連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.33 2014.01.05

年をあけてもシャンパーニュ

 みなさま、あけましておめでとうございます。今年最初のコラムです。
 年末からつづけてシャンパーニュの話題です。
 昨年最後のRevue du vin de France 誌(n.577) では、50のシャンパーニュ・メゾンの格付けと、そこで作られているシャンパーニュの評価をしていました。基本は、年間30万本以上を売るシャンパーニュの大手「ブランド」(ただし、サロンは6万本)、国際的に販売しているドメーヌの格付けです。
 シャンパーニュでは、年間3億2千万本のボトルが生産され、半分以上の56%はフランス市場で売られています。そのうち、ネゴシアン系メゾンとニコラ・フィアットのような共同組合もしくは連合がおよそ8割を占めます。そのなかのトップが、例のLVMHグループ。モエは3200万本、ヴーヴ・クリコが1600万本で、世界で最もよく売れているシャンパーニュです。
さて、ドメーヌの評価は、一位がルイ・ロデレール(シャンパーニュの「エルメス」と評されています)、二位がポール・ロジェ、三位がボランジェ。以下、十位までは、ゴセ、ドン・ペリニョン(最近はカーヴ主任も異なることもあり、モエ・シャンドンとは別扱いをして評価しています。ちなみに日本では<ドンペリ>ですが、フランスでは<ドンペDom Pé>と呼ばれます。)、ジャクソン、クリューグ、サロン、ドゥーツ、ビルカール・サルモンです。比較的新しいドメーヌのAR Lenoble(14位)、Henri Giraud(17位)、Bruno Paillard(23位)などけっこう上位のランクです。詳細はネットでも、みられます。http://www.larvf.com/,vins-champagne-palmares-marques-roederer-bollinger-la-revue-du-vin-de-france,4362416.asp
 
 さてもう一つシャンパーニュに関する話題。RVFのネット記事、「最良のシャンパーニュはいかにして古くなる(熟成するか)の紹介です。昨年の12月27日に、レストランLe Laurentで催された『パリ、シャンパン祭り』での記事です。

 そう言えば私が、はるか昔、ワインについていろいろ、学んでいたとき、「ワインはビンに入れられて、それから熟成します。ただし、シャンパーニュは別です、ふつうのワインのようには熟成しません」などと言われた経験があります。最初は、素朴にも「へーそうなんだ。発泡するメカニズムが影響するのかな」などと考えていたものです。人によると、早飲みさせてどんどん売る販売側の戦略だったとも。真相はわかりませんが。
 当時は、まだまだフルート型のグラスは普及していなく(30年ほど前です)、というよりもそういうグラスは売っていませんでした。戦前から60年代の古きハリウッド映画でも、比較的新しい(?)『刑事コロンボ』などでも見受けますが、シャンパンは、クープという丸く口が大きく開いた、底の浅いグラスで飲むのが「常識」でした。泡はたしかにそれなりにきれいに見えます。「水を一杯」というとき英語で、a glass of water と言うように、フランス語で「シャンパン一杯」は、 une coupe de champagne とクープを単位にしています。シャンパンタワーもこれでつくりますね。フルートでつくったら、どうなるのでしょう。きわめて作りにくいことはたしかです。
 クープは、シャンパーニュそのものが普及しはじめる十九世紀半ば頃に新たに作られたそうです。多くのワインと同じく。いつもながら伝説があり、クープの形は、マリー・アントワネットの胸、しかも左の胸をモデルにしたという・・・。いや、ルイ15世の愛人、ポンパドール夫人の胸だ、という人もいます。もっともこの型のグラスは、伝説に反して、シャンパーニュ用ではなかったらしいのですが、十七世紀頃にイギリスですでにつくられています。いずれもなかなか真偽のほどはわかりません。
 グラスだけではありません。今や、シャンパーニュのデカンターがあります。シャンパーニュのデキャンティング、こんなことは、当時は、もってのほかでした。飲み方もずいぶん変わったものです。

 さて、RVFの記事は、KrugのNabuchodonosor氏が企画して、1970年代の、13のシャンパーニュを試飲したものです。最初に、そのリストを挙げておきます。ほとんどがマグナムで、垂涎の的です。
  Champagne Charles Heidsieck, Cuvée Charlie 1979 en Magnum
  Champagne Gosset, Cuvée Millésime 1979 en Magnum
  Champagne Ruinart, Dom Ruinart Rosé 1979 en Magnum
  Champagne Louis Roederer, Brut 1979 en Magnum
  Champagne Laurent-Perrier, Brut 1976 en Magnum
  Champagne Bollinger, RD 1976 en Magnum
  Champagne Moët & Chandon, Brut 1975 en Magnum
  Champagne Deutz, Brut 1975 en Magnum
  Champagne Dom Pérignon, Brut Oenothèque 1975 en Magnum
Champagne Veuve Clicquot, Brut Cave Privée Rosé 1975 en Magnum
Champagne G.H. Mumm, Cordon rouge 1973 en Magnum
Champagne Pol Roger, Brut Pol Roger millésime 1973 en bouteille
Champagne Krug, Brut Collection millésime 1971 en bouteille

 参加者のコメントの一部です。
 RVF関係者―古いシャンパーニュは繊細な泡立ちで、若い頃の荒々しい泡立ちは消えている。アロマはより表現的で、はっきりとし、フルーツ感やワインらしさよりも、複雑な味わいになっている。下草やバター、それにグリルした香りで、フレッシュさにかわって、リキュールのような甘い柔らかさがある。光り輝きダイヤモンドのようだ。グランヴァンのなかで、古いシャンパーニュは生き生きとし、時代をもっともよく表している。
 ヴーヴ・クリコ関係者―1975年のヴーヴ・クリコは、きわめて余韻が長く、すばらしい成熟。1979年や73年のようなシャンパーニュは、すがすがしさを、1976年ものは肉付きのよさがある。
 クリューグ関係者―古いシャンパーニュのこの試飲は、シャンパーニュが信じられないほどの熟成能力を示すいいデモンストレーションになった。しかし、古いシャンパーニュへの注目は、ここ10年か15年のこと。40年はたっているこれらのシャンパーニュのアロマは素晴らしい。コ-ヒーやモカの香りもしており、これはシャンパーニュの第二の人生、別の個性だ。

 たしかに古いシャンパーニュは、フレッシュさはないですが、viellessement(ヴィエイスマン、年をとること、つまり熟成)がうまくいくと、ワインとしての味わいが前面にでてきて、泡のもつ清涼感もないことはないのですが、シャンパーニュはワインなのだ、などと当たり前のことが実感されます。
 一時話題になったこともある1907年のエイドシック・モノポールを数年前に飲みました。Uボートに撃沈された客船に積んであったもので、バルト海で長い間眠っていたのを引き上げたものです。その北の海底での低温による保管のよさと、当時の流行で、グー・アメリカンというアメリカ人好みの甘口であったことも幸いして、感慨深い味わいでした。黄金色で、泡もかすかにありました。そういえば最近、エイドシック・モノポールは、グー・アメリカンを復刻していますね。
 機会があれば、是非、古いシャンパーニュをお試しください。

 今年もよろしくお願いします。