連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.30 2013.10.29

AOCシャンパーニュ、今年の葡萄とアジア市場、そして訃報

 アップル社のiPhoneは、先頃、新色を発表し、色合いから、champagne と名付けたようですが、例によって、AOCの名称をめぐって一騒動です。シャンパーニュ名称保護の関係者は、ボルドー色のように一般的となった言葉はともかく、シャンパーニュは、色彩の名称にはならない。それは顧客に、シャンパーニュが作り上げてきた世界のイメージを抱かせるような使い方で、シャンパーニュの名を借用したいと考えているのだろう。これまでも、歯磨き粉や、洋服、靴などにも、シャンパーニュの名が使われることに反対してきたが、今回も同じである。シャンパーニュの組織は、すでに1990年6月2日の法律で、AOCの地理的呼称を他の生産物に使用することを禁じている。例のサンローランの香水の騒動のさいに、この法律にもとづいて、1993年に判決があったように、シャンパーニュの名称は、シャンパーニュ酒に限定される、と。
MLBの優勝パーティでもシャンパンと言っていますので、日本と同様、アメリカでも呼称は、あまり気にしないようですね。シャトーの使用も許可されたし、ナパとかという名前で、ピノノワールの中国ワインが出てきたら、どうするでしょう?そういえば、オバマ大統領のパーティで発砲ワインがでて、一騒動があり、« Korbel Natural, Special Inaugural Cuvée Champagne, California» という表示はだめだが、«Champagne de Californie, Champagne américain, Champagne de New York» はOKだという灰色決着もありました。また« ERMITAGE » マークのカリフォルニア・スパークリングに、ローヌ地区« HERMITAGE » の栽培家が抗議したということもありました。

 フランスは、今年は天候不順で悩まされましたが、2013年の収穫は、44,1百万ヘクトリットルになる見込みです。ここ4年比で、3%減、この数字が大きいか小さいか、どう見たらいいのでしょうか。2012年の歴史的不作よりはましですが。ただ、収穫時期が大幅にずれ込んでいます。ヌーヴォー造りに忙しくなるボージョレーでは、9月末に収穫が始まりました。3週間で、ヌーヴォーに仕立てるが、日本には11月4日から8日には送らなければならない 。突貫工事です。手抜きにならなければいいですが。果実はしっかり熟成していて、質は良さそうです。3500万本が110カ国、11月21日に出回ります。ソーテルヌも同様で、9月末から始まり、10月半ばでも、まだ収穫をしているシャトーもありました。 天候が、貴腐菌の付き具合に影響を与えますが、それを見計らってですから、余計に大変です。
 一方、昨年2012年度のワイン輸出は、56億ユーロになり、2009年に落ちた輸出量を回復し、12%上昇しました。半分は、ヨーロッパ向けですが、当然、増大するアジア市場は、輸出にとって大事です。以前にも書きましたが、Revue du vin de France は中国版も、独自の編集で出ています。中国人は、それを参考に買うのでしょうか。他の地域への輸出が12%であるの対して、アジアへは30%増になっています。総量でいうと、2009年は17%でしたが、2012年には全体の27%がアジアへ輸出されています。すごい数字です。おかげでワインの値段も急上昇。輸出量も、そして価格もアジア、とくに中国で破格になっていくようです。またぞろ、偽物も横行しそうです。なにしろ、中国では2007年から2011年の間にワイン消費量が倍になり、さらに2016年には40%増を予測する人もいます。Lafete, Magaox, Hauterivianというワインがあるくらいです。
中国人のボルドー・シャトー買いは、50近くになり、先月号のRVFにはその地図まで載せるくらいでしたが、今度はフランスワイン産業が中国に進出しています。
Domaines Barons de Rothschild (DBR) は、Shandong地区のPenglaiというところに、15haのブドウ畑をつくり、カベルネとその他七種を植えます。またコングロマリットのLVMH は、Ningxiaに66haの畑を買い、微発砲(ペティアン)ワインをつくり、さらにYunnan.にメルロとカベルネを、はじめて植えるのだとか。高地だがボルドーに気候が似ていると。LVMHの責任者は「ここは新世界、新しい黄金郷だ」と言っていますが、どうなのでしょう。文字通り、「金」を造り出すブドウとワインの錬金術の里となるでしょうか。「中国では、本当の意味で、ワイン造りを知っている人はいない」とも言っています。grapewallofchina を設立したJim Boyce氏は、いままで中国ではワインは贈り物だったが、ワイン消費者にどんどんなっていくと、これまた金のなる葡萄の樹を・・・。彼のA China Wine Blog(http://www.grapewallofchina.com/)をみると、いかにも怪しげな ‘Cabernet Gernischt‘ という葡萄品種の話が載っていますので、興味ある方はどうぞ。

 上の記事は、RVFのネットから拾ったものですが、そのなかで大ショックな記事にぶつかりました。もうすでにご存じの方も多いでしょうが、Savigny-lès-BeauneにあるDomaine Simon Bize et Fils当主シモン・ビーズさんが、お亡くなりになったのですね。10月20日だそうです。運転中の発作のようです。61歳という若さです。
千紗さんからメールをいただいたことがあり、全梗発酵vendange entièreの勉強に若者が最近はよく来るということを、お聞きしたこともありましたが、残念なことに、お目にかかったことがありませんでした。この場を借りて、お悔やみ申し上げます。