連載コラム

おおくぼかずよの「男女の友情は成立するか?それはさておき日本酒の話」 Vol.13 2019_02_22

最近、日本酒関係者とお会いすると、話題はグローバル化する日本酒について。これに尽きると言っていいほどです。今回はそのあたりの話題をまとめてみました。
▼日本酒の輸出総額、9年連続過去最高
金額・数量ともに第1位はアメリカ

日本酒造組合中央会が2月7日に発表した2018年度(1~12月)の日本酒の輸出総額は222億3,150万7,000円、昨対比では119%、初の200億円越えとなり9年連続で過去最高額となりました。輸出総量は25,746,831Lと10年前の約3倍、こちらも過去最高を更新しています。輸出先を見てみると、金額・数量ともに第1位はアメリカで、輸出金額63億円はそのあとのランキングに続く香港の37億、中国の35億を大きく引き離しています。また、注目すべきは中国の伸び率で、2 年前と比較して 248%と驚異的な数字。日本酒を通しても今の中国の勢いが感じられます。

▼「南部美人」世界初のヴィーガン日本酒の認証取得

「日本にとっての当たり前をきちんと伝えないと、世界では伝わらない」 加速する日本酒のグローバル化の中で、日本酒のラベル表示については考えなければいけないところです。日本人でもわからないと言われる日本酒ラベル、日本語が読めない人はなにを基準に選べばいいのか、インバウンド需要に対応するためにもより簡潔なヴィジュアル化が求められます。南部美人がヴィーガン認証を取得するきっかけになったのは、同蔵が2013年にコーシャ(ユダヤ教の食の規定)の認証を取得したとき、アメリカのビジネスパートナーから尋ねられひとことだったそうです。「なぜ日本酒はヴィーガン認証を取らないの?」ヴィーガンとは肉や魚、卵や乳製品を含む動物性食品を一切口にしない「完全菜食主義者」のこと。久慈社長は、そんなのは当たり前で日本酒は水と米から造られ、動物性のものは使用しないんだから、と答えたそうですが、そのビジネスパートナーの返事は「久慈さん、その日本にとっての当たり前を、当たり前だときちんと言わないと、世界では誰もわからないよ」。

「未来のためへの一歩を踏み出す」
Bio、コーシャ、ハラル、NON-GMO… 世界では今、食品の特徴を誰でもすぐに認識できるように表示することは当たり前になっています。米と水と米麹から造られ、酸化防止剤や防腐剤の使用は禁止されている日本酒は、そもそも、ヴィーガンの人々が口に出来るものです。それは日本だからわかること。「ヴィーガン市場のために取得したのではない、そして取得のために南部美人の信念や酒造りは変えていない。日本酒の純粋、安心、安全をいかに世界にわかってもらうか」「南部美人がすごいのではない、日本酒がすごいということを伝えたい」。久慈社長は東日本大震災のときに自粛ムードが広がる中で「東北は経済被害という二次災害を受けています。東北の酒を飲んでください。」とSNSを通して飲んで応援を訴えたエネルギッシュな人です。この日も日本酒の未来について熱く語って下さいました。

▼海外産のSAKEという新しい潮流
スイス・バーゼルで初の清酒蔵誕生へ

クラフト・サケによるマーケットの拡大は、サケの認知の拡大はもちろん、昨今のサケの2極化傾向とは違う流れのファン層が生まれると予想され、世界のトレンドであるクラフト・リカーブームも追い風となり、現在の40場から100場近くまで増えるのではとも言われています。海外での清酒製造の歴史は古く、実は100年以上の歴史があります。現在、国外でのクラフト・サケ・ブリューワリーは約40場。その半数の20がアメリカ、その他フランス4、カナダ3、イギリス2、スペイン2などが続きます。

先日、スイス・バーゼルのアーバンワイナリー「Vinigma Winery」と、岡山県「竹林」醸造元の丸本酒造が提携し、スイスで初となる酒蔵開業を目指す報告発表会がありました。提携のきっかけはヴィニグマワイナリーのオーナー、ヴァレンティン氏が来日された際、自社田を有し自前で酒米作りから醸造出荷までを行うドメーヌスタイルの丸本酒造を訪問、コメとブドウの違いはあれど醸造家同士で意気投合、バーゼルでの酒造りまで話が進んだというから驚きです。元エンジニアでもあるヴァレンティン氏は日本からの醸造機械を運んで使うだけではなく、ヨーロッパにカスタマイズされた機械も使用していきたいとの意気込みもあり、技術交換だけには終わらないヨーロッパでの新しい酒造りに期待が膨らみます。丸本酒造の丸本社長からは海外での酒造りに関しては、現時点では海外では米を蒸す作業が一番難しいなどといった具体的なお話から、現在行われている穀物検査とたんぱく質の含有量の話や、米作りと窒素の関係などを、有機認証を3つ取得している丸本社長ならではの視点で語って下さいました。有機といえば、水稲栽培は水という流動的なものが関与している点が畑の有機との大きな違いで、例えば昨年の西日本豪雨などの場合、川上川下を問わず水が流れ込んできた話など伺うと、日本酒においてのBio認証はそう簡単ではないなと個人的には感じています。

国内醸造と海外産でつくられたSAKEを区別するため、4年前の2015年に日本酒と名乗れるのは「原料に国内産米のみを使用し、かつ、日本国内で製造」と地理的表示「日本酒」が指定されました。日本酒を取り巻く環境は日々変化しています。先日はおおくぼが担当している日本酒講座「続・ゼロからの日本酒テイスティング」に真澄の海外営業キース・ノーラム氏、国内営業の原隆太郎氏にゲスト講師としてお越しいただき、真澄の海外戦略のリアルな話を伺うことが出来ました。この講座には澤乃井の小澤幹夫社長にもお越し頂いたりと、日本酒の「今」をお伝えしています。次号以降で改めて。