連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.91 2018_12_21

~ワインと伝説~

カルロス・ゴーン氏の逮捕で、日仏の産業関係がいささかきな臭くなって、というか落としどころはどうなるか、今のところ先行きが見えないように思えます。実はRVF誌でゴーン氏にインタビューをしたことがあります。2013年2月号No.568の冒頭インタビューです。レバノンのワイナリーIXSIR (ALTITUDES)に出資しているからということでした。インタビューでゴーン氏は、2007年、レバノンのイクシールでの栽培をはじめた。作付面積は66haあり、耕地の気候がワインのフィネスを生んでいる、またシャトー・アンジェラスのBoüard氏を相談役にしていると語りながら、心情も吐露しています。曰く、長く携わってきた自動車産業とは正反対のもの、地域やテロワールを表す高貴なものを産出することに興味を覚えた、ワインも自動車も私たちに夢を見させてくれる。来年(2014年)で60歳になり、ワインで第二の人生をおくるかもしれない、と。残念ながら、そういう暢気な人生ではなくなったのも気の毒な気もします。ワインは、カベルネ・ソーヴィニヨン、カラドック、シラー、テンプラニーリョと、めちゃ濃そうなセパージュ。ワイナリーの名前は、アラビア語iksirから来ていて、Elixirの原語だそうです。Elixirとは錬金術、金属を「金」に変身させる化学術で重要な「賢者の石」を意味する、とHPで書かれています。近年の西洋思想氏研究では、錬金術や占星術はオカルトというよりも近代科学を生み出す母胎となったとして評価されています。ではゴーン氏にとって自動車産業は、錬金術だったのでしょうかね。そしてワイン産業も。自動車とワインのゴーン伝説が生まれるはずだった?

ところで、ゴーン氏の出身地レバノンはキリスト教徒も多いらしく、クリスマス・ツリーを飾った写真などもネットではアップされています。アメリカではもはや「メリークリスマス」はタブー視され、「ハッピーホリディズ」と言うようになって久しいですが、ヨーロッパではどうなのでしょう。西洋絵画史で取り上げてきた古典的テーマに「東方三博士の礼拝」というものがあります。蒼々たる画家、ジョット、ボッチチェリ、ベラスケス、ルーベンス、レンブラントなどがこのテーマの絵画を描いています。イエスが生まれたことを知った三人の博士(占星術者とか王とも言われることがあります。)が星に導かれて生誕地のベツレヘムまでやってきて、聖母マリアに抱かれた幼子イエスに礼拝し、贈り物を献上するというものです。三人の博士はガスパール、メルキオール、バルタザールという名で、それぞれヨーロッパ、アジア、アフリカの三大陸を象徴しており、三人がイエスの前にひざまずくことは、世界がキリストにひれ伏すことを意味するとも言われています。そりゃ、非キリスト教徒はカチンときますわ。日本だけが脳天気なのですかね。

このキリスト教伝説には、ワイン用語がいくつか含まれています。ワインの瓶のおおきさはボルドーとシャンパーニュで微妙に違います。マグナムの次、4本分の瓶の大きさは、シャンパーニュではジェロボアームですが、ボルドーではドゥブル(ダブル)・マグナム、ジェロボアームは5リットル。ただ1978年までは4.45リットルでした。ここまでは飲んだことがありますが、それ以上は見たことしかありません。そのうち二つが上記の博士と同じ名前です。バルタザールが12リットル、16本分。これはボルドー、シャンパーニュ共通。メルキオールは24本分です。他の大型瓶も含め、いずれも旧約聖書から来ている名前です。ただ、今でも例えばピエールやらミシェル、シュミットやら、同名が多いヨーロッパです。この名前も実は王様の名前だったりして、たまたま三博士と同名というわけです。それから「幼子イエス」というのもブーシャールのボーヌ・グレーブのワインでありますね。こちらは、ブルゴーニュのカルメル会の修道女マルゲリットによる、ルイ13世(1610-43)の世継ぎのための祈りに端を発し、ルイ14世(1638-1715)誕生にあたって、カルメル会への葡萄畑と幼子イエスの木像の寄進したことに由来していますね。ブーシャールが、1791年に一部、1889年に、畑のすべてを買収して出てきたワインです。フランスにいたとき、話のネタによく買ってお土産にしました。コスパが良かったのですが、今ではもうかなりお値段が上がりました。

ブルゴーニュの最近の伝説といえば、アンリ・ジャイエでしょうか。先頃ジャイエ残りのオークションを行ったジュネーブのBeghera Winesが今度は、DRCのオークションを行いました。1363本、そのうち158本がマグナム。3本のジェロボアーム(3リットル)で、ヨーロッパのさる人の個人コレクション出自だそうです。誰や?The secret cellar of an European collectorと名付けられています。

ロット番号174は1937年から1991年のロマネ・コンティ12本、当初評価は10万から16万ユーロ、決着した価格は48万6600ユーロ。最高値でした。ロット173は1934年、1953年、1971年のロマネ・コンティ・マグナム。4万から8万3千ユーロの見込みが21万7千ユーロ。1934年も、戦後初のはずの1953年もきわめてよかった経験があります。1934年は35年と比較飲みをしましたが、35年は素晴らしいロマネ・コンティで、34年はそれを上回る経験知、といってもたいしたことはないですが、経験をはるかに上回るものだったので、マグナムだとひときわすごいでしょう。グラスの四分の一だけでも飲みたい・・・。ロット195はモンラッシェ15本。15万5800ユーロ。そういえば、DRCはコルトン・シャルルマーニュでも2019年から生産を始めるという話がありました。モンラッシェと抱き合わせで売るのでしょうか。

このオークションの買い手の15%はフランス人ですが、70%はアジア人と。中国人がその半分かなあ。ゴーン氏ほどの財産があればオークションに参加できますが・・・。

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