連載コラム

連載コラム:佐藤くらら陽子のブルゴーニュ日記 Vol.09 2016_10_06

収穫も終盤を迎えたブルゴーニュより、こんにちは、佐藤くらら陽子です。

10月に入り、すっかり秋に突入しているブルゴーニュです。朝晩もぐっと気温が下がり、9月初旬までは22時まで明るかった空も、今では18時を過ぎると暗くなり始めます。

今年のブルゴーニュのブドウは4月の遅霜に続く、6月の長雨などの影響で天候被害を受け、それでも実をつけたブドウがようやく熟成し、収穫の時期を迎えました。 ブルゴーニュ全体の収穫は、昨年より約2~3週間遅れの9月中旬過ぎてのスタートとなりました。

サビニ・レ・ボーヌのシモン・ビーズでは9月21日から収穫が始まりました。(昨年は2日から始まったので、約20日遅れになります。)
朝7:15に収穫隊がドメーヌに集合。昨年に比べ約半分程の人数となり、少し寂しい印象です。7:30にトラックに分乗し、畑に向かって出発。畑に着くと各々はさみとバケツを持ち、収穫隊長のエディに指定された畝にスタンバイ、一斉に収穫を始めます。
実際に畑に入ってみると、ブドウの樹には沢山の葉が付いているのに、ブドウの房がありません。4月の遅霜で芽が枯れ、実を付けたブドウは少なく、コート・ド・ボーヌ近辺の畑は平均8割のブドウを失っていると聞きます。
色々なアペラシオンの畑に行ってみると、畑の条件(日照量・畑の傾斜など)によりブドウの有・無やブドウの健康状態の違いがわかります。 風向きや日照量の得られる畑はブドウを実らせ、成熟した甘いブドウができています。(つまみ食いで判断!)畑のミクロクリマを実感です!
作業開始時は寒いほどの気温、空も薄暗いのですが、太陽が昇るのと同時に明るい光が畑に注ぎ、収穫人のテンションも上がってきます。(日中は25度を超す暑さで、最後は皆Tシャツ姿になります。)
そして、9:00を過ぎると、お待ちかねの「カスクルート」と呼ばれる朝食タイムです。ドメーヌからの応援部隊がフランスパン、ハム、チーズ、チョコレート、ワイン、コーラ、コーヒーなどをデリバリーしてくれ、畑の中で各々自作のサンドイッチをワイン片手に頂きます。早朝からの作業で、少し疲れが出てきた所での休憩朝食タイムなので、収穫隊は盛り上がり、大自然の中での朝食を満喫します。
そして、また掛け声と共に、もといた畝に戻り作業再開です。
作業中も勿論、手より口の方が動いているのはおしゃべりなフランス人達です。そして何よりも楽しそうに作業をします。
そんなフランス人達にもイライラのタイミングがあります。
その① お腹が空いた時(カスクルートの時間が遅れたり、ランチになかなかありつけない時)。彼らは「お腹空いた~」を連呼し、イライラしてきます。
その② 疲れてきた時(腰が痛くなってきた時はイライラがマックスになります)。ブツブツ文句を言い、事あることに「疲れた~」と言い続け、人に同意を求めてきます。
その③ ブドウがない時。これが一番ひどい。 収穫するブドウが見当たらない樹にあたった時や探してもブドウが見当たらない時、切るブドウがなく手持ち無沙汰になった時、ブドウがないことに
対して愚痴を言いだします。その文句は尽きることなく、今年の天気を呪うかのように、天候被害(ブドウだけでなく自分の庭や、プライベートなことに絡めて、)について同じことを延々と話しだします。
特に③のイライラは正に今年特有のイライラで、今年の収穫を物語っているようでした。
お昼に近づくと作業を中断し、ドメーヌに戻ります。まずは、ビールでのどを潤し、一呼吸。それから長いテーブルに全員付き、用意された手作りランチを頂きます。(もちろんワインも!)
食後は、午後の作業の前にお昼寝タイム。13:30出発で再び畑に戻ります。

私は、午後は選果隊としてドメーヌに残り、畑から運ばれてくるブドウを待ちます。ブドウが到着すると選果台の前に4~6人でスタンバイ。トラックから流れてくるブドウに注視し、葉や茎、痛んでいる所を鋏で取り除きます。もちろん収穫する際に畑でカビや、傷んだ部分は取り除かれますが、今年のブドウは入念に選果台でのダブルチェックを要しました。
選果台にゴロゴロと揺れながら回転して流れてくるブドウを見ていると目が回ります。しかし、タンクに入る手前のブドウの最終チェックの重要な作業です。そこはしっかり目を見開き選別。こちらは立ち作業になり、畑とはまた違う腰痛と膝痛を伴う重労働。疲労感は否めませんでした。(畑によってブドウの状態が良いものは選果台を使用せず、タンクに移す際の軽い選果機に掛けるだけのものもありました。)

そして夕方17時に作業終了。使用した全ての機械・道具を水掃除します。清潔は徹底されていて、ブドウ一粒も残しません。

シモン・ビーズは21日に始まり、29日の午前中ラトリシエール・シャンベルタンの収穫で幕を閉じました。収穫したブドウのトラックを先頭に、収穫終了の知らせとお祝いのクラクションを鳴らし続け、ドメーヌに帰ります。
ドメーヌに戻ると、「ポレ」と呼ばれる打ち上げです。バーベキューが用意され、大量のビールとワインとで、夕方まで続く大宴会となりました。

今年の夏の天候は不安定で、8月なのにセーターが必要な日もあればその翌週にはプールに行くほどの猛暑の日が続き、その後、急に嵐。人の体でさえもついていくのに大変でした。
しかし、不思議なことに、バッカスのお陰か9月の第3週からの2週間は素晴らしい好天に恵まれ、ブルゴーニュの収穫が開始となりました。

そして、ことシモン・ビーズにとっては好天の収穫日和の中収穫を終えることができました。なんと、収穫の終わった翌々日に終日雨が降り、雨を免れることができました。(本当にラッキーでした。)
千砂さん曰く「パトリックが私に21日に始めて30日までに収穫を終わらせるようにと言ったの」(まさに雨の前!)
22hある畑のコンディションは場所によって様々で、収穫日、収穫人の人数、進行状況を確認しながらの的確な判断で、パトリックの指示通りに計画を進めた千砂さんには本当に脱帽です。
今年の畑の状況を目の前にし、私でさえも切ない気持ちになるのに、千砂さんはとても厳しい顔でブドウの樹を見つめ、自ら畑に入り、収穫人達に励ましの声をかけながら一緒に作業をされていました。
今年のブルゴーニュは全体に収量が少なくなりますが、この最後の好天のお陰でブドウの状態は健全で良く熟成しています。従って、ワインの価格は高騰するのは間違いなく、また、「特別な年」とされたヴィンテージのワインとなります。(11月でのオークションが楽しみな反面、怖くもあります。)
これから私は、収穫されたブドウがどんなワインに仕上がっていくかを見守っていきたいと思います。

でわ!また