葉山亭考太郎の新作古典落語「イケムの寿限無」

イケムの寿限無

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葉山亭考太郎の新作古典落語「イケムの寿限無」

コロナ騒動の折、馬鹿々々しいお話をお聞きいただければと思います。落語には江戸時代のネタがよく出て参りやすが、今でも、世界で圧倒的に有名な日本人の画家といえば江戸時代の絵描きだそうでございますな。中でも、葛飾北斎、安藤広重、東洲斎写楽、喜多川歌麿が「浮世絵師四銃士」だそうで、さすがの藤田嗣治も岡本太郎も敵いません。この四人の中で変人が北斎でして、引っ越しマニアとして有名でした。何でも、生涯で九十九回も引っ越したそうで。アート引越センターのプラチナ会員になって、引越し代が全部タダだったとか……なんてこたぁありやせんが。北斎は、九十歳まで長生きして、辞世の句が「ひと魂で行く気散じや夏の原」。ヒトダマになって、夏の野原をフワフワとあちこちに行って、心の憂さを吹き払おうってんですから、極楽でも九十九回、引っ越しているに違いがありません。

九十九回と言えば、アメリカの文豪、アーネスト・ヘミングウェイは、生涯で九十九回も死にそうになったそうでございます。大きな鮫を釣り上げて銃で撃とうとして、自分の脚を撃ったり、自動車を運転中に、大きな木と正面衝突したり、極めつけが、二日連続で乗っていた飛行機が墜落しました。二日連続墜落なんて人がいるんですね。ギネスブックものでございます。九死に一生というか、九十九死に一生をとりとめたんですが、ケガの具合が酷くて、半年後のノーベル文学賞の授賞式に行けなかったそうです。

豪快で男臭いヘミングウェイらしいお話でございますが、実は、ヘミングウェイは、ああ見えてなかなか繊細でして、あのシャトー・マルゴーの熱烈な愛好家でした。あたしが思うに、ヘミングウェイは、ラベルの雰囲気からマルゴーを選んだような気がします。メドックの五大シャトーの中で、ラトゥールは、ライオンが「股火鉢」をしているようで色気がない、ムートンは、鯉のぼりを百匹飾ったみたいに派手過ぎる、オー・ブリオンは養命酒みたいなボトルだし、ラフィットは、ラベルに何が描いてあるかよく分からない……。そこへいくってえと、マルゴーは白地のラベルにギリシャ神殿みたいにエレガントなシャトーが描いてある。江戸の言葉で言う「小股の切れ上がったいい女」という訳で、ヘミングウェイがマルゴーに惚れたように思います。

ヘミングウェイは、「マルゴー命」だったようで、シャトーを訪ねて宿泊したり、孫娘にマルゴー、英語読みでマーゴと名付けました。この孫娘が、モデルにして女優のマーゴ・ヘミングウェイって訳です。

で、話は、唐突に亜米利加から、お江戸へ飛びます。これが、あたしの落語のいい加減なところでして、上方落語のように、その場で面白ければ何でもあり、筋も伏線の回収なんて高度な技なんてありません。上演時間が1時間15分なんていう超級長尺で有名な上方落語の演目、『地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)』は、ただただ長いだけで、ある意味、「四コマ漫画の連続」といったところでしょうか?

それはさて置きまして、貧乏長屋に住むワイン・クレージーの熊さんのところに、可愛い女の子が生まれました。熊さんは、ヘミングウェイ同様、シャトー・マルゴーが大好きでした。「貧乏長屋の住人が、なぜ、高価なマルゴーが好きなんだ?」なんてことで悩んじゃいけません。面白ければ何でもあり。何でもありは、戦争と恋愛も同じですねぇ。

熊さんは、シャトー・マルゴーだけじゃなくて、マーゴ・ヘミングウェイのことも、主演映画、『リップスティック』を見てから大ファンになりました。女の子が生まれたら、あやかって「丸子」とつけるつもりでした。でも、丸子だけじゃあ、景気が悪くて寂しい。もっと賑やかな名前にしたい。ということで、知らないことでも知っていると評判のご隠居さんのところへ相談に出かけました。

 

熊公「こんちは、ご隠居さん、生きてるかい?」

隠居「何だい、熊さん、藪から棒に。『生きてるかい』たぁご挨拶だね」

熊公「おぉおぉ、ちゃんと息してるな。実は、ウチにお嬢様がお生まれあそばしたんで、ご隠居さんにイイ名前をつけてもらおうと思ってね、さあ付けやがれ」

隠居「どうでもイイけど、敬語の使い方がめちゃくちゃだね。それじゃタレントのローラじゃないか。とにかく、元気な女の子が生まれて何よりだ。おめでとう」

熊公「ねぇご隠居さん、物は相談だけど、言葉だけじゃなくて、何か形のあるものでお祝いしてやりたいなんて、思いやせんか? 例えば、山吹色に光るモノを十枚とか」

隠居「何だい、ご祝儀の催促かい。熊さんの初めての子供だからね、あとでバアさんに何か持たせるよ。それより、熊さん、まずは娘さんの名前だ。何か心づもりでもあるのかえ?」

熊公「ご隠居さんも知っての通り、あっしはシャトー・マルゴーが大好きでやしてねぇ、女の子が生まれたら『丸子』に決めてたんすけど、これ一つじゃ、どうも物足りねぇ。この他に、ワインに関係があって、目出度くって、派手で、カッコイイ名前を考えてほしいんでやすがね」

隠居「ワインで攻めようというのが熊さんらしいな。よしよし、いろいろ考えてみよう。昔から、ワイン通にワインをプレゼントするのは結構、難しいものでな。有名だからとシャブリのレ・クロを贈っても、『同じ金額なら、シャンボール・ミュジニーの方が嬉しかったなぁ』などと言われて感謝してもらえなかったりするんじゃ。世界中のどんなワイン好きも、無条件に有り難がたがるのが、デザート・ワインの帝王、シャトー・ディケムだな。通は、イケムと呼ぶ。イケムを飲んで陥落したヨーロッパの美女は数知れずと言うのぉ。フォッフォッフォッ」

熊公「どうしたんだい、ご隠居さん、急にバルタン星人みたいな思い出し笑いなんかして、気味が悪いね。まあいいや、ご隠居さん、じゃあ、まず、『イケム』をいただきやす。豪華で気品があって、ウチにお生まれあそばした『お嬢様』にピッタリだ。他に何かないっすかね?」

隠居「そうじゃな、『ドンペリの売り切れ』というのはどうかな? 子供でも知っている超有名シャンパーニュがドン・ペリニオン、通称、ドンペリだ。ロバート・パーカーが90点以上つけたワインの中で、世界で一番生産量が多いのがこれだろう。日本のどんな田舎のワインショップに行っても、必ず置いてあるくらいだから、数十万ケースほど作っているはずだな。詳しい本数は企業秘密らしくて教えてくれないんじゃが、それが売り切れるというんだから、とても目出度い」

熊公「なるほどねぇ、『ドンペリの売り切れ』もナイスでやすね。あと、景気のいいのはありませんか?」

隠居「まだ足りないかい? では、世界で一番高価なワインということで、ブルゴーニュはヴォーヌ・ロマネ村のロマネ・コンティ、ラ・ターシュ、ロマネ・サン・ヴィヴァンなどは、高級感タップリだな。10年も寝かせると、リキュールみたいな妖しい香りがムンムン出て、たまらんのぉ、フォッフォッフォッ。悪女とイチャイチャ・ネバネバ、裸で抱き合っているみたいにエッチなワインになる。フッフッフッフ」

熊公「どうしたんです、ご隠居さん。また、思い出し笑いなんかして、気味が悪いじゃないっすか。じゃぁ、その豪勢なやつ、『ヴォーヌ・ロマネのロマネ・コンティ、ラ・ターシュ、ロマネ・サン・ヴィヴァン』も、まとめていただきやす」

隠居「目出度いワインと言えば、シャンパーニュで決まりだな。シャンパーニュの最高峰がクリュグで、中でも、『クロ・デュ・メニル』と『クロ・ダンボネ』と『コレクション』は、ワイン通が泣いて喜ぶレア物だ。まず、クリュグのコレクションてぇのは、20年以上熟成させたシャンパーニュの古酒の第一号だな。とても珍しい上に、カシューナッツと蜂蜜の味わいがあって、例えようもなくウマい。これは、一本ずつ木箱に入っている。中にハガキが入れてあって、住所氏名を書いてクリュッグ家に送ると、『コレクションを飲んだ証明書』を送ってくるんじゃ」

熊公「証明書って、後ろの壁に貼ってあるやつでやすね。おぉ、五代目のアンリ・クリュッグのサイン入りじゃないっすか。『開運!なんでも鑑定団』の出したら、七両二分になりそうでやすね」

隠居「それじゃ、間男代じゃないか。まあ、いいや。で、クロ・デュ・メニルは白ブドウのシャルドネだけで作った『ブラン・ド・ブラン』で、プロはこれをクロメニと略すんじゃ」

熊公「白シャンパーニュなのに、クロメニとはこれいかに」

隠居「赤ワインが好きなのに、山岡士郎と言うがごとし」

熊公「おっ、『美味しんぼ』ネタで返すとは、さすがご隠居さん、ヒマ人だね」

隠居「毎日、グラス・シャンパーニュの泡の数をカウントしてる熊さんに言われたくないよ。で、クロ・ダンボネは、反対に黒ブドウだけで作った『ブラン・ド・ノワール』じゃ。シャンパーニュの最高価格がこれかな」

熊公「ウチの『お嬢様』は、キュウリを食ったら、胃袋の辺りが緑色になるくらいの色白におなりあそばされるんで、黒ブドウはやめて、シャルドネにしときやす。ということで、『クロ・デュ・メニルにコレクション』をいただきやす。さあ、どんどん行きましょう、ご隠居さん」

隠居「まだ足りないのかい? 欲張りだね、熊さんも。それじゃ、コート・デュ・ローヌの凄い奴でも引っ張り出すか。ローヌでイヤらしいワインを造る神様は、何てったって、シャトー・ラヤスとギガルだ。ラヤスのジャック・レイノーが死んじまって、あの艶っぽいシャトーヌフ・デュ・パプが飲めなくなると思うと、本当に寂しいな。そんでもって、ギガルは、ランドンヌ、ムーリンヌ、トゥルクの『赤ワイン三銃士』に、白のドリアーヌが超級エッチで凄いぞ。ローヌのワインは垢抜けないというイメージの『お裾分け』をもらったのと、ラベルがちょいとダサいんで、それほど高くはないんだけどな。ロマネ・コンティが三十両だったら、トゥルクは三十五両してもイイくらいだ」

熊公「何だか、矢鱈めったら力が入ってやすね、ご隠居さん。おでこに青筋が立ってますぜ。そんなに入れ込んでるんだったら、そっくりいただきますよ。これで全部で十二本、一ケースになった。じゃあ、さいなら」

 

熊さんは、自分の用が済むと、バケツを転がしたみたいに、賑やかに出て行きました。ご存知の方も多いと思いますが、ボルドー大学の醸造学科の有名な故エミール・ペイノー教授は、「シャトー・マルゴーは女性だが、髭が生えている」とおっしゃったそうで。そのせいか、熊さんとこの丸子は、男の子が顔負けするほどボディーが大きい上に筋肉が引き締まり、色が黒くてタンニンがタップリ乗っていて、幼い頃からいつも渋い顔をしておりました。肉付きが良くて、パワーがあり余っているので、近所の男の子を取っ掴まえては、ポコポコに殴って、泣かしております。

 

子供「ウェーン、ウェーン、痛いよぉ、オバちゃん」

母親「どうしたんだい、雅坊じゃないの。」

子供「実はね、オバちゃんちのね、『イケム、イケム、ドンペリの売り切れ、ヴォーヌ・ロマネのロマネ・コンティ、ラ・ターシュ、リシュブール、クロ・デュ・メニルにコレクション、ギガル、ギガル、ギガルのランドンヌ、ムーリンヌのトゥルクのドリアーヌの長久命のチビ丸子』がね、おいらをブン殴ってシャンパーニュを半分飲んじまったんだよぉ」

母親「雅坊、よく長い名前を言えたね。でも、『リシュブール』じゃなくて、『ロマネ・サン・ヴィヴァン』だけどね。惜しいよ」

子供「おいら、アンリ・ジャイエのリシュブールが大好きなんだもん」

母親「アンリ・ジャイエはアタシも好きだよ。まあ、それは置いといて、するってぇと何かい、うちの『イケム、イケム、ドンペリの売り切れ、ヴォーヌ・ロマネのロマネ・コンティ、ラ・ターシュ、ロマネ・サン・ヴィヴァン、クロ・デュ・メニルにコレクション、ギガル、ギガル、ギガルのランドンヌ、ムーリンヌのトゥルクのドリアーヌの長久命のチビ丸子』が雅坊のシャンパーニュを半分飲んだのかい?」

子供「そうなんだよ、おとっつあんの目を盗んで、こっそり飲もうと井戸で冷やしておいたランソンのブラック・ラベルをね、飲まれちまったんだよ、ウェーン」

母親「子供のくせにシャンパーニュを飲むなんて。令和のご時世だとボコボコに叩かれて炎上しちゃうよ。江戸時代でよかったね、雅坊」

子供「フランスじゃ、水の殺菌にワインをちょっと入れて、子供がフツーに飲んでるし、絵描きのユトリロは、アプサンを飲んで、小学生の時にアル中の治療病院に入院してたらしいよ。『大江戸葡萄酒学問所(今のアカデミー・デュ・ヴァン)』で言ってたもん」

母親「おやまあ、雅坊はいろいろ物知りだねぇ。葡萄酒の勉強をしてるのかい? じゃあ、『大江戸葡萄酒服務評定所(今の日本ソムリエ協会)』の『葡萄酒大御所吟味問答(今のワイン・エキスパート試験)』を受けるんだね。頑張ってよ」

子供「うん、今、矢野恒左衛門先生の『葡萄酒検定語呂合暗記之秘術』って本で勉強してるんだよ」

母親「雅坊が一生懸命、勉強してるのに、うちの子がシャンパーニュを飲んじまって、ホントに勘弁しとくれ。ウチのオジさんに似て、あの子は、小さいときから飲み助なんだから。オジさんにしっかりと叱ってもらうからね。ちょいと、お前さん、ウチの『イケム、イケム、ドンペリの売り切れ、ヴォーヌ・ロマネのロマネ・コンティ、ラ・ターシュ、リシュブール、クロ・デュ・メニルにコレクション、ギガル、ギガル、ギガルのランドンヌ、ムーリンヌのトゥルクのドリアーヌの長久命のチビ丸子』がね、雅坊が冷やしておいたシャンパーニュを飲んじまったんだって」

熊公「おいおい、『リシュブール』じゃなくて、『ロマネ・サン・ヴィヴァン』だぞ。自分の娘の名前を間違ってどうする」

母親「ダルマジ……」

熊公「はぁ? 何で急に、アンジェロ・ガイヤになるんだよ」

母親「あたし、一回言ってみたかったのよ。『残念だわ』ってイタリア語でね」

熊公「まあいいや、話を続けるぞ。するってえと、ウチの『イケム、イケム、ドンペリの売り切れ、ヴォーヌ・ロマネのロマネ・コンティ、ラ・ターシュ、ロマネ・サン・ヴィヴァン、クロ・デュ・メニルにコレクション、ギガル、ギガル、ギガルのランドンヌ、ムーリンヌのトゥルクのドリアーヌの長久命のチビ丸子』が、雅坊が冷やしといたシャンパーニュを飲んじまいやがったんだって? すまねえなぁ、雅坊、オジちゃんからきつく叱っておくよ。ところで、飲まれたランソンのシャンパーニュの残りはどこにあるんだい?」

子供「これだよ。名前があんまり長いんで、泡が飛んで白ワインになっちまったんだよ」

熊公「こりゃあ、ますます、すまねえなぁ。古典落語なら、これでオチなんだけど、それじゃ、つまらないんで、まだ少し続くんだよ、雅坊。江戸の外出自粛要請と同じだな」

子供「判ってるよ、オジちゃん。おいら、我慢するよ」

熊公「すまねえな。ところで、ブラック・ラベルといやぁ、『ランソン社社長が飲んだシャンパーニュ』だな?」

子供「オジさん、長い名前の次は、目先を変えて早口言葉だね。ブラック・ラベルは、『ランソン社社長が新春シャンソン・シャンパーニュ・ショーで飲んだシャンパーニュ』だよ」

熊公「えっ、何だって? ブラック・ラベルって、『赤パジャマ・茶パジャマ・黄パジャマを着たランソン社社長がシャサーニュ新春シャンソン・シャンパーニュ・ショーで飲んだシャンパーニュで、雅坊が飲むと、餓鬼ガス爆発になる』んじゃないのかい?」

子供「オジさん、もうシャンパーニュは飲みたくなくなったよ。舌が回らないんで、代わりに油をちょうだい」

熊公「ほらよ、これはサッシカイアが作った『エクストラ・バージン・オリーブオイル』だ。ここにサッシカイアの『手裏剣マーク』がついてるだろ?」

子供「ホントだ。このまま舐めても美味しいね。化け猫は、行燈の油より、こっちが好きだと思うよ」

熊公「そうだな、イタリアじゃあ、美味いワインと、いいオリーブオイルがいっぱいあるんだってよ。『イタリアで見た民でありたい』だよな」

子供「オジさん、今度は変化球の回文で来たんだね。『私、負けましたわ』って訳にいかないんで、『いいワイン、品位はイイ』ってのはどう? いいワインを飲むと、お城のお殿様みたいにキリっとするでしょ?」

熊公「オジさんも、ワインをたくさん飲んでるから、品位が溢れまくってるだろ? じゃあ、さっきのランソンから考え付いた、『泡飲むの?わぁ!』ってのはどうだ? シャンパーニュを飲むと、イイことがあるような気分になるよな」

子供「そうだよね、シャンパーニュを飲むと、『恋知らぬらしい娘』でも、少し酔って、少し勇気や本音が出るかもだよね」

熊公「子供のくせに、なんでそんな艶っぽいことを知ってるんだ?」

子供「葡萄酒の勉強に通ってる『大江戸葡萄酒学問所』の葉山猫之介先生に教えてもらったんだよ」

熊公「例のすっとこどっこいの野郎だな。猫之介なら、行燈の油でも舐めてりゃいいのによ。猫之介にゃ負けられねえなぁ。じゃあ、『キスした私好き?』ってのはどうだ? なんだか、雅坊に乗せられて官能系に向かってるのがちょいと心配だけんどな」

子供「大丈夫だよ、このごろの子供は意外に進んでるからね。じゃあ、今度は、オジさんの回文にちょっと手を入れて本歌取りの『キスしたわ。今、甘い私好き?』でどう?」

熊公「ったく、なんで、オレより子供の回文の方が艶っぽいんだよ。じゃあ、オジさんのとっておきを出すぞ、フフフ。恋を知らない娘がシャンパーニュを飲んでキスをしたなら、次は『意地悪くブラ取ると、ラブ狂わしい』だろ? どうだ、このレベルは子供にゃあ考えつかねえだろ?」

子供「ねえ、オジさん、後ろでオバさんが、『あたしゃ、意地悪じゃなかったよ』って笑ってるよ。フフフ。『ブラを取る』ぐらいの色っぽさじゃ、まだ、クリティカル・ヒットじゃないよ。ブラを取った二時間後に、『下着付け、さあ、酒注ぎ足し』ってのはどう? 平安時代の『後朝の別れ(きぬぎぬのわかれ)』みたいに、いい感じが出てるでしょ? で、決めの文句はね、光源氏みたいな男性が、『イイ男の恋、最後のことを言い』って訳さ」

熊公「参ったよ、雅坊。そこまで言われちゃ、オジさんの完敗だ。でも何で、艶っぽいことで子供に負けるんだよ。悔しい。あぁ、それにしても、いっぱい、シャトー・マルゴーを飲んでて、眠たくなっちまったよ。『カベルネ、とろとろと寝るべか?』だな」

子供「うん、寝るべえ、寝るべえ、カベルネェ」

2020.05.22


葉山考太郎 Kotaro Hayama

シャンパーニュとブルゴーニュとタダ酒を愛するワイン・ライター。ワイン専門誌『ヴィノテーク』等に軽薄短小なコラムを連載。ワインの年間純飲酒量は 400リットルを超える。これにより、2005年、シャンパーニュ騎士団のシュヴァリエを授章。主な著書は、『ワイン道』『シャンパンの教え』『辛口/軽口ワイン辞典(いずれも、日経BP社)』『偏愛ワイン録(講談社)』、訳書は、『ラルース ワイン通のABC』『パリスの審判(いずれも、日経BP社)』。

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