連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.23 2013.03.17

スター、アジア、ワインそしてお金

 フランスの映画俳優、ジェラール・ドパルデューがワイン好きであることはフランスでとても有名な話です。モンダヴィがラングドックに進出を図ったところ、反グローバリゼーションの運動にあって計画を断念した後に、ドパルデューがやってきたという話も聞きます。アンジュをはじめフランスだけでなく、イタリアや北アフリカにも自分のぶどう園をもち、投資やプロデュースを盛んに行っています。最近は、富裕税に反対して、税金の安いロシアの国籍取得とかで、評判がイマイチなところもあります。もっとも本人は、フランスの所得税が無法に高いと反論しています。ラトゥールの売却に関しても関係者として名があがっていますが、彼とともに、キャロル・ブーケが取りざたされていると、007ファンとしては(フランス語吹き替えではゼロ・ゼロ・セットです)何か気になります。
 別にこれに感化されたわけではないでしょうが、ハリウッド・スターのブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーナもワインをつくっています。シャトーヌフ・デュ・パプのマルク・ペランMarc Perrin(Château de Beaucastel)の協力の下、シャトー・ミラヴァル(Château Miraval、"Miraval Côtes de Provence")というワインです。AOCは、プロヴァンスです。(Côtes de Provence et Coteaux-varois-en-Provence) シャトー自体の所有は、2008年からで、購買は4千万ユーロとか。
 Revue du vin de Franceによると、彼らが新しくロゼをだしました。la cuvée Miraval 2012で、 "mis en bouteille par Jolie-Pitt & Perrin"という表示になっています。100,000本を世界中のレストランや酒屋でだす前に、6000本を、フランス居住者に限ってネットで6本セットを1000人に、105ユーロで販売。販売期間も限定の3月7日の9時から14時の5時間でした。二人の写真付きなら、もっと儲けることができたかもしれませんが、わりとまじめにワインづくりをしているみたいです。
 ちなみに、地名になっている「プロヴァンス」は、「プロヴィンキアprovincia」というラテン語からきていて、古代ローマ帝国のローマ半島以外の属州、植民都市を指します。最初のプロヴィンキアは、シシリアです。地中海周辺が本拠地であるローマ帝国から見ると北西に当たる地域に、ゲルマン人の侵入が頻繁にありました。これに対して、カエサルは「ガリア」侵攻をおこないます。カエサルの英語名はシーザー、フランス語名はセザールです。ガリアとは、おおよそ北イタリアからベルギー、フランスをカヴァーする領域ですが、カエサルは、北はドーヴァー海峡を渡ってブリタニア(イギリス)まで、東はライン川の向こうにまでゲルマン人を追っていきます。イギリスの南にも、ドイツではトリアーなどにもローマの遺跡は残っています。プロヴァンスでは劇場や水道橋が残っていて、ローマ帝国の大きさが今でもわかります。パリにも円形劇場が残っています。ガリアはフランス語でゴールGaule、ガリア人はゴロワ(ーズ)gaulois(e)といいます。ゴロワーズというフランスのタバコもあります。(今でもあるのかな。)『ガリア戦記』というカエサルの残したものがあり、日本語でも文庫ででています。興味のある方はどうぞ。

 ワインに破格のお金を出すのは,ハリウッド・スターだけではありません。最近はなんといってもチャイナ・マネーで、アジアも負けてはいません。
 ブルゴーニュ地方でもっとも大きい都市ディジョンでワイン・オークションが1月にありました。フランス大統領官邸エリゼ宮のコレクションはかなりのものですが、地方都市の市役所にも接待用にワイン・カーブがあります。ディジョン市役所には6000本のストックがありました。フランス社会党の市長フランソワ・レープサマンFrançois Rebsamen(読み方はよくわかりません)は、社会政策の費用のため、そのうち3500本を競売にかけました。市役所はパレ・デ・デュック・エ・デ・ゼタ・ド・ブルゴーニュ(palais des Ducs et des États de Bourgogneブルゴーニュ公ならびに公国の宮廷)というご大層な名前で、そこの「花のサロン」で去る1月 27 日(日)にオークションがありました。誰でも参加できるオープンなものです。
 ヴァン・ジョーヌもありましたが、ほとんどはブルゴーニュです。例えば、Richebourg 78 Jean Gros、Bâtard-Montrachet 82, 85, 89 Pierre Morey などで、一番の目玉は、Vosne-Romanée Cros-Parantoux 1er cru 99 vinifié par Henri Jayerでした。3500本を売った総額は、50.000ユーロ。ジャイエに関しては、当初の評価では1000ユーロで、実際の落札は4800ユーロでした。買い手はアジア人ということですが、どこの国かはわかりません。しかし・・・いくらなんでも高すぎます。

 アジア人、とくに中国人のワイン、とりわけボルドーへの執着はすざまじいもので、とうとう"Red Obsession"というドキュメンタリー映画までできました。「赤い執着」というか「赤い偏執狂」と訳せばいいのでしょうか。おもしろい題名です。ナレーションは、ラッセル・クロウで、オーストラリア人のWarwick Rossと David Roachがプロデュース。2月7日から17日にかけて行われたベルリン映画フェスティヴァルで上映されました。エノローグや批評家、コンサルタント、ボルドー一級のシャトーの面々へのインタビューという消費者としての側面だけでなく、ラフィットのフェイク・ワインもふくめてワイン生産者としての側面を描いているということです。予測では、2016年に中国は世界で6番目の生産国、価格の上で2番目の消費国になるとか。ちょっと見てみたいですね。


*前回のコラムで、Champagneという名の香水をディオールと書きましたが、読者からの指摘で、イヴ・サンローランの誤りでした。お詫びして訂正します。

*3月発売の『ワイナート』4月号で、「味は美を語れるか」(2)を、立花峰夫氏と書いています。宣伝でした。

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