連載コラム

連載コラム:堀晶代の知っておきたいブルゴーニュ&シャンパーニュのエッジなお話し Vol.07 2018.05.04

シャンパーニュの収量と酸、そして味わい

以前のコラムで、シャンパーニュのヴァン・クレール(瓶内二次発酵前のベースワイン)のテイスティングについて書いたことがある。シャンパーニュはフランス北限のワイン産地ということで、ヴァン・クレールの酸は半端なく強い。連日ヴァン・クレールをテイスティングしていると、3日目くらいから歯がキシキシと痛くなってくる。多くのヴァン・クレールは、もし瓶内二次発酵をせずにこのままワインとして販売すれば、酸っぱすぎて商品価値は下がるだろう。

高い酸は、北限の地という地理的条件だけではなく、シャンパーニュ特有の土壌とも関係している。しかしもうひとつ考えられるのは、シャンパーニュの収量の高さだ。よく「シャンパーニュは他の産地に比べて収量が非常に高い」と言われるが、1ヘクタールあたりの収量規定がブドウの重量(キロ単位)で発表されるので、どれくらいのヘクトリットルなのかが分かりにくい。シャンパーニュの搾汁は、4000キロのブドウから2050リットルのテート・ド・キュヴェと500リットルのプルミエール・タイユ、合わせて2550リットルが認められているので、搾汁率は63.75%となる。そこで2017年ヴィンテージの収量規定をふり返ると、1ヘクタールあたり10300キロ、つまり約66ヘクトリットルである。今世紀に入ってもっとも収量規定が高かったのは07年で15500キロ、つまり約99ヘクトリットルだ。実際にはここにプラスアルファでリザーブワイン枠もあるので、トータル収量はさらに上がる。ほかのワイン産地、たとえばブルゴーニュでもっとも高い収量が認められているクレマン・ド・ブルゴーニュで65ヘクトリットルなのだから、シャンパーニュの収量がいかに高いかがよく分かる。

今までに何度もシャンパーニュの収穫作業に参加したが、高い収量に加え、おもに収穫人への報酬の支払いが出来高制であることと(摘めば摘むほど収入はアップする)、選果台の普及率が非常に低いことから、未熟果は必ずと言ってよいほど混入する。未熟果は搾汁しても果汁があまり出ないという特徴はある。また高い酸は瓶内二次発酵や瓶内熟成において有利に働くというメリットはあるが、やはり成熟したブドウからの美しい酸が好ましい。

3年前、ある大手メゾンのプレスティージュ・キュヴェに収量について醸造長に話しを伺うと、「私たちのプレスティージュ・キュヴェは、テート・ド・キュヴェの中の1700リットル以下しか使用しない。これはヘクタールあたりで、シャンパーニュとしてはきわめて低い

約45ヘクトリットルの収量に相当する」と言われたが、なんとなく誤魔化されたような気がしたものである。収量のコントロールとは、選果、その前にグリーン・ハーヴェストがある。グリーン・ハーヴェストでは遅いという考えの生産者もおり、結局は春の正確な芽搔きや、冬期剪定でブドウのなる主枝の長さを熟考することまで遡るものだ。アッサンブラージュでヴァン・クレールの使用量を制限して、「収量が低い」というのは少し違う。実際にそのプレスティージュ・キュヴェは、プレスティージュとしては少し物足りないものだった。

酸の質もあるが、収量の高さのもっとも大きな問題点は風味に影響すること。ふつうのスティルワインなら収量が高すぎると、凝縮感や集中力に欠けた薄っぺらな風味になるが、シャンパーニュの場合は複雑な醸造プロセスを経た割には、中盤の膨らみの少なさや複雑性に乏しくなる傾向があるように思う。

シャンパーニュの特性を考えると、けっして超低収量がベストではないだろう。それでも優良な生産者は、規定量より1~2割は収量を抑えていると話すことが多い。安定した供給量や価格という事情もあるものの、品質の点では、現行の収量規定は緩すぎる。