アンジュー&ソミュール ~自然派ワイン好きも注目!世界最高峰のシュナン・ブランも見つかるワイン産地を徹底解説

ロワール川下流に広がるアンジュ―&ソミュール地区。世界三大ロゼのひとつ「ロゼ・ダンジュー」の産地として有名ですが、スパークリングワインや白赤、甘口ワインと実にさまざまなワインが造られる広大な産地です。それだけに「色々あってよくわからない…」と思われるかもしれませんが、心配ご無用。基本を押さえてしまえば、低価格高品質のワインも多く見つかる穴場の産地でもあるのです。ワイン会等でも、あえて王道外しのアンジュ―&ソミュール地区のワインを選べば、一気に玄人感が出ること間違いなし!ぜひ本記事でしっかり学んで、掘り出し物を探しにいきましょう!

本記事は、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」が監修しています。ワインを通じて人生が豊かになるよう、ワインのコラムをお届けしています。メールマガジン登録で最新の有料記事が無料で閲覧できます。


【目次】
1. 地図を押さえよ!アンジュ―&ソミュール地区の気候と土壌
2. アンジュ―&ソミュール地区のワインの特徴
3. 白はシュナン・ブラン、赤はカベルネ・フラン:主なブドウ品種
4. 押さえるべきAOC
 ● アンジュ―地区
 ● ソミュール地区
5. アンジュ―&ソミュール地区のまとめ


1. 地図を押さえよ!アンジュ―&ソミュール地区の気候と土壌

ロワール地方地図

ロワールには大きく4つの産地があり、西からペイ・ナンテ地区アンジュ―&ソミュール地区トゥーレーヌ地区サントル・ニヴェルネ地区と、ロワール川流域に広がっています。そのうち海から2番目、ロワール川河口から80㎞内陸にあるアンジュー市からソミュール市に広がる産地がアンジュ―&ソミュール地区。ロワール全体の栽培面積の37%を占め、面積でいうと最大の産地になります。さらに細かく分けると、河口側のアンジュ―地区と、上流のソミュール地区に分かれており、気候や生産ワインも異なります。

ロワールを押さえるときは、その産地の地図を頭に入れておくと分かりやすいです。産地は蛇のように長い全長約1000㎞のロワール川流域に広がっているので、一口にロワールといっても場所により気候や土壌も異なってきます。より海側にあるアンジュ―地区は、海洋性の影響が強く、冬は穏やかで夏は暑い温暖な海洋性気候。より内陸のソミュール地区は、海洋性の影響が弱まり、季節や昼夜の温度差がより顕著(=大陸性気候の特徴)となります。

降水量は700㎜/年と適度な量ですが、比較的年中まんべんなく降るため、生育期の栽培管理は重要です。春先の雨が開花や結実に影響を与えたり、生育期や収穫期の雨がブドウの病気の原因や収穫量に影響したりすることも。日当たりが良い斜面は、しっかり糖度を確保する必要がある高品質なスティルワイン用のブドウに充てられます。

土壌も小地区で異なり、アンジュー地区は、アンジュ―・ノワールと呼ばれる片岩(シスト)を母岩に粘板岩や砂岩、砂などが入り混じる土壌。ソミュール地区はトゥフォ―と呼ばれる石灰岩や粘土石灰岩が広がり、シャンパーニュと似た土壌からスパークリングワインの生産も盛んです

2. アンジュ―&ソミュール地区のワインの特徴

泡白ロゼ赤、辛口から甘口まで実に様々なワインを生産できるアンジュ―&ソミュール地区。ある意味「何でも作れる」のが特徴ともいえます。

生産量が多いのはロゼワイン。世界三大ロゼの一つに数えられる半甘口のロゼ・ダンジューの産地であり、ロゼがアンジュ―&ソミュール地区の生産量の半数を占めています。また、ロワールは意外にもシャンパーニュに続くフランス第二位のスパークリングの生産地ですが、その大半を担うのがソミュール地区で、老舗の生産者も多い産地です。

白ワインだと昔から銘醸ワインとして知られてきたのが、アンジュ―地区のシュナン・ブランから造られる貴腐ワイン。詳細は主要AOCで後述しますが、ロワール河の南側、レイヨン川流域(コトー・デュ・レイヨンカール・ド・ショームボンヌゾーAOC)では気候上貴腐がつきやすく、知る人ぞ知る世界最高峰の甘口ワインを生み出します。逆に貴腐がつきにくいロワール川の北側のサヴニエールは、世界最高峰の辛口のシュナン・ブランの産地。ビオディナミの伝道師、ニコラ・ジョリーが居を構えるビオディナミの聖地でもあり、アンジュー地区には自然派ワインの生産者も多く集まります。

赤ワインとして有名なのは、ソミュール地区の中にあるAOCソミュール・シャンピニー。カベルネ・フランがその魅力を発揮する産地として注目を浴びていますが、すぐお隣のトゥーレーヌが赤の銘醸地(シノンなどが有名)であることを考えると、納得ですよね。

3. 白はシュナン・ブラン、赤はカベルネ・フラン

シュナン・ブラン

白はシュナン・ブランを主体に、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン。赤はカベルネ・フランが主ですが、カベルネ・ソーヴィニヨン、グロロー・ノワール、ピノ・ドニス、ピノ・ノワール、ガメイ、コット(マルベック)など様々な品種が生産されています。栽培面積が多い品種としては、カベルネ・フラン、シュナン・ブラン、グロロー・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネと続きます。

シュナン・ブランの特徴といえば、万能な品種であること。熟すのが遅い品種で、収穫時期によってスパークリングから白ワイン、辛口から甘口と様々なタイプを造ることができます。酸が高く、スパークリングワインの生産に適しているほか、糖度が上がっても酸が落ちにくいため甘口ワインにも向いているのです。ただし生産者泣かせなのは、一つの房のなかで果実が不均一に熟すこと。そのため高品質なワインを造るためには、収穫を何回かに分けて行う必要があり、機械化もしづらいためコストが高くなるのです。

樹勢も強いため、生育期にしっかり雨が降るロワールでは、キャノピー・マネジメント(樹冠管理)が重要。サヴニエールなど高品質のシュナン・ブランのAOCでは、収量制限も低く設けられています。

 

カベルネ・フラン

また赤の主要品種はカベルネ・フラン。ロワール地方ではブルトンとも呼ばれ、ラベルに「Breton」と表示する生産者も。冬の寒さに強く、カベルネ・ソーヴィニヨンよりも熟すのが早いため、冷涼なロワールでも育ち、清涼感のある爽やかな赤ワインやロゼを造ることができます。ただ未熟だとピラジンが出やすく、以前は青っぽいロワールのカベルネ・フランもよくありました。最近は温暖化の影響や栽培技術の向上もあり、最上のものはうっとりするような魅惑的な赤ワインになります。晩熟のカベルネ・ソーヴィニヨンはロワールの中だとアンジュ―地区で多く栽培されていますが、日当たりの良い区画でのみ熟し、単体でワインになるよりは、カベルネ・フランとブレンドされたり、ロゼの原料として使われたりすることが多いです。

4. 押さえるべきAOC

アンジュ―地区

アンジュ―地区は、主に辛口白、甘口白、ロゼのAOCで押さえると分かりやすいです。

サヴニエールAOC、サヴニエール・ロッシュ・オー・モワンヌ、クーレ・ド・セランAOC(主に辛口白)

ロワール川の北側にある南向きの急斜面は貴腐がつきにくく、甘口ワインが有名なアンジュ―地区において、辛口ワインが全盛の産地です。ブドウがしっかりと熟し、石がちのシスト土壌の低収量の畑から収穫された果実からは、非常に凝縮感のある骨格のしっかりとした辛口白ワインが生まれます。そのブドウのポテンシャルうえに若いうちは固く、数年の瓶熟成を要するワインが多いのですが、最近では比較的フルーティーで親しみやすいワインも増えてきています。

サヴニエールで最も有名な生産者といえば、いわずと知れたニコラ・ジョリー。ビオディナミ農法をフランスで初めてブドウ栽培に取り入れた先駆者であり、マダム・ルロワを始め世界中の生産者へ伝えた「ビオディナミの伝道師」です。ニコラ・ジョリーの所有する最も有名なモノポール(単一所有畑)である7haのクーレ・ド・セランは単独でAOCに認定された、いわばサヴニエールのグランクリュ。そのブドウ本来の力が存分に引き出されたシュナン・ブランは、ミネラルの塊のような力強い凝縮感を呈し、テロワールを反映したワインの偉大さをしみじみ感じさせてくれます。

またクーレ・ド・セランと並んで別格とされている区画が、ロッシュ・オー・モワンヌ。こちらは、約33haと比較的大きく、数生産者が畑を分割して所有する独立したAOCです。

コトー・デュ・レイヨンAOC、カール・ド・ショームAOC、ボンヌゾーAOC(甘口白)

甘口ワインといえば、ソーテルヌやトカイ、ドイツワインなどが真っ先に思い浮かびますが、実は素晴らしい甘口ワインが眠っているのがロワールのアンジュ―地区。ロワール川支流のレイヨン川流域は貴腐ワインの銘醸地で、シュナン・ブランから造られる極上の甘口ワインを生産しています。広域のコトー・デュ・レイヨンに包括されるAOCで、高い評価を得ているのがカール・ド・ショームAOCとボンヌゾーAOC。カール・ド・ショームは2019年、ロワールではじめて公式にグランクリュに認定されました。この産地の良さは、知名度の低さゆえに熟成甘口ワインなども思いのほかリーズナブルに手に入るところ。大切な方へのヴィンテージワインなどをお探しの時には、ぜひとも覚えておきたい産地です。

ロゼ・ダンジューAOC、カベルネ・ダンジューAOC(ロゼ)

ロゼ・ダンジュー

Robertvt – stock.adobe.com

泡・白・ロゼ・赤・甘口とさまざまなタイプが造られるアンジュ―地区ですが、生産量が特に多いのがロゼワイン、特にロゼ・ダンジューカベルネ・ダンジューが有名です。

世界三大ロゼのひとつロゼ・ダンジューは、固有品種のグロロー・ノワールをメインにカベルネやコット、ガメイのブレンドで造られるやや甘口のロゼワイン。微発泡のものも多くフレッシュな味わいで、早飲みタイプのものが多く造られています。

また、二つのカベルネ(カベルネ・フランとカベルネ・ソーヴィニヨン)から造られるのがカベルネ・ダンジュー。通常より色が濃く、半甘口のロゼになります。どちらも初心者でも飲みやすい気軽なロゼです。

アンジューAOC(泡、白、赤)

より緩い規定でさまざまなタイプを生産できるのが、アンジュ―地区全体を包括するアンジューAOC。白はシュナン・ブラン主体、赤はカベルネ・フランとカベルネ・ソーヴィニヨン主体で造られます。日照量の高いエリアからできる品質の高い赤ワインは、アンジュ―・ヴィラージュAOCやアンジュ―・ヴィラージュ・ブリサックAOCを名乗ることができます。

最近のトレンドが、アンジュ―地区から造られる辛口白ワイン。世界的な甘口ワインの需要減も手伝い、もとは甘口ワイン用の畑から見事な辛口のアンジュー・ブランを造る生産者も増えているためです。二コラ・ジョリーとともにビオディナミを啓もうしたマルク・アンジェリはじめ、オリヴィエ・クザンやルネ・モスなどロワールを代表する自然派の造り手も多く、ナチュールワイン好きも注目する産地です。

ソミュール地区

ソミュールAOC(泡、白、ロゼ、赤)

ソミュールの地下カーブ

白亜質の石灰岩が広がるソミュールの街にはシャンパーニュと同じく地下の熟成庫が数キロメートルにわたり広がっており、熟成環境もばっちり。昔からスパークリングワインの産地として知られてきました。この地区を代表するブヴェ・ラドゥベイはテタンジェ、グラシアン・エ・メイエはアルフレッド・グラシアン、ラングロワ・シャトーはボランジェが所有するなど、シャンパーニュとのかかわりも非常に深い産地です。

シュナン・ブラン主体で、シャンパーニュ方式から造られるソミュール地区のスパークリングワインがソミュール・ムス―。ロワールの瓶内二次の泡としてはクレマン・ド・ロワールが有名ですが、クレマンに比べて最低瓶熟成期間が短い(12ヵ月に対し、9ヵ月間以上)ほか、収穫やプレス率などの規定がゆるく、より安価にロワールのスパークリングワインを楽しみたい方におすすめです。

また、スパークリングの生産が多いものの、最近は温暖化によるシュナン・ブランの熟度上昇や需要の増加により、辛口シュナン・ブランの生産も増えています。

ソミュール・シャンピニーAOC(赤)

軽やかで爽やかなカベルネ・フラン主体の赤ワインの産地として知られるソミュール・シャンピニー。安価な価格や料理との合わせやすさが受け、1970~80年代にパリのビストロやバーで大流行しました。1990年代には流行遅れになってしまったものの、近年のワインのトレンド(低アルコール、軽やかなワイン)に合うこともあり、今再び脚光を浴びています。

基本は早飲みのチャーミングなスタイルですが、例外が17世紀から続く老舗ドメーヌのクロ・ルジャール。長期熟成向きのカベルネ・フランの偉大な生産者としてワインラバー垂涎のカルトワインとなっています。

5. アンジュ―&ソミュール地区のまとめ

アンジュ―&ソミュールのワインは、一部を除いて知名度がそこまで高くないゆえに、掘り出し物も多く見つかるおすすめの産地です。泡白ロゼ赤甘口と好みに合わせて、さまざまなワインが揃うほか、自然派ワインも多く見つかるため、ナチュール好きにもおすすめです。ぜひ新たな発見の旅に出かけてみて下さいね!

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