連載コラム

葉山考太郎の「新痛快ワイン辞典」 Vol.15 2019_01_11

葉山考太郎先生が1999年に出版した『辛口・軽口ワイン辞典』(日経BP社)の続編です。ワインに関する用語が、葉山先生特有の痛快な語り口で解説されています。今回は、「ヌ」「ネ」「ノ」で始まる語をお届けします。今回は新年特別号ということで豪華付録つき(ノーベル賞受賞祝賀晩餐会で供されたシャンパーニュリスト)です!

【見出し語について】
(1) アルファベットで始まる語はカタカナ表記で配列した。【例】AOC⇒エー・オー・シー
(2) シャトーやドメーヌが付くものは、それを除いた見出し語で収録した。【例】シャトー・ラヤス⇒ラヤス、シャトー
(3) 人名は、「姓+名」で収録した。【例】ロバート・パーカー⇒パーカー、ロバート



■ぬ■

ヌーヴェル・キュイジーヌ (Nouvelle cuisine)
1970年ごろから大流行したフランス料理。現在も主流。安全な有機食品を使い、脂肪が多すぎない軽めのフレンチ。また、それまで金持ちの料理だったレストランのフレンチが一般の人にも食べられるようになった。食事が軽くなった影響で、ワインも軽めの作りになる。昔、ボルドーでは、20年以上熟成させてやっと飲み頃になる「タンニン爆弾」を作っていたが、2000年以降は、「リリース直後に飲んで美味い、20年熟成させても美味い」造り方をするようになった。昔から、シャンパーニュとブルゴーニュを「偏食」していた私は、最近、抗ボルドーの免疫力が急激に低下し、少しのタンニンでノックアウト状態。トホホ……。(関連項目:ゴー・ミヨ、ミシェル・ゲラール)

ヌーヴォー(nouveau)
収穫してその年に出荷するワイン。ボージョレでは40%以上がヌーヴォーになるし、ボージョレ・ヌーヴォーが大当たりしてから、イタリアのヌヴェッロをはじめ、あちこちで造るようになった。何と言っても、ワインを造って2ヶ月後に金が入ってくるのは生産者にはとてもオイシい。ただし、ヌーヴォーとして出せるワインは法律で決まっているし、次の年の8月31日まで。【関連語:11月第3木曜日、ボージョレ、ジョルジュ・ドビュッフ】

抜き取り(ぬきとり)
ワインがらみの盗難の「古典」。ケースの木箱のふたを開けて、1本抜き取り、釘を打ち直すもの。1ケースは約20kgと重いので、1本抜かれても家で開けるまで気付かない。ケースで買ったらその場で開けて、12本あることを確認しよう。もちろん、抜き取られるのは、高級ワイン。世界最高値のロマネ・コンティのケース(抱き合わせ)は、抜き取りを防止するために、鉄のベルトが巻いてある。【関連語:ケース、ロマネ・コンティ】搾ってから熱処理をしていない日本酒。再発酵しないよう、マイクロ・フィルターで濾過する。デリケートな味わいがあり、フィルター嫌いのロバート・パーカーに飲ませると面白いかも。なお、「生貯蔵酒」は生酒状態で貯蔵し、出荷直前に火を入れ、「生詰酒」は火を入れて貯蔵し、出荷のときはそのまま。どちらも一回火入れしているが、字面から「熱処理」は想像できず、逆に高級感を出しているところがウマい。この2つも生酒と呼ぶ場合があるので、まぎらわしい。(関連項目:日本酒のパーカー銘柄)

■ね■
ネーミング(naming)
商品の売れ行きに物凄く影響するもの。覚えやすいワインの名前の条件が、「短い」か「不思議」。両方なら完璧。(1)短い:パルメ、マルゴーみたいに4文字以内。プロ野球の名前で「ブルー・ウェーブ」と「カープ」のどちらがキリリとしているか考えればわかる。(2)不思議:高校の生物の授業で、ランゲルハンス島や海馬が出てきて、何で膵臓に島があって、脳に馬がいるんだ!?と驚いた瞬間に覚える。例えば、ダルマジ、エスト! エスト!! エスト!!! 。【関連語:女性名、パルメ、マルゴー、ダルマジ、エスト! エスト!! エスト!!!ディ・モンテフィアスコーネ】

ネガティブ・セレクション (negative selection)
悪いものを取り除いて良いワインを作ること。フランスで高級ワインを作る場合の方式。進学校で、落ちこぼれをふるい落として学校のレベルを保つようなもの。この反対の高級ワイン製造方法がカリフォルニア方式のポジティブ・セレクションで、優秀な生徒を集めて特別授業を実施するようなもの。(関連項目:ポジティブ・セレクション)

ネクター(nectar)
欧米のワイン雑誌がデザート・ワインを誉める時に必ず使う言葉。欧米での意味は、「トロリとした蜜のような飲み物」「黄金色に輝く極上の酒」で、最高の賛辞だけど、日本ではどうしても「不二家のネクター」からの連想で、ピーチ・ジュースを思い浮かべてしまう。これと同じく、意味がぜんぜん違うのがサイダー。日本じゃ透明の炭酸水を思い浮かべるけど、欧米ではリンゴのお酒。子供は飲ませてもらえない。【関連語:ベリーニ】

ネゴシアン・マニピュラン(Negotiant Manipulant)
NMと略す。自分の畑で獲れる分だけでは足りないので、ヨソからゴッソリと葡萄を買い付けてシャンパーニュを造る巨大生産者。モエ・エ・シャンドン、ヴーヴ・クリコ、テタンジェ、ボランジェなど、聞いたことのあるシャンパーニュ・ハウスはすべてこれ。RM(レコルタン・マニピュラン:個人生産者) が「トウチャン社長、かあちゃん専務」の町工場としたら、NMはトヨタ。品質は高いが、面白みに欠けるかも。パリでのNMの価格はRMの2倍だが、日本では、RMの方が高く、NMの生産者が日本のワイン・ショップを訪れては、「なぜ、ウチのシャンパーニュがこれより安いんだ?」と怒ったりする。【関連語:シャンパーニュ、レコルタン・マニピュラン】

ネ・デュ・ヴァン(le nez du vin)
ワインの香りの表現力を訓練するため、いろいろな香りのエッセンスを詰めた小さなボトルを数十種類集めたもの。4、5万円とエラく高価なので、貧乏人は、デパートの地下お惣菜コーナーへ行って、鼻の訓練をする。初めはどう表現すればよいか苦労するが、だんだん慣れる。なお、通勤の電車やバスの中でも、30秒経つと匂いが全く変わりビックリする(匂いに集中すると、結構疲れる)。【関連語:嗅覚、臭い】

ネプチューン (Neptune
ローマ神話に出てくる海の神様。ギリシャ神話ではポセイドン。三叉の矛、トライデントを持ち、下半身は龍。ある日、酔っ払ったネプチューンが「俺は今年、1,000人の人間を溺れさせた」と豪語したところ、後ろから声がした。「俺なんぞ、毎日、1,000人を溺れさせているぞ」。振り返ると、バッカスがワインを持って立っていた。チャンチャン。

■の■
ノア(Noah)
アダムの10代目の子供で、元祖大酒飲み。ノアは、箱船に乗ってアララット山にたどり着き、そこで葡萄を栽培しワインを造った。これを飲んだノアはすこぶる健康で950才まで生きる。ワインを浴びるほど飲んでいる欧米の大酒飲みが「赤ワイン健康法」として必ず言い訳に使う有名なお話。【関連語:パンと赤ワイン、赤ワイン健康法】

のうかのアスピリン(農家のアスピリン)
日本の卵酒に相当するイタリアの風邪薬。暖めたミルクに蜂蜜とグラッパを混ぜたもの。アメリカの「風邪薬」は、昔からチキン・スープ。アメリカのテレビCMで、本気でチキン・スープと効き目を比較していた風邪薬があったほど。(関連項目:カフェ・コレット、グラッパ)

ノーベル賞(ノーベルしょう)
戦争の主役、ダイナマイトで大儲けした罪滅ぼしに、アルフレッド・ノーベルが資金を提供してできた賞。設立当時は、キュリー夫人初め、ノーベルへの偽善に反発した人も多かったが、今では、世界で最も権威のある賞に。数学や絵画・音楽部門がないので不公平と言われ続け、佐藤栄作が1974年に平和賞を受賞して以来、ノーベル賞(特に、平和賞)への疑問が決定的になる。受賞記念晩餐会ではシャンパーニュが供されるが、どんな基準で選んでいるのか全く不明(1901年以降のシャンパーニュの銘柄の詳細は、添付付録1を参照。
▶添付付録1:︎http://www.adv.gr.jp/files/informations/2019/0111/Nobel_Banquet_champagne.pdf
ヴーヴ・クリコが1回も選ばれていないのは相当不思議。【関連語:キュリー夫人、笹川良平、佐藤栄作】

濃厚なワイン(のうこうなワインのジョーク)
ローヌの生産者が、間違って世界で一番渋い赤を作ってしまった。ロバート・パーカーがそれを試飲して、顔をしかめて言った。「もう少しタンニンが乗っていれば100点なのに……」【関連語:ロバート・パーカー】

飲まない理由(のまないりゆう)
フレンチ・レストランで4人の男が、ワインではなく水を飲みながら食事をしていた。なぜ、ワインを飲まないかと聞かれて、フランス人「好きなワインがないんだ」、アメリカ人「ワインが高いんだ」、日本人「RP90以上のワインがないんだ」、ロバート・パーカー「今は仕事じゃなくて、プライベートの食事だからね」

(下ネタ注意)ノンアルコール・ワイン 
あるワイン好きの97歳のジイサンが病院に来てニコニコ顔で医者に言った。「先生、半年前に再婚した私の嫁は22歳なんですが、昨日、私の子をみごもったって言われたんです。毎日、ボルドーの赤ワインを飲んだ効果ですね」。医者はしばらく考えて言った。「あなたはワイン好きなので、ロバート・パーカーのことはご存知ですよね? 試飲能力が異常に高くて、同じワインを1年後に目隠しで試飲しても、点数は1、2点しか違わないそうです。そのパーカーが、『ノンアルコール・ワイン』とラベルに書いてある1本3ドルのワインを飲んで、『素晴らしい。100点だ。このワインは、ペトリュス1990年に勝るとも劣らない』と驚いたというんですよ」。老人は大笑いして言った。「先生、アルコールなしのワインでそんなことはあり得んでしょう。あるとすりゃ、ボトルの中身をペトリュス1990年にすり替えたんですよ」「そういうことです」【関連語:ロバート・パーカー】

ノン・ヴィンテージ物 (non vintage)
色々な畑でできた、色々な収穫年の白黒葡萄を混ぜた「老若男女国際混声合唱団」的なシャンパーニュ。色んなものを混ぜるのが、シャンパーニュの基本の基本。最も安価で生産量も圧倒的に多いが、生産者のブレンド技術が出るので、プロは重視する。ノンビン、NVと略す(フランス語ではSA)。【使用例:やっぱ、通はノンビンでしょ】