ブルゴーニュのピノ・ノワールが高くなって困ったという昨今。代替ワイン候補は産地違いのピノ・ノワールだけではなく、異なる品種で嗜好が合うものを探すのも一つ。シチリアのネレッロ・マスカレーゼが温暖系の代替品種ならば、ツヴァイゲルトは冷涼系の代替品種の一つになり得るかも知れません。あるいは、最近のメルロはふくよかになり過ぎて、締まりがないなぁと悩んだ時に、一つの代替品種の可能性としてツヴァイゲルトは面白いかもです。
【目次】
1. ツヴァイゲルトとは?:オーストリア黒ブドウの主役
2. 良いとこどり!:ツヴァイゲルトの品種特性
3. オーストリアの主要産地
4. 多様性に富んだツヴァイゲルトのワインスタイル
5. オーストリア以外にも広がるツヴァイゲルトの産地
6. ツヴァイゲルトのまとめ
1. ツヴァイゲルトとは?:オーストリア黒ブドウの主役

ツヴァイゲルトは、実はオーストリアでは、グリューナー・ヴェルトリーナーに続く、栽培面積第2位(14パーセント弱)のブドウ品種。オーストリアで、5,940ヘクタールが栽培されています。20世紀末からの20年間に特に栽培面積が伸びました。
1922年にフリッツ・ツヴァイゲルト博士の手によって、ブラウフレンキシュと、ザンクト・ラウレント(サン・ローラン)を交配したものです。第2次世界大戦後になって知られるようになり、高い垣根仕立てのレンツ・モーザーの普及に伴って、栽培面積が増えて行きました。安定した収量、病害や冷涼な気候に強いブドウを、交配によって世に出したかったという思惑が実りました。

レンツ・モーザー仕立て
ブラウフレンキシュのスパイシーさと、ザンクト・ラウレントの溌剌としたチェリーなどの赤系果実の味わいを受け継いだブドウ品種で、軽やかな味わいが持ち味。軽快なピノ・ノワールを思わせるようなワインになることも多々あります。
当初は、開発者自身、この品種をロートブルガーと呼んでいましたが、その後、敬意を表してツヴァイゲルトと称されるように。しかし、ツヴァイゲルト博士は、ナチ党員だったので、ブドウ品種にツヴァイゲルトの名を付けることには異議が唱えられたこともあった様です。最近、改めてナチスとの関係が取り沙汰されたこともあるようで、この品種名称に就いては議論が続きそうです。
2. 良いとこどり!:ツヴァイゲルトの品種特性
寒冷な産地での順応性が高く、樹勢は強く、比較的早熟。栽培は割合容易です。ザンクト・ラウレントよりは、芽吹きが遅く、ブラウフレンキッシュより成熟が早いとされます。ワイナリーで、こうした品種と一緒に栽培することで相互補完。保険になり得るというのは栽培業者には安心な点です。芽吹きが早ければ、遅霜の被害に遭いやすいですし、成熟が遅ければ、秋雨にたたられることもあるからです。

ブラウフレンキッシュ
カリウム不足で生理障害を起こしやすいブドウ品種。ツヴァイゲルト病とも称されることも。色づきの遅れや色調が薄れるなど、ヴェレゾンから症状が発現。ブドウが大きくならず、果梗共々しおれてしまいます。下層土でのカリウム欠乏が一つの大きな理由とされますが、後からカリウムを葉柄に散布してもすぐに回復することはなく、厄介です。早め早めに、土壌の栄養状態を把握しておくことが肝要。
土壌は余り選り好みしませんが、樹勢が強いため、重点的な樹冠管理と摘房等による収量制限が必要とされます。また、スティルワイン用ブドウの熟度を高める為に、収穫時にロゼ用にブドウを早めに収穫して間引くことや、醸造所では、セニエをしてロゼを造ると共に、残った赤ワインの凝縮感を高めることもあります。
3. オーストリアの主要産地

ニーダーエスタライヒ州が最大の栽培地で、3,400ヘクタールに及びます。
そして、2,200ヘクタールの栽培面積のブルゲンラント州がそれに続きます。でも、ツヴァイゲルトの産地としての有名度は、温暖なブルゲンランド州の方が優勢。ブルゲンランド州は、パンノニア平原からの暖かい影響を受けて、7月の平均気温は22℃程度。降雨量は、年間600~800ミリ程度です。
ニーダーエスタライヒ州では、カルヌントゥムDACが、そしてブルゲンラント州では、ノイジードラーゼーDACが夫々、この品種の銘醸地です。
ドナウ川の南側、ウィーン州に隣接するカルヌントゥムDAC。赤ワインは、ツヴァイゲルトかブラウフレンキッシュを3分の2以上使っていればDACを名乗ることができます。また、このDACは、さらに単一畑ワインのリーデンヴァイン、村名ワインのオルツヴァイン、地方名ワインのゲヴェイツヴァインと分類されます。
ノイジードラーゼーDACでは、ツヴァイゲルトが栽培面積の24パーセント。ノイジードル湖が、気候を和らげます。この産地は、フルボディのスタイルで知られていますが、骨格がしっかりしたスパイスが効いたワインが本領なのだと主張する生産者もいます。
そして、辛口ワインでは、ツヴァイゲルトを使ったものしかDACを名乗ることができません。白ワインのDACは、ヴェルシュリースリング等を使った甘口のみなのです。2012年と比較的、新しく認められたDAC。最低アルコール度数も通常DACの12%よりも高い、リザーヴの区別も設けられています。アルコール度数は最低13%で、樽発酵で18か月の熟成が必要。ですから、重みのある黒系果実も感じるワインになるのは、ごく自然かも知れません。
4. 多様性に富んだツヴァイゲルトのワインスタイル
ワインのスタイルの一つは、早飲み向きのチェリーやラズベリー等の赤系果実やスパイスの香りをまとった、色合い薄目の軽やかな味わいを楽しむワイン。一方、単一畑で熟度が高いブドウから造った、フルボディで、力強く、木樽熟成のワインもあり、幅広い多様性があります。でも、大半は発売後数年で飲むのが基本の気軽なワイン。
単一品種のワインとして造ることが主流ですが、カベルネ・ソーヴィニョンやメルロとブレンドされることも、もちろん、親子関係にあるブラウフレンキッシュとブレンドされることもあります。
また、残糖が180グラムもあるアイスワインや、ジュラのヴァン・ド・パイユを彷彿とさせる、藁の上で乾燥させたブドウで造るシュトローヴァインもあります。

5. オーストリア以外にも広がるツヴァイゲルトの産地
ツヴァイゲルトは、お隣のハンガリーでも、1,500ヘクタール前後の栽培面積を有しています。ドナウ地方のクンシャーグ、北ハンガリー地方のエゲル、北パンノニア地方のショプロンでの栽培が知られています。
日本での栽培も知られていますが、その筆頭に挙げられるのが、北海道。ピノ・ノワールとのブレンドが、良く見られます。ワイン情報及び価格データのグローバルプラットフォームのワインサーチャー。ツヴァイゲルトの高額ワインリスト上位に、日本のワインがランクインしています。
2019年に初めて函館に植樹した、フランス・ブルゴーニュのドメーヌ・ド・モンティーユが立ち上げたド・モンティーユ&北海道。函館の降雨量は、年間1,300ミリと多めですが、7月の平均気温は、20℃程度。冷涼で良い産地選択ではないでしょうか。
そして、もう一つの栄えあるワイナリーが10Rワイナリー。余市のブドウを使って、野生酵母と最低限の亜硫酸のみを使って醸造している、こことあるシリーズが、オーストリアのワインに混じって上位にランクインしています。
新世界のワイン産地でも、ツヴァイゲルトの栽培は行われています。オーストラリアでは、アデレードヒルズ。この産地は、シャルドネやソーヴィニョン・ブランにピノ・ノワールが主流ですが、昨今、代替品種の栽培が進んでいます。ハーンドルフヒルでは、オーストリアワインを愛した当主のラリー・ジェイコブスが、ツヴァイゲルトにも注目。栽培を2012年に開始しました。
6. ツヴァイゲルトのまとめ
今回は、オーストリアの代表黒ブドウ品種、ツヴァイゲルトを取り上げて、品種特性や、ワインのスタイルの違いなどを解説。また、日本も含めたオーストリア以外の産地も巡ってみました。オーストリアと言えば、グリューナー・ヴェルトリーナーやリースリングと言った白ワインの銘醸地として知られていますが、もしもワインバーでツヴァイゲルトに出会えたら。その時は、ぜひ一度テイスティング。ピノ・ノワールとの比較も試してみてください。