連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.56 2016.02.22

ワインの古典派?

 「赤ずきん」、「長靴をはいた猫」、「シンデレラ」、「眠れる森の美女」と言えば、ペローの童話集でももっとも人口に膾炙した物語です。そのシャルル・ペロー (1628-1703)は、かのドン・ペリニヨン師(1638/1639―1715)とまったく同時代を生きた太陽王ルイ十四世(1638―1715)に仕えています。アカデミーで彼は「ルイ大王の世紀」という詩を発表します。同時代を称えるその詩は物議を醸し出します。これに対し有力な文人であったボワローという人が反論し、新旧論争として呼ばれる論争になります。文化、思想を含む広い意味での西洋史では、ギリシア・ローマ文化という古典古代文化を軸に、それとどう向き合うかという思考の枠組みがあります。新旧論争とは、文字通り、新しい現代の文芸文化が優れているのか、それとも古典古代文化のほうが優れているのか、という論争です。アメリカの批評ではなかなかないですが、フランスのワイン批評では、しばしば「古典的classique」というボキャブラリーが登場します。フランスの『ワイン言語辞典』でも記載されていて、伝統に忠実な製法と味覚を示すワインとなっています。ボルドー・プリムールでも、高評価ではない年にしばしば使われます。有坂さん曰く「何も言うことがないときはクラシックというのよ。」とのことですが。
 先月のRVF誌のジュヴレー・シャンベルタン特集でも「古典派と現代派Les “classiques“ et les “modernes“」と題する評がでています。それによると、90年代からこの流れは出てきており、近代派には、例えばPerro-Minot,Dugat-Py,Charlopinなどのドメーヌ、古典派にはTrapet,Leroy,Confuron-Coteditotが挙げられています。近代派は、完熟した葡萄を除梗し、木樽熟成によって表情豊かなスタイルで、肉付きがよく、果実味がある。エレガントで複雑である。一方、古典派は、全梗発酵を行い、植物的特徴をしめし、若いときは渋いが、絹のなめらかさがあり、洗練している。ただ現在、この両派の際だった特徴は見極めにくくなっており、新しい世代が生まれつつある。そのドメーヌである、David Duband, Bertille, Cyprien et Romain Arleud, Alexandeine Royなどはジュヴレー・シャンベルタンにおける改革の波を示している、ということですRVF雑誌では2013年のジュヴレー・シャンベルタンの評価で、いつものように20点満点での格付けです。
20点満点は、Leroy (Chambertin, Latricières-chambertin), Jean-Louis Trapet (Chambertin)。19.5点はConfuron-Coteditot (Mazis-chambertin), Dugat-Py (Mazis-chambertin), Armand Rousseau (Chambertin)で、以下、なじみのドメーヌとグラン・クリュが続きます。全体にきわめて高い評価のなか、1er cruとして一番評価が高いのは、 Confuron-Coteditot (Lavaux Saint-Jaques)が18点。17点以からは1er cruが並びます。
 価格の方は、グラン・クリュはやはり・・・というわけで三桁が並ぶ中で二桁のものを紹介すると、Harmand-Geoffroy (Mazis-chambertin)で80ユーロ。15.5点。Confron-Coteditoto (Charmes-chambertin) 85ユーロ。18.5点。Pierre Naigeon (Charmes-chambertin) 86ユーロ。17点。Huguenot père et fils (Charmes-chambertin) 60ユーロ。16.5点。Rossignol-Trapet (Latricières-chambertin) 95ユーロ。18点。
 プルミエ・クリュになると、さすがに二桁が多くなります。そのなかでHarmand-Geoffroy (Champeaux)は45ユーロ、16点、Denin Berthaut(Les cazeterrs)38.50ユーロ、16.5点、Domaine de la Vougeraie (Petite Chapelle) 46ユーロ、17点でかなりお値打ちです。しかしそれにしても高い・・・。20点満点のルロワのシャンベルタンは1000ユーロを超えます!一方、トラペは250ユーロ。安く感じてしまいます。
 さて古典派とはギリシア・ローマ文化を規範としますが、思想としてみれば、理性を第一とします。そして理性がとらえる自然、理想化された、あるべき自然を、本来の自然と考えます。むしろ自然に対して精神的なものを優位に置く、といった方がいいかもしれません。それに対して、感性や情熱を第一に置き、自然そのものの価値を認めていく思想を、総じて「ロマン派」と言います。かなり強引ですが、自然派、ビオは、あるがままの自然、テロワールを大事にすると言う意味で、こちらに近いかもしれません。
 そのビオのサロンが1月25日から27日に南仏のモンペリエで、ヨーロッパ中の、800のドメーヌを集めて行われました。ビオ栽培は、2007年に比して3倍になり、フランスでは葡萄畑の8.4パーセントになります。この数字をどう評価するかはむずかしいですが。
RVF誌は、534のビオ・ワインを試飲し、(1)象徴的なフランス・ビオ・ワイン、(2)コスパのいいフランス・ビオ・ワイン、(3)ビオの実践にうってつけのラングドックのビオ・ワイン、(4)フランス以外のビオ・ワインというなかなか興味深い分類で格付けをしています。(1)ではLarmandire-BernierのLes Chemin d’Aviz 2010のシャンパーニュ(19点)。(2)ではDomaine des Potheirs, IGP Urté Fou de Chêne 2014。15点で、12ユーロとたしかにお値打ち。(3)ではMas d’Espanet, Languedoc Camille 2012の白、17点で24ユーロ。(4)ではドイツのWeingut Peter Jakob Kühn, Hallgarten Gendelberg rieslong trocken 2014 16点で18.50ユーロとなっています。このサロンの模様と次回の開催などの情報は、次のURLで分かります。http://www.millesime-bio.com/ 検索は、次のURLで、便利かと思います。http://exposants.millesime-bio.com/rechercher
日本でもビオ・ワイン、自然派ワインの特集がワイン雑誌で組まれ、人気もありますが、やはり付加価値というところもあるでしょう。記事では、ビオ・ワインは新しい市場を開拓し、「あなたのところのワインはビオか?」と聞かれるドメーヌが多いとか。有名でないドメーヌにとってはたしかに“売り”の一つにはなるのでしょう。