連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.04 2017.09.08

~ボルドー2014・2015再評価~

夏休みも終わり、RVF誌はもとの分厚さに戻り、フランスはワイン祭Foires aux vinの季節が巡ってきました。秋はフランス語でautomne 英語のautomnで古フランス語autompne が語源らしいですが、収穫が増える、と言うような意味があるそうです。ドイツ語ではHerbst、英語のharvestに当たる言葉で、文字通り「収穫」、です。記憶が定かではないですが、収穫期という意味合いでこの言葉を使っていたが、当時(中世)は、「秋」は意味しなかった、つまり、四季ではなく、春夏冬しかなかったということを聞いたことがあります。ともあれ、四季があると、再び巡ってくる、という感覚が湧き上がります。実際、人類の時間感覚は、循環型、円環型が一般で、直線型は希少のようです。ユダヤ教には「救世主(メシア)待望」思想というのがあります。現状の悲惨な状態を、救世主が救ってくれる、現在と救世主の登場する時期とが、これによって一直線で結ばれるわけです。キリスト教もこの延長で、イエスこそ、この救世主と考えたわけです。直線をイメージとするこの時間感覚は、同じく直線時間を前提とする近代科学とマッチして、現代の私たちの時間感覚をつくっています。それでも四季の巡りという循環的な時間感覚は根強く残っているのかなあ、とも思います。

それは、ともかく今月のRVF誌は、ワインの祭りの情報でほとんど、パリのスーパーを始め、フランス中のワイン店の目玉商品をのせています。当方は、指をくわえて見ているだけです。最近の傾向として高額ワインではなく、お買い得ワイン情報がメインとなっており、各スーパーとも30ユーロ以下がほとんど。健全です。Nicolasは低価格と驚きのワインで、チャンピオン、と評されています。60パーセントが10ユーロ以下、36%が7ユーロ以下。日本展開しないかなあ。ボン・マルシェデパート横のグラン・デピスリー(なじみだったのでつい見てしまいます。)ここも低価格ものを載せていますが、ミッション・オー・ブリオン2004が114ユーロ、ダグノーのピュイ・フュメ2012が、48.90ユーロといったところは、今回最高値。

さて、特集記事のもう一つは、ボルドー2014/2015の再評価です。表題は「2015は当然ながら最高(sublime崇高という言葉を使っているほどです)、2014はやや手に入れやすい」、といきなり高価格の予想です。ここも毎度おなじみで、2000年から2016年プリムールまでの53のクリュ・クラッセを各シャトー別で、一覧表が掲載されています。ただ破格値のペトリュスやディケムなど、載せていないシャトーもいくつかあります。

表には驚くべき数字が並んでいます。2000年の平均値が74.83ユーロ。2000年代前半は出来が悪かったので、値も下がりますが、2005年に一気に128.62ユーロに跳ね上がり、2007、2008、2013を除いて三桁が続いています。最高値は2010年の238.46ユーロ。愚痴を繰り返し書くようですが、ラランドやドュクリュ・ボーカイユ、コンセイヤント、フィジャックを毎日飲んでいた日々が懐かしい・・・。プリムールについては、「2016年は価格は上がったけど、それほどでも」ってやっぱり上がっているやん!上に書いたフィジャックですが、2010年には62.40ユーロ。2016年は210ユーロ!プチ・ミレジムは、それでも二桁に戻っているので、2012、2013くらいなら手に入るかな。でもこれはあくまでプリムールなので、現在はいくらになっているか・・・。ボーカイユは2010年が74.90ユーロ、2010年は215.30ユーロ!!2016年のプリムールが195.60ユーロなので、やはりプリムールで買うべきなのでしょうね。ポンテ・カネは2004年からビオになっていますが、当時は価格にそれほど反映されなかったのでしょう。2010年の35.90ユーロから二桁半ば50台でしたが、2010年に137.90ユーロになります。それ以後、また二桁に戻りましたが、2015年に102ユーロ、そしてとうとう2016年には155.50ユーロになってしまいました。良心的値段で応援していたのですが。おまえもか!憂鬱になる数字が並んでいますが、記事の最後には、「それでも最近のブルゴーニュより安い」、と。

2010年くらいから、ワインそのもののあり方が変わってしまいました。残念です。

で、ここで問題です。2000年のプリムール価格と2010年、2016年を挙げます。それは次のどこのシャトーでしょうか。端数は切り捨てています。

(1)132ユーロ、311ユーロ、414ユーロ

(2)187ユーロ、245ユーロ、252ユーロ

(3)187ユーロ、1420ユーロ、666ユーロ

(4)304ユーロ、1600ユーロ、816ユーロ

(5)62ユーロ、98ユーロ、67ユーロ

(6)40ユーロ、78ユーロ、100ユーロ

(7)74ユーロ、281ユーロ、166ユーロ

シャトーは、(a)クリマン(ソーテルヌ)、(b)コス・デストゥネル(サン・テステフ)、(c)アンジェラス(サン・テミリオン)、(d)スミス・オー・ラフィット(白、ペサック・レオニャン)、(e)エヴァンジル(ポムロール)、(f)オーゾンヌ(サン・テミリオン)、(g)ラフィット(ポーイヤック)から選んでください。

正解は、後ほど。

表と記事をみると、2010年がほぼ最高値で、それに続くのが2015年です。2014年は、その影に隠れていると言っていますが、それでも平均値は、2000年代では、2010、2015、2011年に続いて、四番目です。ともあれ、2015年はまだ飲めない、というか飲むのにはふさわしくないでしょうが、比較的マイナーなシャトーはたしかに、30ユーロ以下ですので、こういうものも押さえどころでしょう。サン・テミリオンのFerrand(18ユーロ)、Grand-Pontet(23)、Chauvin(29)やポムロールのCatemerle(30)は16点以上の評価です。日本では、それほど人気がないペサック・レオニャンの白は、2015年も2014年もけっこうな評価なので、お好きなら。Olivier、Cohins、そして安定しているCarbonnieuxがお薦め。そしてソーテルヌは両年共に、かなりの高評価。安い段階でゲットして寝かせておけば、ネクターが飲めます。RVFのお薦めはRaymond-Lafonです。

それでは、問題の正解です。

(1)(c)アンジェラス、(2)(e)エヴァンジル、(3)(g)ラフィット、 

(4)(f)オーゾンヌ、 (5)(a)クリマン、  (6)(d)スミス・オー・ラフィット、

(7)(b)コス・デストゥネル 

 相変わらず、人気のないソーテルヌでした。ソーテルヌ好きにはうれしいですが。それにしてもオーゾンヌはすごい値段。おしなべてサン・テミリオンの価格がとくに上がっています。次回のプリムールは、どうなるでしょう。収量減が影響するでしょうか。