連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.21 2013.01.06

ディケムとジェネリック・ワイン

すでにお聞き及びのかたもいらっしゃるでしょうが、ディケムD’Yquemは、2012年ものは、市場に出ないことになりました。Revue du vin de Franceによると、CEOのPierre Lurtonはこう言っています ― 収穫しはじめのときに雨がいすわって、最初に収穫した葡萄の質は良かったが、その後は雨にたたられ、試飲の結果、質的に「不十分」、ボディと凝縮度が足りないという。葡萄の一部は地面においたままのものもある、ということです。
 ディケムが市場にでなかった年は、これまでにも、1910、15、30、51、52、64、72、74、92年とあって、不幸にも2012年もその仲間入りになりました。総じて、200万ユーロの損失らしい、とのことです。
 ただ、最初に収穫したsauvignonはそれなりによいので、 10 000本のY(イグレク)は生産できるのが救いです。個人的な好みとして、フォワグラにはソーテルヌよりも、このYをあわせるのがけっこう好きです。 お試しあれ。

 さてインタビューのなかで、ピエールは「ソーテルヌのアペラシオンで、バラで(!)ネゴシアンに売り出す、もちろん、Y’quemの名はださないで」と言っているので、一部のソーテルヌは、おもしろいものになるかもしれませんね。

 たまたまのことか、どうかはわかりませんが、Revue du vin de France 2012年の最後の号(n.567)の冒頭インタビューは、Alexandre de Lur Salucesでした。
 ディケムは、1593年に、Jacques de Sauvageが購入、1785年に、Lur Saluces(リュール・サルース)家のLouis-Amédée de Lur Salucesが、 ソバージュ家の最後のあととり娘であるFrançoise-Joséphine de Sauvageと結婚し、リュール・サルース家がその後の運営を任されます。そして、とくに1968年以降のディケムの最大の貢献者といえるのが、インタビューを受けた、Alexandre de Lur Salucesです。ただ、7%の株しか持っていなかったのが不運で、叔父の遺産を受け継いだ兄の Eugène de Lur-Salucesの決定が大きく影響し、結局のところ1996年にLVMH(ルイヴィトン・モエ・ヘネシー)グループに、売却の憂き目にあいます。
 インタビューで、アレクサンドルが「ページはめくられた。イケムはリュール・サルースのものではなく、Bernard ArnaultとLVMHのもので、それは私にとっては疑う余地のない敗北で、家族の絆は壊れ、Eugèneやいとこたちとの悲しい争いは解決しがたくなった」と、語っているのがなんともいえません。プライド、名門、ビジネスなどの難しい問題が渦巻いているようです。
 ディケムに居場所はないといっているアレクサンドルですが、所有しているChâteaux de Fargueでもディケムと同じ方針で運営しており、こちらは順調のようです。ちなみに、アレクサンドルにとって最高のディケムは、1847年ということです。飲んでみたい・・・。
 LVMHはディケム・ブランドを最大に活用するようで、コーダリー(Caudalie)というメーカーが、ボルドーのブドウのポリフェノールを利用したコスメを販売していますが、ディケムの果実から香水をつくることも計画しているとか。かつてDiorが »champagne « という名の香水を売り出そうとして、AOCがらみで差し止めになったことを思い出します。コングロマリットは、ビジネスには妥協はない!

 最初のPierre Lurtonの話にもどります。ディケムの名ではなく、ソーテルヌの条件に見合う限り、ジェネリックで受け入れられるなら、と言っています。「ジェネリック」という言葉はこういうときも使うのですね。もっとも、ソーテルヌ好きな人は、ソーテルヌ・ジェネリック・ワインが最近、けっこう売られていて、購入された方もおられるでしょうが。

 ジェネリックというと、医薬品を、まず思い出します。その場合、「後発医薬品」、あるいはそのまま「ジェネリック医薬品」といわれますが、原語はgeneric drugです。特許が切れた医薬品を、他の製薬会社が製造して販売知る医薬品です。もともと、ジェネリックは、類や属というような「ジャンルgenre」に関するという意味と関連していて、特殊なもの、個別なものに対する「一般的なもの」です。シャルドネやソーヴィニオン・ブラン、セミオンという特殊な品種に対して「葡萄」というのはジェネリックな、つまり一般的な総称語です。それから言うと、個別的なブランドではない、ということにもなります。ソーテルヌはジェネリックで、シャトー・ディケムはブランドになります。視点を変えれば、ワインがジェネリックな言葉で、ソーテルヌが特殊なブランドになります。もっとも、単純に一般的と言うよりも、ジェネリックというのは否定的価値をもつ言葉のように思われます。
 さて、2013年のディケムは、はたしてどうなるでしょうか。

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