連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.67 2017.01.23

ブルゴーニュの抱える問題

 年末に出版されたRevue du vin de France誌の特別冊子でブルゴーニュ特集が組まれました。輝かしい成功が続きながらも、ブルゴーニュが抱える問題を指摘しています。最近とくにニュースに取りあげられる雹や嵐といった気候の問題。地価および土地にかかる税金の高騰という問題、葡萄の病気と老化問題です。
 その前にいくつかクイズ。
 2015年の統計ですが、ブルゴーニュでは赤と白、どちらが多く生産されているでしょうか。その割合は?
 答え。白です。白ワインは62%、赤ワインとロゼは28%、クレマンが10%です。白と赤の生産量がかなり違いますね。赤ワインの名声が高いおかげで、こんなに差があるとは思いませんでした。総量として1億8000千万本になり、額としては15億2千万ユーロになります。
 ではこれを踏まえて次のクイズ。
 シャルドネやピノ・ノワールなどのセパージュはどういう割合でしょう。
 答え。シャルドネが48%と半分近く。ピノ・ノワールは34%、ガメイが10%、アリゴテは6%、その他2%となっています。
 次のクイズ。ブルゴーニュの販売ルートの比率はどうでしょう。デパート、スーパー等での販売、酒屋や直販などの伝統的ルート、輸出の比率です。
 答え。輸出が49%!デパートなどは22%、酒屋などは29%です。半分が輸出されているのですね。推測ですが、ひょっとして、輸出されているのは赤、それに高級な赤が多いのではないでしょうか。ですから、生産量に関するイメージも、実情と異なっているのかもしれません。
 ブルゴーニュの葡萄作付面積は2万8841ヘクタールです。3850のドメーヌ、300のメゾン、17の組合がそれに関わっています。グラン・クリュには33のAOCがありますが、それは生産量のわずか1%にしかすぎません。
ちなみに、リュ=ディ(lieu-dit)とクリマは、あわせて1463もありますが、リュ=ディの方は中世にまで遡ることができる概念で、必ずしもワインとは結びついていません。クリマはAOCと結びついていますが、ワインの商品化に伴い、とりわけ17世紀から18世紀にかけて発展します。その最初が1683年のシャンベルタンです。テロワールの細分化と特定化は、18世紀とくにリンネの植物分類の影響をうけ、フランスの百科全書派によって進められました。それまではワインの税金を納める関係から、単純に「ボーヌのワイン」、「ディジョンのワイン」としか言われていなかったものが、村の名前付きで売られるようになりました。またボルドーのみならずブルゴーニュもイギリスに多くの顧客をもっており、ロンドンに立てられたブルゴーニュの修道院にいたクロード・アルヌー(Claud Arnoux)という僧侶が、ロンドンのブルゴーニュ愛好家のために『ブルゴーニュとそこが産するワインについての論文』(1728)を出版し、はじめてブルゴーニュのコート・ドールの地図を載せました。そこでは18のクリマとそのワインの特徴を述べているそうです。1752年にはボーヌの議会が、ワインにその実際の生産場所を記す歴史的な決議を行い、それ以降クリマは現在に至るまで増え続け、検定受験生や顧客を悩ませているわけです。
 さて、RVF誌の指摘する問題です。
 ドメーヌやネゴシアンの方々の意見です。―― 60年代ではブルゴーニュ・オルディネールとヴォルネイ、ミュルソーを同じ価格で売っていた。実は70年から80年代からブルゴーニュは発展したにすぎないが、それに続く幸運で葡萄畑は栄華をえた。しかし、例えば近年襲う春の雹は多くの畑に被害を与えている。温暖化で冬は暖かくなり、新芽が早く出るようになるところへ、うち続く春の嵐は葡萄に悪影響を与える、と気候がもたらす難しさを挙げています。
 次は土地価格の問題です。
 ワイン価格の高騰は、土地価格の高騰と連動しています。当然、税金も。ムルソーのようなグラン・クリュでは、1ヘクタールで4千万ユーロ、プルミエール・クリュで500万ユーロします。1997年時点で、プルミエール・クリュ13ヘクタールを購入するのに200万ユーロだったのが、2007年には3.5ヘクタールで7百万ユーロもしたというドメーヌもいます。
 土地と税金の高騰がドメーヌを直撃するので、葡萄の樹の植え替えもままなりません。なにしろ植え替えると、収穫可能になるまで収入が減るわけですから。先ほど挙げた気候問題がこれに追い打ちをかけています。2016年の雹の被害で80%も葡萄を失ったドメーヌの嘆きも聞こえてきます。
 これはドメーヌの相続にも影響を及ぼし、多くのドメーヌがこの危機に瀕しているという指摘もあります。中にはドメーヌは所有できても葡萄畑を手放さなくてはならないケースもあります。日本の相続税にも似た問題ですが、毎年1.5%の畑が所有者を変えているとか。大手の寡占、あるいは海外資本、銀行、保険会社の投資先になって、なにがしかの「変質」が起こるかもしれません。フィリップ・パカレのようなネゴシアンとしてワイン造りをするのも時代の流れでしょう。
 さらにブルゴーニュでは70年代、80年代の生産至上主義と化学肥料投入時代に植えられた葡萄が多く、それが葡萄の樹の老化とあいあまって、病気が蔓延しているという指摘があります。
 新しい世代の栽培家にしても、相続だけでなく、新規に参入しようとしても大きな壁が立ちはだかっているわけです。
 これを踏まえ、RVF誌は、コート・シャロネーズとマコンを取り上げ、12のドメーヌを推奨しています。François Lumpp, Joblot, Theulot, Lorenzon, François Raquillet, Vincent Dureil-Janthial, Bret Brothers, Denis Jeandeau, Château des Rontets, Eric Forest, Guffen-Heynen, de la Bongran です。18-33ユーロでお買い得です。またブルゴーニュのグラン・クリュに隠れた6つの地域も推奨しています。Saint-Aubin, Saint-Romain, Marsannay, Hautes-Côtes-de-Nuits, Bourgogne Éoineuil, Bourgogne Côtes d'Auxerre です。いずれもお試しあれ。

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