連載コラム

高橋佳子のセンス・オブ・プレイス_Vol.03(2019_05_03)

東京の桜が散り始めた4月中旬、ポルトガルへ行ってきました。
今回の旅の目的は、ヴィーニョ・ヴェルデ地方ワイン生産者委員会(CVRVV)が毎年開催しているコンクールの「ベスト・オブ・ヴィーニョ・ヴェルデ 2019」の最終審査を含むプログラムへの参加です。
ニューヨーク在住のマスター・オブ・ワインをはじめ、ロシアと南アフリカ出身でドイツ在住の若手有力ソムリエ、カナダ、ブラジル、デンマークのベテランワインジャーナリストという個性豊かなメンバーで、6日間ヴィーニョ・ヴェルデを視察しました。

ヴィーニョ・ヴェルデというと「緑のワイン」と表現されることがあります。私自身もそのように理解していた部分もあるのですが、今回の旅でその解釈が少し違っていることに気付かされました。
「緑のワイン」から連想するヴィーニョ・ヴェルデは、若々しいライトボディでアルコールは低め、微発泡や残糖を含む場合もある白ワイン、というものではないでしょうか。確かに、そのようなワインが一般的には多く流通していて、ヴィーニョ・ヴェルデを有名にしたと言えますが、CVRVVは今後、そういった特定のスタイルをヴィーニョ・ヴェルデのプロモーションに採用しないと明言しました。なぜなら、ヴィーニョ・ヴェルデは多様性があり、高品質なテロワールワインの産地だからです。
ヴィーニョ・ヴェルデD.O.C.は、北はスペインとの国境をなすミーニョ川から、南はポートワインで有名なドウロ川を超えてさらに南まで広いエリア(7000km2)を包括し、9つのサブリージョンが存在します。ヨーロッパで最も広い面積の産地の一つですから、その中に異なるテロワールがあり、多様なワインが生産されているのも納得です。
大西洋の影響が強い場所と、より大陸性気候の影響が強い場所があり、内陸から大西洋に流れるいくつもの川が海からの湿った冷たい空気を運ぶ谷を形成しています。

スペインのリアス・バイシャスでも生産されているアルヴァリーニョ種が有名ですが、他にはロウレイロ、アヴェッソ、アリント、トラジャドゥーラといった固有品種が、それぞれの特性に適したテロワールで栽培されているのです。それらの品種を単体でヴァラエタルワインとして品種個性を追求するワインあり、一方でブレンド、あるいは古い混植の畑から混醸してテロワールを表現するワインあり。ヴィーニョ・ヴェルデは一般的には樽を使用しないことが多いのですが、中にはオークを使用して熟成によって風味の発達を期待するタイプまで多種多様です。とはいえ、白ワインが生産量の85%以上を占めていますので、合わせるお料理は魚介類が中心でした。
こうしてみると、なかなか一筋縄では理解が難しいヴィーニョ・ヴェルデなのです。わかりやすい「緑のワイン」というメッセージも悪くないのですが、ワインの魅力はそんなシンプルさから一歩踏み込んだところから始まるのです。
これからは、ヴィーニョ・ヴェルデは「緑のワイン産地」と理解しましょう。なぜなら、ここは比較的雨が多く(年間降水量1200mm)、水源には不自由しない農作物の生育に理想的な緑豊かな土地だからです。
1週間の滞在中、半分は雨か曇りでした。それでも、大西洋を一望する海辺に行った際は快晴!大きな波が打ち寄せる海を眺めていると、ポルトガルの国土の西側全面が大西洋に面していることをはっきりと認識することができました。どおりで、海の幸が豊富で美味しいわけですね。

令和の時代の幕開けに、皆さまはどんなワインを飲んでいますか?ポルトガルは日本に葡萄酒を含めた西洋文化を伝えた国。平成から令和へ、日本の歴史を刻んだゴールデン・ウィークの後半に、ヴィーニョ・ヴェルデを海の幸と合わせてみてはいかがでしょうか?おすすめですよ!最後まで読んで頂きありがとうございました。