連載コラム

おおくぼかずよの「男女の友情は成立するか?それはさておき日本酒の話」 Vol.11 2018_10_26

こんにちは。日本酒コラム担当のおおくぼかずよです。木々の葉も色づきはじめ、秋も深まってまいりました。四季のある日本で育まれた日本酒には、飲む事で季節の移ろいを感じるという楽しみ方があります。今日は秋の季節酒「ひやおろし」について。

▼「ひやおろし」とは

ひやおろしとは、秋に収穫した米で冬に醸造して出来た新酒を、春から夏の間の半年間熟成させ、秋になる頃に出荷される季節限定の日本酒です。

江戸時代ごろから存在したと言われており、昨今のような秋の風物詩になったのは1980年代に卸売の株式会社岡永(日本名門酒会)が季節限定商品として取り扱うようになったことがきっかけのひとつとされています。

ひやおろしの特徴は、秋に限定出荷されるということと、「生詰め」と呼ばれる火入れ技法を行っている事です。一般的には日本酒は上槽(モロミを酒と酒粕に分けること)の後、貯蔵前に1回、さらに瓶詰め前に1回の合計2回、火入れと呼ばれる低温加熱処理を行いますが、ひやおろしは貯蔵前の火入れのみで、瓶詰め前の2回目の火入れをせずに出荷されます。

貯蔵前に火入れを行うことで安定した熟成状態をつくり、その香味をそのまま味わってもらうため、2回めの火入れを行わなずに出荷する、それがひやおろしです。

▼熟成により丸みを帯びた味わいへ

春から夏と、静かに蔵の中で出荷のときを待つひやおろし。その間に搾りたての荒々しさは丸みを帯び、華やかな香りは落ち着きをみせ、角の取れたまろやかさが印象的なお酒へと変化を遂げます。

▼ひやおろしに合う料理

ひやおろしに合う料理といえば、それは日本の秋に旬を迎える食材。日本酒も春、夏と熟成させているので、食材も同じように、フレッシュな香りやみずみずしさ、軽快さが特徴のものよりも、旨味があり、脂がのっているものが良いでしょう。調理法も生のままではなく、煮たり焼いたりすることで日本酒のボリュームと食材のボリュームのバランスが取れてきます。

秋刀魚、松茸、秋鮭、里芋、鯖、秋茄子・・・ 脂がのった秋刀魚の塩焼きにはやっぱり日本酒、せっかくならひやおろしを合わせましょう。里芋にクルミ味噌をのせてみたり、銀杏を添えたりすれば秋の雰囲気も楽しめます。

普段、日本酒を飲むのはお寿司や和食店のときだけという方はこの機会に是非、チーズやジビエに合わせて、ひやおろしを選んでみてはいかがでしょうか。大吟醸などがもつ吟醸香と呼ばれる果実や花を思わせる香りの強いものは食材を選びがちですが、長期熟成酒ほど個性が強くなく、ほどよく円熟したひやおろしはチーズならコンテの12ヶ月熟成と合わせて、また柿の白和えにフルム・ダンベールなどブルーチーズを加えるのもオススメです。私の定番はポルチーニのクリームパスタにひやおろしのぬる燗。温かい料理に温かいお酒を合わせることで料理の温度が下がらず、口中でソースのクリーミーな感触が広がり、アフターで鼻に抜けるように感じるポルチーニの香りがたまりません。また、白トリュフを使った卵料理とひやおろしは好相性。ご家庭でしたら、卵にほんの少し、ひやおろしを混ぜるのがポイントです。

▼最近のひやおろし事情

最近では出荷時期の早期化に拍車がかかり、まだまだ暑い夏の時期に店頭に並んでいたり、低温での保管や、タンク貯蔵から瓶貯蔵への変化などにより、熟成が半年ではすすまないというお酒も見られます。購入されたひやおろしが思っていたよりも熟成していないときなどは、燗酒にして変化をさせるなど、ご自身で変化をさせて楽しんでみて下さいね。

四季のある国だからこそ味わえる季節の味覚。今年の新酒造りはすでに始まり、酒蔵には活気が戻ってまいりました。12月半ばを過ぎたころには、早いところでは新酒が出来上がります。またそのときには新酒ならではの楽しみ方をお伝えさせていただければと思います。