連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.46 2015.04.06

ボルドー・プリムール2015

 ボルドー・プリムールが始まりました。ラ・トゥールの撤退、続いた不作などここ二、三年は、いろいろありましたが、2014年は、どうでしょう。
 昨年秋の見通しでは、夏は寒く、またもや嵐と雹に襲われたにもかかわらず、収穫時にいわゆる「インディアン・サマー」(フランス語でも « été indien » とそのままの名称です)が続いたおかげで、フランス全体としても、収穫量はそこそこ回復、ただ残念ながら、ピノ・シャラント、コニャック生産地域は難しかったようです。収穫量は4500~4600万ヘクトリットルで、ひさびさにイタリアやスペインを抜いてトップになりました。ついでに一人あたりのワイン消費量も世界トップの、44.2リットルに。ただ、ネゴシアンなどでストックの不足は、解消はされていないようです。
 トップと言えば、今年のボルドー・プリムールでの話題のトップは1978年以来、参加してきたロバート・パーカー氏の引退です。代わりに、彼の協力者であるイギリス人のニール・マーティン氏(Neal Martin,44)が登場します。これで、やたら濃いボルドーは、もうなくなるでしょうか。また、2013年は、その高価格のためフレンチ・バッシングがおき、イギリスの輸入業者は適正価格を望んでいるともいいます。中国人もかつてのようにプリムールに入れ込むこともなくなっているので、どうでしょう。ひょっとしてプリムールのシステムも転換期で、ラ・トゥールのように撤退シャトーが続くでしょうか。250のシャトーが参加し、70-90%が供されるシステムが変わるでしょうか。LVMCのような大手国際企業(コングロマリット)のシャトー購入が続けば、運転資金の調達のためにプリムールをする必要もなくなるかもしれません。たんなる宣伝効果ということになれば、違う方策を編みだしてくるかもしれません。また大手銀行や証券会社も手を出してきているので、当面の資金繰りは不要です。そうなるとネゴシアンも、戦略を変えざるを得なくなるでしょう。ジロンドの協同組合恵与会長のフランソワ・レヴェック氏が言うように、2010以来昨年まで、プリムールはあまりに高価格で、従来の機能を果たさなくなってきているならば、なおさらです。今年は、高価格にならないだろうという人もいるにはいますが。たしかに2014年は、沸騰した2005年、2009年、2010年のような高品質ではないから、適正価格になるかもしれませんが、それでも、それなりの高価格で推移するのではないでしょうか。
 ドニ・ドブルデュ氏によれば、今年はボルドーの白と甘口が素晴らしく、赤についてはそれなり、とのことです。白は、果実味があり、力強く、持続力もあり、ボルドーでは珍しい酸味もある。(きっと酸味のおかげで、パーカー・ポイントの点数は低くなるでしょう。)甘口ワインは同様に高品質だが、いかんせん生産量に問題が。ソーテルヌは、赤のようには、もともと高価格にはならないので、買いだめして保管しておくのもいいでしょうね。赤は2013年よりはよいようですが、カベルネ・ソーヴィニオンよりもカベルネ・フランの年だそうです。メルロはどうなのでしょう。

 プリムールの高騰は消費行動にも影響を与えているといってよいのか。フランスでも、面倒くさい専門店よりも大手スーパーやデパートでのワインの売り上げが伸びていますが、2014年は970万ヘクトリットルと、量としては0.6%減になりました。ロゼや白ワインに比べて、赤ワインが落ち込んでいるのですが、ただし2013年に比して、売り上げ価格としては2.5パーセント増の41億ユーロとなっています。この先導役になっているのが、IGPワイン(indication géographique protégée、 地理的表示保護ワイン)と外国ワインです。ヴァン・ド・ターブルやAOP(AOC)ワインよりもよく売れています。イタリア・ワインは、イタリア食料品店に比較的以前からおいてありましたが、10年ほど前、パリでチリ・ワイン専門店の開業をみたときには、びっくりしました。複雑な標記と高価格は結局、自分の首を絞めることにも。消費者は、もはやフランスにもこだわらないし、AOPの価格にそっぽを向き、堅実なヴァン・ド・ペイを。そして赤ではなく、健康的で軽い食事に合うロゼや白ワインを求めているのかもしれません。
 
 そういえば、イタリアの発泡ワインプロセッコも売り上げをかなり伸ばしています。かつてはほとんどがイタリア国内で消費され、輸出はドイツとスイスがもっぱらでした。それが、もともとはシャンパーニュ消費国のアメリカやイギリスで、それぞれ34%と60%の飛躍的伸びを示し、中国でもここ一、二年注目を浴びています。DOCクラスのプロセッコは、なんと70%が海外で販売され、それが、この数字となったわけです。8~15ユーロと、シャンパーニュのおよそ三分の一の価格が大きな要因です。そしてシャンパンのように辛口でないことも、酸味が強くないことも売れる要因となっていて、中国人も飲みやすい甘口の単純なワインを探しているというのが注目の理由です。あくまでイメージとしてですが、「シャンパーニュはタキシードで、プロセッコは普段着で」というところでしょうか。
 ただ、難問が。ここしばらく続いた悪天候のためワインそのものが不足し、カーヴが空になるリスクもあり、せっかくの低価格が維持できなくなる可能性もあります。フランスよりもイタリアの方が悪天候をもろに受けたようです。トスカナのデザート・ワイン “Vinsanto” が悪天候で、生産中止を決定を決定したぐらいですから。
 結局、品薄のため、プリムールの価格が下がらない、ということだけにはなって欲しくないですが。