連載コラム

連載コラム:堀晶代の知っておきたいブルゴーニュ&シャンパーニュのエッジなお話し Vol.09 2018.07.13

〜シャンパーニュの高い収量と樹齢、そしてサステナブル〜

どの産地に行っても、「このワインはヴィエーユ・ヴィーニュの区画から造られているんですよ」と言われると、「何年なのですか?」と尋ねることにしている。あるとき、ふと気がついた。「シャンパーニュって、全体的に樹齢が低いなぁ」と。

ヴィエーユ・ヴィーニュに法的な規制はないが、ブドウの樹は25年を過ぎた頃から、振る舞いに落ち着きが生まれてくるらしく、25年はひとつの目安となる。以前、ある高名なメゾンの醸造長と話していたとき、

「私たちは白亜質の畑を選んでいます。樹齢は高いもので30年くらい。白亜質は降雨量が多い時には水分を溜め、少ない時には水分を放出するスポンジのような土壌。ブドウ樹の根が深く伸びなくても、的確な栽培をしていれば、ブドウ樹は適度な水分と土壌の特質を吸収できます。樹齢が尊重されるほかの産地とシャンパーニュはまったく違う」と説明された。なるほど。このメゾンは品質も素晴らしく、納得はできる。また樹齢の高い樹からは、一般的には凝縮したブドウができる。シャンパーニュの複雑な製造工程を考えると、ベースワインの時点ですでに凝縮感タップリだと、シャンパーニュとして仕上がったときには重くなりすぎることもあるだろう。

しかし樹齢の低さは、収量の高さにもあると思うのだ。シャンパーニュの高い収量については以前のコラムで書いてきたが、毎年のように「産めよ、殖やせよ」で高い収量を課せられると、ブドウ樹は確実に疲弊していく。たいていは長生きしない。結果的にはほどほどの樹齢がシャンパーニュ造りには良い方向に作用しているとしても、シャンパーニュは一本のブドウ樹を最後まで大切に育てて使おう、という意識は、どうも希薄なようだ。

シャンパーニュは産地を挙げてサステナブルなワイン造りを目指しており、その中には「畑の存続性」も含まれる。敢えて樹齢の高い樹を望まないのか、それともブドウ樹は使い捨てなのか。収量の高さを維持するためには、農薬や化学肥料に頼らざるをえないという背景もあるので、きっぱりとサステナブルと言い切るには微妙だ。

ただしCO2削減や、グリーンエネルギーの推奨、あらゆるものの再利用など、シャンパーニュが掲げるサステナブルを、産地全域に浸透させるには膨大な時間と労力がかかり、これは環境に配慮した素晴らしいプロジェクトだと思う。またサステナブルへの取り組みは、産地や企業のイメージアップにも繋がり、長期的には初期投資を回収できる経費節減になるメリットもある。ブランド力が高いシャンパーニュとボルドーが、真っ先にサステナブルを推進しているのも、なんとなく理解できる。ただし、農薬や化学肥料の使用量がフランスでTOP2であるのもまた、この2産地だ。各産地には各産地特有の抱える問題や方針、得手不得手があるのは当然だが、現時点でのシャンパーニュのサステナブルは、けっしてバランスの取れたサステナブルではないだろう。

もっともこれは、シャンパーニュだけの責任ではない。私も含め、多くの消費者が、「いつでも不自由なくシャンパーニュを買えて、かつその価格は安いほうが嬉しい」と思っている。そのニーズに応えるための、シャンパーニュ側の苦肉の策とも言える。シャンパーニュに限らず、世の中のワインがすべてファインワインだけになってしまったら、それはそれで困る。何をもっとも優先するか、そしてどのように優先順位をつけていくのかは、造り手にとっても消費者にとっても、とても複雑な問題だ。