連載コラム

連載コラム:堀晶代の知っておきたいブルゴーニュ&シャンパーニュのエッジなお話し Vol.08 2018.06.15

〜シャンパーニュの高い収量が、意味する現状〜

私はおおよそ、ワインに関しては批判精神と遠いライターだ。なぜならワイン造りの現場には、現場ならではの事情があり、ワインを造ったこともない人間が机上で理想論を掲げて非難することは、あまり性に合わないからだ。でも前回のコラムではシャンパーニュの収量の高さを、品質の点で少々文句を言わせていただいた。今回は収量の高さと、シャンパーニュでなかなか発展しないビオ事情に関してである。

シャンパーニュで代々続くメゾンを取材していると、「100年ほど前は、ヘクタールあたり30ヘクトリットルも果汁を得られれば、皆で豊作と喜んだものだ」という話しをよく聞く。そりゃ、そうだろう。フランス北限のブドウ栽培地で、ときに天災もある。しかも当時はトラクターなどの効率の良い機材もなければ、有効な農薬も化学肥料もなく、くわえて戦時下では働き手も減る。30ヘクトリットルで大喜びというのは、かなり妥当な収量だ。

しかし今日、毎年のように100年前より3倍近い(年によっては3倍を超える)収量が可能であることは、何を意味しているのか。もちろん栽培技術は飛躍的に向上している。だがどう好意的に考えても、収量が3倍近く高くなるというのは、ほかの銘嬢地とは逆行している。結論から言えば、シャンパーニュは人気が高いからこそ、ビオへの移行が難しいという現状がある。

基本的にシャンパーニュは販売先に困らない。むしろ供給量が足りない。栽培面積を増やしても、やはり供給不足となる。ならばヘクタールあたりの収量を上げていくことになる。収量規定は毎年の天候推移と栽培状況、前年の販売量から推測した当年や翌年に供給可能な現在庫、数年後の供給量などを考慮して決定されるが、ざっくりと言えば「量の確保」が優先されている。つまり量を確保するためには、病害などで収穫を失うのはロスとなり(よって、農薬による病害からの保護は不可欠となる)、さらに量産するためには化学肥料に頼らざるを得ない。また需要の高さはブドウの価格にも反映されており、今はブドウの価格は自由競争とは言え、フランスでキロあたりのブドウの価格がもっとも高価なのもシャンパーニュだ。良心的な栽培農家もいるものの、ビオやリュット・レゾネで苦労しなくてもブドウが売れてしまうのも、シャンパーニュである。農薬は安価ではないので乱用はないとしても、ビオやリュット・レゾネに真剣に取り組んだ場合の人件費・労力・時間を考えると、より着手しやすいのは、「度を超えない程度の、農薬や化学肥料の使用」となる。

7年前、シャンパーニュ委員会に「シャンパーニュにおけるビオの現状」を尋ねると、「シャンパーニュにおけるビオ実践者は、まだまだアウトサイダー的な存在で、シャンパーニュのビオの耕作面積は全耕作面積での0.7%に留まる(フランス全域ではシャンパーニュを含め、ビオの耕作面積は6.1%)」という具体的な回答を頂いた。つい最近に今日のビオの現状を再び尋ねると、「当委員会では、ビオに関しての情報は公開していません。ビオを実践している代表的な生産者に直接お尋ねください」とのこと。シャンパーニュは地域全体で、ボルドーと同時期に2003年という早い時期から、CO2削減対策などサステナブルな改革を前面に押し出しているが、サステナブルとビオは重複する部分がありながらも、実践となると異なってくるものだ。フランスで「Vin de luxe(ブランド的なワイン)」と崇められ、同時に皮肉に風刺されるふたつのワイン産地が、サステナブルを積極的に(意地悪く言えば声高に)取り組むのも、ある意味、納得ができる。

次回もシャンパーニュに関するコラムとなりそうだが、テーマは「高い収量と樹齢、そしてサステナブル」にしようかと思っている。