連載コラム

葉山考太郎の「新痛快ワイン辞典」 Vol.05 2017_11_03

葉山考太郎先生が1999年に出版した『辛口・軽口ワイン辞典』(日経BP社)の続編です。ワインに関する用語が、葉山先生特有の痛快な語り口で解説されています。今回は、「き」と「く」で始まる語をお届けします。

【見出し語について】
(1) アルファベットで始まる語はカタカナ表記で配列した。【例】AOC⇒エー・オー・シー
(2) シャトーやドメーヌが付くものは、それを除いた見出し語で収録した。【例】シャトー・ラヤス⇒ラヤス、シャトー
(3) 人名は、「姓+名」で収録した。【例】ロバート・パーカー⇒パーカー、ロバート



■き■

キール・ロワイヤル (Kir Royal)
カクテルの一種。白ワインとカシスをブレンドしたのがワイン通に有名な「キール」。白ワインの代わりにシャンパーニュを使うのが「キール・ロワイヤル」。シャンパーニュにある3ツ星レストラン、「レ・クレイエール」でこれをオーダーすると、客の前に空のフルート・グラスを置き、左手に持ったカシスを1滴入れ、右手のシャンパーニュを満たす。所要時間5秒で、泡が湧き上がる琥珀色のカクテルが出来上がり。

ききざけし(きき酒師)
1991年から日本酒サービス研究会(SSI)・酒匠研究会連合会が認定する民間資格。試験には、筆記、口頭試問、きき酒がある。かつては、受験認定講習会(1万8千円)という1日コースを受講すれば、業務経験に関係なく誰でも受験できた。そして、合格して認定を受けるには、連合会に入会し(入会金1万円、年会費1万2千円)、認定料(2万5千円)を払った。総額6万5千円。酒関係の資格はどれも高価で、入会と抱き合わせがほとんど。現在は、会場や在宅や通学や2日間の集中コースによる受講と受験が可能。通信コースまである。(関連項目:SSI)

きほんぎじゅつこうしゅうかい(基本技術講習会)
かつて、日本ソムリエ協会がソムリエ試験の直前に実施していた2日間の超人気講習会。ワイン全般を復習するコースらしいが、その目的で参加した人は皆無。超満員の秘密は試験に出る箇所を重点的に解説してくれたこと。国家資格でこんなことをやると、2001年に国家試験問題の漏洩で廃校の危機に陥った奥羽大学歯学部みたいに大問題になるが、民間資格はおおらかだった。で、不慣れな講師の退屈な講義が始まると、テープレコーダーをセットして退席する人も多かった。

キュヴェ・ヨシコ (Cuvee Yoshiko)
山形県の武田ワイナリー(地元の発音は、「たぎだワイナリ」)で作るシャンパーニュ方式の完全手作りスパークリング・ワイン。シャルドネ種だけを使ったヴィンテージ物のブラン・ド・ブラン。希少価値が高く、ワイン・ショップではドンペリより高値がつくこともある。ハリケーンとワインの名前には、女性名を付けるのが世界的傾向で、「ヨシコ」はオーナーのお母さんの名前。なお、武田ワイナリーは、涼しい気候を利用したピノ・ノワールの赤も得意。(関連項目:女性名、ドンペリ)

『教養としての料理・ワイン・レストラン』
内田増幸著、1998年、産能大学出版部刊。「はじめに」に書いてある「日本人として高名な音楽家でも、日本食に偏りフランス料理を優雅に味わうのが苦痛なら、世界レベルから見下される」が全てを語る。全編に鹿鳴館的な考えが流れ、著者が教養人とグルメを「自負」しているためか、参考になる箇所が多いのに、読んでいて何度も不愉快になる。60ページあるワインの項は、怪奇と不思議と謎に満ちている。

ぎんじょうこう(吟醸香)
リンゴ、梨、ブドウ、桃、メロンなど、昔の清酒には有り得なかった吟醸酒のフルーティーな香り。この香りの素は、低い温度で沸騰して飛ぶため、温度コントロールが大変らしい。吟醸酒はワインのグラン・クリュに当たる最高位なので、飲ませてもらったら、無条件に「フルーティーな香りがしますね」と言えば、「キミ、判ってるねぇ」とどんどんイイ物が出てくる。(関連項目:吟醸酒、特定名称の清酒、パーカー銘柄の日本酒)

ぎんじょうしゅ(吟醸酒)
元は、吟味して醸造した清酒の意味。1920年代、酒造技術を競う全国新酒鑑評会で使われ始め、1975年の「清酒の特定表示」で一般に広まった。フルーツの香り(いわゆる吟醸香)のする全く新しい種類の清酒。江戸時代からあるように思うが、誕生して40年ほどの超人気新人。(関連項目:きき酒師、吟醸香、全国新酒鑑評会、特定名称の清酒、パーカー銘柄の日本酒)


■く■

空中小姐 (クウチュウシォオネエ)
中国語で「女性のキャビン・アテンダント」のこと。なかなか感じが出ている。台湾や中国の空中小姐は、教養豊かなエリート上流階級のシンボル的職業なので、とても威張っている。エコノミー・クラスに乗った貧乏人が紅酒(赤ワイン)を頼んでも無視され、着陸直前に持ってこられてビックリする。今度乗ったら、「極上のスマイルを下さい」とお願いしようと思う。

グット・エー (Good A)
ワインを大量に飲む人が泣いて喜ぶ地上最強の肝臓薬。ワイン会の直前に5錠のめば、3本くらいならスイスイ飲めて、全く酔っ払わない。ヘパリーゼより効果が高い分(当社比デス)、探すのが大変で値段も高い。「Good」をグッドではなくグットと読ませるところが怪しく、『ぐっと飲む』にかけてあるようで正統派の雰囲気に欠けるが、ワイン関係者からの信頼度は抜群。(関連項目:ヘパリーゼ)

グラン・シエクル (Cuvee Grand Ciecle)
ローラン・ペリエ社の最高級シャンパーニュ。凝縮感があり、すっきりした酸味が心地よい。プレスティージ物なのに、3つの年のブドウを混ぜたノンヴィンというのが超ユニーク。1990年ごろからヴィンテージ物やロゼも見かけるようになった。さすが、「シャンパーニュの百貨店」と言われるローラン・ペリエ。いろんな種類を出している。(関連項目:ローラン・ペリエ)

グラン・ピュイ・ラコステ、シャトー (CH. Grand Puy Lacoste)
メドック5級格付け。ステータスが世界最高のポーイヤック村でコスト・パフォーマンスが良いワイン。サンテステフ村のオー・マルビュゼ、サンテミリオン地区のラ・ドミニクのような存在。地味だけどしっかりした作り。古酒も良い。でも、名前が長くて覚えにくいので、いつも損をしている。そのあたりの事情も通好み。(関連項目:オー・マルビュゼ、ポーイヤック、ラ・ドミニク)

クローン (clone)
ブドウ栽培の専門用語。同じブドウ品種でも突然変異などで少しずつ異なる種の総称。同じ父母から産まれた兄弟のようなもので、学校の成績は悪いが働き者、性格は良くないが美人など、人により特徴がある。だから、苗木を注文するときは、品種名(家族の名前)だけじゃなく、クローン番号(兄弟の名前)まで指定する必要がある。