連載コラム

遠藤誠の「読むワイン」 Vol.03 2017.08.11

「フランスワイン文化史全書」を読む。

この本はワイン愛好家の間ではあまり知られていないかもしれない。だが、多くのワイン本のネタとして密かに読まれている本、それがロジェ・ディオンの「フランスワイン文化史全書」だ。

例えばドン・ペリニヨン。皆さんはかの偉大な修道士の存在が、どこまでが真実で、どこから伝説なのかをご存知だろうか。

はたまた、ルイ14世の宮廷でシャンパーニュがブルゴーニュとの争いに敗れ、赤ワインからスパークリングワインの産地へと変貌を遂げたという逸話に、どれほどの虚構が混ざっているのか。

ブルゴーニュは?ローヌは?フランスが誇る銘醸地の真実の歴史が次々とあからさまにされていく。なんとも衝撃的でワクワクしてくること請け合いだ。

更に言えば、ワインを教える人間にとり必読の一冊と言える。真実を全て伝える必要はないが、真実を知らずに語る講義は底が浅く退屈なものだ。

ただし。この本は手強い。大著である上に難解なのだ。当たり前のように未知の地名が頻出し、文意を理解するためにグーグルマップを首っ引きになる。おまけに本は分厚く重く、持ち運びに撒かないと来ている。さらに厄介なことに、あまりのネタの宝庫は読み飛ばすには勿体無くメモを取りながらの読書となり、やたら時間がかかる。しかしそれだけの価値ある本であることは間違いない。夏休みやお正月の時間が取れるときに、是非とも挑戦してもらいたい。

題名:フランスワイン文化史全書
著者:ロジェ・ディオン
出版社:国書刊行会



「『鮨からく』流 ワイン好きに喜ばれる和のつまみ」を読む。

「かんぴょう巻きにはピノ・ノワールがよく合う」。えっ!と思うよな一文から始まるこの本は刺激に満ちている。銀座の「鮨からく」の大将である戸川基成氏が、ロオジェのシェフソムリエ中本聦文氏の協力を得て書き上げた一冊だ。

からくと言えば一貫ずつに異なるワインを合わせたマリアージュコースがある寿司屋として、鮨好きのワイン愛好家の間で有名なお店。その大将がワインに合うつまみを提案し、中本ソムリエがばっちり相性の良いワインを紹介する。なんとも贅沢な内容で、戸川大将と中本ソムリエの抜群のマリアージュが随所に発揮されている。

ページをめくる。登場する伝統的な寿司屋のつまみはもちろん美味しそうなのだが、戸川大将は徐々にヒートアップ。和のつまみと言いながら、ラー油を使う、バターを使う、オリーブオイルを、ワインを、キャビアをというように、和食の範疇を軽々と飛び越え自由な発想を楽しんでいる。またそのつまみの写真の美味しそうなこと。家庭でも簡単に作れそうなレシピも嬉しい。

一昔前ならワインといえば合わせる相手は洋食と相場が決まっていたが、最近は和食や中華、エスニックなど様々な料理とのマリアージュが話題なっている。皆さんもこの本を片手に国境を超えた自由なマリアージュの世界を楽しまれてはいかがだろうか。

題名:「鮨からく」流 ワイン好きに喜ばれる和のつまみ
著者:戸川基成
出版社:世界文化社