連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.38 2014.06.15

ボルドーの災難

 ヨーロッパの教会や城を訪ねると、クリプトというものがあります。日本語では、地下墓地、地下聖堂と訳されますが、キリスト教の聖人だったり、城主、家族だったりが、石棺に納められて、地下に安置されているところです。時に、地下礼拝堂となっているところもあります。フランス語の形容詞はクリプティックcryptiqueで、地下洞窟の、あるいは秘密の、という意味で、ギリシア語kruptos(隠れた)という語から来ています。
 Revue du vin de France誌、最新号の「2013年ミレジム」は、馬が飛び跳ねるくらいめまぐるしく変化した一年をdécryptageデクリプタージュする、と銘打っています。’décryptage’ とは、暗号を解読する、という意味です。接頭辞のdé-は、除去とか、反対、剥奪を意味し、クリプトのように隠れているものの覆いをはがして露わにするということです。2013年は、めまぐるしく天候が変わり、評価が大変難しい年と言われています。きわめて良い年ではないのですが、さりとて、悪くないところもあり、一概にどうのこうのと言えません。ですので、クリプトのように地下に隠れ、もつれた暗号のように解読すべき年、というのが、2013年の評価となるわけです。

地方別で言うと、アルザスは、リースリングとピノ・ブランがよく、ブルゴーニュは生産量が低いもののそれなりです。シャンパーニュでは、シャルドネが有望、ジュラではシャルドネとピノ・ノワールがいいようです。
ラングドックは、1996年以来最高の年、プロヴァンスでも素晴らしい白とエレガントな赤が出来ました。ロワールは、とっつきやすく果実味のあるワイン、サヴォワでは素晴らしい赤、コルシカでは純粋でさわやかな酸味のワインができました。
南西地方は、逆境にもかかわらず有望、ということです。南西地方の逆境とは、ボルドーも襲われた悪天候のことです。そのボルドーでは2012年とは反対に、ソーテルヌがかなりいい出来です。
ボルドーといえば、2013年は、猛烈な嵐に襲われ、かなりの農家で雹による被害が出ました。ボルドーAOC、ボルドー・スーペリウールAOCを中心に壊滅的な悲劇となりました。ジロンド川の東を幅10キロ、長さ30キロにわたって雹を含んだ嵐が襲い、ドメーヌの2万ヘクタールが損害、ドメーヌの7000件は100%の壊滅となりました。
不幸は続きます。今年もまたボルドーは雹に見舞われました。6月8日から9日にかけて680ヘクタールにわたる葡萄畑に被害が出ました。NHKの海外ニュースで見た方もおられるでしょう。
(France2のネット配信http://www.francetvinfo.fr/medoc-des-vignobles-devastes_618077.htmlでも様子がわかります。orageオラージュというのが嵐、grêlonグレロンといのが雹です)
2センチほどの大きさの雹の塊が降ってきて、葡萄の樹を破壊しただけでなく、家の屋根を貫通したり、車のフロントガラスを割ったりしました。嵐はボルドーだけでなく、コニャックでは建物もかなり被害をうけ、フランスの多くの地方-南西から北東への斜めにわたって災害にあいました。
メドックでは、とくにプリニャック、ブレニャン、サン=イザン地域がひどかったようです。場所によっては、カーヴに浸水したところもあり消防車が出動しました。昨年と同様、格付けに入らないボルドーAOCに被害が及び、財政的基盤の貧弱さから、経営はかなり難しいところがでてきそうです。若い樹は、来年も実を結ばない可能性もあるということです。

 再び2013年の評価に戻ります。悪天候でボルドーは、生産減、2012年に比べ20%減となり、1991年以来最も生産が少なくなりました。例えば、ポムロールのル・パンやヴィユー・シャトー・セルタンは、それなりにいいワインはできたが、平年の4~6分の1程度の生産量になりました。
さらに、9月と10月には、カビが発生し、リスクをおそれ、カベルネ・フランとカベルネ・ソーヴィニオンは完熟の前に収穫し、そのためアルコール度も13度にならないものもでています。プリムール段階の試飲では、2007年以来の中庸の出来という評価でした。
 ご存じのように、ボルドーでは、中国マネーが入ってきたせいもあって2009年から2010年にかけて、かつてないほど急騰したものが、2011年には下落、2012年にはさらに下落しました。はたして2013年は、というところで、生産減が値を上げるか、それとも質のため値下げなのか。これも難しいところです。
 ボルドーでのビオディナミのパイオニアでもあるシャトー・ポンテ・カネ(ポーイヤック5級)では、2010年のプリムールは145ユーロ、2011年は90,80ユーロだったのに対し、2013年は67,40ユーロとなる模様というのが、プリムールでのRVF誌の評価でした。
ネットで調べてみると、こんなニュースもありました-デカンターなど複数の英国のワインメディアは、ロンドンを訪れたグラン・セルクル・デ・ヴァン・ド・ボルドーのアラン・レイノー会長が、少なくとも30%の値下げをするよう警告し、1級シャトーは2007年並みの100ユーロで売り出す可能性があるという見通しを明らかにした。
http://winereport.blog.fc2.com/blog-entry-293.html

 さて、このボルドーで新しい試みです。
 ローヌのドメーヌであるポール・ジャブレ・エネのエノローグ、カロリーヌ・フレイはメドックのラギューヌでも腕をふるっていますが、カベルネにシラーを混合したワインをつくりました。一見無謀に見えるこの試みですが、それなりの根拠はあります。実は、十八世から十九世紀にかけて、ちょくちょく行われていたものなのです。クラレットの 色とストラクチュアのために、エルミタージュのシラーを混ぜることもあり、Lafitte 1795年もそうだったそうです。Château Palmer も “Historical XIXth Century Wine” で、メルロ、カベルネ(85%各々半々)ローヌのシラー (12-15 %)をブレンドしていますし、オーストラリアなどでも行っていることです。
カベルネとシラーの両品種を各々の地区で別々に醸造、その後、カベルネをローヌに持って行き、ブレンドし18ヶ月間樽(新樽15%)保存するとのことです。以前にも、ラギューヌとジャブレ の Hermitage La Chapelle (2006) をブレンドしたDuoを生産しましたが、マグナム6本とジェロボアームだけの限定でした。これは、2013年のオークションで香港ドル$24,500 ($3160)の値がつきました。
今回は、多くの量を低価格で、とのことで、フランスのワイン店で 1万本をテーブルワインとして30ユーロで販売します。ポール・ジャブレは、“ジョエル・ロブション・コレクション”も販売して、なかなか商売がお上手なようです。

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