連載コラム

高橋佳子のセンス・オブ・プレイス_Vol.02(2019_03_01)

今回ご紹介するプレイスは、昨年9月末に2度目の現地訪問を行ったカナダの「オカナガン・ヴァレー」です。
カナダというとアイスワインが有名ですが、辛口ワインでも高品質なものが生産されていることはあまり知られていません。寒すぎて通常の葡萄栽培には適していないというイメージがあるのだと思います。ですが、近年のカナダワインの品質向上はめざましく、実は知らないと損なレヴェルなのです。
オカナガン・ヴァレーは、カナダワインの2大産地のひとつ。もう一方はオンタリオ州のナイアガラ・ペニンシュラですが、どちらもアメリカ合衆国との国境付近に位置しています。ナイアガラ・ペニンシュラは、五大湖のひとつオンタリオ湖に面していることで厳しい寒さが緩和されます。北緯42度付近、カナダの中では最も南に位置していますので、穏やかな葡萄の生育が可能な自然環境があります。この産地については、またの機会に詳しくご紹介したいと思います。

日本からバンクーバーまで直行便で約9時間。国内線に乗り継いで1時間弱でケロウナKelownaへ。日中のフライトなら、目下に広がる北カスケード山脈の雄大な地形が楽しめますので窓側の席がオススメです。
ケロウナはオカナガン・ヴァレーのワイン産地北部にあたり、北緯50度に位置します。シャンパーニュやモーゼルと同じ緯度ですから、冷涼な気候であることは容易に想像できますね。南北135km、東西5kmという細長いオカナガン湖のちょうど中央部にケロウナ、湖の南端にはペンティクトンがあり、氷河によって削られ形成された土地に葡萄畑が拓かれています。ペンティクトンからオカナガン湖の東側湖畔に位置するナラマタ・ベンチは、オカナガン・ヴァレーで優れたピノ・ノワールを産するエリアです。
ワイン産地はオカナガン湖の南から合衆国との国境(ワシントン州)まで続いています。スカハ湖、バスー湖、オソユース湖が水路で南北に連なり、どこを切り取っても絵になる光景が広がる美しいワイン産地です。
南へ行くほど気候は温暖になり、湖から離れると寒暖差と乾燥が激しくなります。産地全体が太平洋からの影響が山によって遮断された大陸性気候で、極端に乾燥しています(年間降水量300mm程度)。
オソユースはカナダで最も降水量が少なく、気温が高い町だそう。高緯度に位置していながらも、半砂漠気候とも分類されるユニークなテロワールを有します。

さて本題のワインですが、オカナガン・ヴァレーでは実に多様なスタイルのワインが生産されています。ブルー・マウンテン・ヴィンヤード&セラーズは、バスー湖を望む美しい景観に溶け込むようになだらかな丘陵地に自社畑が広がります。ピノ・ノワールとシャルドネから造られるスパークリングワインは絶品。カナダでもトップクラスです。訪問した際、ヴィンテージ2010と2016のガメイと、2009と2015のピノ・ノワールを、手作りのランチと一緒にセラー内で頂きました。野菜や豆をじっくり煮込んだ温かいスープと熟成を経て落ち着いた旨味がのったガメイがとても相性よくて、上質なクリュ・ボジョレにも匹敵する熟成の可能性とフード・フレンドリーな個性が実感できました。


オカナガン・ヴァレーのワインは、風味の凝縮度が高くテンションがありながらも、寒暖差から生まれる自然の酸味がしっかりと骨格に感じられます。まだまだ若い産地でありますが、今後の発展がますます楽しみです。
まだ飲んだことがない方は、ぜひ、一度お試しください。オカナガン・ヴァレーのセンス・オブ・プレイスを感じて頂けると嬉しいです。最後まで読んで頂きありがとうございました。