連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.59 2016.06.01

ボルドー2015の再評価

 そろそろ暑さが気になり、赤ワインへの嗜好が低くなるところですが、Revue du vin de France誌では、2015プリムールの再評価が行われています。メドック、グラーヴ、サンテミリオンのクリュ・クラッセが特によかった2015年は、きわめて良い(フランス語でいうtrès grand)として再評価されました。別格の2010年の水準には及ばないが、ここ10年で最高のようです。
 メドックではカベルネ・ソーヴィニヨンの熟成もよく、メルロなどとのアッサンブラージュも歴史的に高水準の状態で行われました。なかでもマルゴーは出色の出来で、メドック北部に9月初めに降った雨の影響をそれほど受けず、ワインにはコンセントレーションと十分な資質を示し、調和もとれているとのこと。一方、雨に降られた北部では出来にばらつきがあります。
 銘柄としても、シャトー・マルゴーは20点満点中の19-19.5とほぼ完璧。興味深いことにかつて栄華を誇ったシャトーがけっこう復活していることです。パルメの17.5-18.5と並ぶのがローザン・セグラ。つづいてマレスコ・サンテクジュベリ(17-18)、ボイド・カントナック(16.5-17.5)、ブラーヌ・カントナックおよびジスクール、ドザック、ディッサン(16.5-17)、カントナック・ブラウンおよびキーワン、テルトル(2015年から白を売り出しています。シャルドネ、グロ・マンサン、ヴィオニエ、ソーヴィニヨン・ブランと何ともすごいアッサンブラージュです)、フェリエール、ラコンブ、プリュレー・リシーヌ(16-17)となっており、今のところ、2013年でも2014年でも50ユーロ以下、しかも30台が多く消費者に優しい。80年代、デイリー・ワインにこれらを飲んでいたことを思い出し、うれしいかぎりです。問題は、2015年モノが果たしてどこまで値が上がるか、というところです。
 その他の地区では、毎度のメンバーが並んでいます。サン・ジュリアンではラス・カーズ(18.5-19)、デュクリュ・ボーカイユ、レオヴィユ・ポワフレ、グリュオ・ラローズが18-19。こちらは三桁の価格が多く、50ユーロ以下となるとグリュオ・ラローズ、サン・ピエール、ブラネール・デュクリュ(17-18)、さらに、いつもお買い得なクロ・デュ・マルキ(16.5-17.5)、ラグランジュ(16.5-17)というところは30ユーロ台です。ポーイヤックはラフィット、ムートンの次にポンテ・カネが18.5-19で続きます。上がってきましたねえ。ロングヴィユ二つを挟んで、次にバタイエ(17-18) うれしい50ユーロ以下です。ここも2015年のセカンド・ワインLion de Batailleyをリリースしましたが、2014年が30ユーロ台およびそれ以下では、ペデスクロー(16.5-17.5)、ダルマイアック(16-16.5)あたりでしょうか。これも2015年モノはどういう価格になるでしょう。
 サン・テステフではなんと!バレンタインにおなじみのカロン・セギュールがトップ(18-19)で、コス・デストゥネル(18-18.5)の上を行きました。1855年の格付け以来、同族ファミリーで経営を行ってきたこのシャトーは、ご存じの通り、2012年にsociete Suravenir Assurances(ソシエテ・ シュラヴニー・ アシュランス)という保険会社に売却されました。大幅に植え替えを行って、カベルネ・ソーヴィニヨンは、そのポテンシャルを最大限に発揮し、繊細さをもつようになった、とシャトーを取り仕切るローラン・デュフォー氏の記事も添えられています。RVF誌の記事でも、2015年はこのシャトーの新しい時代だと評価していて、水晶のように光り輝く葡萄が、ほとんどブルゴーニュの精神を表している、と面白い言葉をつけています。
 サンテミリオンの全体評価は、おそらくアンジェラスやパヴィの派手な躍進があったからでしょうが、2015年は予想よりもクラシックな仕上がりで、平穏sérénitéと節度sagesseという言葉が試飲で浮かんだとして、あがっています。相変わらずフランスらしい表現です。オーゾンヌ(19-20)に続いて、シュヴァル・ブランにクロ・フールテが並んでいます。(19-19.5) さらにクラシックにふさわしく地味?シャトーが続いています。ラ・ガフリエール(18.5-19)、ボーセジュール・ベコ、カノン(18-19)、ル・ドーム、ベレール・モナージュ、テルトル・ロトブフ(17.5-18.5)。アンジェラスとパヴィは、ヴァランドローとともに17-18。それにしても、サンテミリオンは値が上がりましたね。軒並み三桁で、上位ではボーセジュール・ベコが45ユーロで、はたして2015年モノはどこまでいくでしょうか。
 ペサック・レオニャンでは赤がよかったようで、しかもお値段もそこそこ。オー・ブリオン(19.5-20)、ミッション・オーブリオン(19-20)をのぞいて、二桁。少し順位はさがりますが、マラルティック・ラグラヴィエール、ドメーヌ・シュヴァリエは18-19でともに30~40ユーロ台、ラトゥール・マルティアック(17-18)は20台。16点クラスでは、オリヴィエ、ブラウン、カルボニュ、フューザル(2020年からビオになります)、ラリヴェ・オー・ブリオンはいずれも20ユーロ台。これらのシャトーはなぜか人気がなく、といいますか、そもそもペサック・レオニャン自身に人気がないのでこの価格?オー・ブリオンでさえ、マルゴーやラフィットと比べ、人気がないですしねえ。どれにしてもコスパはいいと思うのですが。
 ポムロールは長らくなかった水準に達したようで、是非とも長く置いておきたい仕上がりです。トップはラフルール(1920)。ペトリュスは18.5-19.5、エグリーズ・クリネ(18.5-19)、コンセイヤント(18-18.5)など。ここはいつものメンバー通りで、しかも値段がきわめて高い。ペトリュスの悪影響です。ドメーヌ・ドゥ・エグリーズ(17-17.5)、ネナン(16.5-17)が30ユーロ台、ラ・ポワイント(16-16.5)で20台と言ったところが、かろうじて手の出るところです。
 さて、2015年はなんと言ってもソーテルヌの年と言ってもいいくらいです。ほとんどマジカルな出来のスーデュイロー(19.5-20)がディケム(19-20)を抜いてトップ。19 点、18点以上が続きます。カイユー(19-19.5)、シガラ・ラボー、ラフォリ・ペイラギー、ファルグ(18.5-19.5)、クーテ、ラ・トゥール・ブランシュ、クリマン(18.5-19.)、ギロー、レイモン・ラフォン、ネイラック(18-19)です。
 それにしても高額のボルドー。5~30パーセントの値上がり続いています。RVF誌でも愛好家をリスペクトすべきと主張しています。そして注意深く選べば、トップスター以外のクリュ・クラッセは50ユーロ以下になっており、プリムースで購買機会はあるはず、と結論しています。あまりの高額に、個人的には、購入拒否のキャンペーンでもしたいくらいです。歴史を見ると、必ず反動があるはずですが・・・。
RVF誌は、これを補うかのようにほぼ20ユーロ以下のロゼのマリアージュを特集しています。それがまた細かい。マリネしたピーマン、生ハムなどのような塩漬け食品、チキン・フライ、ムール貝、サーモンのタルタル、スズキのグリル、マグロ(これにはロゼで最も有名なシャトー・シモーヌなどがあわせてあります)、以下、ロースト・チキンなど、事細かです。食事に合うロゼのトップは、タヴェルのドメーヌ・アングロワール(17点。2014年28ユーロ)、ラングドックのドーピヤック(8.5ユーロ)、シャンパーニュ地域のオリヴィエ・オリオ(これは40ユーロと破格に高いです)、ルーションのル・ロック・デ・アンジュ(17ユーロ)などがあがっています。サシャ・リシーヌの革新的とも言うべきシャトー・デスクランの影響も多分にあると思いますが、最近はロゼの記事も多くなったと思います。ロゼのイメージもおかげでずいぶん変わってきました。