【徹底解説】ペサック・レオニャン ~ ボルドー最古のテロワールが生む赤白両輪の銘醸地

ボルドー地方の中心都市、ボルドー市の南に広がるペサック・レオニャン(Pessac-Léognan)は、1987年に誕生した比較的新しいAOCです。しかし、このエリアのブドウ栽培の歴史は古く、ローマ時代まで遡れます。メドック地区以外から唯一、1855年の格付けに選ばれたシャトー・オー・ブリオンを擁し、赤ワインと辛口白ワインの両方で世界最高峰の品質を誇る産地です。大きな街に隣接するという特殊な立地ゆえに、都市開発との戦いを長く強いられていますが、生産者たちの情熱と努力により、砂利質の卓越したテロワールは守られてきました。本記事では、このペサック・レオニャンについて、AOC成立の経緯、独自のテロワール、格付けの歴史、そして代表的なシャトーについて、詳しく見ていきます。

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【目次】
1. 概要:AOCペサック・レオニャンとは
 ● 位置と対象コミューン
 ● AOCグラーヴから独立した理由
 ● 主要ブドウ品種とスタイル
2. ペサック・レオニャンのテロワール
 ● 土壌と標高
 ● 気候の特徴
 ● 適地適品種
3. ペサック・レオニャンのシャトー格付け
 ● ポンタック亭とシャトー・オー・ブリオン
 ● 1855年の赤ワインの格付け
 ● 1959年のグラーヴ地区の格付け
 ● 1959年の格付けは妥当か?
4. ペサック・レオニャンの代表的シャトー紹介
 ● シャトー・オー・ブリオン (Château Haut-Brion)
 ● シャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオン (Château La Mission Haut-Brion)
 ● シャトー・レ・カルム・オー・ブリオン (Château Les Carmes Haut-Brion)
 ● シャトー・オー・バイィ (Château Haut-Bailly)
 ● シャトー・スミス・オー・ラフィット (Château Smith Haut Lafitte)
 ● シャトー・パプ・クレマン (Château Pape Clément)
 ● ドメーヌ・ド・シュヴァリエ (Domaine de Chevalier)
5. ペサック・レオニャンのまとめ


1. 概要:AOCペサック・レオニャンとは

位置と対象コミューン

AOCペサック・レオニャンは、ガロンヌ川左岸、ボルドー市の東および南側に位置する産地です。より広いエリアを指す、グラーヴ地区あるいはAOCグラーヴに包接されます。北側の一部のブドウ畑(シャトー・オー・ブリオンなど)は、郊外住宅地やボルドー大学のキャンパスに囲まれており、これだけ大都市に近いワイン銘醸地は珍しいでしょう。

AOCペサック・レオニャンは、以下の10のコミューン(行政区分上の「村」)に広がっています。カドジャック(Cadaujac)、カネジャン(Canéjan)、グラディニャン(Gradignan)、レオニャン(Léognan)、マルティヤック(Martillac)、メリニャック(Mérignac)、ペサック(Pessac)、サン・メダール・デランス(Saint-Médard-d’Eyrans)、タランス(Talence)、ヴィルナーヴ・ドルノン(Villenave-d’Ornon)です。これらのコミューンの中で、最もブドウ畑が広いのはレオニャンで、665ヘクタールのブドウ畑があります。同村にある約100ヘクタールの白ブドウも、AOC内で最大です。

ペサック村、レオニャン村の位置と周辺のコミューン

ペサック村、レオニャン村の位置と周辺のコミューン

現在、AOCペサック・レオニャンのブドウ畑の総面積は、約1,800ヘクタールで、そのうち赤ワイン用が約1,500ヘクタール、白ワイン用が約300ヘクタールになります。年間生産量は約800~900万本で、赤ワインが全体の約75~80%、白ワインが約20~25%をという比率です。ワイナリーの数は70軒ほどになります。

AOCグラーヴから独立した理由

上述の通り、ペサック・レオニャンがAOCとして認定されたのは、1987年です。それより前、この地域はより広大なAOCグラーヴ(Graves)の一部であり、非公式に「オー・グラーヴ(Haut-Graves)」と呼ばれていました。独立の動きの背景にあったのは、北部グラーヴと南部グラーヴの間の品質格差です。1959年に制定されたグラーヴ地区の格付け(後述)に選ばれた16シャトーは、すべて北部グラーヴ、つまり現在のペサック・レオニャンに位置していました。自然な成り行きとして、北部の生産者たちは、南部グラーヴと区別された独自のAOCを求めるようになったのです。

独立運動の中心人物は、シャトー・ボネ(Château Bonnet)などを所有する有力生産者、アンドレ・リュルトンでした。1964年、北部の生産者たちが独自の生産者組合を設立し、約60の生産者が加盟する一方で、南部には500以上の生産者が残り、対立が生じました。1974年にリュルトンが組合長に就任すると、新AOC創設に向けた活動が本格化、1980年にINAO(フランス国立原産地名称研究所)へ、正式な申請が行われています。そこから7年の歳月を経てようやく、AOCペサック・レオニャンは認定されました。

AOCグラーヴからの独立にあたっては、諸々の生産規則が厳格化されています。特に、ブドウ樹の植栽密度が、AOCグラーヴの5,000本/ヘクタールから、AOCペサック・レオニャンでは6,500本/ヘクタールへと引き上げられました。生産可能色は、AOCグラーヴと同じ、赤と辛口白です。

主要ブドウ品種とスタイル

AOCペサック・レオニャンで認可されている赤ワイン用品種は、カベルネ・ソーヴィニョン、メルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド、マルベック、カルメネールで、北のメドック地区と変わりません。2017年の植栽統計によれば、メルロが52.4%、カベルネ・ソーヴィニョンが42.5%、カベルネ・フランが2.7%で、残りがプティ・ヴェルド、マルベック、カルメネールです。メドック地区の主要村名AOC(ポイヤック、サン・ジュリアン、マルゴー、サン・テステフ)では、カベルネ・ソーヴィニョンが約60%を占めるのと比べ、ペサック・レオニャンではメルロの割合がやや高くなっています。

ペサック・レオニャンの赤ワインでは、「シガーボックス」(葉巻箱)が、描写にあたって頻出する用語です。メドック地区のワインと比較すると、メルロのブレンド比率が相対的に高いためにやや柔らかく、肉厚でありながらもエレガントな姿になります。それでも熟成ポテンシャルは十分に高く、偉大なシャトーの優良なヴィンテージでは、寿命は30年以上です。

白ワイン用の認可品種は、ソーヴィニョン・ブラン、セミヨン、ミュスカデル、ソーヴィニョン・グリと、これまた他の白生産地区と同じ。2017年の統計では、ソーヴィニョン・ブランが79%、セミヨンが21%で、ミュスカデルとソーヴィニョン・グリはごく少量しか植わっていません。

ペサック・レオニャンは、フランス最上の辛口白ワインをも造る産地です。多くのシャトーで、樽発酵・樽熟成が行われ、複雑で層の厚い味わいが生まれます。ソーヴィニョン・ブランが与えるのは柑橘系のフレッシュさとハーブのニュアンス、セミヨンはワックス状の豊かさとボディです。最上級の銘柄(シャトー・オー・ブリオン・ブラン、ラ・ミッション・オー・ブリオン・ブラン、ドメーヌ・ド・シュヴァリエ・ブランなど)は、20年以上の瓶熟成に耐えます。

2. ペサック・レオニャンのテロワール

土壌と標高

ペサック・レオニャンが属するエリア名「グラーヴ(Graves)」は、フランス語で「砂利」を意味します。実際、この地域の土壌の最大の特徴は、深い砂利質の層です。これらの砂利は、数万年から数十万年にわたるガロンヌ川の流れによって運ばれ、堆積しました。メドック地区も砂利質土壌で知られますが、グラーヴ地区では土地の名前になるぐらい、この砂利が重要視されています。ただし、土壌中の砂利層の厚さにはかなりの幅があり、域内の場所によって20センチメートルから3メートル以上と、相当な差です。砂利の物質も、石英と珪石が主体ながらも多様性があります。石英の含有量が多い土壌では、独特のミネラル感がワインに感じられると言われますが、科学的な相関や因果関係は立証されていません。砂利層の下には、粘土、砂、石灰岩などが存在します。特に、石灰岩の下層土には軟体動物や貝殻の化石がよく見つかり、それはこの地域がかつて海底だったためです。ペサック・レオニャンの砂利質土壌は、優れた排水性を提供するだけでなく、日中に太陽熱を蓄積し、夜間にその熱をブドウに放出するため、ブドウの成熟が促進されます。

ペサック・レオニャン地区の畑の表土。砂利が多数地表にも露出している

ペサック・レオニャン地区の畑の表土。砂利が多数地表にも露出している

AOCペサック・レオニャンで最も標高が高い地点は、ドメーヌ・ド・シュヴァリエ(Domaine de Chevalier)付近の約60メートルです。メドック地区(最高地点がAOCリストラックの44メートル)を若干上回るものの、ワイン産地として特別に高い値ではありません。地形についても、平坦なメドックより多少起伏がありますが、急峻な傾斜地は無い土地です。

気候の特徴

AOCペサック・レオニャンは、温暖な海洋性気候に属します。大西洋とガロンヌ川の近接性が、気温を穏やかに保ち、適度な湿度をもたらしてくれるのです。東側のガロンヌ川には、春の霜害を軽減する効果もあります。一方、西から吹いてくる強い風を遮るのが、広大なランド地方の松林です。この森林には湿度を保つ効果もあります。

ボルドー市に近接しているため、都市熱の影響もあり、ペサック・レオニャンはボルドー地方の中でも特に温暖なエリアのひとつです。ブドウは比較的早く成熟する傾向にあり、白ブドウの収穫が8月中旬から下旬に始まるのも珍しくありません。

適地適品種

現代のペサック・レオニャンの生産者たちは、詳細な土壌分析を行い、それぞれの区画に最適な品種を植えています。赤ワイン用品種で言うと、カベルネ・ソーヴィニョンが最高のパフォーマンスを発揮するのは、深い砂利質土壌です。メルロも砂利質土壌で良く育ちますが、やや粘土が混ざった土壌にも適応できます。カベルネ・フランは、ペサック・レオニャンでは少量しか栽培されておらず、それはこの品種によくフィットする石灰質土壌が少ないためのようです。

白ブドウ品種が植わるのは、砂利質よりも、砂質や粘土・石灰質の土壌になります。著名な醸造コンサルタントで「白ワインの魔術師」と呼ばれた、ボルドー大学の故デニ・デュブルデュー教授も、白品種は粘土・石灰岩の下層土を持つ区画にのみ植えるべきだと主張していました。ソーヴィニョン・ブランとセミヨンは、やや温度の低い砂質土壌でも良好に育ち、フレッシュな酸味と複雑なアロマを発達させます。

3. ペサック・レオニャンのシャトー格付け

ポンタック亭とシャトー・オー・ブリオン

AOCペサック・レオニャン、そしてグラーヴ地区全体の名声は、ひとりの先見の明ある地主によって築かれました。17世紀ボルドーの有力者、アルノー・ド・ポンタックです。ポンタック家は、1525年にシャトー・オー・ブリオンの土地を取得していました。当時からワインは秀逸だったようですが、17世紀にはまだ、シャトーが自分でワインを瓶詰めする習慣がありません(そもそも、ガラス瓶が普及する前の時代です)。オー・ブリオンのワインも、樽に入った状態でボルドー市内のワイン商(ネゴシアン)に売られ、他の平凡なワインとブレンドされていました。

己のワインの卓越性を、なんとしても世に知らしめようと考えたポンタックは、イギリスでの「直売」を企てます。1660年代に入ったころ、彼の地に息子を派遣して、「ポンタックの首領」(通称:ポンタック亭)という贅沢な酒場を開いたのです。そこで、オー・ブリオンのワインを、シャトー名を冠した形で販売したのですが、これはボルドーワインの歴史上、実に画期的な出来事でした。それまで、ボルドーワインの「固有名」と言えば、出荷したネゴシアンの名前でしかなく、ほとんどの場合は単に「ボルドー」、「クラレット」(イギリスにおけるボルドー産赤ワインの総称)として売られていたからです。

1660年代のイギリスを記録した日記で知られる、サミュエル・ピープスという人物がいます(海軍大臣や、王立協会の会長を務めた有力者です)。ピープスは1663年、次のように日記に記しました。「ホー・ブライアン(Ho Bryan)と呼ばれる、フランスワインの一種を飲んだ。美味で、これまで出会った中で最も独特な味わいだった」。ピープスはこのワインに、通常のクラレットの3倍以上の価格を支払ったそうです。

サミュエル・ピープスの日記(原本)

サミュエル・ピープスの日記(原本)

1855年の赤ワインの格付け

1855年、パリ万国博覧会に出展するワインを選定するため、ボルドーワインの公式格付けが作成されました。この格付けは当時、「ボルドー産の赤、白ワイン」を対象としていたものの、実質的には赤はメドック地区、白はソーテルヌ地区の甘口から選ばれています。しかし、シャトー・オー・ブリオンの赤だけは、例外的にメドック地区以外から選ばれ、第1級特級格付け(プルミエ・グラン・クリュ・クラッセ)の地位を与えられました。

オー・ブリオンが、メドック外から唯一ピックアップされた理由は、当時の圧倒的な名声と市場価格です。1855年の格付けは、基本的に先立つ10年間の市場価格を基準に作成されており、オー・ブリオンは一貫して最高価格帯で取引されていました。

1959年のグラーヴ地区の格付け

1855年の格付けから100年が経過した20世紀半ば、グラーヴ地区の生産者たちは、自分たちのワインの品質を公式に認めてもらうため、独自の格付けを求めるようになりました。グラーヴ地区の生産者組合は1950年、INAOに対して、独自の格付け制度の創設を申請します。INAOは、ネゴシアンとクルティエ(仲買人)からなる専門委員会を招集し、長期間にわたる市場価格を分析させました。1853年の格付けと同様に、価格が重要な判断基準となっています。

1953年に非公式のリストが作成されたのですが、赤ワインのみが対象でした。その後、数年間の検討を経た1959年に、白ワインを含む最終的なグラーヴ地区の格付けが公式に承認されます。以下の合計16のシャトーが選ばれました(現在は15シャトー、理由は後述)。1855年の格付けとは異なり、品質に応じた等級分けは行なわれていません。一方で、赤ワイン、白ワインのいずれか(あるいは両方)が格付けされるという色の区別があるのが、1959年のグラーヴ地区の格付けの特徴です。格付けされているワインの色は、当時それぞれのシャトーが生産していたワインの種類と、必ずしも一致していません。たとえば、シャトー・オー・ブリオンの白は、20世紀半ばには既に格別の存在でしたが、生産量があまりに少ないため、オーナーのディロン家が格付けを辞退しました。格付け時は生産していなかった色のワインを、後年造り始めたシャトーも複数あります。

  • シャトー・オー・ブリオン(Château Haut-Brion) 赤
  • シャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオン(Château La Mission Haut-Brion) 赤・白
  • シャトー・ブスコー(Château Bouscaut) 赤・白
  • シャトー・カルボニュー(Château Carbonnieux) 赤・白
  • ドメーヌ・ド・シュヴァリエ(Domaine de Chevalier) 赤・白
  • シャトー・ド・フューザル(Château de Fieuzal) 赤
  • シャトー・オー・バイィ(Château Haut-Bailly) 赤
  • シャトー・ラ・トゥール・オー・ブリオン(Château La Tour Haut-Brion) 赤
  • シャトー・ラトゥール・マルティヤック(Château Latour-Martillac) 赤・白
  • シャトー・マラルティック・ラグラヴィエール(Château Malartic-Lagravière) 赤・白
  • シャトー・オリヴィエ(Château Olivier) 赤・白
  • シャトー・パプ・クレマン(Château Pape Clément) 赤
  • シャトー・スミス・オー・ラフィット(Château Smith Haut Lafitte) 赤
  • シャトー・クーアン(Château Couhins) 白
  • シャトー・クーアン・リュルトン(Château Couhins-Lurton) 白
  • (シャトー・ラヴィル・オー・ブリオン(Château Laville Haut-Brion) 白)

上記リストの最後にあるラヴィル・オー・ブリオンは、オーナーがラ・ミッション・オー・ブリオンと同一であったため、後者に吸収合併されました。2009ヴィンテージ以降は、「シャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオン・ブラン」の名で市場に出ています。

1959年の格付けが確定した時点では、上記16シャトーはグラーヴAOCグラーヴに属していました。しかし、1987年にペサック・レオニャンAOCが創設されると、格付けシャトーのすべてが、この新しいAOCの範囲内に含まれる格好になっています。

1959年の格付けは妥当か?

1959年のグラーヴ格付けは、制定以降に実質的な変更が一切なされていなせん。地位が固定されているのは、個々のシャトーの利害対立があるからです。新たに格付けされるシャトーが出てくれば、既存シャトーの有する「のれん価値」が希薄化しますし、既存シャトーからその格付けを奪うのは、事実上不可能でしょう。

とはいえ、市場の値は格付けだけでは決まりません。現実に、格付け外のスター・シャトーが近年になって、いくつも登場しています。最も注目すべき例は、レ・カルム・オー・ブリオン(Château Les Carmes Haut-Brion)でしょう。このシャトーは近年、大規模な投資による品質向上により、国際的に極めて高い評価を受けるようになりました。その実勢価格は、今や大半の格付けシャトーを上回っています。他では、シャトー・ブラノン(Château Branon)が、半ばカルト化した格付け外の高額銘柄です。2000年が初ヴィンテージという新しい蔵なのですが、デビュー作が評論家ロバート・パーカーから97点という高得点を獲得しました。生産量が極端に少ないため(年産2400本)、まずマーケットで見かけません。

格付けされている色についても、1959年時点と実情が変わってきています。たとえば、シャトー・スミス・オー・ラフィットの白は今日、AOCペサック・レオニャンで五本の指に入る評価と価格ですが、同蔵の白は格付けされていません。シャトー・ド・フューザルについても、現在では白のほうが赤より値段が高いのですが、格付けは赤のみです。

4. ペサック・レオニャンの代表的シャトー紹介

シャトー・オー・ブリオン (Château Haut-Brion)

  • 格付け:赤ワインのみ1855年第1級特級格付け、1959年グラーヴ格付け
  • コミューン:ペサック
  • 所有者:クラレンス・ディロン・グループ
  • 畑の面積:54ヘクタール(黒ブドウ51ヘクタール/白ブドウ3ヘクタール)
  • 品種構成:メルロ46%、カベルネ・ソーヴィニョン42%、カベルネ・フラン11%、プティ・ヴェルド1%/セミヨン52%、ソーヴィニョン・ブラン48%
  • 年間生産本数:赤は14~16万本、白は7,000~10,000本
  • セカンドワイン:赤はル・クラレンス・ド・オー・ブリオン(Le Clarence de Haut-Brion)、白はラ・クラルテ・ド・オー・ブリオン(La Clarté de Haut-Brion)
シャトー・オー・ブリオン - ©BillBl

シャトー・オー・ブリオン ©BillBl

ペサック・レオニャンのみならず、ボルドー全体を代表する偉大なシャトーで、長く輝かしい歴史は上述のとおり。20世紀に入り、第一次世界大戦後の不況で一時期衰退しましたが、1935年にアメリカの銀行家クラレンス・ディロンが購入し、再興が始まりました。現在は4代目にあたるロベール・ド・リュクサンブール公が代表を務めています。1983年には、隣接するシャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオンを、ディロン家が買収し、ふたつの偉大なシャトーが同じ所有者の下に統合されました。

グラーヴの真髄とも言えるその赤ワインは、メドックにある五大シャトーの残りの面々に、骨格の頑強さでは及びませんが、繊細で柔らかく、ニュアンスに富みます。わずかに生産される白もまた出色で、ボルドー地方で最も値が張る辛口白ワインです(オー・ブリオンの赤より高額)。セミヨンとソーヴィニョン・ブランがほぼ同量ずつブレンドされていて、複雑で豊かな風味を持ちます。なお、白のセカンドワイン、ラ・クラルテ・ド・オー・ブリオンは、隣接するラ・ミッション・オー・ブリオン(次項)と共同で生産される銘柄です。

シャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオン (Château La Mission Haut-Brion)

  • 格付け:赤・白ワインともに1959年グラーヴ格付け
  • コミューン:ペサック
  • 所有者:クラレンス・ディロン・グループ
  • 畑の面積:25.5ヘクタール(黒ブドウ22ヘクタール/白ブドウ3.5ヘクタール)
  • 品種構成:カベルネ・ソーヴィニョン48%、メルロ41%、カベルネ・フラン11%/セミヨン63%、ソーヴィニョン・ブラン37%
  • 年間生産本数:赤は7~9万本、白は約7,000本
  • セカンドワイン:赤はラ・シャペル・ド・ラ・ミッション・オー・ブリオン(La Chapelle de La Mission Haut-Brion)、白はラ・クラルテ・ド・オー・ブリオン(La Clarté de Haut-Brion)
シャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオン - ©Henry Salomé

シャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオン – ©Henry Salomé

シャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオンは、17世紀にラザリスト会の修道士たちによってワイン造りが始められました。シャトー名の「ミッション(伝道・宣教)」は、この宗教的起源に由来します。歴史的に、隣接するオー・ブリオンと並び称される存在でした。1983年にオー・ブリオンと所有者が同じになって以来、両シャトーは技術や知識を共有しつつも、それぞれの個性を保つ方針が採られています。

ラ・ミッション・オー・ブリオンの赤ワインは、オー・ブリオンよりもやや力強く、タンニンが際立ったスタイルとされます。ワイン造りのプロセスはほぼ同じなので、畑のテロワールの違い、ブレンド構成の差によるのでしょう。白ワインは、かつてはラヴィル・オー・ブリオンの名でしたが、2009ヴィンテージから、ラ・ミッション・オー・ブリオン・ブランと改名されました。こちらもオー・ブリオン・ブランに匹敵する、スケールの大きい長期熟成型白ワインです(生産量が少ないため、赤よりも一般に高価)。

シャトー・レ・カルム・オー・ブリオン (Château Les Carmes Haut-Brion)

  • 格付け:なし
  • コミューン:ペサック
  • 所有者:パトリス・ピシェ
  • 畑の面積:8ヘクタール
  • 品種構成:カベルネ・フラン42%、メルロ40%、カベルネ・ソーヴィニョン18%
  • 年間生産本数:3~3.5万本
  • セカンドワイン:ル・C・デ・カルム・オー・ブリオン(Le C des Carmes Haut-Brion)

シャトー・レ・カルム・オー・ブリオンは、16世紀末からカルメル会の修道士たちが所有していた土地に由来します(シャトー名の「カルム(Carmes)」はカルメル会から)。シャトー・オー・ブリオンから、すぐ近くの立地です。伝説では、修道士たちがオー・ブリオンの所有者ポンタック家のために、常に祈りを捧げていたお返しとして、ブドウ畑を与えられたとされます。長らく知名度の低いシャトーでしたが、2010年に名高い不動産王パトリス・ピシェによって買収されてから、状況が一変しました。大規模な投資がなされ、2016年に完成した新しい醸造施設は、著名な建築家フィリップ・スタルクの設計です。その頃から劇的に向上した品質は、世界中のワイン評論家やプロたちの目にとまり、現在このシャトーの赤の価格は、オー・ブリオン、ラ・ミッションの両横綱を追う第2グループに食い込むまでになっています。

レ・カルム・オー・ブリオンの最大の特徴は、カベルネ・フラン比率の高さです(42%)。ボルドー左岸の赤としては珍しいブレンド比率で、エレガンスとフィネスが強調されたスタイルになっています。

シャトー・オー・バイィ (Château Haut-Bailly)

  • 格付け:赤ワインのみ1959年グラーヴ格付け
  • コミューン:レオニャン
  • 所有者:クリストファー・ウィルマーズ
  • 畑の面積:30ヘクタール
  • 品種構成:カベルネ・ソーヴィニョン60%、メルロ34%、カベルネ・フラン3%、プティ・ヴェルド3%
  • 年間生産本数:約15万本
  • セカンドワイン:オー・バイィ・Ⅱ(Haut-Bailly Ⅱ)

シャトー・オー・バイィは、グラーヴらしい古典的なバランスを体現するシャトーです。1630年代に、パリの銀行家フィルマン・ル・バイィによって創設されました。フィロキセラ禍のあと名声が確立され、1870年代から1920年代にかけては、五大シャトーに負けない価格で取引されていたそうです。その後、所有者の変更により、一時期シャトーは荒れます。転機は、1998年にやって来ました。現在の所有者ウィルマーズ家(ニューヨークの銀行家)が買収したあと、多額の投資を行なった結果、オー・バイィは再び、ペサック・レオニャンの一軍へと昇格してきました。

ロンドンに拠点を置く投機的ワイン銘柄の取引市場Liv-exは、2019年に発表したボルドー左岸産赤ワインの格付けで、オー・バイィを第2級特級格付けに位置づけています。この格付けにおいて、第1級特級格付けはいわゆる五大シャトーのみですが、第2級にはメドック、グラーヴ両地区から合計24銘柄が選ばれており、オー・バイィはその中で上から11番目です(第2級に含まれるペサック・レオニャン産ワインの中では、ラ・ミッションに次ぐポジション)。

特筆すべきは、このシャトーがボルドーで最も古い区画のひとつを持っている点です(約3ヘクタール)。1900年頃に植えられたブドウ樹が今も残っており、自根の古木は深い根を持ち、凝縮した風味のブドウを生み出しています。

シャトー・スミス・オー・ラフィット (Château Smith Haut Lafitte)

  • 格付け:赤ワインのみ1959年グラーヴ格付け
  • コミューン:マルティヤック
  • 所有者:ダニエル&フロランス・カティアール
  • 畑の面積:78ヘクタール(黒ブドウ67ヘクタール/白ブドウ11ヘクタール)
  • 品種構成:カベルネ・ソーヴィニョン65%、メルロ30%、カベルネ・フラン4%、プティ・ヴェルド1%/ソーヴィニョン・ブラン90%、ソーヴィニョン・グリ5%、セミヨン5%
  • 年間生産本数:赤は約18万本、白は約6万本
  • セカンドワイン:レ・ゾー・ド・スミス(Les Hauts de Smith)
スミス・オー・ラフィットの地下セラー(赤ワイン)- ©Elfabriciodelamancha

スミス・オー・ラフィットの地下セラー(赤ワイン)- ©Elfabriciodelamancha

シャトー・スミス・オー・ラフィットの名は、18世紀初めの所有者ジョージ・スミスに由来します。1991年に、カティアール夫妻の所有となってから、劇的な品質向上を遂げました。上述のLiv-exの格付け(2019年)においては、第2級特級格付けで、オー・バイィに僅差で続くポジションです。力強くモダンなスタイルの赤のみならず、爽やかさと複雑さが共存する白ワインも、非常に高い市場評価を得ています(格付けは赤ワインだけ)。

ダニエル・カティアールは、オリンピックにも出場した元スキー選手で、スポーツショップをチェーン展開して大富豪になった人物です。カティアール夫妻は莫大な資金を投じてブドウ畑の再構成、醸造設備の刷新、独自の樽工場の新設、そして豪華なホテル・スパ施設「レ・スルス・ド・コーダリ(Les Sources de Caudalie)」の建設を行いました。このホテルは、ワインツーリズムの面でも、ペサック・レオニャンの知名度向上に貢献しています。

シャトー・パプ・クレマン (Château Pape Clément)

  • 格付け:赤ワインのみ1959年グラーヴ格付け
  • コミューン:ペサック
  • 所有者:ベルナール・マグレ
  • 畑の面積:60ヘクタール(黒ブドウ53ヘクタール/白ブドウ7ヘクタール)
  • 品種構成:カベルネ・ソーヴィニョン52%、メルロ46%、カベルネ・フラン1%、プティ・ヴェルド1%/ソーヴィニョン・ブラン74%、セミヨン22%、ソーヴィニョン・グリ3%、ミュスカデル1%
  • 年間生産本数:赤は約12万本、白は約2.5万本
  • セカンドワイン:ル・クレマンタン・ド・パプ・クレマン(Le Clémentin du Pape Clément)
シャトー・パプ・クレマンの玄関

シャトー・パプ・クレマンの玄関

シャトー・パプ・クレマンは、ボルドーで最も古いシャトーのひとつであり、その名前はカトリックの教皇に由来します。1305年、地元出身のボルドー大司教ベルトラン・ド・ゴが、教皇クレメンス5世(在位1305-1314年)に選出された際、私有地であったブドウ畑をボルドー大司教区に寄贈しました。シャトー名は、「教皇クレマン」を意味します。

長い歴史の中で、シャトーは様々な所有者の手を経ましたが、現代のパプ・クレマンの名声は、1985年にベルナール・マグレが購入してから築かれました。マグレは、国際的に成功したボルドーの大ネゴシアンで、大金をパプ・クレマンにつぎ込み、濃密なモダン・スタイルの赤で知られるシャトーへと変貌させました。1990年代から2000年代にかけて一時代を築いた醸造コンサルタント、ミシェル・ロランの起用も、大きな助けとなっています。

白ワインは、格付けには含まれていませんが、近年は評判の銘柄になっています。古くから自家消費用にはごく少量が造られていましたが、マグレの時代になって商業生産されるようになりました。

ドメーヌ・ド・シュヴァリエ (Domaine de Chevalier)

  • 格付け:赤・白ワインともに1959年グラーヴ格付け
  • コミューン:レオニャン
  • 所有者:オリヴィエ・ベルナール
  • 畑の面積:45ヘクタール(黒ブドウ40ヘクタール/白ブドウ5ヘクタール)
  • 品種構成:カベルネ・ソーヴィニョン64%、メルロ30%、プティ・ヴェルド3%、カベルネ・フラン3%/ソーヴィニョン・ブラン70%、セミヨン30%
  • 年間生産本数:赤は約8.5万本、白は約2万本
  • セカンドワイン:レスプリ・ド・シュヴァリエ(L’Esprit de Chevalier)
19世紀末のドメーヌ・ド・シュヴァリエ

19世紀末のドメーヌ・ド・シュヴァリエ

ドメーヌ・ド・シュヴァリエは、他のほとんどのペサック・レオニャンのワイン生産者が「シャトー」を名乗る中で、「ドメーヌ」という呼称を使う珍しい存在です(理由はよくわかりません)。レオニャンの村落の西、松林に囲まれた静かな場所に位置し、AOCペサック・レオニャンの中で最も標高が高い地点(約60メートル)にあります。この高さと周囲の森林が、独特のミクロクリマを生み出しているようです。

現在の所有者であるベルナール家は、1983年にシュヴァリエを購入して以来、一貫して卓越した品質を維持してきました。このファミリーもまた、ドメーヌへの投資を惜しまず、ブドウ畑と仕込みの両面で、現代化を推し進めてきています。醸造施設を新築し、設備の近代化を進めました。今日のボルドーでは珍しくはなくなりましたが、有機栽培やビオディナミにも、積極的に取り組んできています。

赤ワインは、カベルネ・ソーヴィニョンが主体で、ペサック・レオニャンの中でもメドックの比率に近いブレンドです。とはいえ、力強く濃厚なスタイルとはならずに繊細で上品なのは、おそらくミクロクリマの影響でしょう。そして大切なのが白ワイン。ドメーヌ・ド・シュヴァリエでは、剛直で凝縮した白のほうが、古くから赤よりも尊ばれてきました。18ヶ月の樽熟成は、白ワインとしては異例の長さですが、それでも若いうちは厳格さが目立ちます。真価を発揮するのは、10年以上の瓶熟成を経てからで、そこからまだまだ命が続く逸品です。

4. ペサック・レオニャンのまとめ

ボルドー地方というと、赤をもっぱら造る地区が目立ち、白ワインがメインだと甘口というのが基本構図です。しかし、ペサック・レオニャンは、赤と辛口白の両方で、同じぐらいに秀でているという希有な産地。歴史も、17世紀に沼地を干拓して出来たメドックと比べ、うんと長いです。ペサック・レオニャンの赤ワインは、メドック、サンテミリオン、ポムロールといった他の有名と比べて、やや地味な印象はあるものの、品質水準では決してひけを取りません。格付けがひっくり返る、下克上のダイナミズムもあります。樽を使った辛口白は、コート・ド・ボーヌ産の白に比べうる、フランス国内唯一のエリアと言ってよいでしょう。ボルドーワインが好みならぜひ、ペサック・レオニャンを深掘りしてみましょう。

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