連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.48 2015.06.15

ボルドー・プリムール2014

 シャンパーニュのモエとフランスの出版会社アシェットが共同でつくった『ワイン辞典』というものがあります。仏独英伊日スペインの六カ国語で記されている辞典です。これで「プリムール」をひくと、日本語では「新年度の酒」、「はしりのワイン(新酒)」と訳されています。「発酵の後、非常に若いうちに飲まれる、その年の収穫葡萄からできたワイン(はつらつとして果実風味があり、しなやかで喉ごしのいいワインで、炭酸ガスが溶けている。)」となっています。ボジョレーを彷彿とさせる記述ですが、飲めない「プリムール」もあります。それが、ご存じボルドー・プリムール。もうあちこちで話題がとびかっていますので、目新しくもないかもしれませんが・・・。
今年のボルドー・プリムールでもっとも話題になったのは、価格もさることながら、ロバート・パーカーの引退でしょう。1978年以来、パーカー・ポイントによって左右されてきた傾向が変わる (?)わけです。といっても、『ワイン・アドヴォケート』のもつ影響力は変わらないでしょうが。彼に代わって参加するのは、同僚のニール・マーティン氏(Neal Martin 44歳)。すでに2013年のプリムールに関しても点数を発表しています。彼は、パーカー氏と異なり、酸やミネラルのあるタイプも好むため、評価がかわるだろうと予測されていますが、来年、再来年、とこの先どうでしょう。
 これについては、面白いエピソードが昨年のRVF誌(No. 581 mars 2014)に載っています。この号では、醸造と栽培の権威で、ボルドーに深く関わっており、Flying winemaker―突出したワイン製造者とでもいいましょうか―なる名称が与えられているStéphane Derenoncourt, Éric Boissenot Michel Rolland, Denis Dubourdieu の各面々が、現代のボルドーを評価しています。面白い意見もあり、こんなことを言っています―現代のボルドーはどれも似た味といわれるが、それは70年代や80年代、エミール・ペイノーがいた頃でも言われていた。しかし、現在飲むと各々は似ていない。いいボルドーは寝かせるために作られている。(ごもっとも。最低20年は必要ですね。)あるいは―エノローグとしての技術は父の頃と変わっていない。技術よりも、より熟成し、より健康な葡萄を短い期間で収穫するようになったことが変わった、葡萄栽培が革命的に変わったとか、葡萄の熟成は食するのとは違う基準だ、とか。(シャトーやドメーヌの葡萄は生でも案外美味しいのですが。)そのなかで、ロバート・パーカーに言及してこう言っています。―2013年のプリムールのラフィットとオーゾンヌを「よくない」と記したが、ほとんど信じられない。彼は、濃縮度の強いワインが好きなようだ。たしかに、彼による経済効果は否めないが、過剰熟成で樽臭の強いサンテミリオンを評価しており、グラス一杯も飲めない。(どこのシャトーかおわかりですね。全くです。食事に合わせるというよりも、せいぜい、ワイン・バーで一杯ずついろいろなものを飲むのに適しているものが多い。まさにデギュタシオン・メニューにふさわしい。)さらに―パーカー氏と話をしたとき、「酸味が嫌いだ」と言っていた。ミルクをよく飲む家族だったらしい。(これが傑作です。きっと脂肪分の多い濃いミルクを飲んでいたのでしょう。酸味はミルクにとっては腐敗のしるしですし。ヨーグルトは食べなかったのかなあ。)聞いたことはあっても、こうあけすけに言うのは、この雑誌をアメリカ人は読まないからとおもっているのでしょうか。最後に、こんなことも言っています―悲劇的なシナリオをえがくと、過度な濃縮ワインが好まれ、それを産出しない弱小農家は縮小し、大規模なグループに買い取られ、小さな伝統農家がなくなる、と。これには、昨年や一昨年のような大規模な天候被害、とくに雹を伴う嵐も追い打ちをかけることでしょう。LVMHグループや大手証券会社、銀行所有のシャトーのコングロマリットやカルテルができてしまうのかも。
 それはともかく、RVF誌によるとプリムールの価格は、とりあえずは2008年の段階に戻っているようです。このところの価格の高騰で、しばしば「フレンチ・バッシング」が取りざたされています。すでに、2013年のプリムールについても、『デカンター』など複数の英国のワイン・メディアやワイン商は、ロンドンを訪れたグラン・セルクル・デ・ヴァン・ド・ボルドーのアラン・レイノー会長が、少なくとも30%の値下げをするよう警告していましたが、ようやくそれが実ったというわけです。それでも高すぎますが。いわゆるスーパー・セカンドや五大シャトーを気兼ねなく買って、飲んでいた80年代から90年代前半が夢のようです。パリにいた頃、休日には、昼間からシャトー・コンセイヤントやシャトー・コス・デストルネル、パヴィヨン・ブランをあけていました・・。
 こうしたなか、業を煮やしたわけでもないでしょうが、RVFは、ネット上でコスパのよいワインを発表していますので、いくつかをご紹介します。
 
 まず25ユーロ以下から。点数とユーロでの値段です。
Château Siran(Margaux)15,5-16/20, 17,25 euros
Château Sociando-Mallet(Haut-Médoc) 16-16,5/20, 21
Château du Tertre(Margaux) 16,5-17,5/20, 22,95
Château Croque-Michotte(Saint-Emilion)ビオ 15,5-16/20, 13,90
Château Couhins(Vin rouge, Pessac-Léognan)15-16/20, 14
 40ユーロ以下では。
Château Lagrange(Saint-Julien)16,5-17,5/20, 27,60 euros
Château La Gaffelière(Saint-Emilion) 17-17,5/20, 38,50
Château Beauséjour Bécot(Saint-Emilion) 16,5-17/, 39,20
Château Carbonnieux(白Pessac-Léognan) 16-17/20, 22,75
Château Malartic Lagravière(赤 Pessac-Léognan)17-18/20, 31
Château Coutet ( Sauternes ) なんと! 20/20, 28,20

本誌のほうで、20点満点は、D’YquemとFarguesとCoutetだけで、軒並み高評価です。ソーテルヌについては素晴らしい、きわめて長くもつ、気高い、例外的といった、形容詞がずらずら並んでいます。ソーテルヌは、まさにお買い得の年になるでしょう。

 もうちょっとお高いものは。
Château Gruaud Larose(Saint-Julien) 17,5-18/20, 43,75
Château Léoville Poyferre (Saint-Julien ) 18-18,5/20, 51
Clos Fourtet ( Saint Emilion ) 17-17,5/20, 59
Château Haut-Bailly ( Pessac-Léognan ) 18-19/20, 50.40
Château La Conseillante ( Pomerol ) 16,5-17,5/20, 77
Château Climens ( Barsac ) 18,5-19,5/20, 49.90

 ソーテルヌ以外で高評価、19点以上がついたのは、AusoneとCheval Blanc だけで、あとの有名どころは、18.5点が最高となっています。その意味では2014年は、2009年や2010年には及ばないが、そこそこの年で、ソーテルヌに関しては素晴らしい年というものとなっているようです。

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