夏は暑いぞ、セレブのロゼだ! vol.1〜もはや老舗となったコッポラのロゼ

太陽が輝いて暑い夏は、キンキンに冷やしたロゼが物凄く美味い。種つきのオリーブを齧りながら、ロゼを飲むと、テーブルに地中海の風が吹くはず。ロゼにもいろいろな種類があるが、今回、「セレブが作ったロゼ」シリーズとして、5種類、紹介する。
第1回目は、元祖「セレブのワイン」であるフランシス・フォード・コッポラ監督の手になる「ソフィア・ロゼ」。美形でスタイリッシュなロゼ。コッポラの映画を観ながらどうぞ。

文/葉山 考太郎


【目次】

1.元祖、セレブのワイン
2.波乱万丈の監督
3.もう1つのノーヒット・ノーラン?
4.スタイル抜群のロゼ


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1. 元祖、セレブのワイン

世界で初めて自動車業界を作ったのがヘンリー・フォードなら、パソコン業界を立ち上げたのはアップル社で、カリフォルニアのワイン産業を創設したのがロバート・モンダヴィ。

ピンポン玉を打つようにポンポンとホームランを量産する大谷翔平、レーザービームのイチロー、ヤンキースの4番打者になった松井秀喜がメジャーリーグで大活躍したけれど、日本人の野球選手がメジャーへ行く道を切り開き、アスファルトでキレイに舗装したのは、1995年にロサンゼルス・ドジャーズへ移籍したピッチャー、野茂英雄だ。野茂がいなければ、日本人はメジャーリーグどころか、サッカーの香川真司、本田圭佑、中田英寿も海外でプレーしていなかったかも知れない。

野茂が渡米した1995年は激動の年で、阪神大震災、オウム真理教のサリン事件、田崎真也ソムリエ世界一と続き、大黒摩季の『ら・ら・ら』がヒットし、総理大臣がまさかの社会党の村山富市で、自衛隊に反対の社会党なのに、総理大臣として防衛大の卒業式に出席する大珍事が起きた。野茂は当時所属していた近鉄バファローズの球団幹部との折り合いが悪く、
さらに、新監督となる鈴木啓示と犬猿の仲だったこともあり、メジャーリーグへ行くことにした。

日本人初のメジャーリーガー、村上雅則がサンフランシスコ・ジャイアンツのピッチャーとして勝利したのが1964年。物凄い偉業だったけれど、東京オリンピックで湧く当時の日本では大して話題にはならなかった。そこから30年以上経って、野茂のメジャー挑戦となるが、野茂本人と奥さん以外、だれも野茂が成功するとは思っていなかったはず。ところが、同年夏のオールスターに選ばれたり、新人王になったりと、落差が大きいフォークボールを武器にホイホイと三振を取り大活躍。結局、メジャーで123勝して、ノーヒット・ノーランを2回も達成するなど、文句なしの伝説の投手になった。

今でこそ、セレブがワインを作るのが大流行していて、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーがプロヴァンスで作るロゼ、ミラヴァルは超有名。そんな「セレブのワイン作り」における「野茂英雄」が、大監督、フランシス・フォード・コッポラだ。映画作りでは巨額の借金をかかえて3回も破産しているのに、ワイン作りでは、高級ワインと廉価版の両方で大成功してウハウハの大儲け。コッポラ監督のワイン業での大成功がなければ、世界中のセレブはワインは飲んでも、作ることはなかったに違いない。

 

2. 波乱万丈の監督


作った映画が大コケしていたコッポラ監督だが、1972年の監督作品『ゴッドファーザー』が同年の世界興行収入ランキングで1位になる。第45回アカデミー賞では作品賞を受賞し、自身も脚色賞を受賞。この映画では、落ち目と言われたマーロン・ブランドが名演を披露し、アカデミー主演男優賞に選ばれ(しかし、アメリカ映画界での人種差別に抗議して受賞を拒否)、華麗にカムバックした。コッポラは、勢いを駆って、1974年に『ゴッドファーザー パート2』を作るなど、絶好調。

急にお金持ちになったコッポラ監督夫妻は、サンフランシスコに住んでいた1975年(ワイン史上、最大の事件である)「パリスの審判」の前年、600haの広大な土地付きの別荘をナパで購入。実は、ここが、消滅したナパの名門ワイナリー、イングルヌックの建物であり畑の一部だった。

ある日、監督がナパの別荘で大工仕事をしていた時のこと。カリフォルニア・ワイン産業の父、ロバート・モンダヴィがふらっとやってきた。モンダヴィは、別荘の跡地にあった名門、イングルヌックの栄枯盛衰物語や、ナパのワインの魅力を熱く語ったそう。パリ試飲会事件で、無名のナパのワインが、赤白の両部門でフランスの超一流生産者を撃破したことや、コッポラの祖父がニューヨークでワインを作っていたこともあり、ワイン作りを決意。「ニーバム・コッポラ」というワイナリーを立ち上げた。モンダヴィは、やはり「カリフォルニア・ワイン産業の父」なのだ。

監督の初ヴィンテージは1978年の「ルビコン」。監督の先祖が住んでいたイタリア中部を流れる川がルビコンで、シーザーが「賽は投げられた」と言って渡ったのがこの川。「もう、後戻りはできない。一生懸命にワインを作るぞ」との強い信念があったようだ。このあたりの固い決意は、ロサンゼルスへ向けて羽田空港を飛び立った時の野茂英雄も同じだろう。

以降、名門、イングルヌックを復活させるため、監督は少しずつ畑を買い戻し、2011年、ついに念願だった「イングルヌック」の商標も買い戻し、完全復活を遂げた。コッポラ監督は、野茂英雄が最初にノーヒット・ノーランを達成したような気分だろう。

 

3. もう1つのノーヒット・ノーラン?

監督は、ワイン・ビジネスの才能があったらしい。名門の高級ワインを復活させた監督は、一般庶民が気軽に飲めるワインを作ろうと考えた。ワイン生産者としての監督の勘だろう。そこで2006年にソノマで新しいワイナリーを購入。これが、フランシス・フォード・コッポラ・ワイナリーで、ここの廉価版ワインは大ヒットする。このワイナリーを立ち上げた時の監督は、野茂がもう1回のノーヒット・ノーランを達成した気分に違いない。

同ワイナリーのワインには、映画監督を思わせる「ディレクターズカット・シリーズ(ラベルが映画のフィルムになっている)」、難産の末、大ヒットした自身の作品、『地獄の黙示録』から名付けた「アポカリプス・ナウ」の他、いくつものブランドを出している。その中で大人気なのが「ソフィア・シリーズ」だ。

ソフィアは、コッポラの娘で、映画監督で、女優で(『ゴッドファーザー パート2』では、主人公、マイケルの娘、メアリー役で出演)、ファッション・デザイナーでもあるソフィア・コッポラからの命名。世界中のワイナリーでは、ワイン名に奥さんの名前はつけず、娘の名前にするのが定石で、そのココロは、「奥さんの名前を付けると、離婚すると名前が変わる」から。ただし、同ワイナリーには、奥さんの名前をつけた「エレノア」もあり、コッポラ監督夫妻はラブラブなのだろう。

映画の事業では巨額の負債で3回も破産したコッポラ監督だけれども、ワイン作りでは、高級ワインと廉価版の両方で大成功した。

 

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4.スタイル抜群のロゼ

ソフィア・シリーズのウリは、やたらにスタイリッシュであること。銀河系で最も美しくセクシーなボトルに入っている。ボトルは透明で、今回紹介するロゼの色がキレイに見えるし、モディリアーニが描く青い目の美女のようにスタイルが抜群だ。

グラスに注ぐと、イチゴの爽やかな香りが立ち上がり、飲むと、キレイな酸が印象的。後味に少し甘みがあるところがエレガントさの秘密かも。シラー50%、グルナッシュ30%、ピノ・ノワール20%と、完全に赤ワイン仕様ながら、リースリングを飲んだ時のように、口の中がコーティングされる感じがあり、肉料理だけでなく、エビやホタテにもピッタリ合いそう。

夏の休日のお昼の女子会や、ランチで、サブリナパンツにサンダルの美女が4人、レストランのテラスで、思いっきり冷やしたこのボトルを囲んでキャッキャ言いながらパスタを食べていると、道行く人の注目の的になるはず。

シチュエーションがデートなら、偶然、ワインショップで見たという雰囲気を装って、あるいは、ネットでたまたま見かけた風を装って、「物凄くキレイなボトルだよね、アキちゃんみたいにスタイル抜群なんで、つい買っちゃった。コッポラ監督のワインだよ。よかったら、今週の土曜日、コッポラの映画を観ながら、軽くウチでランチで飲まない?」とお誘いするとイイ。

ランチでは、ソフィアのロゼを2本用意し、二人で飲みながら、PCの小さい画面で『ゴッドファーザー』を観る。画面が小さいと、二人はくっつかないと観られない。二人の距離を最短にしてから、アル・パチーノ扮するマイケルが、シチリア島で知り合った美女、アポロニア(女優はシモネッタ・ステファネッリ)と出会い、結婚に至るロマンスや、全編を流れるニーノ・ロータの美しく切ない音楽にまみれて、このロゼをたっぷり飲むのだ。昼に飲むワインはよく回る。エンドロールが流れ、上映が終わる3時間後には、二人はニューヨークを仕切るマフィアのカップルの気分。強い絆で結ばれるはず。

あとは、ベッドの中で、コッポラ監督が名門ワイナリーを復活させた物語や、ベトナム戦争を舞台にした壮大な異色作、『地獄の黙示録』の話でイチャイチャネバネバすればよい。
ソフィアのロゼは、夏とロマンスと映画がよく似合う。

ソフィア ロゼ2019 Sofia Rosé/カリフォルニア・モントレー・カウンティ
アルコール度数:12.8%、参考小売価格¥3,498
販売元:ワインインスタイル
https://www.wineinstyle.co.jp/

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葉山考太郎 Kotaro Hayamaシャンパーニュとブルゴーニュとタダ酒を愛するワイン・ライター、翻訳者。ワインの年間純飲量は 400リットル超。これにより2005年、シャンパーニュ騎士団のシュヴァリエ、2010年に同オフィシエを授章。
主な著書は『クイズでワイン通』『クイズワイン王』『今夜使えるワインの小ネタ(以上講談社)』『30分で一生使えるワイン術(ポプラ社)』、主な訳書は、『ブルゴーニュ大全(白水社)』『オレンジワイン 復活の軌跡を追え!(美術出版社)』

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