ワインという液体は、8,000年以上にわたり人類の歴史とともに歩んできた。しかし、我々が「ワイン」と聞いて想起するガラス瓶が広く普及したのは、長い歴史のほんの一瞬、19世紀の初めからである。それ以前、ワインはアンフォラや樽といった大容量の入れ物で運ばれ、消費の直前にデキャンタやジャグと呼ばれるガラス容器に移されるのが、「ノーマル」だった。そこにガラス瓶が登場し、その密閉力と強度により、品質の安定と輸送の拡大をもたらす。20世紀から21世紀への変わり目あたりでは、ガラス瓶そのものが、「中身」と連動するという、いささか奇妙な現象も見られた。すなわち、「ガラスが厚く、瓶が重たいほど、ワインが高品質」という相関だ。
しかしながら、2020年頃から風景が一変する。気候変動への対策、サステナビリティ追求が、ワイン業界でも最優先課題となった。大きな流れの中で、ガラス瓶はどんどんと軽量化の方向に向かい、ガラスという素材の代替も、さまざまな角度から検討されている。本記事では、その現在地についてまとめていこう。
【目次】
1. なぜガラス瓶がダメなのか?
● 二酸化炭素排出量の支配的要因
● 「重厚長大」なボトル信仰とマーケティングの代償
2. ガラス瓶を軽くする
● ボトル重量の「ニューノーマル」:420gへの挑戦
● さらなる達成:300gボトルの登場
● シャンパーニュの苦悩と800gの壁
3. 素材の革命(オルタナティブ・パッケージ)
● ポリエチレン・フラノエート(PEF):植物由来のゲームチェンジャー
● アルミニウムボトル:軽量級リサイクルの王者
● ペーパーボトル:フルーガルパックの躍進
4. 海を渡るワインのロジスティクス(バルクと輸送手段)
● バルク輸送と現地ボトリング
● 風の力で海を渡る:グラン・ド・セイルの挑戦
5. まとめ
1. なぜガラス瓶がダメなのか?
ワイン産業が環境に与える負荷を議論する際、最も支配的なファクターが「ガラス瓶」なのは、多くのLCA(ライフサイクルアセスメント)によって証明されている。しかし、その内訳と深刻さを正確に把握している消費者は少ない。ここでは2023年から2025年にかけて発表された最新データを基に、問題の所在をつぶさに見てみよう。
二酸化炭素排出量の支配的要因
複数の研究機関および業界団体のデータは、ワインの二酸化炭素排出量のうち、少なくとも3割、最大だと7割が、ガラス瓶の製造と輸送に由来する事実を示している。これは、ブドウ栽培(農薬や肥料の使用、トラクターの燃料など)や醸造プロセス(冷却やポンプ稼働)をはるかにしのぐ数値だ。ガラス瓶は、製造時にも輸送時にも、大量の二酸化炭素を出す。
まず、ガラス製造時の二酸化炭素排出について。原料(珪砂、ソーダ灰、石灰石、カレット)を約1,500℃の炉に入れて、長時間溶融し続ける必要があり、このプロセスで大量の天然ガスや電力が消費される。輸送時の環境負荷は、誰でも直感的に分かるだろう。ガラスは重く、かさばる。標準的なワインボトル(空瓶)の重量は500~600gで、ワイン(750ml=約750g)を充填すると、総重量は1.25~1.35kgとなる。輸送される貨物重量の4割以上が、「容器(ゴミ)」であるという事実は、物流効率の観点からも二酸化炭素排出の観点からも、合理的とは言い難い。
英国の老舗ワイン商「ザ・ワイン・ソサエティ(The Wine Society)」が、2024/2025年度のサステナビリティ・レポートで公開したデータは、この構造を明確に示している。同社の総二酸化炭素排出量のうち、32%がガラス瓶の製造と廃棄に由来し、さらに18%が輸送由来(英国への輸入および会員宅への配送)であった。ワインそのものの生産(ブドウ栽培と醸造で19%)よりも、包み運び届けるプロセスの方が、はるかに大きな環境負荷を生み出しているのだ。なお、輸送時の二酸化炭素排出量は、産地から消費地への移動距離によって、大きく変動するので、ザ・ワイン・ソサエティの値はあくまで目安と捉えてほしい。たとえばブルゴーニュ産のワインが、同地方内のビストロで飲まれる場合と、はるばる日本まで船旅をし、個人宅に1本単位で配送されるのとでは、当然大きな差が出る。距離以外にも、船便のコンテナが、電力を使用する冷蔵コンテナかどうかでも差が出るし、日本国内配送に冷蔵便が使われるか否かでも同じである。
「重厚長大」なボトル信仰とマーケティングの代償
ほんのひと昔前まで、プレミアムワインのセグメントでは、「重いボトルは高品質の証」というマーケティングがまかり通ってきた。空瓶だけで900gから1200gにも達する「ヘビーボトル」が、消費者に高級感を触覚的に伝達する手段として、盛んに利用されてきたのである。1990年代から2000年代にかけて、ロバート・パーカーなどの有力評論家が高得点を与えるワイン生産者たちが、こぞって重厚なボトルを採用したために、この傾向は加速したとされる。評論家の多くは、ボトルの外側に覆いをかけ、ブラインドの状態で試飲する。グラスにワインを注ぐ際、「正体不明」のボトルを手に持った際の「ずっしり感」が、点数を有意に引上げると信じられていたし、少なくとも部分的には事実だった。
しかし、環境負荷についてのデータは、その「ささやかな工夫」の代償があまりに大きいと示唆している。まず、輸送効率の悪化だ。重いボトルはトラックやコンテナの積載効率を下げ、燃料消費を増大させる。例えば、10億本の重いガラス瓶をPETボトル等の軽量素材に置き換えた場合、約90,000トンのCO2削減が輸送時に得られると試算されている(重量差420gとして、650km輸送した場合)。埋立地への負荷も大きい。ガラスは「無限にリサイクル可能」な素材だが、実際のリサイクル率は地域によって大きく異なる。米国においては、ガラスのリサイクル率は約30%に留まり、残りの大部分(約70%)は埋立地に送られている。重いボトルは、リサイクルされなければ、そのまま「重いゴミ」となる。
近年、この「重さ=品質」という神話に対し、評論家たちが反旗を翻しているのは、手のひら返しに見えなくもない。イギリス随一の論者ジャンシス・ロビンソンは、キャンペーンと呼べる水準で、重いボトルに対して声高にノーと叫び続けている。アメリカの高名なワイン教育者で、ワインの論評も行なうカレン・マクニールは2024年、過度に重いボトルのワインをレビュー対象から外すと宣言した。パッケージの選択が、かつてとは真逆の方向で、ブランドの評価やワインの点数につながり始めている。
2. ガラス瓶を軽くする
上記の通り、ガラス瓶の環境負荷が高いのは明白だが、それでもなお、高い密閉性(ワインの長期熟成を可能にする)、不活性な素材(ワインと反応して風味を変えない)、そして高級感という点において、ガラスに勝る素材は現状存在しないと言ってよいだろう。そのため、業界の主流な動きは「ガラスを捨てる」のではなく、「ガラスを極限まで軽くする」方向、すなわち軽量化にある。
ボトル重量の「ニューノーマル」:420gへの挑戦
国際的な業界団体である「サステナブル・ワイン・ラウンドテーブル(SWR)」は、世界の小売業者や生産者を巻き込み、「ボトル重量協定(Bottle Weight Accord)」を推進している。この協定では、2026年末までに750mlのスティルワイン用ボトルの平均重量を、420g以下に削減するのを目標に掲げた。従来の標準を550gとすると、単純計算で25%ほど、二酸化炭素排出量が削減される。この協定に署名している主体の多くが、主要ワイン消費国の大手小売業者である点は注目に値する。今や、「軽いボトルのワインは売れる」という空気が、市場に醸成されている証だ。流通からの圧力に、生産者は弱い。
軽量化の動きは、最高級ワインにも急速に浸透しつつある。ボルドーの格付けシャトーで、近年非常に高い市場評価を誇るポンテ・カネ(Château Pontet-Canet)は、ビオディナミをボルドー地方内でいち早く採用するなど、サステナビリティ追求に熱心な造り手だ。ポンテ・カネではかつて、815gというかなり重いボトルを採用していたが、490gの軽量瓶に切り替えた。約40%の削減である。
さらなる達成:300gボトルの登場
ガラスメーカーの技術革新は、物理的な限界に挑んでいる。大手ガラスメーカーのヴェラリア社(Verallia)は、2023年から2025年にかけて、世界最軽量クラスとなる300gのボルドー型およびブルゴーニュ型ボトルを市場に投入した。
300gという数字は、従来の標準的なボルドーボトル(550g)と比較して、約35%の軽量化を意味する。ヴェラリアによれば、このボトルを100万本製造・使用すると、約66トンのCO2排出削減が可能になるという。重要なのは、外観の美しさを損なわずに強度を維持する、「エコ・デザイン」の技術だ。消費者が手に取った際に、「安っぽい」と感じさせない工夫が凝らされている。
シャンパーニュの苦悩と800gの壁
スティルワインでのボトル軽量化が進む一方、スパークリングワイン、特にシャンパーニュにおいては、瓶の「内圧」という物理的な壁が存在する。最大で約6気圧という強いガスのプレッシャーが恒常的にかかっても、決して割れないでいる必要があり、安全性確保のために厚みと重さが不可欠とされてきた。
しかし、ここでもブレイクスルーが起きはじめている。シャンパーニュ・メゾンのテルモン(Telmont)は、上記のヴェラリア社と共同で、800gの軽量シャンパーニュボトルの開発に成功し、2023年から市場への投入を段階的に開始した。2025年からは、テルモン製のすべてのシャンパーニュに、この軽量瓶が使われている。さらにテルモンは、2025年12月には世界最軽量となる1600gのマグナムボトルの導入も発表している。
標準的なシャンパーニュボトルが、レギュラー瓶で835g(一昔前は900g以上)、マグナム瓶で1730gであるのを考えると、上記の削減はまだまだささやかだ。内圧でボトルが破裂するという、最悪の事故を防ぐためには、安全第一で慎重に進めなければならないのは理解できる。それでは、ワインボトルで用いられるソーダ・ガラス(いわゆる普通のガラス)ではなく、強化ガラスを使えばどうか。強化の方法にもよるが、製造コストは数倍から十倍以上にまで跳ね上がり、リサイクルもできなくなる。安価なソーダ・ガラスをいかに強くするかに、メーカーは工夫を凝らすしかない。たとえば、瓶の部位によるガラスの厚みの差を極限まで小さくする、均肉化という技術。最も薄い部分を基準にした安全率を確保し、全体の重量を削る試みである。とはいえ、800gの壁を破るのは、容易ではないらしい。次項で解説する、別素材への切り替えのほうが、泡用容器では今後進むべき道になるかもしれない。
3. 素材の革命(オルタナティブ・パッケージ)
ガラス瓶の優れた密閉性(気密性)や高級感は、値の張るワインには必須の属性だが、世で消費されるワインの大半は早飲みタイプの銘柄だ。購入後1〜2年以内に消費される比較的安価なワインは、数量ベースで市場の90%以上を占めるとされる。そうしたセグメントにおいては、ガラス以外の素材、すなわち「オルタナティブ・パッケージ」への注目がかつてないほど高まっている。ここでは、ボトル形状の容器に用いられる、革新的な3つの素材に焦点を当てる。ボトル形状でなければ、缶やバッグ・イン・ボックスも、以前からあるオルタナティブ・パッケージだ。バッグ・イン・ボックスについては2022年、カリフォルニア屈指のサステナブル・ワイナリーであるタブラス・クリーク(Tablas Creek)が、3リットル箱をプレミアムワインに採用したのが話題を呼んだ。
ポリエチレン・フラノエート(PEF):植物由来のゲームチェンジャー
従来のペットボトル(PET)は、とにかく軽く(750ml用で50g前後)、不活性でリサイクル可能である。ボトル1本あたりでの製造時二酸化炭素排出量も少ない。リサイクル原料(カレット)を一切使わない「普通」のガラスボトルの排出量を100%とすると、PETは約25%。リサイクル原料を使ったPETだと、約8%と極めて優秀だ。
しかしPETは、酸素透過性がガラスに比べて著しく高い。ボージョレ・ヌーヴォーなどでは従来から一部で用いられているが、ワインの酸化リスクがあるため、長期保存想定銘柄には不向きとされてきた。また、素材が化石燃料由来である点も、環境意識の高い層からは敬遠される要因である。この状況を一変させる可能性を秘めているのが、植物由来のPEF(ポリエチレン・フラノエート)だ。
PEFは、化学物質としては20世紀から知られていたが、商業ベースで安価に製造できるようになったのは2010年代という、「非常に新しい」と言っていい素材だ。オランダの化学ベンチャー会社アヴァンティウム(Avantium)が、2000年代に量産技術を開発し、2011年にパイロット工場を稼働させた。同社と提携し、電子機器のディスプレイ部材や食品包装用フィルムの分野で、2016年に実用化を始めたのが日本の東洋紡だ。
このPEF、ワインボトルへの適用という新しい用途が発表されたのは、2026年1月である。手がけているのは、「ワイン容器イノベーション」に特化したイギリス企業パッカママ(Packamama)で、上述のアヴァンティウムとの共同開発製品だ。パッカママ社は、「エコ・フラットボトル」と名付けられた平らな形状のワイン用製品で知られており、平たくしたのは「個人宅の郵便受けに入れられるようにする」ためと、トラックへの積載効率を上げ、輸送時のコストと二酸化炭素排出量を減じるためだった。ただ、このエコ・フラットボトルは、素材がPETだったため、長熟型のワインには適さない。
ところがPEFは違う。パッカママの担当者によれば、PEFの最大の強みは「圧倒的なガスバリア性能」にある。PEFの分子構造(フラン環)は、PETよりも剛直で動きにくいため、酸素や二酸化炭素の透過を劇的に防げる。酸素バリア性がPETの10倍、二酸化炭素のバリア性(スパークリングワインのガスを保つために必要)もPETの6〜10倍と、頼もしい数値だ。
ほかにも、PEFの長所は数多い。PETより薄くても同じ強度が保たれるため、重量が20%ほど下がる。なおかつ、PEFは100%植物由来(植物糖)のポリマーであり、石油を原料とするPETとは、氏素性が根本的に異なる。それでも、化学構造としてはPETに類似するので、不活性な特性は保たれている。製造時の二酸化炭素排出量も、PETよりさらに低く、普通のガラスボトルのわずか18%だ。将来的に、リサイクル原料からの製造ができるようになると、そちらもPETの値(8%)を何割か下回るだろうと予想されている。
パッカママ社は、2026年中に最初のPEFボトルを製造・試験する予定であり、オーストラリア政府から100万豪ドルの助成金も受けている。もし実用化されれば、ガラスに近い保存性を持ちながら、重量はガラスの10分の1以下という、かなり理想に近いワイン容器が誕生する。
アルミニウムボトル:軽量級リサイクルの王者
缶ワインはすでに普及しつつあるが、よりプレミアムな市場を狙う形状として「アルミニウムボトル(ボトル缶)」が、近年注目を集めつつある。ほかの飲料では馴染みのある素材だが、長所と短所がある。
ひとつめの長所は、軽くて割れない点だ(ただし、加重がかかると凹みはする)。すでに、750ml用で100gを切るワイン用アルミボトルが実用化されている。ガラスと同じく、酸素透過率はゼロ。リサイクル性の高さも誉められる点だ。アルミニウムはガラス同様、「無限にリサイクル可能」な素材であり、品質劣化がない。マーケティングの観点では、ボトル全体に印刷が可能な点が、カジュアルな銘柄で意味をもつ(廉価な商品ほど、キャッチーなパッケージングが消費者の購買行動を左右しやすい)。冷却がすばやく可能というのも、強みになりうる。アルミニウムは熱伝導率が高いため、ガラス瓶と比較して約5倍速く冷却できる。これは白ワインやロゼワインにとって、大きな消費者メリットとなる。
短所のひとつめは、製造コストがガラスよりも高い点だ(2倍以上)。生産者側で、瓶詰めラインを改造するコストも付随的に発生する。ただし、軽量化により輸送費が安くなる上、破損率が低くなるので、ある程度までこうした費用の相殺はできる。次に、先にも触れた熱伝導率の高さが、保存環境によってはマイナスにも働くのも考慮せねばなるまい。ワインを劣化させるほど高温の場所に置かれたボトルは、中身の温度上昇がガラスよりも急激だからだ。もうひとつ、アルミニウムは不活性な金属ではない。直接ワインと触れると、酸と反応して溶け出してしまうため、内側を不活性な樹脂でコーティングする必要がある。もし、加重でボトルに凹みが生じて、その部分の樹脂コーティングが割れてしまうと、酸による腐蝕が始まり、品質事故となる。
製造時の二酸化炭素排出量については、かなり込み入っているので注意深く比較せねばならない。まず、アルミニウムを原料鉱物ボーキサイトから作った場合(「バージンアルミ」と呼ばれる)、大量の電力が消費されるので、普通のガラスボトル(リサイクル原料不使用)よりも環境負荷がかかる。ボトル全体の重量がガラスよりもはるかに軽くても、アルミニウムボトル1本あたりの製造時二酸化炭素排出量は、普通のガラスボトルの約2倍だ。ただし、ボーキサイトからではなく、リサイクルされたアルミニウムを原料とした場合は、二酸化炭素排出量は劇的に下がり、普通のガラスボトルの10分の1程度になる。ガラスボトルについても、カレットと呼ばれるリサイクル原料を最大限(約90%)使用した場合は、二酸化炭素排出量を30~40%削減できるが、リサイクル・アルミニウムの少なさには遠く及ばない。
ペーパーボトル:フルーガルパックの躍進
紙という素材は、かなり以前から、廉価なワインのバッグ・イン・ボックス容器の外装として使われてきた。ここで述べるのは、バッグ・イン・ボックスの内袋(ポリエチレン、アルミ蒸着ポリエステル、EVOHの多層構造材)がない、ガラスボトルと変らない外観・構成の紙ボトルである。代表的製品は、イギリス企業フルーガルパック(Frugalpac)が開発した「フルーガル・ボトル(Frugal Bottle)」で、今のところ圧倒的なシェアを誇っている。外側が94%再生紙、内側が食品用パウチで構成されたハイブリッドボトルだ。

フルーガル・ボトル ©Flugalpac.jpg
重量は83g。製造・廃棄の二酸化炭素排出量も、普通のガラスボトルの6分の1だとメーカーは謳っている。製造時に必要となる水の使用量にもメーカーは触れていて、普通のガラスボトルの4分の1で済むらしい。内側の食品用パウチは紙の外装と容易に切り離せるので、分別してリサイクルごみにできる。アルミニウム同様に、ボトル全体にプリントが可能だ。酸素透過性については、PETより優れるものの、ガラスやアルミには及ばない。メーカーが発表しているのは「12ヶ月経過しても、ガラスボトルにいれた対象サンプルと遜色なかった」という数値である。フルーガルパック社は、製品自体に加えてそのビジネスモデルも、環境負荷という点で注目に値する。同社はボトルそのものではなく、ボトル成形機(FBAM-1)を、世界中のパッケージ製造企業に販売する戦略をとっている。空のボトルを輸送する無駄を省き、地産地消を促進する仕組みである。
4. 海を渡るワインのロジスティクス(バルクと輸送手段)
ボトルそのものの軽量化と並んで、二酸化炭素排出量削減の鍵を握るのは、「どこで詰めるか」と、「どう運ぶか」である。特に輸出入における「空気を運ぶのか、ワインを運ぶのか」は、物流効率の根幹に関わる重大な問いだ。
バルク輸送と現地ボトリング
20世紀のはじめより、最高級ワインから徐々に広がっていった「元詰め」、すなわちワインをブドウ畑のある産地/ワイナリーで瓶詰めして輸出する行為は、混ぜ物や希釈がなされない、確かな品質の証とされてきた。しかしながら、瓶詰めされたボトルを運ぶのは、環境の観点からは非効率の極みである。20フィートのコンテナにワインボトルを積載する場合、約9,000〜13,000リットル(約12,000〜13,000本)しか運べないが、フレキシタンク(Flexitank)と呼ばれる巨大な容器を使用すれば、24,000リットルを一度に運べる(フレキシタンクとは、巨大な「バッグ・イン・ボックスの内袋」のような柔らかいポリマー製の袋で、コンテナ一杯にワインを詰められる)。積載量は2倍以上になり、輸送に伴うCO2排出量は劇的に低下する。
かつて、バルクワインは低品質の代名詞だった。もとより、瓶詰めに適さないグレードのワインが、バルク用途に差し向けられていたからだが、輸送中の品質劣化もさらに状況を悪化させていた。しかし現在は、フレキシタンクの性能向上によって、輸送中の劣化リスクは極小化されている。実際、温度変化に対する緩衝能力(熱慣性)は、個別のボトルよりも大容量の液体の方が高い。赤道直下を通過するような航路では、むしろバルクの方が熱ダメージを受けにくいという研究結果もある(温度管理機能のない、ドライコンテナの場合)。
日本のワイン市場は、環境負荷が重大関心事になる前から、バルクワインに依存してきた歴史がある。国内大手ワイナリーは、「低価格の国産ワイン」への旺盛な需要に応えるため、アルゼンチン、チリ、オーストリアといった国々から、大容器に入ったワイン、破砕果汁、濃縮マストを輸入し、国内で醸造、ブレンド、熟成を行なったのちに瓶詰めしている。ただし、この20年ほどの間に、日本国内で栽培されたブドウのみを使用した、法的呼称としての「日本ワイン」が爆発的に増えた。流通する絶対量はまだまだ少ないが、銘柄数だと桁違いになっている。そのため昨今、リテラシーの高いワイン消費者からは、「海外原料の『国産』ワイン」は白眼視されがちだ。だが今後、海外産の輸入ボトルワインと比べれば、よりエコでサステナブルだと、見直されるようになるかもしれない。
なお、ワイン消費先進国のイギリスでも、すでに輸入ワインの約40%がバルクで到着しており、入国後に軽量ガラス瓶やバッグ・イン・ボックスに詰め替えられている。廉価な銘柄ならば、消費地で詰めるのが当たり前になる時代が、もうそこまで来ている。
風の力で海を渡る:グラン・ド・セイルの挑戦
さらにロマンチックかつ急進的なアプローチとして、風力のみで大西洋を横断する貨物帆船が注目されている。フランスのグラン・ド・セイル社(Grain de Sail)は、この分野のパイオニアである。
2024年に就役した同社の第2世代船(グラン・ド・セイルⅡ号)は、全長52メートル、積載能力350トン(ワインボトル換算で約20万本以上)だ。フランス北西部、イギリス海峡に面するサン・マロ港からニューヨークまで、ワインを輸送している。港の中での操縦にはディーゼルエンジンを使うが、外洋では風力のみで進む。船内での電力消費は、太陽光発電と水力発電でまかなう。化石燃料を使う従来船と比べれば、二酸化炭素排出量が90%も削減されているという。

グラン・ド・セイルⅡ号 ©Grain de Sail
同社は、さらに大型の「グラン・ド・セイルⅢ号」を、2027年の進水予定で造船を進めている。最大積載量は3,000トンと、Ⅱ号から一桁増える。サン・マロ港からニューヨークまでの航行日数は13日で、ディーゼル燃料の従来型貨物船で10日前後だから、さほど遜色はない。いまのところ、この帆船ではごく少量のワインが運ばれているに過ぎない。ただし、「環境に配慮した輸送」自体がワインの付加価値となるプレミアム市場においては、強力なストーリーテリングの要素となる。ニューヨークの高級レストランでは既に、この「風で運ばれたワイン」が特別な銘柄として提供されているという。
5. まとめ
ワインの世界はアナクロだ。知識や技術の「半減期」がとてつもなく長い。ガラス瓶と天然コルク栓というフォーマットが開発されたのは18世紀後半、いまから250年も前だ。先に異議申立てがなされたのは、コルクのほうだった。21世紀初頭、急速なスクリューキャップの台頭に、「この先、三つ星レストランのソムリエが、シャトー・マルゴーの栓をひねって開ける日が来るのか?」といった議論が盛んになされた。2026年現在、シャトー・マルゴーはまだ天然コルクで栓がされている。さて、これからガラス瓶はどうなるか。シャトー・マルゴーが、PEFボトルに詰められる日が来るのか。
本稿では扱わなかったが、ボトルをリユースする仕組み作りも、アメリカやフランスといったワイン先進国では試行錯誤されている。使用済みの空きボトルを回収し、洗浄して再度使う。二酸化炭素排出量は確実に減るだろうが、いろんな手間=コストがかかるから、この先大きく広がるかはわからない。有望なのは、ワインショップやスーパーに、消費者がリターナブルな専用容器を持参する量り売りシステムだ。欧州の古いワイン産地では、ガラス瓶が生まれる前の時代から、近隣住民が山羊の革袋などをもってワイナリーに行き、ワインを詰めてもらい持ち帰る慣行があった。ワインを痛めずにバルク輸送するインフラが整った今、ワイン産地以外の場所、大都市圏でも、量り売りは広く展開できる。
シャトー・マルゴーが量り売りされる日も、遠からずやって来るのだろうか。






