来とされる、特有のミネラル感と優雅さが最大の特徴です。代表的生産者としては、長期熟成能力を持つ銘柄が世界的評価を受けているクルッツラー(Krutzler)、自然派の先導的役割を果たすヴァハター・ヴィースラー(Wachter-Wiesler)、元ソムリエが仕込む新スタイルで知られるウヴェ・シーファー(Uwe Schiefer)が、三巨頭に数えられています。
ライタベルク(Leithaberg DAC)は、ブルゲンラント州、ノイジードル湖の西岸に連なるライタ丘陵の斜面に位置します。ここは、かつて海底だった場所が隆起した石灰質土壌と、変成岩である片岩土壌が混在する、地質学的に非常に興味深いエリアです。湖からの反射光と湿気の影響を受けつつも、背後の森からの冷涼な風が夜間の気温を下げるため、酸が保たれます。優良生産者は多くいますが、ブラウフレンキッシュの「歴史を変えた」レジェンドが、エルンスト・トリーバウマー(Ernst Triebaumer)です。1986ヴィンテージのブラウフレンキッシュ・リート・マリエンタールは、数々の国際的な賞を授けられ、オーストリアでも偉大な赤が造れると、世界に証明してみせた一本だとされます。

エルンスト・トリーバウマー(2005年撮影)
このほか、ニーダー・エステルライヒ州のカルヌントゥム(Carnuntum DAC)でも、近年は優れたブラウフレンキッシュが造られるようになってきました(とりわけ、東部の「スピッツァーベルク(Spitzerberg)」という、石灰質土壌の丘陵地帯)。
ハンガリー
ハンガリーにおいて、この品種はケークフランコシュ(Kékfrankos)と呼ばれます。オーストリアが品質のリーダーであるならば、ハンガリーは「量のリーダー」であり、栽培面積は約7,200ヘクタール(2023年統計)の規模を誇ります。これはハンガリーの黒ブドウ栽培面積の中で最も広く、国を代表する赤ワイン用品種なのです。
かつての社会主義時代には、「質より量」の政策の下、過度に高い収量の畑から、薄く酸っぱいワインが大量生産され、評価を落としました。しかし、1990年代以降の民営化と品質志向への転換により、現在では本来のポテンシャルが開花しつつあります。
ドゥナーントゥール(Dunántúl)は、ハンガリー北西部、オーストリア国境に接し、ノイジードル湖(ハンガリー名:フェルテー湖)の南西に位置する地方です。地理的にも気候的にもオーストリアのブルゲンラント州と一続きのエリアであり、「ケークフランコシュの首都」とも呼ばれます。土壌は雲母片岩が主体で、ブルゲンラントのアイゼンベルクやライタベルクと類似の土です。気候は湖の影響を受けて温暖ですが、常に風が吹いているため病害が少なく、ブドウは健全に育ちます。代表的生産者たちの筆頭に来るのは、ヴェーニンガー(Weninger)です。オーストリアのホリチョンとハンガリーのドゥナーントゥールの両方にワイナリーを持つ、国境を越えて活躍する生産者で、ビオディナミ栽培を実践しています。国際的な知名度は、オーストリアの生産者としてのほうが高いですが、ハンガリーの畑で造るケークフランコシュも優れた品質です。
エゲル(Eger)のケークフランコシュは、ハンガリー産赤ワインの顔と言えるでしょう。ハンガリー北東部、首都ブダペストから約140キロの距離にある歴史的な産地で、「エグリ・ビカヴェール(Egri Bikavér)」(「エゲルの牡牛の血」の意味)という赤ワインブレンドの名は、世界中に知れ渡っています。16世紀末にオスマントルコの侵略を受けた際、エゲル城を守るハンガリー人戦士たちが、地元産赤ワインを飲んで気勢を上げたという伝説のワインです。現代でもその大半が、町の南部にある、16世紀までに掘られた何十キロもの地下通路で熟成されていて、長い歴史と切っても切り離せません。ケークフランコシュのブレンド比率は、法律で30~65%と定められていて、全部で4種以上の黒ブドウを用いる必要があります(複数の地場品種のほか、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール、シラーなどのフランス系品種も使用が可能)。代表的生産者の筆頭は、ローリンツ・ジェルジ親子が運営するセント・アンドレア(St. Andrea)です。1999年創業と歴史は浅いですが、直近10年ほどの実績は圧倒的で、主要ワインメディアの数々で絶賛の嵐が吹いています。石灰質土壌、急斜面の単一畑、「ナジ・エゲド(Nagy-Eged)」から生まれるビカヴェール2銘柄が看板です。

エグリ・ビカヴェールのブドウ畑 ©Ein
このほか、ハンガリー南部のセクサールド(Szekszárd)、さらに南のクロアチア国境近くに位置するヴィッラーニ(Villány)、ハンガリー大平原に広がる大産地のクンシャーグ(Kunság)などでも、ケークフランコシュは栽培されています。
ドイツ
ドイツでは、この品種は主に「レンベルガー(Lemberger)」、または「ブラウアー・リムベルガー(Blauer Limberger)」と呼ばれます。栽培面積は約1,900ヘクタール(2023年)で、その9割が南西部のヴュルテンベルク(Württemberg)地方に集中しています。ヴュルテンベルクは、ドイツの中でも赤ワインの消費量が極めて多く、独特のワイン文化を持つ地域です。
レンベルガーは晩熟で酸が高いため、気候の冷涼なドイツでは、完熟させるのが容易ではありません。そのため、しばらく前までは、未熟な果実が許容される日常消費用の軽快なワインか、トロリンガー(Trollinger)という黒品種とブレンドした、しばしば中甘口に仕立てられる赤として消費されるのが常でした。しかし、近年の気候温暖化の恩恵に加え、1990年代以降、意欲的な生産者たちが収量制限や小樽熟成を導入した結果、品質が劇的に向上しています。より温暖なオーストリアやハンガリーの仲間と比べると、少しボディはスリムで、芳しい花の香りに満ちたスタイルです。

グラーフ・ナイペルグが単一畑ルーテ(GG)で造るレンベルガー ©Graf Neipperg
代表的生産者の筆頭には、グラーフ・ナイペルク(Graf Neipperg)が来るでしょう。19世紀にオーストリアからこの品種をヴュルテンベルクに持ち込んだとされる貴族の家系であり、ドイツにおけるレンベルガーの先駆者です。その家名を冠した、レンベルガーの選抜クローンでも知られています。シュヴァイゲルン(Schwaigern)村の畑から、エレガントでフィネスに富んだワインを造り続けていて、1990年代以降の革新においてもリーダー的役割を果たしました。
その他の中欧諸国
ブラウフレンキッシュは、かつてのハプスブルク帝国の版図と重なるように、中欧・東欧全域に広がっています。
スロバキアとチェコでの呼び名は、「フランコフカ(Frankovka)」または「フランコフカ・モドラ(Frankovka Modrá)」です。スロバキアでは栽培面積の約9%を占める重要な品種で、特に首都ブラチスラヴァ近郊のラーチャ(Rača)地区は、かつてマリア・テレジア女帝にも愛されました。チェコ(主にモラヴィア地方)では、酸のしっかりしたフルーティーな赤ワインや、ロゼワインの原料として人気があります。
スロヴェニアでの呼び名は、「フランキーニャ・チュルナ(Frankinja Črna)」です。国の東側で主に栽培されていて、ドレンスカ(Dolenjska)地区が最大産地です。全体に軽いワインが多いですが、ビゼリスコ・スレミチュ(Bizeljsko Sremič)地区には、比較的温暖な微小気候を反映した、凝縮感に富む優品があります。
クロアチアでの呼び名は、大陸部のスラヴォニア(Slavonia)地方では「フランコフカ(Frankovka)」で、主要な赤ワイン用品種の一つです。一方、沿岸部のイストラ半島では「ボルゴーニャ(Borgonja)」と呼ばれ、かつてはガメやピノ・ノワールと混同されていました。
ルーマニアでは「ブルグンド・マーレ(Burgund Mar)」(「偉大なブルゴーニュ」の意味)、ブルガリアでは「ガメ(Gamé)」と呼ばれ、名前が示す通り、こちらも長らくガメやピノ・ノワールと混同されてきました。両国とも栽培面積は減少傾向にあり、国際品種の影に隠れていますが、一部で再評価の動きもあります。
セルビアでの呼び名は、「スラ・リシチナ(Sura Lisicina)」です。国土中央部に位置する重要なワイン産地、トリ・モラヴェ(Tri Morave)地区に、まとまった植栽があります。
新世界各国
ヨーロッパ以外の国々でも、ブラウフレンキッシュの可能性を探る動きはありますが、まだ「点」が散在する状態で、面としての広がりを見せてはいません。
アメリカでは、ワシントン州で1970年代から栽培が始まり、これは冬場の凍害に強い点が買われての植樹でした(ワシントン州は数年に一度、激烈な凍害に襲われる土地です)。ほかにはニューヨーク州のフィンガー・レイクス地区で数名、重要な生産者がこの品種を試験的に育てています。
意外にも、ヨーロッパ以外で最もブラウフレンキッシュの栽培面積が広いのは、南米のペルーで、約300ヘクタールの畑があります(2016年統計)。国土中央海岸部にあるリマ(Lima)地区が、その中心です。
このほか、日本の北海道を含め、パラパラとした植栽は各国にあるものの、10ヘクタールを上回る規模に達しているところはまだありません。
5. ブラウフレンキッシュのサービス方法とフード・ペアリング
サービス方法
軽いタイプから、フルボディの長期熟成型まで、そのスタイルには幅がありますから、提供温度も合わせましょう。ステンレスタンクや大樽で熟成されたフルーティーな赤、あるいはロゼワインなら、白ワインに近い12〜14℃までしっかりと冷やして楽しむのがおすすめです。温度を下げると、この品種特有のフレッシュな酸と、チェリーやベリーの生き生きとした果実味が際立ち、上品さと優雅さが前に立ちます。小樽熟成などを経た、複雑で大柄な高級銘柄や、古いヴィンテージについては、16〜18℃で提供するのが理想的です。温度を高めにすると、木樽由来のスパイス風味や、熟成によって生まれたなめし革、森の下草といったアロマやブーケが花開きます。
ブラウフレンキッシュは、「中欧のピノ・ノワール」とも形容されるブドウですから、ボウル部分が大きく膨らんだ「ブルゴーニュ型」のグラスが推奨されます。大きなグラスで空気に触れさせると、若いうちに感じられる硬さや還元的なニュアンスが和らぎ、スミレの花やハーブ、スパイスの香りが立ち上がります。デカンタージュは必須ではありません。しかし、古い年のボトルは澱を取り除くために、若い年でも上級銘柄なら硬さを取るために、空気に触れさせれば効果は見込めます。
フード・ペアリング
んだこのシチュー、パプリカのスパイシーさがワインの胡椒やクローブの香りと同調し、肉の脂と濃厚なソースをワインの酸が中和します。一方、オーストリアを代表する郷土料理では、ウィンナー・シュニッツェル(仔牛のカツレツ)が鉄板です。少し冷やしたブラウフレンキッシュが揚げ物の油を流し、口内をさっぱりとリフレッシュさせてくれます。いずれも、日本の飲食店で食べるのは少々難しいですが、クッキング系サイト・アプリなら、どちらも日本語で多数のレシピが投稿されていますから、自作してみてはいかがでしょうか。

ハンガリーの伝統料理、グヤーシュ
ここからは一般論へ。本格派のブラウフレンキッシュは、ラム、牛肉、鴨、ジビエなどともちろん好相性です。軽いタイプなら、豚や鶏を選びます。調理法によっては、魚料理とも好相性です。クロアチアやハンガリーでは、淡水魚をパプリカで煮込んだ料理に、冷やしたブラウフレンキッシュを合せるのが定番になっています。このほか、トマトソースのパスタ、キノコのリゾット、熟成したハード/セミハードのチーズなどもオススメです。
6. ブラウフレンキッシュのまとめ
かつては、質より量の時代に翻弄されたブラウフレンキッシュ。しかし、21世紀の今、この品種は完全に目覚め、中欧のアイデンティティを体現する「最高の黒ブドウ品種」のひとつになりました。しかしまだまだ、地元の外ではたいした知名度がありません。悲しむことなかれ。ブラウフレンキッシュはまだ、お値打ち品を常に探すワインラバーにとって、「今そこにある宝の山」なのですから。まずはオーストリアから探求を始め、ハンガリー、ドイツと、網を広げていくとよいでしょう。いずれは世界が気づき、ブラウフレンキッシュがレッド・カーペットを歩くようになる日がやって来ます。そうなれば、優品の値上がりは避けられません。一歩先を行き、今のうちにたくさん飲んでおきましょう。







