「NoLo(ノーロー)」ワインとは?

過去数年、世界中でワイン消費量が下り坂だ。たとえば、中国における公的会食時の飲酒禁止令など、特定市場の特殊事情はある。ただ、鳥の目で見てやると、今般の消費減が、共通の根をもつ世界的、普遍的な現象だと分かる。背後にある要因はひとつではないが、最大の駆動力をひとつ挙げるならば、「ソバーキュリアス(sober curious)」という新しいライフスタイルだろう。「しらふ(Sober)」と「好奇心(Curious)」を組み合わせた造語で、体質的には飲酒可能でも、健康や生産性向上のために、「あえて飲まない、少量しか飲まない」という姿勢を指す。コロナ禍あたりから、欧米の若者を震源として世界に広まった。健康被害を抑えるために、アルコール摂取を控えるようになったのは、高齢者たちも同じだ。長年にわたって、ワイン大量消費の担い手であったベビーブーマー世代(1946~1964年生まれ)は、ドクターストップがかかったり、加齢により自然に飲酒量が落ちたりで、コルクスクリューからどんどんと遠ざかりつつある。こうした人々が、代わりに手に取るようになったのが、ノン・アルコール(Non-alcohol wine)、あるいは低アルコールワイン(Low-alcohol wine)と呼ばれるジャンルの飲料だ。ふたつを合わせた、「NoLo(ノーロー)」という新しいカテゴリー名が誕生し、野火が広がるかのように銘柄数も生産量も増えている。本記事では、NoLoワインブームの現在地を、さまざまな角度から解説していく。

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【目次】
1. NoLoワインブームはなぜ起きた?
 ● 消費者側:ソバーキュリアスとWHO声明
 ● 生産者側:高アルコール化への抵抗と経済的誘因
2. 脱アルコール技術あれこれ
 ● スピニング・コーン・カラム(SCC)
 ● 逆浸透膜(RO)
 ● その他の膜分離技術
3. アルコールを下げる伝統的手法
 ● 発酵停止
 ● 栽培・醸造工程での介入
 ● 酵母の選定または代替
 ● ズス・レゼルヴ
 ● 加水
4. 無くなるのはアルコールだけではない
 ● 香りと味わいから失われるもの
 ● 醸造学的リスクと微生物的安定性
5. まとめ:選択肢としてのNoLoワイン


1. NoLoワインブームはなぜ起きた?

消費者側:ソバーキュリアスとWHO声明

今日の世界ワイン市場において、NoLoカテゴリーの拡大は、構造的な変化として定着したといってよい。まずは、飲料市場分析機関IWSRが発表した近年のデータを見てみよう。2023年までの5年間で、世界でのノン・アルコールワイン消費量は、年率平均13%のペースで増加して約5,400万本に達し、低アルコールワインは年率平均21%のペースで増加して約4,000万本となった。これに対し、スティルワインの消費量は年率平均3%のペースで減少し、約240億本となっている。NoLoの両カテゴリーは力強く成長してはいるものの、規模をスティルワインと比すればまだ非常に小さい。とはいえ、今後もスティルワインの消費量がゆるやかに減り続けると予測されている一方で、2023年から2028年の5年間に、ノン・アルコールワインは年率平均7%、低アルコールワインは年率平均14%で、伸張を続けるとIWSRは見ている。

Noloブームの火付け役にして、ソバーキュリアスという概念を提唱したのは、ルビー・ウォリントンというイギリス人ジャーナリストで、2019年に刊行された著書がはじまりである(邦訳『飲まない生き方 ソバーキュリアス』、2021年、方丈社)。ごく簡単に言えば、アル中になる前段階で、心身の健康を害さないように積極的な「節酒」をしましょうという提案だ(重度のアルコール依存症の治療においては、生涯にわたって一滴の酒も飲まない「断酒」が、唯一の処方箋となる)。ソバーキュリアスは、それがヘルシーであるのみならず、クールでスマートだという主張が、若者の心を捉えた。火に薪をくべたのは、2023年に発表された世界保健機関(WHO)の声明である。「アルコール消費について、健康に悪影響を与えない安全な量は存在しない」という、ほろ酔いの酒飲みたちに冷や水を浴びせかける主張は、「適量のワインは体によい」という従来の常識をひっくり返した。この声明の科学的妥当性については、今も論争が続いているが、本記事では立ち入らない。どうあれ、WHO声明が、ソバーキュリアスを後押ししたのは間違いないと言える。

WHOは、「世界アルコール行動計画 2022-2030」において、2030年までに世界の一人当たりアルコール消費量を、2010年比で20%削減するという目標を推進している。実行戦略として加盟国に推奨されている「SAFER」パッケージは、アルコールの入手可能性の制限(Strengthen restrictions on alcohol availability)、飲酒運転対策の推進(Advance and enforce drink driving countermeasures)、治療へのアクセス促進(Facilitate access to screening, brief interventions, and treatment)、広告やスポンサーシップの禁止(Enforce bans or comprehensive restrictions on alcohol advertising, sponsorship, and promotion)、酒税や価格政策を通じた価格引き上げ(Raise prices on alcohol through excise taxes and pricing policies)の頭文字だ。WHOの推奨施策に強制力があるわけではないものの、影響は決して小さくない。ワインを含むアルコール製造産業にとって明白な逆風であると同時に、代替品であるNoLoの価値を、政治的に高める結果をもたらしている。

生産者側:高アルコール化への抵抗と経済的誘因

ワインのアルコール度数を下げようという動きは、消費者サイドだけでなく、生産者サイドでも起きている。とはいえ、その動機はまったく異なり、健康志向ではない。味の問題である。ワインのアルコール度数が高くなりすぎた結果、風味のバランスが悪くなったので、振り子を揺り戻しているのだ。

高アルコール化の要因はふたつで、まずは1980年代から2000年代までおよそ30年続いた、「パーカー化」の副作用である。巨大な影響力を有した評論家ロバート・パーカーは、高い熟度のブドウから仕込まれた濃密なワインを好んだ。だから、多くの造り手たちがパーカーに媚び、アルコールが15%を超えるようなモンスターを、せっせと瓶に詰めた。ただし、パーカー時代の到来に先立つ1960~1970年代、栽培技術の進歩(カビ系病害への対策の洗練など)によって、徐々に完熟した果実を摘めるようになってきたという前向きの変化があったのも踏まえておこう。

もうひとつは、地球規模での気候変動によるブドウ熟度の上昇だ。パーカー時代が終わり、アルコールを以前の水準に戻そうと造り手たちが考え始めた頃には、かつての「例外的に暖かい年」が、平年になってしまっていた。後述するさまざまな対抗措置が取られてはいるものの、それでも現在製造されているワインの平均アルコール度数は、50年前と比べて2%程度は上昇しているだろう。

放っておけば、パーカー時代よりもさらに高いアルコール度数になりかねない今日のワインを、なんとか手懐け、控えめなアルコールにしようという動きは、2010年代に始まっている。先駆的な例として知られるのが、カリフォルニアの生産者団体IPOB(In Pursuit of Balance:バランスの追求)の活動で、「アルコール度数14%未満」のブルゴーニュ品種のワインを生産するというのが、ひとつの方針になっていた。2020年代の今、寒冷地を除くあらゆるワイン産地が、アルコールをいかに抑えるかに四苦八苦している。

こうした、「スティルワインのアルコールを、若干低めに抑える」というアプローチのほかに、「売れるからNoLoを造る」という、需要に基づく生産者の動きももちろんある。世界最大級の多国籍ワイン製造グループであるトレジャリー・ワイン・エステーツは2025年、本拠地のバロッサ・ヴァレーに、1500万豪ドルをかけてNoLoワイン専用の生産拠点を新たに設けた。縮小セグメント(スティルワイン)から成長セグメント(NoLoワイン)へと、利にさとい上場企業は機敏な動きを見せている。

高額なNoLoもある。たとえば、2019年に創設されたフランスのノン・スパークリングワイン、「フレンチ・ブルーム(French Bloom)」が一例だ。シャンパーニュの名門メゾンであるテタンジェ一族のメンバーが創業者で、ローンチ以来ずっと年に300%のペースで成長、すでに50カ国以上に輸出されている。プレステージ銘柄であるラ・キュヴェ・ヴィンテージの日本での小売価格は、2万円近い。モエ・エ・シャンドン/ドン・ペリニョン、クリュグといった超高名シャンパーニュ・ハウスを傘下に置くLVMHグループが、30%の出資をしたのも話題になった(同グループとしては、初めてのノン・アルコール飲料への投資)。

フレンチ・ブルーム(French Bloom)のボトル

©French Bloom

NoLoワインの生産は、ワイナリーにとって税制上のメリットもある。ノルウェー、アイルランド、フィンランド、英国などは重要なワイン消費国だが、総じてワインへの酒税が高い。加えて、ワインのアルコール度数に比例して、税金が上がる国がほとんどだ。こうした市場において、NoLoはスティルワインに対し、価格競争で優位に立てる。

2. 脱アルコール技術あれこれ

ノン・アルコールワインあるいは脱アルコールワイン(De-alcoholized wine)とは、ざっくりと言えば「エタノール(エチルアルコール)を含まないワイン」である(法定上限値は、主要な国々で0.5%だが、1%~0.00%まで幅がある)。一方、低アルコールワインという言葉はかなり曖昧で、「ふつうのスティルワインより2~3割アルコールが低い製品」(法的なカテゴリーとしては、スティルワインの範疇に留まる)に加え、各国の法律でエタノール含有量の上限が明確に規定されているカテゴリー名(たとえば英国では1.2%、オーストラリアとニュージーランドでは1.15%が上限)の両方を指す()。ここでは、ノン・アルコールおよび法的カテゴリーとしての低アルコールワインについて、その製造の中核となる脱アルコール技術を解説する。すなわち、スティルワインから、エタノールの大部分またはすべてを除去する方法である。温度、圧力、濃度を変化させるさまざまな機械的手段が、単独あるいは組み合わせて用いられる。

EUには現在、「低アルコールワイン」の法的定義は存在しないが、「部分的に脱アルコール処理されたワイン(Partially de-alcoholized wine)」という用語・カテゴリーは定義されている。「最低 0.5%のアルコール度数を保持し、かつ脱アルコール処理前の当該ワインカテゴリーにおける、法定最低アルコール度数(スティルワインの場合、冷涼な北部地域で8.5%、南部地域では 9%)を超えない」ワインで、それは「該当する原産地呼称団体が許可すれば、PDO(原産地名称保護)またはPGI(地理的表示保護)のラベルを貼れる」。よって、メカニカルな手法でアルコールの大部分を取り除いた製品から、伝統的な手法で多少アルコールを減らした製品までが、このカテゴリーには広く含まれる。

スピニング・コーン・カラム(SCC)

数あるアルコール低減処理の中で、最も高度な技術のひとつが、オーストラリアで開発された真空蒸留器、スピニング・コーン・カラム(SCC)である。ロケットのような姿をした円筒形の大型の機械で、内部には逆円錐(コーン)が複数、垂直方向に配置されている。詳しい技術解説は省くが、円筒内部の逆円錐が高速回転して、揮発性芳香成分とアルコールを、別々にワインから分離する仕組みになっている。その後、アルコールを廃棄し、揮発性芳香成分のみを戻してやると、ノン・アルコールワインになる(一部のアルコールを戻せば、任意の度数の低アルコールワインも製造可能)。分離効率に優れ、処理時間も短い優れた装置だが、極めて高価なため、よほどの大手ワイナリーでない限り、自社保有はしていない。SCC処理の専門業者に、ワインをタンクごと渡して、指定のアルコール度数にして戻してもらうのが一般的である。

オーストラリアで開発された真空蒸留器、スピニング・コーン・カラム(SCC)

逆浸透膜(RO)

逆浸透膜(Reverse Osmosis: RO)は、SCCと並んで広く普及しているアルコール低減技術だ。こちらも詳しい解説は省くが、「猛烈に目の細かいフィルターでワインを濾す」技術だと考えてほしい。普通のフィルターの場合、濾される物質は全体のごく一部だが、極限まで網の目が細かくなると、分子量が大変に小さい水とエタノール以外のほぼすべてが濾されてしまう。「水とアルコール以外のワインの構成物」と、「水+アルコールの混合液」に分けたあと、後者を熱してアルコールを蒸発させ(エタノールの沸点は78℃で、水=100℃よりも低く、先に揮発する)、前者に戻してやると、ノン・アルコールワインができる。

その他の膜分離技術

RO以外の膜分離技術も、用途や目的に応じて実用化されている。蒸発透析(Evaporative perstraction)は、もともと海水から真水を得るために開発された技術の、ワインへの転用である。疎水性で多孔質の膜の両側に、ワインと水を反対方向に流してやると、エタノール分子が蒸気となって、膜を通じてワインから水へと移動する仕組みだ。エタノールを気化させる駆動力は、膜の両側に生じる蒸気圧差(エタノール濃度の差)であり、加熱や加圧を必要としない。

一方、まだ新しい技術である浸透気化法(Pervaporation)は、浸透(permeation)と蒸発(evaporation)を組み合わせた2段階の膜技術である。ワインを、疎水性で孔のない高分子膜(水分子は通さないが、エタノール分子は通す)に接触させつつ、膜の反対側を真空状態あるいは低圧状態にしておくと、膜を通り抜けてきたアルコールが気化蒸発する。「膜を通る」と言っても、蒸発透析のように「孔の中をくぐる」のではなく、膜という固形物にエタノールが溶け込み、反対側に染みだしていくイメージだ(溶解・拡散モデルと呼ばれる)。

ナノ濾過(Nanofiltration)も、アルコール低減に用いられるもうひとつの濾過方式だ。これは、ROよりも粗く、限外濾過(Ultrafiltration)よりも細かい網の目を持つ、膜分離技術である。除去するのはブドウ果汁に含まれる糖分で、結果としてワインのアルコール低減につながる。ただし、ROと比べて、ワインの風味形成に寄与する低分子化合物が失われるリスクが高く、品質重視のNoLoには不向きと言える。

3. アルコールを下げる伝統的手法

次に、「ふつうのスティルワインより2~3割アルコールが低い製品」を造るための技術を紹介しよう。前セクションのハイテク諸技術でも、部分的なアルコール除去は可能だが、ここではローテク、あるいは「自然」な手法を取上げる。

発酵停止

古典的なのは、アルコール発酵の途中での、人為的なプロセスの停止である。止める方法は複数あるが、発酵槽の温度を急激に下げて、酵母の活動を強制的に休眠・停止させてやるのが最も一般的だ。発酵の中断により、ブドウ果汁に含まれていた糖分が完全にアルコールへと変換されずに残留するため、必然的に甘口で、アルコール度数が低く、しばしば軽度の発泡性を伴うワインとなる。

ドイツはかつて、この手法による低アルコールワイン(中甘口白)で世界を制した(1960~1980年代)。その後、消費者の嗜好変化(甘口⇒辛口)、赤ワインブーム、地球温暖化によるブドウ熟度の上昇によって、「中甘口のドイツ白」は傍流となったが、NoLoブームの中で、再評価の機運が高まっている。イタリアにも、この手法を用いた大人気銘柄がふたつあって、ピエモンテ州のモスカート・ダスティ(中甘口白)と、エミリア・ロマーニャ州のランブルスコ・ディ・ソルバーラ(弱発泡・中辛口&中甘口赤)である。

栽培・醸造工程での介入

醸造所内での処理にとどまらず、ブドウ畑における栽培管理や収穫タイミングの調整も、最終的なアルコール度数を低下させるうえで有効な物理的アプローチとなる。代表的な栽培手法としては、樹冠管理(キャノピー・マネジメント)を通じた、葉面積の意図的な制限が挙げられる。葉の面積が減れば、光合成の効率が下がる。結果として、ブドウ果粒への糖分蓄積が抑制されるという機序だ。

ブドウが完全に熟し、糖度が最大化する前に摘む手法も、広く用いられている。ただし、早期収穫で減るのは糖分だけではない。果皮や果汁に含まれる好ましい風味成分の量が少なくなる、または十分に成熟していない状態で摘まれてしまうというリスクを伴う。糖分の上昇と、風味成分の上昇・成熟のペースは、産地の気候ほか畑の立地条件によって異なる。単純化は危険だが、温暖な気候下での早摘みは、未熟な風味につながりやすいというのが大まかな傾向だ。

醸造工程においても、アルコールを下げる工夫は複数ある。アルコール発酵の温度を高めに維持したり、上部開放型の発酵槽を用いたりすると、多少アルコールが揮発してくれる。また、全房で発酵させたワインは、除梗ののちに発酵させたワインよりも、若干アルコール度数が低くなる(果梗内の水分がマストに溶出するとともに、果梗がアルコールを吸収するため)。とはいえ、これらのテクニックで減らせるアルコール度数は、0.5~1%程度であり、大きな差は生まない。

酵母の選定または代替

アルコール発酵を起こす酵母には無数の種類があり、そのエタノール生成能には多少の差がある。同じ糖度の果汁をアルコール発酵させても、酵母によってできあがるワインのアルコール度数が違うのだ。特定の純粋培養酵母と、ワイン酵母(サッカロミセス属)以外の酵母種(一般にエタノール生成能が低い)を併用すると、発酵後の度数を最大で1%程度低減できる。

ワイン酵母による発酵そのものを排除する手法も登場した。オーストラリアの歌手カイリー・ミノーグが、2022年から展開するノン・アルコールワインでは、本人曰く「良質なバクテリアでブドウを発酵」させ、そのあと茶葉を浸して風味を整えているという。「バクテリアでの発酵」の詳細はつまびらかにされていないが、おそらくは乳酸菌か酢酸菌によって、ブドウ果汁の糖を代謝していると考えられる。

ズス・レゼルヴ

糖分を含まない辛口のワインに、取り置いてあった未発酵のブドウ果汁を混ぜる手法(ズス・レゼルヴ)でも、アルコールを低減できる。この技術はかつて、ドイツ産の安価な中甘口白ワインで盛んに用いられた。発酵停止法と比べて、ワインの甘味が理論上劣るとされる。理由は、原料果汁中に含まれるブドウ糖が、多くワインに残るためである。ブドウ果汁には、ほぼ同量の果糖とブドウ糖が含まれているが、前者は後者の二倍甘い上に、口内での甘味の立ち上がりが早く、キレもよい。果糖はまた、温度が低くなるほど甘味が増す性質があるため、冷やして飲む甘口ワインに向く(ブドウ糖は、温度による甘味度の変化がほとんどない)。アルコール発酵中のワイン酵母は、まずブドウ糖から代謝していく。そのため、発酵停止法の甘口ワインには、ほぼ果糖しか含まれておらず、上質な甘味をもつ。他方、ズス・レゼルヴの甘口ワインには、果糖とブドウ糖が同量含まれるため、官能評価において差が生じる。

加水

最も単純な手法は、発酵前のマスト、あるいは発酵中のワインへの加水である。アメリカ合衆国ほか新世界各国ではおおむね合法だが、EUでは禁止されている。御法度の理由は単純で、「水増しによる風味希釈が、貧弱なワインを生む」から。ただし、ブドウが過熟状態になりやすく、過度に高いアルコールが問題になりやすい温暖な産地では、ワインのバランスを取るための有効な手段であり、「前向きの希釈」である。昨今はEU圏内でも、秘密裏にこの手法を用いる醸造家がいるとの噂は絶えない。合法な国においても、消費者のイメージが悪いため、加水を公言する生産者はほとんどいない。業界内では、「加湿(Humidification)」という婉曲表現や、「収穫後の灌漑(Post-harvest irrigation)」といった皮肉な言葉が使われもする。

4. 無くなるのはアルコールだけではない

昔からのワイン飲みの多くが、「NoLoワインは美味しくない」とこぼす。酔っ払えないのが不満なわけではない。味そのものが気に入らないのだ。あくまで、スティルワインと比べての話だが、裏を返せばアルコールが、ワインの「美味しさ」に寄与している部分が小さくないという理屈になる。エタノール自体は、ごくわずかな甘味を持つものの、ほぼ無味無臭である(ただし、高濃度になると、鼻にツンとくる刺激臭はある)。ワインからアルコールを抜くとなにが起きるのか、以下でざっと見てみよう。

香りと味わいから失われるもの

どんな手段を採るにせよ、スティルワインからエタノールを抜くと、保持すべき好ましい風味成分や、もともと整っていた味わいのバランスに、不可逆的な変化が生じる。技術選択と実際の運用によって、程度の差はもちろんあるが、どんなにがんばっても処理前と同じとはいかない。

まず、ワインの風味を構成する成分の一部は、ワイン中でエタノール分子と強固に結びついている。エタノールを強制的に抽出・除去すると、その過程において、どうしても香気成分がある程度は同時に剥ぎ取られてしまう。

味もまた悪い方向に変わる。エタノールは、舌の味蕾で感じる「五味」こそほとんど持たないものの、ワインにボディ(重量感)やコク、粘性を付与する極めて重要な構造的要素である。無くなれば、当然味のバランスが激変する。これは、アルコールをゼロや微量(1~2%)まで落としたときだけではない。わずか0.5%のアルコール除去でも、飲み手の印象はかなり変わる。エタノール喪失によるボディの欠落は、糖分を事後的に添加すれば多少は補えるものの、甘味もまたワインのバランスを変えてしまう。その補正のために酸味を追加するなど、どんどんと厚化粧になっていく。

とりわけ、赤ワインの脱アルコール化は、白ワインに比べて技術的なハードルが高い。アルコールが存在しない状態では、ブドウ由来のタンニンがより硬く、よりザラザラと感じられるようになる。仮に糖分が残留していても、強烈な収斂性が十分には和らげられない。カベルネ・ソーヴィニョンのようにタンニンが豊富な品種は、赤のNoLoワインには向かない。

これらの点を鑑みると、現在のNoLoワイン市場において、最も成功を収めているのがスパークリングであるのは合点がいく。炭酸ガスの刺激は、それだけでアルコール不在の「穴」をある程度埋めてくれるうえ、残糖が多く含まれていても、ガスがフレッシュさを維持する役割を果たしてくれるからである。

醸造学的リスクと微生物的安定性

ワイン内部にアルコールが存在しないと、品質保持および衛生管理の観点からも重大なリスクが生じる。エタノールは、それ自体が強力な殺菌作用を有しており、ワインを不要な微生物の繁殖や汚染から自然に守ってくれるからだ。したがって、脱アルコールの処理は、製品の微生物的安定性を著しく低下させる。

有害な微生物の繁殖を防ぐため、NoLoワインでは通常のワインよりも、しっかりとした濾過(無菌濾過)が必要になる。しかしながら、アルコールが除去された液体を濾過すると、膜の目詰まりが起こりやすく(ポリフェノール・コロイドの挙動が変化するため)、作業がより困難になるという技術的なジレンマが存在する。この安定性の欠如を補うために、一昔前までのNoLoワインでは、過剰に保存料(亜硫酸)や添加物(ソルビン酸)が使用されるケースが散見され、不自然な風味や不快な後味を引き起こす一因となっていた。その後、目詰まりを起こしにくい方式であるクロスフロー濾過や、ワインに残留しない保存料であるDMDC(ジメチルカーボネート)が用いられるようになり、状況は好転しつつある。DMDCは、酵母と細菌を滅菌できる強力な有機化合物だが、瓶詰め後数時間で、無害な二酸化炭素と、ごく微量のメタノール(メチルアルコール)へと自然に分解するため、風味への影響がほぼない。

5. まとめ:選択肢としてのNoLoワイン

高頻度でファインワインを飲む層からすれば、現在のNoLo製品はまだまだ、満足のいく「代わり」になりえていないだろう。無論、成長セグメントであるこの分野では、研究開発が大変盛んだから、今後も風味はさらに洗練されていき、呼応するように高価格帯の商品も増えるだろう。しかし、エタノールが、ワインの香りや味わいにおいて果たす役割を、完全に果たせる代替物質が現われるかというと、少なくとも近い将来にそんな日は来ない。また、アルコールの物理的作用としての酩酊が、NoLoでは決して得られないという不足は、いつまでたっても不変である。大麻の酩酊成分であるTHCを、NoLoワインに加えるという手はあるものの、大麻の「ハイ」と酒の酔いは同じではないし、そもそもTHCが合法の国のほうがまだまだ少ない(日本ではもちろん違法)。

とはいえ、NoLoには長所がたくさんあるのだ。先天的にアルコールを受け付けない人でも、ワインの歓びに触れられる。心身の医学的な理由から、飲酒ができない人でも楽しめる。痛飲したあとでも、自動車や自転車の運転ができる。仕事中の昼間から一杯やっても叱られない。辛口のNoLoならば、カロリーが少ない(エタノールは、かなりのハイカロリー物質である)。アルコール依存症に決してならない(ただし、残糖が多いNoLoの場合、糖質依存症のリスクはある)。アルコール性肝炎にも肝硬変にもならない(その他、糖尿病、痛風、膵臓疾患、癌などの罹患リスクも下がる)。寝る前に飲んでも睡眠の質が下がらない。酒飲みの大敵、あの辛い二日酔いにもならない。

もちろん、普通のワインに首まで使っている人たちが、無理をして飲む必要はないだろう。ただ、口寂しい休肝日のひとつのチョイスとして、NoLoワインは側にいてくれてよい。

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