伊東道生の『<頭>で飲むワイン』Vol.113

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Vin avec COVID-19 葡萄と機械

伊東道生の『<頭>で飲むワイン』Vol.113

このメルマガが、掲載される頃には、すっかり終わっているでしょうが、今回も、前回にひき続き、まずは葡萄収穫のお話。

Revue du vin de France誌によると、このコロナ禍で、機械収穫が促進されている模様です。

シャブリのドメーヌ・ラ・ムリエール(la Meuliere)のヴァンサン・ラロッシュは、今年初めて、一部の収穫を機械によって行うことを決断し、5月には収穫機械を購入。

もちろん、コロナの影響もありますが、同時にメイド・イン・フランス(fabrique en France)の機械の機能がかなり向上したということも起因しています。どのように向上したかは書いていないですが、ソフトタッチな収穫が可能なのでしょう。

 

機械による収穫に一部をまかせ、その分プルミエール・クリュやグラン・クリュ、ヴィエーヌ・ヴィーニュを手摘みにできる、というわけです。

27haの畑を手摘みするのに、このドメーヌは、完全に収穫し終えるのが地域で一番遅かったが、機械収穫で、今年は変わるかも。

それでも40人を雇っていて、畑へ収穫に行くために、例年よりも一台増やして2台のバスで、ソーシャル・ディスタンスをとって移動、と苦労しています。

あれやこれやで、経費が5%から8%ほど上昇し、せっかく購入した機械も来年は、売り払う可能もある、と。

 

このドメーヌに限らず、フランス以外からの季節労働者が来られないため、なんと、シャブリでは95%の収穫が機械に頼ることになっています。

驚くのはまだ早い?フランスでの機械収穫はどれくらいと思います。三分の一?半分?

いえいえ、三分の二以上だそうです。驚くことでもないかな。

残りは、手摘みが必須なシャンパーニュやらグラン・ヴァンもあるでしょうが、機械も買えない貧しい農家も多いのでしょう。

そのせいもあるのか、今年は収穫機械の需要が例年になく多いのですが、購入よりも、借りることを好むドメーヌも多いということです。

 

さて、その農機具ですが、ペラン(Pellenc)という1973年創業のメーカーが挙がっています。HPは、これです。https://pellenc.com/?site=1

 

いろいろ、他の農機具もつくっていますが、葡萄収穫機械は例えば、これ。

https://pellenc.com/agri/produits/machine-a-vendanger-tractee-grapes-line/?lang=ja

この会社は、収穫機械に関しては、世界で主要な三つの企業の一つだそうです。

後の二つは、もとはコニャック近くにあったメーカーが、イタリアの企業に買収されたサーメ・ドゥーツ=ファール(Same Deutz-Fahr )。

もうひとつがニュー・ホランド(New Holland)。これはフィアット・グループに組みこまれている企業です。

チリ、南アフリカ、オーストラリア、カリフォルニアまで、世界の葡萄畑のいたるところで活躍しています。

この三つで、世界市場の85%を占めています。ググってみましたが、日本ではあまり扱っていないようです。

 

80年代、収穫機械のブームがあり、今なら6万から25万ユーロするものが、年間100台売れたと言われています。

今でも、500から600台は売れ、1億8千万ユーロの市場となっています。

先に述べたように、機能もかなり向上し、操作性もよく、第一世代の機械のように乱暴な収穫ではなくなっています。

加えて地球温暖化で、日中の高温時ではなく、夜間の収穫も可能になるというのも、利点です。

もちろん、昔ながらの農家、それにビオを行っているドメーヌは拒否していますし、馬を引いての収穫の方が、土地を痛めないというビオディナミ農家も依然います。

 

葡萄畑に機械がはいるのは、別に収穫のためだけではありません。ドローンによる管理なども行われています。

これに関しては、日本でも盛んに行われていて、それこそググってみると、いろいろな情報を見ることが出来ます。

近頃はAI分析もはいって、葡萄の粒数も分かるのだそうです。すごいですね。

 

で、今回紹介するのは、ベト病やうどんこ病対策のロボットです。

2016年にフランスのナイオ(Naio)社は、テッド(Ted)を、続いてヴィティボット(VitiBot)社がバックス(バッカス ?)(Bakus)というロボットを売りにだしました。

ともにメイド・イン・フランス(!)で、完全自動、稼働時間は10時間で、ディーゼルで動きます。

ロボットを支える足にも工夫があり、土壌を痛めない。

最近の風潮か、メイド・イン・フランスを意識した記事になっています。

 

もう一台紹介されているのが、今回注目株のノルウェーのサガ・ロボティクス(Saga Robotics)社が、今年6月に売り出したソルヴァルド(Thorvald)。

実際には、ノルウェーの生物研究所やコーネル農業大学などとの共同研究で開発されました。

農薬を使わず、紫外線を照射することで、病気に対処するものです。

一平方当たり100から200ジュールの弱い紫外線を当てます。

これも自動で葡萄畑を動き回りますが、面白いことがあります。

まず農薬の弊害が避けられるのは、ともかく、紫外線に対しても、菌には、やはり農薬同様、耐性があります。

というか、日光の紫外線に対しては防衛メカニズムが働くようです。

そこで、このロボットは「不意を突きます」。

つまり、防衛メカニズムが働かない夜間に、このロボットを動かして、原因となる菌をやっつけるというものです。

なかなかすごい。RVF誌も、「葡萄畑にとって本当の革命になるだろう」と述べています。

 

ただ、問題は残るとも指摘しています。それは有害虫も無害虫も無差別に廃除してしまうことになってしまわないだろうか、と。

これからの研究に期待です。ビオディナミはともかく、有機栽培にも革命を起こすかもしれません。

Thorvaldについては、以下のURLで。お値段がいくらなのか、書いていないですが。

https://sagarobotics.com/pages/thorvald-platform

 

最後に、フランス恒例の「ワイン祭り」」事情。RVF誌でも特集を組んでいます。

懸念していましたが、催しは開催されたようです。

今年は、なかなかスーパーへ行って、試飲しながら掘り出し物をさがすのも困難そうで、やはりネット販売が増え、スーパーのカルフール(Carrefour)の宣伝では、google payなども一緒に表記した宣伝。

ただ、QRコードなどは、なぜかついていません。

まあ、RVFもオンライン、電子版で読むのが主流になっているので、いらないのかな。私は意固地に紙媒体の冊子です。

ちなみにカルフールの目玉の一つが2009ウィンストン・チャーチル、190ユーロです。結構高いですねえ。

好きなシャンパーニュの一つなのですが、名前がうっとうしいです。

チャーチルは、よくナチスの台頭を警告したとか、良い者扱いをよくされますが、中東紛争の火種を蒔いた人物で、その手先の一人が、例の(といっても知らない人も多いでしょうが)「アラビアのロレンス」。

フランスと組んで、アラブをだまし続け、搾取続けた中心人物。とんでもない奴です。すいません、私情が入りました。

 

ネット販売が増えたとはいえ、実地に試飲を伴う販売も大きな割合を占めています。

前回書いたように、ワイン・サロンを伝手にワイン販売をする独立系の弱小ドメーヌには、サロンの休止による影響が大きい。

実際ネットで購入するときは、あまり情報のないドメーヌなどは見向きもされないし、そもそもネットでワイン販売を行う業者が購入することも、かなり低いですから。

というわけで、かどうか、RVF誌では、2020年の世界のワイン販売は12%下落するだろうとの予測です。

ここ10数年で最大になる、と。

2020.10.16


伊東道生 Michio Ito

東京農工大学工学研究院言語文化科学部門教授。名古屋生まれ。
高校時代から上方落語をはじめとする関西文化にあこがれ、大学時代は大阪で学び、後に『大阪の表現力』(パルコ出版)を出版。哲学を専門としながらも、大学では、教養科目としてドイツ語のほかフランス語の授業を行うことも。
ワインの知識を活かして『ワイナート』誌に「味は美を語れるか」を連載。美学の視点からワイン批評に切り込んでいる。

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