ペドロ・ヒメネスとは? ~まさに甘露の味わい!その特徴や楽しみ方を徹底解説

ペドロ・ヒメネスとは

世界三大酒精強化ワインの一つ、シェリーに使われる品種として有名なペドロ・ヒメネス。単体で極甘口ワインになったり、ブレンドで甘み足しに使われたりと、シェリーには欠かせない品種です。今回は、ペドロ・ヒメネスの味わいや香り、主要な産地や楽しみ方について紹介します。

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【目次】
1. ペドロ・ヒメネスとは?
2. ペドロ・ヒメネスワインの味わいや香り
3. 暑い産地が大得意!ペドロ・ヒメネスの主な産地と製法
4. ペドロ・ヒメネスのワインの楽しみ方とおすすめマリアージュ
5. ペドロ・ヒメネスのまとめ


1. ペドロ・ヒメネスとは?

ペドロ・ヒメネスの葡萄

ペドロ・ヒメネスといえば、まず思い浮かぶのがスペインのシェリー。ペドロ・ヒメネスは二つの意味を持ち、主にシェリーに使われる白ブドウ品種の名前でもあり、ペドロ・ヒメネス種を使った極甘口の酒精強化ワインの名称でもあります。つづりのPedro Ximenezを略してPXと表記されることもよくあります。

ペドロ・ヒメネスは単体そのものだと、香りは強くないニュートラルな白ブドウ品種。皮が薄く太陽の熱を受けて糖度が上がりやすいため、極甘口ワインの原料になることが多いのです。そのほか、甘みを足す目的で、辛口シェリーにブレンドされることもあります。

2. ペドロ・ヒメネスワインの味わいや香り

極甘口のペドロ・ヒメネスワインは、こっくりとした黒蜜のようで、色はもはや黒に近い褐色です。特筆すべきはその類まれなるアロマ。レーズン、イチジク、デーツなどのドライフルーツ、蜂蜜やジャム、コーヒーやダークチョコレート、甘草などなど、複雑極まりない濃厚な香りを放ちます。口に含めば、ソフトでビロードのような質感が口中に広がり、まさに甘露の味わいです。ペドロ・ヒメネスはニュートラルな品種ですから、あの香りは、ブドウを乾燥し凝縮させる過程や熟成の間に生まれるものなのです。スティルの甘口ワインの場合は、アルコール度数は15度前後、酒精強化ワインの場合、アルコール度数は15~22度と一般のワインに比べて高めになります。

3. 暑い産地が大得意!ペドロ・ヒメネスの主な産地と製法

ペドロ・ヒメネスは、シェリーの産地で有名なスペイン最南部アンダルシア地方を中心に、バレンシア、エクストラマデューラ、ポルトガルのアレンテージョなど温暖な地域で広く栽培されています。

ペドロ・ヒメネスの来歴については諸説ありますが、面白い所では、17世紀にスペインの兵士がオランダからの帰途、ライン川流域から持ち帰ったのが始まりとする説が有名です。ただ冷涼なドイツでペドロ・ヒメネスは熟すはずもなく、仮説としては疑問視されているようです。

シェリーの三角地帯

ソレラシステム

ペドロ・ヒメネスといえば一番に名が上がるのが、シェリーの生産地、すなわちヘレス・デ・フロンテーラ、サンルーカル・デ・バラメータ、エル・プエルト・デ・サンタマリアに囲まれた三角地帯です。ただ意外なことに、シェリーの生産地域でのペドロ・ヒメネスの栽培量は極めて少なく、割合はわずか約1%のみ。というのも、シェリーの主要品種パロミノのほうが栽培も簡単で収量も取れるため、95%以上をパロミノが占めているのです。そのため、例外的に、次で説明するモンティージャ・モリレスという産地からペドロ・ヒメネスのブドウやワインを輸入して、シェリーの生産に使用することができます。

ペドロ・ヒメネスから甘口シェリーを造る場合は、まずペドロ・ヒメネス種のブドウを1~2週間天日干しにし、ブドウの水分を蒸発させ、糖度をさらに上げて干しブドウを作ります。その果汁を発酵させ、初期の段階で酒精強化して発酵を止めることで、ブドウ果汁が持つ天然の甘さを残すのです。熟成をソレラ・システムで行うのは、辛口シェリーと同じです。シェリーの製法やソレラ・システムについては、こちらの記事もご覧ください。

また、ペドロ・ヒメネスワインは糖度が非常に高いため、甘さを足すためのブレンド用としても使われます。シェリーの辛口ワインは「フィノ」「マンサニージャ」「アモンティリャード」「パロ・コルタド」「オロロソ」がありますが、極甘口シェリーや濃縮果汁を「アモンティリャード」にブレンドしたものが「ミディアム」、オロロソにブレンドしたものが「クリーム」となります。

生産者として知っておきたいのは、ボデス・ヒメネス・スピノラ。創業1729年の古いボデガで、なんとペドロ・ヒメネスだけに特化した超珍しい蔵なのです。年間生産1万本というヘレス最小のボデガでは、品質にこだわりぬいた極甘口のペドロ・ヒメネスを生産しています。面白いのが、シェリーではないペドロ・ヒメネスのスティルワイン(「ボデガス・ヒメネス・スピノラ エクセプショナル・ハーヴェスト」 )も生産していること。非常に厳しい選果から外れた遅摘みブドウから、類まれなる甘やかなアロマを放つ、度数12.5%のやや辛口のワインを造っています。コアなワインラバーが集まるワイン会にもっていったら、喜ばれそうなワインですね!

モンティージャ・モリレス

ペドロ・ヒメネスが最も栽培されているエリアは、実はヘレスに隣接するモンティージャ・モリレスという地域。シェリーではやや脇役感のあるペドロ・ヒメネスがここでは花形。この地域の生産量のなんと7割を占めています。モンティージャ・モリレスは、シェリーに比べると無名な地域ですが、甘口ワインが古くから有名な産地。シェリーのスタイル「アモンティリャード」の名前も、「モンティージャ風の」という意味に由来します。シェリーに似たスタイルのワインを造れますが、シェリーは原産地呼称のため、モンティージャ・モリレスのワインをシェリーと呼ぶことはできません。

ヘレスよりも内陸にあるため、夏は暑く冬は寒い厳しい気候を持ち、ヘレスに似た白亜質の石灰土壌(アルバリサ)で育ちます。夏に行ったら目を開けていられぬ灼熱の眩しさでしょうね…。そんな環境で育ったペドロ・ヒメネスは、非常に糖度の高い凝縮したブドウになり、自然発酵でアルコール度数は15度以上になります。そのためシェリーとの大きな違いは、必ず酒精強化するシェリーに対し、酒精強化しなくてもシェリーに似たアルコール度の高いワインを造れることです。

白亜質の石灰質土壌(アルバリサ)

ペドロ・ヒメネスから造られるモンティージャ・モリレスのワインは、甘口だけでなく辛口にもなります。ワインのスタイルにはシェリーと同じ分類が用いられ、DOモンティージャ・モリレスのフィノやアモンティリャード、オロロソなど、様々なタイプのワインが造られています。ペドロ・ヒメネス種のフィノやオロロソというと、なんだか不思議な感じがしますね!ちなみに、内陸にあり乾燥した気候のモンティージャ・モリレスで生成したフロールは、シェリーのものに比べて薄くなるため、ワインはより酸素の影響を受けやすく、しっかりと厚みのあるワインのスタイルになるようです。

マラガ

アンダルシア州マラガ旧市街地

マラガ旧市街地

また、シェリーの生産地域の近くにあるアンダルシア州マラガ地方も、シェリーに似た甘口酒精強化ワインや天然甘口ワインが有名な地域。かのシェークスピアも愛飲したといいます。

このマラガワインも、主要品種はペドロ・ヒメネスとモスカテル。シェリーと同じ品種から、同じような製法で甘口ワインが造られています。モンティージャ・モリレスのブドウも、シェリー同様マラガに運んで、マラガのペドロ・ヒメネスワインとして生産することが可能です。

また、近年の辛口志向に対応するため、アルコール度数15%以下の辛口ワインには「シエラス・デ・マラガ」というDO呼称が認められました。

オーストラリア

スペイン以外だとオーストラリアでも栽培されています。「ペドロ」と呼ばれ、かつては酒精強化ワインや安価なテーブルワイン用に非常に広く栽培されていましたが、今やその総面積は 100 ヘクタール未満にまで減少しています。ニュー・サウス・ウェールズ州の内陸部リヴェリナはセミヨンから貴腐ワインが生産されることで有名ですが、1950年代、このあたりで最初に造られた貴腐ワイン「マクウィリアムズ ペドロ」は、実はペドロ・ヒメネスが原料でした。

またバロッサ・ヴァレーの自然派の造り手スモールフライが造る「タンジェリン・ドリーム」のように、現存する古木のペドロ・ヒメネスを、ブレンドに加えたワインもあります。

ちなみに「ペドロ・ヒメネス(Pedro Gimenez)」という品種は、またチリやアルゼンチンでも栽培されていますが、綴りも違い、「Pedro Ximenez」とは無関係。ややこしいですよね。アルゼンチンでは、いまだに最も栽培されている白ワイン品種で、国内消費用のデイリーワインの原料になります。チリでは、主にピスコ(蒸留酒)の生産に使用される品種です。

4. ペドロ・ヒメネスのワインの楽しみ方とおすすめマリアージュ

ペドロ・ヒメネスによく合うブルーチーズ

黒蜜のようにこっくりあまーいペドロ・ヒメネスのワインは、まるで飲むデザートです。甘露の味わいを単体で味わうのも良いですが、おすすめなのは、ブルーチーズなど塩っぽいものと合わせること。濃厚な甘みと塩気のバランスが、口の中で嬉しい化学反応を引き起こしてくれます。そのほか、アイスにかけたり、ビターチョコレートなどといただいたりするのもおすすめです。少し冷やして、12~14度くらいが良いでしょう。また、甘口の酒精強化ワインは非常に長熟で、良いものだと数十年は熟成するポテンシャルを持ちます。

5. ペドロ・ヒメネスのまとめ

今回は、ふだんあまり着目することのないペドロ・ヒメネスを取り上げてみました。甘口ワインだけでなく、辛口酒精強化ワインやスティルワインとしても登場することがあるペドロ・ヒメネス。意外な一面を知ることができたのではないでしょうか。ぜひ見かけたら、試してみてくださいね!

ペドロ・ヒメネスとは

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