あの人のワイン人生 vol.15 ~細野良美さん「29年越しの想いと、再びはじまるワインの旅」

「第二のキャリアとして新しいことに挑戦するのは、決して簡単ではありません。不安や悩みはこれからもあるでしょうし、進めばまた新しい課題が見えてくると思います。しかし、自分が心から好きで取り組んでいるものは、きっと扉が開くと信じています。」そう語るのは、元客室乗務員として長年空を飛び、第二の人生でアカデミー・デュ・ヴァン講師という新たな道を歩み始めた細野良美さんです。
空の世界から一転、講師業という挑戦。そこには不安も、葛藤もありましたが、根底にあったのは「ワインが好き」という揺るぎない気持ちでした。

本記事は、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」が監修しています。ワインを通じて人生が豊かになるよう、ワインのコラムをお届けしています。メールマガジン登録で最新の有料記事が無料で閲覧できます。


【目次】
1. 海外で出会った、ワインの魅力
2. ソムリエ試験と、ワインブームのはじまり
3. ワインが広げてくれた視野と世界
4. 人とのつながりと、人生を彩る旅へ
5. 空から馬へ、そしてもう一度空へ
6. もう一度、あの場所へ
7. 29年の時を越えて
8. うまくできなくても、伝えたい思いがある
9. ワインの感動を、まっすぐに届けたい


1. 海外で出会った、ワインの魅力

1988年12月に客室乗務員として入社し、2011年までフライト業務に携わっていました。ワインに興味を持つようになったきっかけは、いくつもあります。中でも印象的だったのは、海外ステイ中に訪れたレストランでの食事や、ワイナリーツアーでの体験です。

当時の私は、ふと「日本はものづくりに優れているのに、どうしてワインだけはまだ独自の道をゆっくり歩いているのだろう」と感じていました。そんな疑問を抱えたまま海外に出ると、ワインがごく自然に日常に溶け込み、ソムリエがさりげなく料理に合う1本を選ぶ姿がとても洗練されて見えたのです。

「私も、あんなふうにスマートにサービスができたら、もっと仕事が楽しくなるかもしれない」。そんな想いが、ワインを学び始めるきっかけとなりました。

客室乗務員時代の細野さん。左から3番目

2. ソムリエ試験と、ワインブームのはじまり

 1995年と1996年の2年にわたりソムリエ試験に挑戦。2度目の挑戦で、ようやく合格することができました。

ちょうどその頃、ワインスクールの講師陣の中には田崎真也さんの姿がありました。そして1995年、私が勉強の真っ只中だったその年に、田崎さんが第8回世界最優秀ソムリエコンクールで、日本人として初めての快挙となる優勝を果たされたのです。

そのニュースは、受講生だった私たちにとっても衝撃的であり、誇らしく、心を大きく揺さぶられる出来事でした。

田崎さんの優勝をきっかけに、日本国内でもワインへの関心が一気に高まり、それまで静かだった市場に本格的なワインブームが訪れました。機内でもワインを注文されるお客様が増え、ワインリストも次第に充実していきました。ワインが「特別なもの」から、少しずつ「日常の楽しみ」へと姿を変えていった——そんな時代だったように思います。

3. ワインが広げてくれた視野と世界

 ソムリエ試験に合格してからも、ワインの魅力に益々惹かれるようになりました。

なぜならワインはその土地に根付いた、歴史、宗教、文化、習慣が関わった飲み物だからです。ステイ先で巡った美術館、飲食店等、かつては通り過ぎていた教会の壁画、現地の人が買い物する市場、スーパーマーケットのワイン棚に心が躍ったのを覚えています。

機内サービスの現場でも、ワインの知識は大いに役立ちました。ワインのサービス温度にはいつも気を配るようになり、お客様との会話も弾むようになったのです。たとえば、ヨーロッパ旅行から戻られたお客様が「現地でこんなワインを飲みました」とお話しされると、その味わいや産地について会話が広がり、接客がより深く楽しいものになりました。

4. 人とのつながりと、人生を彩る旅へ

仕事以外でも、人とのつながりが自然と広がっていきました。アカデミー・デュ・ヴァンで出会ったクラスメイトとは、試験勉強の名目(?)で一緒に飲みに行くこともしばしば。試験が終わった今でも、お付き合いが続いています。あの時間は、ただ楽しいだけでなく、心が満たされていくような、人生そのものが潤っていく感覚がありました。

ワインをきっかけに、食の世界にも興味が広がっていきました。

1999年からの1年間は、会社の留学休職制度を利用してフランスへ。憧れだったコルドン・ブルーとリッツで、料理とお菓子を学ぶ機会にも恵まれました。思えば、すべてはワインに導かれて、少しずつ彩られていった人生だったように思います。

留学休職制度を活用してコルドンブルーへ

ホテル リッツでの研修中の1枚

5. 空から馬へ、そしてもう一度空へ

会社を離れたあとは、主人が経営する乗馬倶楽部を手伝いながら、子育てに専念する日々を過ごしました。
子どもが中学生になって少し手が離れた頃、「飛行機の整備や構造について、案内してみないか?」と声をかけていただき、再び“空の世界”と関わることになりました。

ただし、以前は整備された機内でお客様へのサービスを考える立場でしたが、今回は飛行機そのものの仕組みや歴史、安全性について伝えるという、まったく違う視点からの仕事でした。

会社の歩み、航空技術、メンテナンスの重要性……。すべてを一から学び直すことは決して簡単ではありませんでしたが、飛行機にまつわる知識をわかりやすく伝え、航空会社として選んでいただくための工夫を重ねる毎日は、また違ったやりがいに満ちていました。

6. もう一度、あの場所へ

そんな日々の中でふと、「これからの自分にとっての生きがいって何だろう?」と考えるようになりました。そして、心のどこかにずっと残っていたのが――やっぱり、ワインでした。

もちろん、飲むのはずっと好きでした(笑)。でもそれだけではなくて、「ワインと、もう一度ちゃんと向き合ってみたい」という気持ちが、いつしか自分の中で静かに育っていたのだと思います。

学び直すなら、やっぱりアカデミー・デュ・ヴァンだと思いました。久しぶりの再スタートでしたが、教室には変わらず温かい空気が流れていて、不安を感じることなく迎え入れていただきました。授業は楽しくてわかりやすく、改めて「やっぱり私はこの場所が好きなんだ」と実感しました。

学びを深めるうちに、「この世界ともっと関わっていたい」「もしこれを仕事にできたら、どんなに素敵だろう」と思うようになり、認定講師制度への挑戦を決意することになります。

7. 29年の時を越えて

とはいえ、ソムリエ資格を取得したのは、もう29年も前のこと。長いブランクを前に、正直ためらいもありました。けれど、振り返ってみると私の暮らしの中には、いつもワインが寄り添ってくれていたのです。

嬉しいことがあった日も、ちょっと落ち込んだ夜も、家族と過ごす何気ない食卓にも――どんな瞬間にも、そこにはワインがありました。そんな豊かさを、今度は誰かに伝えていきたい。たとえブランクがあっても、扉はきっと開くはず。そう信じる気持ちが、もう一度一歩を踏み出す勇気を与えてくれました。

8. うまくできなくても、伝えたい思いがある

講師試験では、本当にたくさんの素晴らしい受験生に出会いました。皆さんの講義を聞いて、正直「全く自信がない」と思ってしまい、途中で教室を出ようかとすら思ったほどです。
それでも、「ここで諦めたら絶対に後悔する」と自分に言い聞かせ、最後までやりきりました。そして、無事に講師として歩み始めたものの、次に直面したのは「教える」ということの難しさでした。
実際に講座を構成する段階になって、「アカデミー・デュ・ヴァンって聞いて来たのに、思っていたよりも…」と受講生にがっかりされたらどうしよう――そんな不安が頭をよぎったのです。それならもう一度、自分がStep-Ⅰを担当するつもりで学び直そう。そう決めて、実際にStep-Ⅰの講座を受講し直しました。
あらためて感じたのは、良い授業にはストーリーがあり、自然と頭に入ってくること。そして、気づけば帰宅してからも復習したくなるような、そんな余韻があるということでした。

Step-Ⅰのクラスメイトと。3列目中央が細野さん

9. ワインの感動を、まっすぐに届けたい

今年、主人の経営する乗馬倶楽部内にあるレストランで、ワインレッスンを立ち上げる予定です。工場見学で一般の方に航空機の魅力を伝えていたときと同じように、自分がはじめてワインを学んで感じた感動をまっすぐに届けて、ワインファンをひとりでも多く増やしていきたいと思っています。

飛行機がたくさんの人の手を経て空を飛ぶように、ワインもまた、畑からグラスに至るまで、たくさんの人の想いと手仕事によって生まれるものです。
だからこそ、つくり手の思いが伝わるような、そんな温かくて深みのある授業を目指していきたいと考えています。


細野良美さんは、人生の節目にもう一度大好きなワインと向き合い、講師という新たな道を歩み始めました。どんなときもそばにいてくれたワインの魅力を、今度は誰かに伝えたい——そんな思いを胸に、馬のいる場所から、あたたかな授業を届けています。

プロフィール

細野良美(ほそのよしみ)
アカデミー・デュ・ヴァン認定ワイン教室講師

  • 星座:牡羊座
  • ワイン以外の趣味:キックボクササイズ、馬とネコといる時間
  • 好きな食べ物:野菜多めの食事
  • もし生まれ変わったら何になりたい?:そこにいるだけで良い人
  • 酔っぱらったらどうなる?:眠くなる
  • 人生を変えたワイン:オスピス・ド・ボーヌ ヴォルネイです。 スミレの香りと冷涼感が素晴らしくピノ・ノワールに感動したのを今でも忘れられません。

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世界的に高名なワイン評論家スティーヴン・スパリュアはパリで1972年にワインスクールを立ち上げました。そのスタイルを受け継ぎ、1987年、日本初のワインスクールとしてアカデミー・デュ・ヴァンが開校しました。

シーズンごとに開講されるワインの講座数は150以上。初心者からプロフェッショナルまで、ワインや酒、食文化の好奇心を満たす多彩な講座をご用意しています。

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