連載コラム

岩瀬大二のワインボトルのなかとそと Vol.01(2018_12_28)

〜苦悩と凱歌。シャンパーニュとロック・ミュージックの素敵な関係〜

レッドカーペットから赤提灯まで。世の中のいろいろなことと、ワインやお酒の楽しみ方を結んで広げるワインナビゲーター、酒旅ライターの岩瀬です。これからこちらで、世の中のいろいろなことと結びつくことでよりワインを楽しんでいただける、そんなお話でご機嫌をうかがいます。

今年、映画界最大のヒット作のひとつと言えば「ボヘミアン・ラプソディ」が挙がるでしょう。70年代~80年代の最強ロックバンドとして伝説に残るクイーンを描いたもので、当時のファンだけではなくそのころの彼らを知らない若い世代も巻き込み、「現象」となっています。リード・ヴォーカルであり稀代のロックシンガー、フレディ・マーキュリーのカリスマと物語もまた映画に花と涙を添えていますね。
僕の世代だと、最初の体験は、77年リリースのアルバム「News of the world(邦題:世界に捧ぐ)」あたり。このアルバムの代表曲は「We will rock you」「We are the champions」。全英2位、全米3位、日本でもオリコンで2位を獲得しました。僕は小学校5年生でしたが、通っていた品川区の小学校は、海外の文化には割と早熟な子供たちが多く、ひとつ、二つ上の先輩方が熱狂していた、ベイ・シティ・ローラーズ、キッス、チープ・トリックといったロック・ミュージックがクラスの話題でした。以降、遡ったり追いかけたりライブに行ったりとクイーンを追いかけていく中で、僕のオールタイムベストという曲は「Don’t stop me now」デヴィッド・ボウイとの共演による「Under Pressure」、フレンチポップを思わせる「You’re my best friend」などいろいろありますが、そんな中に「Killer Queen」があります。

さあ、ここからが本題。この曲に登場する主人公は、フレディ・マーキュリーによれば、貴族のような上級クラスの女性。だけれども魅惑的な娼婦のようにもなる、というようなことらしい。つまりどんな男だっておかしくさせられるような人、というイメージとのこと。「だったらケーキはどうよ、とまるでマリー・アントワネット」や「キャビアにシガレットに礼儀作法にも精通」、「香水はこだわるけど、車には興味がない」、加えて「彼女がいれば冷戦も丸く収まる」(歌詞では当時のトップ、アメリカ・ケネディ、ソ連・フルシチョフが登場)というのだからなかなかすごい。そんな主人公のプロフィールを曲の冒頭でフレディはこう歌いあげます。「彼女の見事なキャビネットにはモエ・エ・シャンドンが用意されている」。1975年に発表された曲、そのころ英国人である彼らが魅惑のアイテムとして象徴したシャンパーニュが、モエだったのです。

シャンパーニュにあう音楽と言ったら…やはり、クラシックですとかオペラというのがイメージでしょうか。もちろん文化的な面、芸術的な意味合いでいえば、また、シャンパーニュが持つ優雅で繊細なテイストや楽しみ方に、こうした音楽が合うのは当然ともいえるでしょう。ただ、これはシャンパーニュの一面にしかすぎないのかもしれない、と思うのです。アカデミー・デュ・ヴァンで僕はシャンパーニュの二面性というテーマで講座を持っていましたが、優美でありながらも人々の苦悩や凱歌ともよりそってきたのがシャンパーニュの魅力でもあります。それはロックも一緒。生産者や関係者にもロック好きは多いんです。

以前、私が編集長を務めるシャンパーニュ専門WEBマガジン「シュワリスタ・ラウンジ」のパーティで、ポル・ロジェ社のパトリス・ノワイエル社長(当時)をお招きしたことがありました。その際に恐る恐る、「実はあなたのプレステージキュヴェであるサー・ウィストン・チャーチル96を、夜、一人で、キンクスのTo the boneというアルバムとあわせて飲むのが好きなんです」。キンクスは60年代にブレイクし、後のロックシーンに影響を与えた英国4大バンドのひとつとされる(ビートルズ、ローリングストーンズ、フー)バンドです。のちにヴァン・ヘイレンなどにカバーされますが、UKパンクやパブロック、90年代のブリットポップなどに大きな影響を与えました。
パトリスさんは目を見開き両腕をあげ、「僕は、学生時代にロンドンに留学していたんだが、かなり悩み苦しんでいた時期だった。そのときに、キンクスのライブにはよく足を運んだよ。よし、もし、君が今持っているなら今日のパーティのBGMはキンクスとUKロックだ!」。最近のシャンパーニュパーティのBGMはクラブやラウンジ音楽ばかりで退屈だと、おどけた笑いがとても格好よかったことを思い出します。
そのブリットポップといえばオアシス。マンチェスターの兄弟バンドの数々のビッグヒットの中、「Champagne supernova」という印象的な曲があります。マンチェスターのワーキングクラスヒーロー、もがいてきた彼らが描くシャンパーニュの姿もまた、苦悩や凱歌と寄り添ったものでした。

これは楽しい一冊だ。
幕末に条約批准などでアメリカやヨーロッパに渡った使節の人々の日記から洋食の感想を丁寧に拾い集めた本。

苦悩と凱歌、79年、ニューヨークではドン・ペリニヨンがその象徴として描かれました。ビリー・ジョエル。大ヒットアルバム「52nd street」の1曲目にしてライブのクライマックスを飾る定番曲。主人公のロックシンガーは、自分がビッグスターになることを夢見ていますが、もがいてもがいて苦悩の中。その憂さ晴らしとやらかしの夜と朝。そこに登場するアイテムがドン・ペリニヨン。若くして才能を見出されながら挫折、逃げるように活躍の場を求めた西海岸でも挫折。ニューヨークに戻ってきて「The Stranger」でようやく成功。で成功したからこそ、また苦悩、重圧…。この曲には当時のビリーの今が詰まっていて、そこでやらかしてしまった日々にドン・ペリニヨンがあって…。


シャンパーニュは祝祭のお酒で、でも苦悩のそばにあるお酒でもあって、エレガントである一方で土から生まれた命のお酒でもある。1年に1度の最高のドレスと土にまみれたデニム、どちらもそのボトルの中にはある。それがいい。ロックスターたちが描くシャンパーニュのように、みなさん、苦悩と凱歌、勝負と平穏、緊張と解放、それぞれにシャンパーニュと寄り添った物語があることでしょう。

僕がMC/DJをするお酒イベント、シャンパーニュでの乾杯。乾杯!のその声でかける曲はマイケル・ヴーヴレの「It’s a beautiful day」。彼女と別れてせいせいした!なんて曲だけど、それは僕の意訳では、彼女ではなく、今までの苦悩からの解放!だから凱歌!2018年、いろいろなことがあっても、2019年、素敵な物語がきっとあることでしょう。シャンパーニュで幸せを。

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