連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.86 2018.08.10

~ソーテルヌの打撃と2018年の見込み、そして夏だからロゼ~

ワールドカップを制覇し、悦びに沸いていたフランス、その7月15日にすさまじい雹と嵐がソーテルヌを襲いました。

ゴルフボールくらいの大きさの雹が20分にわたって降り続け、生産者たちの希望を打ち砕きました。Chateau FargueのPhilipp de Lur Saluce氏は「その影響は、葡萄畑の大部分が100%、そのほかも80%」と嘆いています。ソーテルヌ・バルザック管理機構代表のXavier Planty氏もChâteau Guiraudで「葡萄畑は大損害を受けた。100%の影響を受け、グラン・ヴァンの生産はきわめて困難」とため息をついています。ただ、この雹は限定された箇所だけを襲って、GuiraudやFilhot、Lamotheには影響を及ぼしましたが、Yquemは災害を免れ、またRayne-VigneauのディレクターであるVincent Labergere氏も「われわれは影響を受けていない」と語っています。まさにクリマclimatの違い?

幸いにもダメージを逃れた葡萄はどうなるのか、についてLure Saluce氏は「病気の広がりが心配だが、目下の所、土壌が浸水しているので何も対処できない。樹木は傷み、葡萄も手当をするためには、二週間は休ませるだろう」と語り、「その後は・・」と口を濁しています。収穫もごくわずかになり、2017年並になるということです。領はともかく、質としては、まだここ数年良いときもあったソーテルヌですが、質量ともに大打撃です。

雹による打撃は、このところ毎年続いていますが、とうとう栽培者は雹対策にネットを使うことになりました。具体的には、葡萄の樹の列(畝)を二枚のネットで挟み込むようにします。ここに写真があります。https://www.larvf.com/vin-grele-viticulture-raisin-vignes-filet-anti-climat-glace-autorisation-inao,4597909.asp

当然AOCの法的仕様を変更する必要があります。INAOでは、雹対策にネットを使用することを2015年からブルゴーニュで実験的に行っていましたが、去る6月20日にAOC/AOPの生産において雹対策としてのネット利用が正式に許可されると、INAOのスポークスマンが語りました。

こうした措置は現在までAOCやIGPワインには禁止されていました。(たしか、以前ヴァランドローで葡萄の畝の間にビニール・シートを引いたおかげでAOCを取り消されたことがあったような。記憶違いならゴメンナサイ。)視覚的面から―エノ(ワイン)・ツーリズムのこともありますから見た目は大事です―、正統さを損なうということから、コストや時間からも人工物の設置は批判されていました。しかし、長年続く雹災害のため、ブルゴーニュ・アペラシオン・栽培家連盟(CAVB)は2015年にINAOに対し、3年間雹対策のために30ヘクタールにわたって実験的使用を求めて、その許可を得ました。

そして、「ネットの使用による地域クリマ(mesoclimat)影響は限られたもので、それに関わる自然環境を人為的に変えるものではなく、基本的な特徴を損なうものでもない」と最終的にINAOは結論づけました。「こうしたタイプの素材はAOCでの生産と両立するものであるし、使用も制限されているので問題はない。」ネットによって木陰ができ、成熟を阻害することもないとも。またこの実験に加わったブルゴーニュ・ワイン・オフィス(BIVB)のChristine Monamy氏は「このテクニックは葡萄の成熟や成長過程を妨げない」と語っています。

実際に栽培家たちがネットを使用できるのは、各アペラシオンで管理組織(ODG)が法的仕様を変更した後ですが、INAOは、ネット使用に対する要求については「比較的早く」取り扱い、今後は「手続き上の」問題として扱うと認めています。ただ、コストはヘクタールあたり、15000ユーロ、つまり200万円以上もかかるので、零細農家、自転車操業の農家では難しそうです。ブルゴーニュではネットだけなく、雹をつくりそうな雲に向かってヨウ化銀を打ち込むというような装置も開発されていて、こちらはヘクタールあたり8ユーロとお安い値段です。

さてそうしたなか、2018年のワイン生産量の予測が発表されました。雹と乾燥に悩まされ、1945年以来最低であった2017年(3720万ヘクトリットル)に比べ、27%増の4600から4800万ヘクトリットルになるだろうと、フランス農業省から発表されました。これは2014年から2015年レベル。とはいえ、七月半ばの気候と収穫時の状態如何で変動する可能性がある、とも。

2018年春以降、大西洋岸、地中海でベト病が蔓延し、当然ながら収穫に影響を及ぼしています。ベト病は雨や雹といった気候現象が続くことで促進され、この春まで続いた高温も作用しています。しかしながら、総体的には生産は順調で、雨のおかげで七月上旬の保水量も、ここ30年の平均値を保って、良く育っている。というよりも早熟気味で、シャンパーニュ地方ではここ10年の平均よりも15日ほど早い収穫―8月25日が見込まれています。シャンパーニュでは、冬に例年になく雨が多く、4月から6月にかけて気温が高く、早々に開花したことが要因だそうです。ここしばらくの不作でストック・ワインの不足も懸念されていたのですが、質量ともに2018年は大丈夫そうです。ただひとつ、乾燥がこれ以上進むかどうか、水分不足が問題なようです。

さきほどのソーテルヌだけでなく、ボルドー全体も春の雹によって7500ヘクタールが多かれ少なかれ損害を受けましたが、七月初頭以来、湿気も減り、ベト病の進行も抑えられています。生産量は2017年を越えるものになるだろうとのことです。後は天候を祈るばかりです。

ところで先月号のRVF誌ではシャトーヌフ・ドュ・パープの特集をしていますが、この猛暑の日本には似つかわしくないでの、ステレオタイプにロゼの話題を少し。日本ではロゼ・ブームのような気配もあり、フランスでは白ワインの消費量をロゼが越えました。近年のロゼの扱いは、色別、つまり薄い(pale)―軽くて果実味があり、時に洗練され、な仏の白ワインを思い起こさせるものから、中間色―オレンジよりも色濃く、しっかりしたもの、そして濃色―軽い赤ワインに匹敵するたっぷりしたもの―というしかたで分類するのが流行っています。

最初のカテゴリーであがっているのは、Chateau de Selle,Cote de Provence (16点)、Domaine Borrely-Martin, Carre de Laure, Chateau La Tour de L’Eveque,Petale de rose(15,5点)。例のEsclansからはWhispering Angelが挙がっており、14点。真ん中のカテゴリーでは、Clos Cibonne, Cote de Provence Prestige Caroline, Chateau Pradeaux, Bandol, Domaine Croix-Rousse IGP Var Pierres Precieuses ビオ (いずれも17点で22ユーロ以下です)。 最後のカテゴリーも17点が5つ挙がっています。Chateau Sainte Anne, Bandol(ビオ), Chateau Simone, Palette, Clos Saint Vincent, Ballet Le Clos(ビオディナミ), Domaine de la Beuguide, Bandol L’Irreductible(ビオ), Domaine Hauvette, Les Baux-de-Provence Petraです。こちらは16から28ユーロとお値段はそれなりです。

最後に面白い話題を。Petrus Lambertiniという Cotes de Bordeauxのワインがあり、そこでNo.2というワインを出しています。それが、噂の<本物>Petrusのセカンド・ワインのように紹介され、警告を受けたとか。偽造は中国やクーニワンだけではありません。