アルゼンチンワイン ~その魅力はマルベックを超えて

アルゼンチンと言えば、マルベックは知っているけれど、他のワインは今一つイメージがわかない。そんな印象では無いでしょうか?栽培面積から見ると、同じ南米のチリよりも広い産地。チリは自由貿易協定を日本と、いち早く締結。ワイン輸入量が6年連続国別1位になりました。アルゼンチンは、このチリの陰に隠れて目立たない感じがあります。今回は、もう一つ盛り上がりが欲しい、アルゼンチンワインに注目。マルベック以外のワインも、少し勉強してみましょう。

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【目次】
1. 5つの顔? ~ワイン産地としてのアルゼンチン
2. 実は苦労してます! ~アルゼンチンのブドウ栽培
3. アルゼンチンワインの課題~輸出の安定と拡大
4. ガンバレ!東メンドーサの伝統品種たち
5. 移民の国のコラボワインたち
6. アルゼンチンワインのまとめ


1. 5つの顔? ~ワイン産地としてのアルゼンチン

アルゼンチンのワイン産地マップ

アルゼンチンの栽培面積は、70年代には33万ヘクタールまで膨れ上がりました。現在は、チリを僅差で抑えた20万ヘクタール程度。でも、チリとの差は、どんどん縮まっています。

スペイン、イタリア、スペインという3強に次ぐワイン輸出国となっているチリと比べると、アルゼンチンは、輸出ランキングでは第8位。日本での知名度は、まだまだこれからと言えます。

国内の栽培面積は、メンドーサが7割以上を占め、サンファンが約2割でラ・リオハが5パーセント弱の順。メンドーサを押さえておけば大枠は分かった様なものです。

緯度は、南緯23度から45度と、チリと同様に縦に長い産地。チリとの間を、アンデスが分断しています。チリは、アンデスから太平洋までの距離が短く、太平洋沿岸にも冷涼産地を形成。アルゼンチンは、特徴を異にしていて、アンデス山麓に産地が連なっています。この比較的、限定的な産地に、アメリン&ウィンクラーの気候区分の1から5が全ておさまっているというのは、アルゼンチンならでは。

因みに、気候区分の1に属する産地は、ドイツのライン渓谷やフランスのシャンパーニュなど、2は、ボルドーの一部、イタリア・ピエモンテ州、豪州のクーナワラなど。3は、スペインのリオハ、カリフォルニア州ソノマ・ヴァレー、豪州のマーガレット・リヴァーなど、4は、カリフォルニア州ナパ・ヴァレー中北部、フランス・ローヌ渓谷南部など、5は、スペイン最南部のシェリー、ポルトガル領マデイラ島などが挙げられます。極めて、幅広い気候帯を有していることが分かります。

アンデス山脈のお蔭で、雨陰にあり、暑くて、乾燥した気候です。日較差が大きい大陸性気候の影響が大きい産地。高級産地の大半が、アンデス山麓に沿った、この西端に集中しています。大量生産の産地、東メンドーサから、アンデス山麓までは車で1時間。ですが、あっと言う間に、温暖で乾燥した環境から冷涼気候へと変化します。

2. 実は苦労してます! ~アルゼンチンのブドウ栽培

乾燥して気候が安定して、暖かいアルゼンチンはブドウ栽培適地。一方、酸を失わないことも重要です。その為の、冷涼な影響をお隣のチリは海に近い産地を選ぶことで確保できますが、アルゼンチンでは、海岸線は遥か彼方。アンデスの標高を利用することが必須です。

高地では、標高が100メートル上がると気温が0.6℃下がることが知られています。さらには、昼は直射日光で気温がぐんぐん上昇しますが、夜は平地と比べて急激な冷え込みとなり、大きな日較差が発生。こうして、酸が保持されます。

また、標高が上がると紫外線も強くなるので、ブドウが自分を守るために、フェノリック類を増加させます。アンデスの標高が、上手くブドウ栽培に活かされています。

気候に恵まれた素晴らしい産地とは言うものの、自然の脅威にも向き合わなければなりません。雹(ひょう)が甚大な被害を及ぼすことで有名なこの産地。1950年代から、雹の被害を抑制するためのプロジェクトが行われてきました。今でも、州政府の資金援助のもと、雹のサイズを小さくできないか等、検討されています。

雹(ひょう)

積乱雲の中で、成長する雹ですが、塩化カルシウムなどを風船に乗せるなどして、雲に散布。雹が形成される芯を人工的に数多くつくることで、一つ当たりの雹のサイズを小さくして被害を抑えようというのが、一つの試み。ブルゴーニュでは広く試行されています。

この手法は、アルゼンチンでは確たる効果が科学的に立証できなかった模様で、高級ワインを産出する畑では、被害予防のネットを張り巡らせます。このネットは、メンドーサの強い日照による果実の日焼け防止にも役立ち、生育期間を延ばすことで、ワインに複雑性を与える効果もあると言われます。

北東から吹く暑くて乾燥した風、ゾンダ。真冬の剪定時期には暖が取れるから良いとして、春先にはそんなことは言っていられません。まだ春だと言うのに、40℃くらいまで温度が上がり、そうかと思えば、風がやんで、氷点下に気温が落ちる事も。暖かさで芽吹きが早まると、遅霜の恰好の餌食になってしまいます。

ネットで保護されたメンドーサの葡萄畑

一方、フィロキセラの被害は、フラッド・イリゲーション(洪水灌漑)や、砂質土壌のお蔭で、限定的。チリと同じように、ネマトード(線虫)対策の方が課題となっています。ネマトードは、ブドウ樹に直接的な被害を及ぼすだけでなく、ファンリーフ病を引き起こすウィルスを媒介します。このウィルスには、根本的な治療法が無いため、ネマトードを、農薬を使って減らすか、抵抗力を持つ台木を使う事になります。

降雨量が少ない乾燥した気候で、灌漑が無ければブドウ栽培は極めて厳しい産地。フラッド・イリゲーションでは、アンデスの雪解け水を灌漑用の水路に引き込み、水路のゲートを管理する人たちが代々配置されています。

1980年代には、直接、ブドウの根に水滴を落とす、ドリップ・イリゲーション(点滴灌漑)が、導入されます。水の効率的利用も可能になり、傾斜地など、フラッド・イリゲーションを採用できない区画にも灌漑を取り入れることができるようになりました。

ドリップ・イリゲーション(点滴灌漑)

今日、アルゼンチンでは、気候変動は、水不足という形で影響が出ています。灌漑用水に使われる貴重な、アンデス山頂の積雪が減ってきているのです。

本来は、川を下り、或いは地下の帯水層を経て、ブドウ栽培に使われる貴重な水。ですから、灌漑用水の節約は重要課題。フラッド・イリゲーションよりも効率の良い、ドリップ・イリゲーションの採用はもとより、ワイン醸造に使う水や、洗浄水、瓶詰ラインで使われる水などを再利用します。

高性能な水処理設備を導入しているワイナリーや、土壌の水分蒸発量を計測して、区画毎に灌漑量を決めるきめ細やかな対応も見られます。

3. アルゼンチンワイン 今後の課題~輸出の安定と拡大

アルゼンチンでのワイン造りは、スペインの植民地支配から始まりました。19世紀には、モスカテル・デ・アレハンドリアや、クリオジャの栽培がまずは行われます。ヨーロッパから移民が押し寄せると、どんどんワイン需要が高まりました。フランスの農業技術者のプジェがメンドーサに滞在して、フランスのブドウ樹を持ち込みます。マルベック、セミヨン、カベルネ・ソーヴィニョンなどのメジャー品種が入ってきます。

19世紀後半には、鉄道路線も開通。ワイン消費地と生産地がつながれて飛躍的にワイン生産が伸びます。イタリア系移民も大幅に増えて、バルベーラなどのイタリア系品種も取り入れられます。

その後、1970年代迄に膨れ上がった栽培面積は減少に転じます。

そして、質より量だったワイン造りが、大きな転換期を迎えるのは、1990年代。アルゼンチンを代表するワイナリー、ノートンカテナが時代をリードします。酸化的なワイン造りを見直して、果実味を大切にするスタイルが普及。フラッド・イリゲーションからドリップ・イリゲーションに移行して、水分の補給を抑制。ブドウの凝縮度が高まりました。ステンレスタンクを使った温度管理ができる発酵槽も広がっていきました。

熟成には、フランス産やアメリカ産のオーク樽が使われるようになりました。お蔭で、輸出が大きく拡大。

フランスやイタリアなどの海外からの進出や出資も活性化しました。産地も山麓の高い標高の畑や、高緯度の南部へと移っていきます。

ただ、ポテンシャルはありつつも、世界的な大ブレークに至らない所が、少し歯がゆく感じます。チリと比べると、輸出は少なくて、1割程度。米英、そして隣国のブラジルが上位の貿易相手国です。

直近では、2014年に続き、2020年に6年ぶり9度目のデフォルト(債務不履行)に陥りました。高率のインフレに苦しむ生産者を支援して、外貨稼ぎの助けにしようと、政府援助で、「マルベック・ドル」なる為替優遇政策が有期で2023年に導入されました。

4. ガンバレ!東メンドーサの伝統品種たち

ブドウ品種に目を転じてみましょう。マルベックが第1位、第2位がピンク色の果皮を持つセレッサで、第3位が、黒ブドウのボナルダ。第4位がカベルネ・ソーヴィニョンです。第5位が、やはりピンク色の果皮のクリオジャ・グランデ。そして、シラー、トロンテスと続きます。6割が黒ブドウ。2割が、白ブドウ。そして、残り2割弱が、ピンクのブドウという構成比率です。

でも、先ずはアルゼンチンと言えば、マルベック。果実味豊富で、こなれたタンニン。口中に感じる触感は、メルロの様な柔らかさを感じます。紫の色合いとブルーベリーを感じる果実味豊富な味わいで、ブラインドテイスティングで見事に的中される猛者もいます。

マルベックについての詳細は、以下のリンクからたっぷりお読みいただけます。

黒ブドウ第2位のボナルダは、19世紀には、本家のフランス、サヴォア地方で、広く栽培されていたとされています。今では、マルベック同様、本家よりもアルゼンチンで良く知られているブドウ品種です。色が濃く比較的、アルコールも抑えられるので、ブレンド用にも活用されます。マセラシオン・カルボニックを取り入れたスタイルも普及しています。

そして、アルゼンチンで一大勢力を誇るのが、クリオジャ一家のブドウたち。日本では滅多に、お目に掛かりませんが、アルゼンチンの国内市場では需要があります。栽培面積上位の2位、5位に、果皮がピンク色のセレッサクリオジャ・グランデが陣取っています。

セレッサは、樹勢が強くて晩熟。アルゼンチン土着で、チェリーという意味です。クリオジャ・チカと、モスカテル・デ・アレハンドリアの自然交配で、ピンク色の果皮を持っています。

このクリオジャ・チカは、アメリカではミッション・グレープチリではパイスと呼ばれている品種。故郷のスペインでは、リスタン・プリエトと呼ばれていました。

16世紀にアルゼンチンに持ち込まれます。19世紀には、チリとアルゼンチンのブドウ栽培の大半を占めていました。今は、アルゼンチンの土着となっている、クリオジャ種のブドウは、このクリオジャ・チカの子孫が殆どです。実は、トロンテスもクリオジャ一家の傘下です。

クリオジャ一家のブドウは、クリオジャ・グランデに代表されるように、高収量で、病害にも強く生産者が栽培しやすいメリットがあります。そして、16世紀から17世紀の南米で、広まっていきます。その後、20世紀には、国際品種に囲まれて目立たない存在になりました。ですが、近年、一部の生産者たちは、この品種のポテンシャルに改めて注目をし始めています。カテナは、クリオジャを盛り上げようと、ナチュラル・ワインへの展開をしています。

クリオジャ・グランデは、早飲みの国内消費ワインとして白ワインやロゼワインに活用されます。大粒でピンク色の果皮。他のクリオラ種やボナルダにもブレンドされます。品質の良いものは、赤系果実のフローラルで、軽快なワインになります。過半が、東メンドーサで栽培されています。

東メンドーサは、低標高。と言っても、500~700メートルはあります。大量生産のバルクワインの産地で知られています。アルゼンチンワインの約半分を生産する広大な産地。肥沃で温暖。夏場の日中の平均気温は30℃を超えます。

棚仕立てが多いものの、機械収穫を行う畑では、垣根仕立てが取り入れられています。ドリップ・イリゲーションよりも伝統的なフラッド・イリゲーションが良く見られます。

5. 移民の国のコラボワインたち

メンドーサ

メンドーサは砂質で、そもそも放っておけば砂漠の土壌。これを灌漑で、ブドウの栽培適地にしています。そして、全般的には、北東が暖かくて、南西が涼しい構図です。高品質ワインの代表的な産地は、標高が高いルハン・デ・クージョ、ウコヴァレーです。

ルハン・デ・クージョ

この産地は、メンドーサ市の南に位置する、伝統的な高品質ワインの産地。

ウコヴァレーよりも暖かくて、ウィンクラーの産地区分では、リージョンの3もしくは4となり、果実の熟度は高くなります。800メートルから1,100メートルほどの標高で栽培されます。垣根仕立てが大半の畑で取り入られています。新しく開かれた畑には、ドリップ・イリゲーションや、雹を防ぐネットも活用されています。

サンテミリオンの、シャトー・シュヴァル・ブランが設立したシュヴァル・ド・アンデス。同じくLVMHグループのテラザス・デ・ロス・アンデスと共同設立されました。

このシュヴァル・ド・アンデスは、「ラ・プラス・ド・ボルドー」を通じて流通されています。そもそも、この流通システムは、ボルドーの高級ワインを中心に、クルティエ、ネゴシアンが世界中のネットワークを活用して販売していくもの。

98年に初めて、チリのアルマヴィーヴァを皮切りに、オーパスワンなどフランス以外のワインもこの流通ルートに乗り始めました。アルゼンチンからは、このシュヴァル・ド・アンデス以外にも、ファミリア・ズッカルディの単一畑のキュヴェなどが後に続いています。プレミアム感がある、流通ルートです。

この産地は、1993年にアルゼンチン初のDOC(原産地呼称名)として認められました。このDOC設立の起爆剤になったのは、ノートンやシャンドンなどのワイナリー。そして、マルベック人気に火がつきました。

アルゼンチンの、原産地呼称制度の規定は、ヨーロッパのアペラシオンと同様に、収量やブドウ品種などの規則を定めます。ですが、ヨーロッパのワイン法に比べると緩やか。そして、認定されている地区は、ルハン・デ・クージョの他は、同じくメンドーサ州のサン・ラファエルのみ。

なので、生産者からすると、あまりプレミアム感を訴求できません。ですから、このDOCを、ワインのラベルに冠して販売する生産者は決して多くはありません。現実、サン・ラファエルは、ワインツーリズムの対象として注目されておらず、国内消費が中心となっています。

代わって、注目されるのは、GI(地理的表示)。名の知られた産地はこのGIの認定を受けています。生産者がブドウの産地の個性を打ち出せて、差別化ができるので注目されています。最近知名度が上昇中の、ウコヴァレーのパラヘ・アルタミラGIが良い例です。

ウコヴァレー

メンドーサではもっとも標高の高い産地で、ルハン・デ・クージョのすぐ南に位置しています。

1990年代から、この産地は注目を集め始めます。もとは、ルハン・デ・クージョと比べてメンドーサの中心地から遠く、市場アクセスが悪いと考えられていました。しかし、カテナが、進出したことで、生産者が集まってきます。ドリップ・イリゲーションも導入され、一気にファッショナブルな産地になりました。大規模な生産者とブティックワイナリーが共存しています。

ファッショナブルと言えば、フランスのラフィット6代目当主となったサスキア・ド・ロスチャイルドと、イタリアの血を引きアルゼンチンを代表する生産者カテナのマネージング・ディレクター、ローラ・カテナの2人の才媛。この2人が引き継いだ、ボデガス・カロは、マルベック、カベルネ・ソーヴィニョンのブレンドが2つの文化の融合を体現しています。

1999年に提携した、ドメーヌ・バロン・ド・ロートシルト・ラフィットとカテナ。両社の頭文字(カテナのCAとロートシルトのRO)を取って、ボデガス・カロが誕生したのです。

今では、このウコヴァレーがメンドーサでも最先端の産地です。北からトゥプンガト、トゥヌジャン、サン・カルロスの地区に分けられますが、特に注目著しいのは、トゥプンガトの中のサン・カルロスにあるグアルタジャリーとパラへ・アルタミラ

カテナは、グアルタジャリーにアドリアンナ・ヴィンヤードを1993年に開きました。標高によって、栽培品種が変わってきます。1,300メートルから、1,450メートルくらいは、晩熟のカベルネ・ソーヴィニョン。その上の、1,600メートルくらい迄の畑には、マルベックの他に、カベルネ・フランや白ブドウ品種も栽培しています。

そして、これまでは政治、地理的な理由でしか定められていなかったGI。この歴史を、2013年に初めて塗り替えた、パラヘ・アルタミラ。ズッカルディは、この産地の1,100メートルほどの標高でマルベックを栽培しています。

ズッカルディは、コンクリートタンクへの思いが人一倍強い生産者です。良く見かけるコンクリート・エッグだけで無くて、円錐状や、アンフォラ型の発酵槽も揃えています。「コンクレート」というキュヴェまでリリースしてしまいました。コンクリート容器が取り込む、微量な酸素をワインに溶け込ませる事は良いものの、オーク樽の樽香が付くのは良しとしないという訳です。

サルタ

カファジャテの葡萄畑

北の産地のサルタ。アンデス麓のカファジャテの知名度が確立しています。1,500メートルから3,000メートル級の高地。緯度が南緯25度で、南国的な気温で、湿度も高く、標高が高くなければブドウ造りには向かない産地です。

3,000メートルの標高の、アルゼンチンで最も古いワイナリーの一つ、ボデガ・コロメが開拓した畑は、世界の美しいワイナリーを選出するワールド・ベスト・ヴィンヤードで2021年に世界35位に選ばれています。

一時は、世界で最も標高に高い産地とも言われていましたが、実際には、富士山の八合目の標高に相当する3,300メートルで、マルベック、シラー、メルロのブレンドを造るアイニ・ワイナリーがアルゼンチンでは1位。サルタ州のすぐ北隣のフフイ州に所在しています。

世界第1位は、チベット高原の3,500メートルで、ヴィダルやマスカットを栽培する、ピュア・ランド&スーパー・ハイ・アルティチュード・ヴィンヤードと、そのまんまの名称でギネス世界記録入り。ですので、アイニ・ワイナリーは世界第2位ということになります。

カファジャテでは、過半の生産を白ブドウのトロンテスが占めています。メンドーサが最大栽培面積を有しますが、銘醸地という意味合いでは、カファジャテが常に挙げられます。

トロンテスは3種類のクリオジャ種の集まり。その内、トロンテス・リオハーノが香りも糖度も高く、最高品質。クリオジャ種の中の出世頭です。

才気あふれる生産者は、摘房をして凝縮度を高めたブドウを手摘み、冷却して全房圧搾。酸化を抑え込みフレッシュなワインを造ります。

トロンテスは、19世紀に、メンドーサで知られるようになります。トロンテス・リオハーノは、モスカテル・デ・アレハンドリアとクリオジャ・チカとの自然交配。早熟で、果皮は厚く、病気にかかり難いとされています。溌剌とした酸を持ち、香りは、マスカット、ライチやマンゴーなどのトロピカルフルーツや、オレンジの花やジャスミンに、たとえられます。同じアロマティック品種の、ゲヴェルツトラミネールやヴィオニエの良いライバルです。

パタゴニア

アンデスからの影響は少なく、メンドーサに比べると降雨量は多くなります。冷涼でエレガントなワインを志向する生産者が集います。近年注目されている産地ですが、歴史あるリオ・ネグロの栽培面積は減少方向です。ブドウ品種は、マルベックやトロンテスに加えて、ピノ・ノワールが姿を現します。

イタリアのスーパータスカンのサッシカイアを造り上げた、マリオ・インチーザ・ロケッタ侯爵。彼の孫ピエロが、立ち上げたボデガ・チャクラ。ニューヨークでテイスティングした、ピノ・ノワールがパタゴニアのリオ・ネグロ産。これを忘れられず、この地で打ち捨てられていたピノ・ノワールの畑を手に入れて、改植、整備。トスカーナ生まれのピエロは、ボルゲリ時代からサスティナビリティを意識していました。そして、今では、ビオディナミ認証を受けてワイン造りをしています。

さらには、フランス、ムルソーの有名ドメーヌ、ルーロとのコラボで、メルロを改植。40年の古木からシャルドネの白ワインを2017年にリリースしました。ボデガス・カロと同様に、イタリアとフランスの生産者がアルゼンチンで一緒にワインを造る。移民の国アルゼンチンにとても似つかわしいと思いませんか?

そして、この産地では、リースリングやセミヨンと言った白ワインにも注目です。19世紀から20世紀半ばに掛けて、栽培面積が増えたというセミヨンも、その古木が見直されています。

リオ・ネグロのお隣の産地ネウケンは、90年代からの新しい産地ながら、右肩上がりに栽培面積が増えています。

パタゴニアは、ニュージランドのセントラル・オタゴと1位、2位を争う世界最南端の冷涼気候の産地です。今後、そのポテンシャルが花開くことが楽しみです。

6. アルゼンチンワインのまとめ

今回は、マルベックで有名なアルゼンチンの意外な魅力に迫ってみました。アロマティック品種のトロンテスや、日本ではあまり知られていない伝統品種のピンクのブドウ。さらには、南部のパタゴニアにも触れてみました。流行に敏感なワイン好きの方は、こうしたワインにも触手を動かし始めています。マルベック以外のアルゼンチンワインにも、この機会に是非手に取ってためしてみましょう。

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