連載コラム

葉山考太郎の「新痛快ワイン辞典」 Vol.04 2017_09_29

葉山考太郎先生が1999年に出版した『辛口・軽口ワイン辞典』(日経BP社)の続編です。ワインに関する用語が、葉山先生特有の痛快な語り口で解説されています。今回は、「お」と「か」で始まる語をお届けします。

【見出し語について】
(1) アルファベットで始まる語はカタカナ表記で配列した。【例】AOC⇒エー・オー・シー
(2) シャトーやドメーヌが付くものは、それを除いた見出し語で収録した。【例】シャトー・ラヤス⇒ラヤス、シャトー
(3) 人名は、「姓+名」で収録した。【例】ロバート・パーカー⇒パーカー、ロバート



■お■

オークだる(オーク樽)
ワインやウィスキーを入れる樽。正式には、1丁、2丁と数える。樽材にオークを使う理由には、①オークに含むタンニンやポリフェノールがワインに風味を与える、②長い年月に渡って保存しても、液洩れしない、③中の液が蒸発しない等いろいろあるが、一番大きなのは、④ヨーロッパのワイン生産地のまわりに、たくさん生えている、ではないか?

オークの木 (oak tree)
ワインやウィスキーの樽の材料になる木。「樫」と訳すが、日本の樫はアジア特有の種。欧米の oak は、日本のコナラ、ミズナラ、カシワなので、「樫」より「楢」が妥当。最近の英和辞典にはoakを「楢」と訳すものが増えた。「楢」の字の下に「寸」を加えると「樽」になるのが暗示的。(関連項目:コルク・オーク、樽香)

おうさまのみみはろばのみみ(王様の耳はロバの耳)
イソップの有名なお話。例えば、牡蠣にシャブリ、キャビアにシャンパーニュは大定番。ヨーロッパのさる書籍によると、実際にそんな組み合わせを試した人のうち、2割はホントにウマいと思い、4割は本に書いてあるのでウマいと信じ、2割は判断できないとのこと。残りの2割は、食通の人でもイマイチと思っているが、「合わない」と広言するのは味オンチと言われそうで、ちょっと怖い。そんなときは、空ビンの口に「王様の耳はロバの耳 」と吹き込んでコルクを打つとスッキりするかも。(関連項目:キャビア、マリアージュ)

オスピス・ド・ボーヌ・スキャンダル (Hospices de Beaune scandale)
ブルゴーニュの超名門生産者、オスピス・ド・ボーヌの不正事件。フレッシュさを出すため発酵前に酒石酸を入れるのが補酸で、アルコール度を上げるため砂糖を加えるのが補糖。ブルゴーニュでは補酸と補糖の併用を禁じているが、1997年のオスピス・ド・ボーヌで併用が露見。「あの超名門までが……」と大騒ぎに。でも、恒例の競売で価格は暴落せず、「市場は受け入れた」と報じられた。日本の政党が不祥事を起こす度に総選挙を行い、解散前と同数の議員が当選して、「国民は許した」と言うのと同じ。でも、2017年の東京都議選みたいに、大きなしっぺ返しを受けることがあるので注意。(関連項目:シャプタリゼーション、ブシャール・スキャンダル、補糖)

おたすけワイン(お助けワイン)
『ワイン6ヶ国語辞典(柴田書店刊)』に載っていた不思議な言葉。他のワインに混ぜて、欠点を補うための化粧品的ワインらしい。と言うことは、ボルドーではカベルネ以外は全部これ? それにしても『白浪五人女』の一人、「おさらばお伝」みたいに語感の面白い言葉。

オロナミンC (オロナミンシー)
1965年に発売開始の元祖スタミナ・ドリンク。テレビCMでは1976年から2001年と「四分の一世紀」にも渡り巨人の選手を起用したため、「ジャイアンツ御用達の清涼飲料水」のイメージが定着(私は今でもそう思う)。従って、昔、京阪神地方、特に、甲子園球場近くで飲むと、非国民扱いされたし、市町村民税が3倍になった(5倍にすべきと思う)。ボルドーのレストランでブルゴーニュをオーダーするのも同様で、とても危険。なぜか、シャンパーニュは、どこで頼んでも文句を言われない。


■か■

かいめいのりゆう:おもてむき(改名の理由:表向き)
ボルドーの超名門、ダルマイヤックは3回も名前が変わった。1956年、ダルマイヤックは発音し難いし、アルマニャックと間違えることを恐れて「ムートン・バロン・フィリップ」に改名。1976年、フィリップ男爵は死去した妻の追悼のため「ムートン・バロンヌ(男爵夫人)・フィリップ」に変える。男爵が1987年に死去し、フィリピーヌは、ムートン・ロートシルトと間違えやすいと、元の「ダルマイヤック」に戻す。いずれの場合も、「間違いやすい」が改名の最大の理由だが、陣内孝則と陣内智則を間違えないように(でも、水野真紀と水野美紀は判別不能…)、値段とラベルが全然違うので、ムートンやアルマニャックと間違えようがないのでは?

かいめいのりゆう:ほんと(改名の理由:ホント)
ボルドーの超名門、ダルマイヤックは3回も名前が変わった。フィリップ男爵(現当主、フィリピーヌの父)の妻、リリーは第二次大戦中、ユダヤ人収容所で逝去。1954年、男爵はアメリカ人の美人有名デザイナー、ポーリーヌ・フェアファクス・ポターを後妻に迎える。先妻所有のダルマイヤックをポーリーヌが相続した際、後妻と不仲だった娘のフィリピーヌは、「ダルマイヤックの名前には生母の思い出があるので別名を使ってほしい」と要求。2年後、ムートン・バロン・フィリップに改名した。1976年にポーリーヌが死去し、男爵は追悼のためムートン・バロンヌ・ポーリーヌに改名しようとしたが、継母を嫌った娘は猛反対。結局、ムートン・バロンヌ・フィリップで妥協。男爵が1987年に死去し、フィリピーヌがムートンを相続した後は(1989年から)、生母の頃の名前であるダルマイヤックに戻す。シャトーの改名にも、感情の生々しいもつれがある。

かいゆう(回遊)
マグロやカツオなどが群れを作り、季節ごとに海を移動すること。シガーは「ワインの伴侶」と言われて久しいが、良いシガー・バーはとても少ない。このため、1990年代のシガー・ファンには、特定のシガー・バーをグルグル巡る回遊現象が見られた。東京地区の回遊コースの一例が、「シガー・クラブ(ウェスティン・ホテル@恵比寿)」⇒「ル・コネスール(渋谷)」⇒「ハバナ・ルーム(南青山)」⇒「ランズ・エンド(西麻布)」⇒「パフ(六本木)」⇒「ル・コネスール(銀座)」。この中で、20年経った今でも同じ場所で営業しているのは1店だけか?

かくいつか(画一化)
在来種を引き抜いてカベルネ・ソーヴィニヨンかシャルドネを植え、著名な醸造コンサルタントと契約し、新樽に仕込んだワインを500ケース作り、パーカー・ポイント95点を目指すこと。更に、マクドナルドのハンバーガーを食べ、LLビーンズのジャケットを着れば完璧。新樽熟成、フル・ボディーの微量生産ワインは稀少価値が最高のはずだが、世界のどこでも見かけるし、同じ味・香りなので、ワイン・ジャーナリストも昔ほど感動してくれない。

カゴ
プロ用語。シャンパーニュのコルクが飛ばないように押えている針金。ワイヤーとも言う。(関連項目:金属キャップ)

かとりせんこうすたんど(蚊取り線香スタンド)
シャンパーニュのワイヤー(カゴ)は、超小型椅子にするのが唯一のリサイクル法と思っていたら、蚊取り線香のスタンドも作れるらしい。直木賞作家、山田詠美の短編『姫君』に出ていたもの。シャンパーニュと蚊取り線香がどんな状況で出会ったんだろう? 興味津々だけど詳細は書かれていない。(関連項目:『A2Z』、カゴ、金属キャップ)

カフェ・コレット (Cafe Corretto)
エスプレッソに同量のグラッパを混ぜたもの。コーヒーの苦みやコクにグラッパが妙にピッタリ合い、癖になりそうな味だ。イタリアン・レストランで食後にオーダーすると通の雰囲気が出る。原語は「修正されたコーヒー」という意味で、ベネトの人は、これが正しいコーヒーだと思っている。(関連項目:グラッパ、農家のアスピリン)

かふんしょう(花粉症)
杉の花粉に対するアレルギー症状。外語大でスペイン語やイタリア語を専攻したけれど、巻き舌が出来なくて悩んでいる外語大生がいるらしいが、それと同様にツラいのが花粉症のソムリエだろう。初春から二、三ヶ月間、鼻が利かなくなるし、クシャミの100連発。これが理由で、ソムリエ・コンクールは秋や冬に開催するのだろうか。

カミュ、アルベール (Albert Camus)
不条理がキーワードのフランス人作家。44才でノーベル文学賞を受賞し、賞金でプロヴァンスに家を買う。車で家から760キロ先のパリに向かう途中、ブルゴーニュのマコン、ムルソー、ボーヌを通り抜けた直後、スリップ事故で死亡。直前の昼食で飲んだのはボージョレーのフルーリーだった。代表作『異邦人』に登場する主人公の名前はムルソー。不思議にブルゴーニュと縁のある作家だった。享年46。

かめんはっこうびーる(下面発酵ビール)
発酵が進むと、酵母が底に沈むビール。発酵温度は低く、発酵期間も4~6週間と長い。静かにゆっくり燃える修道女みたいで、ピルスナー系の穏やかな味、香りになる。良く言えば洗練されているが、悪く言えば、特徴がない。チーズに例えると、何の癖のない、お子様用プロセス・チーズ系。日本の大手メーカーが作るのはこれ。(関連項目:上面発酵ビール)

カリュアド (Carruades)
本来はラフィットやムートン周辺の地名。ワイン通はラフィットのセカンド、「カリュアド・ラフィット」の略称として使うが、ライバルのムートンも一時、カリュアドを名乗ったことがあった。1927年は大不作でムートンのラベルを貼るワインができず、「カリュアド・ド・ムートン」の名前で販売。でも、全く売れなかった。赤いパンストにテニス・ボールを3ダース詰め込んだようなカリュアドのラベル絵は、1993年に売り出した「スゴン・ヴァン・ド・ムートン」でそのまま流用。さすが、ムートン、転んでも只では起きない。(関連項目:カリュアド・ド・ラフィット、セカンド、ムートン・カデ)

ウルトラ・ブリュット (Ultra Brut)
甘味を全く加えない超辛口シャンパーニュの一般名称。通好み。しっかり冷やすと、ほんのり甘味を感じるらしい(添加糖分は0~3g/リットル)。ローラン・ペリエ社のもの以外、ほとんど見かけない。

かるわざし(軽業師 :voltigeur)
下に沈まないワインの澱をフランスでこう言う。雰囲気の出た言葉。ほとんどの人は知らない用語なので、サラリと披露するとカッコイイかも。なお、瓶の底にこびりついた澱を「寝業師」と言う(ウソ)。想いを寄せる女の子の家でのワイン会に参加し、食い過ぎてトイレで「大」を排泄したあと水洗レバーを引き、キレいに流れたか心配でじっと見ていると、水が全部排水されたあとで、案の定、フワフワと「欠片」が呑気に湧き上がることがあり、そんな欠片は正に「軽業師」。

カンディンスキー、ワシリー (Vasili Kandinsky)
1971年のムートン・ラベルを描いた超有名ロシア人画家。母校、モスクワ大学で法学を教えていたが30才で絵に目覚めミュンヘンへ。世界で最初に抽象画を描いたのがこの人で、薄暗い中で横向きに置いた自分の絵を美しいと感じたのが「大発明」のきっかけ。要は、絵の上下はいい加減ということ。寒天で培養した赤や緑のカビや、顕微鏡で見た極彩色のプランクトン風の絵が得意。ムートン・ラベルへの登場は死後30年近く経ってからだし、原画はムートン美術館ではなくポンピドー・センターに展示してある。いろいろ不思議。

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