プロヴァンスワイン ~美しい海岸と高級リゾートに彩られたロゼ産地・おすすめのアペラシオンから代表品種までを徹底解説

プロヴァンスと聞くと、コートダジュールの美しい海岸線。青い海とコントラストを成す真っ白なヨットと疾走するモーターボート。カンヌ映画祭。そして、セザンヌ、マティスにピカソと芸術にも、ゆかりが深い土地です。立ち並ぶ高級ホテルにブティック、高級車の行き交う海沿いの道路。うっとりするような風景にピンク色のロゼ。そんなイメージが次々と思い浮かびます。

今回は、この風光明媚な産地から生まれるワインを、ロゼはもちろん、赤ワインや白ワイン、そして、さまざまなアペラシオンを一緒に勉強していきましょう。レストランやワイン・ショップでのワイン選びに役に立つこと間違いなしです。また、無味乾燥になりがちな試験対策にも。さまざまな雑学と共に、潤いをあなたに届けます!さぁ、地中海へのヴァカンスに出かけましょう。

本記事は、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」が監修しています。ワインを通じて人生が豊かになるよう、ワインのコラムをお届けしています。メールマガジン登録で最新の有料記事が無料で閲覧できます。


【目次】

  1. プロヴァンスワインと言えば?
  2. プロヴァンスの代表的な黒ブドウ品種を押さえよう!
  3. いちおう頭にいれておこう・主要アペラシオン
  4. リゾートとセレブリティに彩られた歴史とバラの花
  5. ロゼワイン造りに隠された「秘密」
  6. 飲んでみたいプロヴァンスワイン・特徴あるアペラシオンを深堀りしよう
  7. 環境にやさしいワイン造りで伸びてゆくプロヴァンス
  8. プロヴァンスワインのまとめ

1. プロヴァンスワインと言えば?

そうです。プロヴァンスワインと言えば、やっぱりロゼ。フランス全土のロゼ・ワインの4割を産出しています。2位のロワールの2倍の規模で、プロヴァンスのワイン生産の9割を占めるほど集中しています。残りの1割の生産を赤ワインと白ワインで分け合っています。

ロゼは、生産はもとより消費の方も、世界でフランスが最も盛んです。2019年で、白赤ロゼの3色のワインの内の3割以上を占めています。驚くなかれ、これは日本の一人当たり年間消費量全体の3倍近くをロゼだけで飲んでしまうという事にあたります。なんとフランス人はロゼ好きなのでしょう!他方、輸出に目を転じてみると、世界の6割はスペインとイタリアで賄っています。国内で、たんまり飲んでしまって、なかなか日本にフランスから色々な種類のロゼが回ってこないことが、腹落ちします。

歴史

古くは紀元前のフェニキア人やギリシャ人まで遡るこの地のワイン造り。本格的な歴史は、やはりローマ帝国と共に始まります。ローマの属州のことをプロウィンキアと言いますが、そもそも、プロヴァンスの名前の由来はここから来ています。

フランス最古のワイン造りの歴史を持つこの土地。その後、ローマ帝国の領土拡大に伴って、ワイン産地がローヌやブルゴーニュ、ボルドーへと拡大していきます。

中世には修道院でのブドウ栽培がさかんになります。16世紀後半には混植が推奨されていた時期もありました。病害などによる収量低下へのリスクヘッジにもなるからです。そうした時代背景から、濃い色合いと薄い色合いの果皮のブドウが渾然一体となる場合があったろうことが想像できます。

英国ではボルドー産の明るい色合いのクラレットも人気となり、赤と白の中間色のワインが認知されていきました

その後、19世紀半ばになる頃には甘口ワインが主流となります。この甘口ワインに使われたマスカットは、15世紀初頭のフランスの王族のルネ・ダンジューが、プロヴァンスに持ち込んだと言われています。その後は、重厚な赤ワインに人気が移っていきますが、他のヨーロッパの産地と同様に、プロヴァンスもフィロキセラ禍に襲われます。

20世紀に入ると、マルセル・オットなどの当時の若手のワインメーカー達がワイン産地を盛り上げていきました。

20世紀前半にはアメリカで、ローヌのタヴェルや半甘口のロゼに人気が出てきます。ロワールのロゼ・ダンジュにも人気が集まりました。戦後は、ポルトガルの中甘口で微発泡のマテウスの世界的な流行が始まり、1980年代頃にピークを迎えます。こうして、ロゼはカジュアルなワインという位置づけでは有るものの、消費市場に居場所を見つけてきました。

この世界的な潮流の中で、プロヴァンスでは、コートダジュールやカンヌといった華やかなリゾート地のイメージの確立と共に、可愛らしい薄いピンク色のロゼワインの人気が定着していきます。

気候

プロヴァンスは、東はニースから西はローヌ地方のアヴィニョン近郊までの幅広い産地です。気候は、温暖な地中海性気候です。夏の間は乾燥して、冬場に秋冬に雨がまとまって降ります。ローヌ渓谷を吹き降ろす冷涼な風、ミストラルは、かびによる病害を防いでくれますが、ブドウに生理障害を起こしてしまい、収量が上がらない原因にもなるので善し悪しです。

ただしミストラルは、海沿いだけで無く、内陸の標高のある丘陵地での栽培でも、夏の暑さを和らげてくれるので、溌剌とした酸が維持される良い産地にしてくれます。収穫時期も産地に応じて異なり、海岸沿いで早摘みをする畑では8月後半から始まって、初秋まで幅があります。

広大な産地なので、一概に土壌は語れませんが、北西は石灰質土壌の丘陵地、南東は結晶質土壌が見られ、モール山塊やタスロン山塊が広がります。また、地中海沿岸の石灰質の乾燥した岩山の上にはガリッグと呼ばれる灌木類が広がり、結晶質の岩盤の上にはマキと呼ばれる樹木林が繁茂します。プロヴァンスに特有な自然の風景です。

2. 代表的な黒ブドウ品種を押さえよう!

プロヴァンスのワインを細かく見ていく前に栽培面積が大きい、代表的な黒ブドウ品種を頭に入れておきましょう。シラーは、永久保存版の特集が別にありますので、是非、そちらをご参照ください。

先ずは最大品種のグルナッシュですが、このブドウは、スペインの北東部あるいは、イタリアのサルディーニャ島が起源と考えられています。親子関係にあるブドウ品種はわかっていません。比較的、芽吹きは早くて晩熟ですから、暖かい気候に向いています。糖度が上がりやすいのが特徴で、酸は中庸です。株仕立てが良く見られます。シャトー・ヌフ・デュ・パプでは有名な品種です。シラーやムールヴェードルとブレンドされることも多く、3種類のブドウ品種の頭文字を取って、GSMと呼ばれます。

グルナッシュに続く2位の栽培面積をシラーと争うのはサンソーです。サンソーは南フランスが起源。乾燥した土地に強くて、干ばつにも適応できます。芽吹きは遅め。樹勢は特段、強くは無いですが、収量は多くなりがちです。収量を抑えて、十分な抽出をすれば良いワインになります。赤系果実の爽やかな味わいが、フレッシュなロゼに向きます。グルナッシュの引きたて役としてブレンドに活用されます。南アフリカではエルミタージュと呼ばれています。ピノ・ノワールとの交配品種の、ピノ・タージュも有名ですね。

ムールヴェードルは、スペインのモナストレルのフランスでのシノニムです。起源はスペインのバレンシア地方と考えられています。フランスへは、16世紀にプロヴァンスに伝わったのが最初とされています。芽吹きは遅くて、かなり晩熟です。ですから、気温の高い産地を好みます。一方で、干ばつには被害を受けやすく、十分な水の供給が必要。育てるのは簡単な品種ではありません。短梢剪定もしくは株仕立てが多く見られます。還元的になりやすいので、ワイン造りでは、ある程度、酸素との接触を行います。力強いタンニンが特徴です。

ティボレンは、古代に遡る品種で、南フランスに伝わったのは18世紀と言われています。イタリアの州都ジェノヴァを擁するリグリア州で栽培されている、ロッゼーゼ・ディ・ドルチェクアとDNA上は同一であるとわかっています。芽吹きは早くて成熟は中庸。南フランスではサントロペが伝統的な産地です。比較的フルボディで、ロゼのブレンドに用いられます。この珍しい品種を中心に据えて、赤ワインやロゼを造るのは、コート・ド・プロヴァンスでは、クロ・シボンの他はあまり例を見ません。

3. いちおう頭にいれておこう・主要アペラシオン

細かくプロヴァンスの産地を見ていく前に、大枠のアペラシオンを先ずは押さえておきましょう。大きくは3つの段階に分けて押さえておくと憶えやすいかも知れません。

1936年から1940年代に最初のアペラシオンがカシス、バンドール、ベレ、パレットに与えられます。次に、コート・ド・プロヴァンス、コトー・デクス・アン・プロヴァンス、コトー・ヴァロワ・アン・プロヴァンス。そして、最後にレ・ボー・ド・プロヴァンスが1970年代から90年代に渡って登場します。コート・ド・プロヴァンスが、プロヴァンスの7割を超える最大生産量を誇り、うちロゼの生産量が9割に上ります。

その後、2000年代から2010年代に、サブ・リージョが生まれました。コート・ド・プロヴァンス・サント・ヴィクトワールやフレジュ、ラ・ロンド、ピエールフーが続々と現れて、2019年に加わった一番新しいサブ・リージョンが、コート・ド・プロヴァンス・ノートルダム・デ・アンジュです。これらのサブ・リージョンには、ワインの出荷前の熟成義務等の規則があります。また、土壌や気候等によって区分されているものの、ワインのスタイルには、あまり影響が無いとも言われています。

また、あまり知られていませんが、18のクリュ・クラッセが存在します。1955年に認められたものです。しかし、畑の区画の出入りも見られるのに、時代と共に品質を踏まえた見直しが行われるような気配は見られません。

ですから、プロヴァンスでは、個別のワイナリーにあたりを付けてワイン探しをする方が、お目当てのワインにたどり着く為に、意外と近道かも知れません

少し、分かりにくいのがリュベロン。コトー・デクス・アン・プロヴァンスとは、ローヌ川支流のデュランス川を挟んで隣り合っています。プロヴァンスの一部と現地では見なされる事も多いのですが、アペラシオン上は、南ローヌに分類されます。リドリー・スコット監督、ラッセル・クロウ主演の2006年の映画、『プロヴァンスの贈りもの』でロケ地となったシャトー・ラ・カノルグは、実はリュベロンにあり、映画に出てくる街の風景もリュベロンのものなのです。

4. リゾートとセレブリティに彩られた歴史とバラの花

ニースを海岸沿いに70キロほど西に向かうと高級リゾート地、海を臨む半島のサントロペに着きます。19世紀から芸術家が集い、20世紀にはファッションデザイナーに注目されます。そして、その知名度を決定的にしたのが、1956年のフランス映画『素直な悪女』。往年の名女優ブリジット・バルドーが主演でこの町が映画の舞台になります。

19世紀初頭からワインビジネスに携わってきたスメール一族のレジーヌが所有するシャトー・バルベロール。アペラシオンは、コート・ド・プロヴァンスですが、サントロペ湾を臨む絶好の立地。このシャトーが、1985年にペタル・ド・ロゼ、バラの花という名前のロゼ・ワインを生み出します。ボルドーを訪問した彼女は、シャトー・オー・ブリオンの白ワイン造りに古い垂直型のバスケットプレスが使われて、やさしく全房圧搾しているのを見つけます。このコカール・プレスは、繊細なブドウの圧搾が必要とされるシャンパーニュで伝統的に使われてきました。これを彼女は当時はまだ濃い色合いだった、プロヴァンスのロゼ造りに活用。明るい色合いを持つフレッシュなロゼを世に出したのです。

最近では、2017年に、シャトー・デスクランは、ますます華やかな名声を高めています。モナコのヨットクラブと世界的な宝飾品ブランドのブルガリの協賛の下で催されたパーティに協力。ゲストはF1ドライバーやモデル等のセレブリティ。大型のヨットオーナー達が集う、桁外れの船上パーティは羨望のまなざしを集めます。

シャトー・デスクランは、2006年にメドック格付け4級のシャトー・プリュレ・リシーヌが購入しますが、ムートン・ロートシルトから醸造長が参加。今では、過半の株式は ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー・(LVMH)が保有しています。サブ・リージョンであるフレジュを使わずに、コート・ド・プロヴァンスとだけ名乗っているのですが、リシーヌ氏は、サントロペをアペラシオンとして名乗れるので有れば、使いたいのだがと心情を吐露したようです。如何に、ロゼではイメージというものが、大切であるかということが垣間見えます。

ワイン造りにもセレブリティは進出してきています。有名な所では、2011年にブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが購入したシャトー・ミラヴァル。コート・ド・プロヴァンスと、コトー・ヴァロワ・アン・プロヴァンスの2つのアペラシオンでロゼ・ワインと白ワインを造っています。シャトー・ヌフ・デュ・パプの生産者で、知名度の高い、シャトー・ド・ボーカステルを所有するファミーユ・ペランの協力を得てワイン生産を立ち上げました。

他にも1980年代にユーロ・ビートで一世を風靡したカイリー・ミノーグや、かのジョージ・ルーカスに、ジョン・レジェンドもプロヴァンスのワインを造っています。最近では、ファッション・ブランドでも、シャネルが、ポルクロール島にあり、ロゼ・ワインの生産が7割を占めるドメーヌ・ドゥリルを買収しています。

インスタ映えするプロヴァンスのロゼは華やかなイメージと共に世界的に拡散。ロゼは、ライフ・スタイルの一部に、うまく溶け込み、それに連れて、消費も右肩上がりです。

2000年代初頭からの20年弱で世界の消費は4割も増加。プロヴァンスのロゼは、それに従って価格も上昇しました。フランス国立原産地名称研究所は、ヘクタール当りの収量を55ヘクトリットルから60ヘクトリットルに上げること、そして年間300ヘクタールの栽培面積の増加を認めます。アルコール離れが進む、昨今のトレンドの中で、ロゼ・ワインは注目株なのです。

5. ロゼワイン造りに隠された「秘密」

ロゼに使用するブドウは標高の高い土地など、冷涼な影響を受ける土地で栽培して、しっかりした酸を残して、フレッシュなワインに仕上げたいです。一方で、収量は、赤ワインと異なり、あまり低く抑える必要はありません。凝縮度よりも軽快さが今のロゼには重視されているのです。

ですから、収穫も赤ワイン用よりも早く行います。機械収穫は夜間の気温が低い時に、一気に収穫できる利点があります。一方で、手摘みだと作業員の確保やコスト面が大変ですが、ブドウを傷つけずに全房収穫が行えます。

醸造では、酸素との接触を控えて、フレッシュさや品種特性を維持します。ブドウを畑からワイナリーに運ぶのに、時間が掛かってしまうと品質が落ちてしまいます。ですから、大手でも品質にこだわりを持つ生産者は畑のそばで圧搾をして、果汁を輸送するという手段を取るところもあるようです。

生産者は買い付けブドウと自社畑のブドウの使い分けもしています。シャトー・デスクランは、大ブームを起こしたウィスパリング・エンジェルでは、買いブドウをかなり使う一方で、トップ・キュヴェのガリュは自社畑のブドウにこだわっています。

1980年代までは、発酵槽での温度管理は簡単では無くて、氷の塊を使って冷やしていたといいます。1990年代後半には、自動温度管理が可能になります。また、空気圧プレスで圧搾も繊細に行う事ができるようになります。主要品種のグルナッシュは酸化しやすいので、こうした技術進歩のお蔭で品質が大きく改善しました。

ところで、念のための質問です! いまだにロゼは赤ワインと白ワインをブレンドして造っていると思っている方はいないでしょうか? 例外的にシャンパーニュでブレンドが許されている他は、厳しいヨーロッパのアペラシオンの規則では許されていません。基本、黒ブドウを使って、白ワインのようにロゼ・ワインは造ります。

醸造方法は、直接圧搾方式、セニエ方式、短期間の醸しをする方法に分けられると言って良いでしょう。プロヴァンスで主流の直接圧搾方式では、ブドウの果皮が果汁と接触する時間が非常に少ないので、薄い色合いとなります。

破砕したブドウを暫く圧搾機に留め置いて、その期間に応じて必要な色合いとタンニンを抽出する場合もあります。ただし、全房よりも酸化しやすく、フェノール類の滲出も程度問題ですから、注意深く作業を進める事が必要です。

セニエ方式は、プロヴァンスではあまり用いられません。プロヴァンスでは、ロゼの生産が主眼ですから、赤ワインの副産物としてのロゼを造るセニエ方式は選ばれないのです。

セニエ方式では、赤ワインのスタイルに合うように、ブドウの熟度が高くなるタイミングで収穫をします。ですから、ボディに厚みを持つようになるものの、ロゼとしては酸が足りなくなることが有るという課題があります。

ローヌのタヴェルでは半日から数日間に渡る醸しをしますが、プロヴァンスのロゼは全くしないか、せいぜい半日くらい。

醸造温度は16℃から20℃辺りと白ワインに倣った温度設定です。繊細な果実香を大切にしながらも、酢酸イソアミルによるいわゆるバナナのような低温発酵による香りは避ける温度設定です。

ロゼのフレッシュさを維持するために、マロラクティック発酵は起こさずに、酸を保持する醸造手法を取ることが多いです。マロラクティック発酵から生まれるクリームやバター、ヨーグルトの様な香りが、ロゼの繊細な果実の風味に合わせにくいところもあります。ドメーヌ・オットでは、2006年にマロラクティック発酵は止めました。また、同様の理由で澱との接触を長期間に渡って行なう生産者も少ないのです。

ところで、あまり知られていないかも知れませんが、プロヴァンスでは、ロゼ・ワインには白ぶどうも使うことが認められています。でも、それは白ワインではありません。2009年に欧州委員会がロゼ・ワインの製造に白ワインをブレンドすることを提案。プロヴァンスはイタリアと共に断固反対します。結局、法案は立ち消えになります。プロヴァンスとしては、造り方が簡単でコストも抑えられて、品質も劣るロゼを世に出させたくない。熟練の生産者達も失業してしまう!というわけです。

そういうわけで、白ブドウが黒ブドウと共に使われる場合には、混ぜるのは発酵開始前でなければなりません。つまりは、混醸ということになります。

夫々のアペラシオンの規則にも依りますが、2割が上限。しかし、一般的にはせいぜい1割程度。黒ブドウの熟度が高い時に、アルコールを下げるのにも役立ちます。黒ブドウの色素が早く滲出してしまうような時にも使われています。

そういうわけで、プロヴァンスのロゼの色合いが淡いのは、醸造方法の他にも、グルナッシュやサンソーなどの果皮の色が薄い品種を使ったり、白ブドウ品種を使用したりしているという事にも一因があります。

長期間の醸しを試したり、樽で熟成させたりするロゼも少数ですが、プレミアムワインの中には存在します。シャトー・デスクランや、協同組合のエスタンドンのトップ・キュヴェのレジャンドは、新樽も使った造りをします。

ワインボトルにもロゼ・ワインの生産者は気を配ります。ドメーヌ・オットのボトルは1930年代に考案したものとは思えないほど美しく、ピンク色のロゼの色合いを華やかに演出しています。

生産者の努力と並んで、忘れてはいけないのは、産地の成長を支える協会や団体の存在です。プロヴァンスには高品質なロゼを維持するためにワイン造りの科学的な研究をする、世界初のロゼ・ワインの研究センターが1999年に設立されています。香りやテロワール、亜硫酸、品種、圧搾などのさまざまな研究開発が行われているのです。

プロヴァンス・ワイン委員会(CIVP)は香港や台湾、中国等のアジア諸国のインポーターやディストリビューターと、プロヴァンスの生産者とを、インターネット上で意見を交わせる場を設けました。また、最近では、アンヴィプロヴというプロジェクトを通して、生態系に配慮した農業を推進。ワイン産業の振興に力を入れています。

6. 飲んでみたいプロヴァンスワイ・特徴あるアペラシオンを深堀りしよう

プロヴァンスは、ロゼばかりではありません。赤ワインや白ワインを造る、伝統ある産地を見ていきましょう。

プロヴァンスの赤ワインならここ!

バンドールは地中海を南側に臨みます。このアペラシオンでは、ムールヴェードルを最低5割使用することが義務付けられています。

サント・ヴィクトワール山やサント・ボーム山塊が、冷たい北風を防いでくれます。更に、太陽が燦燦と降り注ぐ地中海に向かう斜面が、晩熟のムールヴェードルに最高の環境となります。他方、アルコールが上がりやすいグルナッシュは北側斜面での栽培が見られます。熟成を考えるとムールヴェードル、若い内から飲めるワインでは、グルナッシュを活用するという考え方が取られます。

この産地では、赤ワインが有名で、長期熟成が可能な力強いワインで知られてきました。ですが、20年前と比べると半減。代わりにロゼが大幅に増加して今では、7割ほどになります。そのロゼも、ムールヴェードルのお蔭で長期熟成が可能なものを見つけることができます。

この産地ではアペラシオン創設の立役者とも、プロヴァンスで最高のワインを生むとも言われる中核的な生産者ドメーヌ・タンピエを挙げないわけにはいきません。『プロヴァンスの贈りもの」』の冒頭に登場します。1969年のタンピエを美しい風景に恵まれたテラスで抜栓するシーンが印象的です。この映画の原作を書いたイギリスの作家ピーター・メイルは他にも『南仏プロヴァンスの12か月』などプロヴァンス地方の著作で有名。この地方の世界的な人気に貢献します。

少数精鋭の生産者で構成されるアペラシオンとしては、パレットが挙げられます。ワインの過半を赤ワインが占めます。そして、この産地ではシャトー・シモーヌが半分以上の畑を所有しており、標高200メートルの北向き斜面からは落ち着きのあるワインが生まれると言われます。ブドウの成熟を抑えつつ、酸は維持できるという寸法。マルセイユの北の産地です。

プロヴァンスでは珍しい白ワインに強い産地

カシスは白ワインの生産が大勢を占めます。こちらはマルサンヌとクレレットが主流。フィロキセラ禍の後、甘口ワインから白ワインの産地へと転身を遂げた、風光明媚な小さな港町です。カランクと呼ばれる深く切り込んだ入り江が有名で、カランク国立公園の中という立地。崖から海をすぐ下に臨む畑は圧巻の眺望です。フランスでも最初に認められたアペラシオンの一つで、シャトー・ヌフ・デュ・パプやタヴェルなどと共に、歴史に名を刻んでいます。カシスではバンドールと同じように、レスタンクと呼ばれるローマ時代に起源を持つ段々畑での栽培が有名で、石垣が、冬場の雨による土壌の浸食から畑を守ってくれます。

ニースと言えば、ベレ。ニースの丘の周囲の標高200~300メートル辺りに立地するアペラシオンです。この産地も白ワインの比率が高くプロヴァンスでは珍しいアペラシオンです。プロヴァンスでは、ロールという名称で呼ばれるヴェルメンティーノが白ワインの中核品種で、イタリアの影響が見て取れます。

ヴェルメンティーノは、14世紀から17世紀にスペインからコルシカ島とイタリアのサルディーニャ島に伝わったといわれています。サルディーニャ島の他、ピエモンテ州、リグリア州とイタリアでは良く知られています。

カベルネ・ソーヴィニョンを使おう!

プロヴァンスではカベルネ・ソーヴィニョンは、よそ者です。アペラシオンの規則(カイエ・デ・シャージュ)でも、補助品種の扱い。グルナッシュやシラー、サンソーに道を譲らなければなりません。定められた、ブレンドの上限を守らないとできたワインがアペラシオンを名乗ることができなくなります。

そうした中で、かの有名ワイン評論家ロバート・パーカーが賞賛したのが、コトー・デクス・アン・プロヴァンスのシャトー・ヴィニュローとレ・ボー・ド・プロヴァンスのドメーヌ・ ド・トレヴァロンです。

シャトー・ヴィニュローは1960年代にボルドーのメドック格付け3級のシャトー・ラ・ラギューヌのオーナーだった、ジョルジュ・ブリュネが設立。カベルネ・ソーヴィニョンの苗木を持ち込みました。最初はほぼ100%のカベルネ・ソーヴィニョンのワインを造っていたのですが、1985年にコトー・デクス・アン・プロヴァンスのアペラシオンができると、主要品種のグルナッシュやシラーを栽培せざるを得なくなります。規則上は、50%を超えたカベルネ・ソーヴィニョンは、ブレンドできなくなりました。しかし、このアペラシオンの規則には、抜け穴があります。幾世代にもわたる生産者のブドウ品種などに関する経験は、ワイン造りに反映ができるというものです。変わらず、シャトー・ヴィニュローは6~7割のカベルネ・ソーヴィニョンを使いながら、自分の求めるスタイルを追求しています。この著名な生産者のお蔭でコトー・デクス・アン・プロヴァンスにはカベルネ・ソーヴィニョンが根付きました。

もう一方のドメーヌ・ ド・トレヴァロンは、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティをつい先だって引退したオベール・ド・ヴィレーヌも感激したというワインを造っています。カベルネ・ソーヴィニョンを6割とシラーを4割で造ったブレンド。所属するアペラシオン、レ・ボー・ド・プロヴァンスは、四角四面に規則上、認められないと言い渡します。これを不服に思ったオーナー栽培醸造家のデュルバック氏は、ワインのスタイルを変えずに、94年ヴィンテージからヴァン・ド・ペイに格付けを落として自分の信念を貫きました。

レ・ボー・ド・プロヴァンスは、もっとも西にあるアペラシオン。ローヌ川流域のアヴィニョンにも近い産地です。ヴァン・ゴッホが静養していたサンレミ・ド・プロヴァンス周辺にもブドウ畑が広がる産地です。

19世紀のまだフィロキセラ禍の前に、ブドウ樹の仕立てで有名なジュール・ギュイヨ博士が、プロヴァンスでは、カベルネ・ソーヴィニョンとシラーのブレンドから素晴らしいワインができると宣言してから、2世紀が経ちますが、よそ者のカベルネ・ソーヴィニョンへの風当たりはまだまだ強いようです。

ここはイタリアですか?

コルシカ島は、イタリアの影響が強いところです。それもその筈で、ジェノヴァ共和国に18世紀後半まで統治された歴史があります。立地的にも、フランスよりもイタリアに近い事もあります。すぐ南にはイタリアのサルディーニャ島があります。日照時間は、3000時間に手が届きそうなほどで、ブドウ栽培には恵まれています。ブドウ品種は、ニエルキオが主要品種ですが、これはトスカーナのサンジョヴェーゼと同一のブドウです。白ブドウはロールが最大ですが、ここでは、イタリアのシノニムであるヴェルメンティーノという名称の方が市民権を持っています。

7. 環境にやさしいワイン造りで伸びてゆくプロヴァンス

高級リゾート地のイメージにぴったりあった、プロヴァンスのロゼ・ワイン。他の産地との、造り方の違いもご紹介しました。この産地になじみの深い、映画や芸術、そして華やかなセレブリティ達が造るワイン。試してみたくなりませんか?でも、ロゼ・ワインだけでは語れないのも、プロヴァンスの奥深さ。バンドールのムールヴェードルや、高評価を得ているカベルネ・ソーヴィニョンも、飲んでおきたいですね。ワインと旅行好きには、たまらない産地。いつか、プロヴァンスからローヌ、ラングドック・ルーションと南フランスをゆっくりと巡る旅に赴きたいものです。それまでに、しっかり有名産地の勉強をしておきましょう!引き続き、当ブログをよろしくお願い致します。

サンレミ・ド・プロヴァンスのドメーヌ・アンリ・ミランは、煩わしいアペラシオンの規則を嫌い、自然なワイン造りを目指して、レ・ボー・ド・プロヴァンスのアペラシオンを捨てました。ヴァン・ド・フランスにまで、格付けを落としてでも自分の道を希求しています。ビオディナミ農法の考えを実践しつつ、オーガニック栽培を行う。更には、無濾過、亜硫酸も使わないワイン造り。こうした一人ひとりの生産者の有り方が、環境に良いワイン造りにも繋がっていくことでしょう。

8. プロヴァンスワインのまとめ

高級リゾート地のイメージにぴったりあった、プロヴァンスのロゼ・ワイン。他の産地との、造り方の違いもご紹介しました。この産地になじみの深い、映画や芸術、そして華やかなセレブリティ達が造るワイン。試してみたくなりませんか?でも、ロゼ・ワインだけでは語れないのも、プロヴァンスの奥深さ。バンドールのムールヴェードルや、高評価を得ているカベルネ・ソーヴィニョンも、飲んでおきたいですね。ワインと旅行好きには、たまらない産地。いつか、プロヴァンスからローヌ、ラングドック・ルーションと南フランスをゆっくりと巡る旅に赴きたいものです。それまでに、しっかり有名産地の勉強をしておきましょう!引き続き、当ブログをよろしくお願い致します。

豊かな人生を、ワインとともに

(ワインスクール無料体験のご案内)

世界的に高名なワイン評論家スティーヴン・スパリュアはパリで1972年にワインスクールを立ち上げました。そのスタイルを受け継ぎ、1987年、日本初のワインスクールとしてアカデミー・デュ・ヴァンが開校しました。

シーズンごとに開講されるワインの講座数は150以上。初心者からプロフェッショナルまで、ワインや酒、食文化の好奇心を満たす多彩な講座をご用意しています。

ワインスクール
アカデミー・デュ・ヴァン