栽培醸造家が語る日本産ワインの光と影 Vol.5 或る新興産地のスケール。

世界中のワイン産地で栽培・醸造の修業を積んだあと、日本産ワイン(日本ワイン+国産ワイン)の現場に立った筆者が直面した、日々の現実をさまざまな角度から切り取るコラム。現在独立して業界に忖度や遠慮がいらない立ち位置のため、書く前から光:影が1:9くらいのバランスになる気がしないでもない。第5回は、どうにも個々のワイナリー名が先行しており、なかなか全体の大きさが掴みにくい日本ワイン産地の実像について。

文/國吉 一平


【目次】

1.  パッチワーク農業
2.  尺貫法は現役バリバリ
3.  日本ワイン産地は計測不能?
4.  準新興ワイン産地のサイズ感


1.  パッチワーク農業

先日、古い知人の大切な取引先ということで、海外ワイン専門のバイヤーさんの訪問を受けた。テレビ各局が旅番組の取材を、やむなく国内で済ませるのと同じ感じだろうか。

コロナ禍で久しく海外の産地を訪れられず、生産者とのウェビナー後に会社へと送られてくるだけのサンプルワインは、飲んで美味かった試しがない。売上の落ち込みうんぬん以上に、相当フラストレーションが溜まっているようだった。

彼らの心が求めているのは、同色を基調とした屋根が並ぶ小さな町を抜け、一面整然とした垣根のブドウ畑を案内された後、風情あるワイナリーでオーナーがワインを注ぐ、あの一連の風景なのだろう。気持ちはよくわかる。

現在私がいるところといえば、小高い丘に立って見下ろすと、桃、サクランボ、洋梨、米、ブドウ、柿、ソバ…まあ、もうなんでもありである。例えばサクランボ1つとっても、路地、ハウスで立ち木、ハウスで平棚、もっといえば防鳥ネットの有無など、見た目も高低差も様々。お世辞にも渾然一体とは全く言えない、何か相いれないもののごった煮感というか、巨大な市民農園といった趣である。合間に点在する農家の家々も、思い思いの時期に新築・増改築されており、コンセプトの一貫性や、景観に配慮した様子はまるで見られない。久方ぶりの出張となったバイヤーさん達も結局、一層海外への思いを募らせただけではなかろうか。

イタリアはその昔、ワインの大地「エノトリア・テルス」と呼ばれていたそうだ。対して日本は「ナンデモデキル・テルス」、いや、より正確には「デキナイモノデモガンバッテドウニカヤッチャウ・テルス」である。悪く言えば節操がない。良いように捉えれば、個人や各自治体の自主性を尊重した、恵まれた国ともいえる。

多様な作物が混在しているということは、裏を返せばひとつひとつの面積が小さいことを意味する。小ささを補うべく、必然的に高付加価値作物の栽培も多い。また、既存の畑を借りる/買う場合には、1ヵ所でまとまった面積を確保することが難しくなる。小さければ経営が成り立たないが、飛び地を集めても農作業機械やスタッフの移動を余儀なくされるし、畑ごとに電柵などを立てる必要があるので、目に見えてコストがかさむ。

 

2.  尺貫法は現役バリバリ

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