連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.50 2015.08.10

地中海のロゼ

酷暑が続いています。こういうときに飲む、というか飲めるワインは・・・?
夏になるとフランスではバカンスがはじまり、地中海に人が集まります。エアコンも少なかった時代から現在まで、バカンスの地で飲むワインは判で押したようにロゼです。RVF誌も夏前早々にその評価を行っています。年中行事のようなものです。その評価の一部を今回はご紹介します。先々月号記載なので、すでにネットでも紹介されています。詳しくは、そちらを。
― 近年、ロゼは色が薄くなってきている。薄い色は、フランス語では pâleとされています。もともとは青白い、血の気がない、という意味で、光が弱い、とか色が薄いというようにも使い、yeux bleu pâletというと、透き通るようなライトブルーの眼。英語でも同じです。そういえば、私の好きな(先日亡くなった)ルー・リードの歌に ’pale blue eyes’ というのがありました。
 それはさておきロゼの薄さは、よく冷やしてサービスされることもあって、さわやかさ、清涼感、アルコール度の低さをイメージし、それが商業的にも成功している。しかし・・・それは必ずしもテロワールを反映したものではない。ある種の酵母を使うことで、葡萄の味わいを消し、早いうちに瓶詰めするのでワインを貧弱にしてしまう、その結果イギリスの酸っぱいキャンディ(ボンボン)やグレープフルーツの香りとなり、開栓後すぐに香りがへたれると、なかなか手厳しい。
 そうした中で良心的な葡萄栽培家はこうした状態を改善し、土壌改良に励んだり、ビオ栽培を行ったり、自然酵母を使ったりして魅力的なワインを作っている。果汁ばかりでなく果皮とも接触させて、マセラシオンを行ったり、エレヴァージュを長くしたりすることで、色が濃く、しっかりしたロゼをつくってもいる。そこで55のロゼを試飲して評価した。
 ネットではプロヴァンス、コルシカ、ラングドック=ルーション、ローヌが掲載されていますが長くなるのでプロヴァンスだけを紹介します。なんといっても、生産の90%を占めるロゼは、プロヴァンスではワインの王様です。― 数多ある薄いロゼのなかで独特な性格をもつロゼが現れてきた。バンドールではムールヴェードル種(mourvèdre)を使って香辛料を感じさせ、構成のしっかりしたロゼが、グルナッシュ種の多いコート・ド・プロヴァンスなどでは、しっかりした樽熟あるいはコンクリート製の卵形タンクを使用するなど志の高いワインも出てきている・・。
 ともあれドメーヌと点数評価です。それぞれの批評はネットをご覧ください。
16/20 Domaine de Terrebrune Bandol 2014 Rosé à la robe pâle(robeローブとは衣装、つまり色のことです。薄い色のロゼ、う~ん、裸の王様みたい・・。) Prix : 18 €

15,5/20 Château Simone Palette 2013 Rosé à la robe soutenue(pâleではなく、色がはっきりして鮮やか、ということです。こっちは衣装を身につけています。・・・かなり色にもこだわっています。本誌の方では色を三段階に分けています。Prix : 25 €

15,5/20 Château de Bellet Bellet Baron G 2014  Rosé à la robe soutenue Prix : 24 €

15,5/20 Château Sainte-Anne Bandol 2014 Rosé à la robe soutenue . Prix : 15,50 €

15/20 Château Pradeaux Bandol 2014  Rosé à la robe pâle  Prix : 15 €

15/20 Domaine Hauvette Baux de Provence Petra 2013 Rosé à la robe soutenue
Prix : 20 €

15/20 Château de Roquefort Côtes de Provence Corail 2014   Prix : 12 €

15/20 Domaine de la Bégude Bandol L’Irréductible 2014 Rosé à la robe soutenue
Prix : 20 €
15/20 Domaine Croix-Rousse IGP Var Pierres Précieuses 2014
Rosé à la robe pâle Prix : 17 €

15/20 Château de Pibarnon Bandol 2014 Rosé à la robe pâle Prix : 20 €

15/20 Abbaye Sainte-Marie de Pierredon IGP Alpilles Donna Rosa 2014
Rosé à la robe très pâle Prix : 13 €

15/20 Henri Milan Vin de France Papillon sans soufre ajouté 2014 (SO2無添加)
Rosé à la robe soutenue Prix : 18 €

15/20 Domaine Richeaume IGP Méditerranée 2014 Rosé à la robe très pâle Prix : 15 €

14,5/20 Domaine Ray-Jane Bandol 2014 Rosé à la robe très pâle Prix : 13 €

14,5/20 Domaine du Gros’Noré Bandol 2014  Rosé à la robe pâle Prix : 15 €

14,5/20 Domaine Les Bastides Coteaux d’Aix-en-Provence Rosé de Saignée 2014
Rosé à la robe soutenue Prix : 9 €

14,5/20 La Bastide Blanche Bandol 2014  Rosé à la robe très pâle Prix : 14 €

14,5/20 
Château d’Esclans Côtes de Provence Les Clans 2013 Rosé à la robe très pâle 
Prix : 54 €

14,5/20 Château La Tour de l’Évêque Côtes de Provence Pétale de Rose 2014
Rosé à la robe très pâle Prix : 14 €

14,5/20 Château La Coste Coteaux d’Aix-en-Provence Grand vin 2014
Rosé à la robe pâle Prix : 17 €

14,5/20 Domaine Les Terres Promises Bandol La Chance 2014
Rosé à la robe pâle Prix : 16 €
 
 ロゼのイメージは、最初にあったようにさわやか、アルコール低め、飲みやすい・・・結局安物ですが、実際は、価格を見るとけっこうなものもわりとあります。
 先月の私のADV講座で、その「けっこうな」お値段のロゼを飲みした。一つは、上から二つ目のChâteau Simone です。ここは赤も白も生産していますが、ずいぶん以前からロゼが評価され、常にトップクラスを占めています。安定していて飲み応えもあり、料理とのマッチングもかなりひろくお勧めです。これは比較的容易に手に入れることはできます。お値段は・・・しますが。
 さて、もう一つのロゼ。曰く「世界一高いロゼ」です。アレクシス・リシーヌの息子サシャ・リシーヌが、2006年からはじめたシャトー・デスクラン(Château d'Esclans)のロゼです。あきらかに戦略的に薄い色のロゼ、シャンパーニュ・ロゼを好きなご婦人方に売れる色をめざしたというとおり、かなり薄い色。しかし味は、たしかになかなかのもの。上の評価では「レ・クラン」ですが、飲んだのはそれよりもランク上の「ガリュ」。お値段にふさわしい、<時間>を要求するロゼでした。日本で売れるかどうか、難しいですが、リシーヌもアジア市場はあまり視野に入っていなく、アメリカとヨーロッパ市場でおおかたがはけてしまうみたいです。言ってみれば、ロゼにお金を出すまでアジア市場は育っていない、アジア人のワイン好きもそういう人はあまりいない、という判断でしょうが、たしかに当たっています。彼我の差をあらためて感じました。