連載コラム

葉山考太郎の「新痛快ワイン辞典」 Vol.13 2018_09_28

葉山考太郎先生が1999年に出版した『辛口・軽口ワイン辞典』(日経BP社)の続編です。ワインに関する用語が、葉山先生特有の痛快な語り口で解説されています。今回は、「ト」で始まる語をお届けします。

【見出し語について】
(1) アルファベットで始まる語はカタカナ表記で配列した。【例】AOC⇒エー・オー・シー
(2) シャトーやドメーヌが付くものは、それを除いた見出し語で収録した。【例】シャトー・ラヤス⇒ラヤス、シャトー
(3) 人名は、「姓+名」で収録した。【例】ロバート・パーカー⇒パーカー、ロバート



■と■

ド(de)
シャルル・ド・ゴールのように、フランスで貴族を示す語。フランスは階級社会で(イギリスもかなりの階級社会。貴族制度が消滅したのは、スイスと日本ぐらい?)、正式貴族が3,600家、婚姻で増えたもの、金で買ったもの、インチキを入れると15,000家もある。日本人でも付けたければ、「コウタロー・ド・ケチ」と名刺に刷ればよい。【関連語:貴族制度】

とうきょうにじゅうさんくのみたて (東京23区の見立て)
ボルドー地方で銘醸ワインを産する村を東京23区に見立てたもの。土の香りがするサンテステフ村は練馬区、ステータス最高のポーイヤック村は皇居のある千代田区、少し地味だが実力者揃いのサンジュリアン村は文京区、ムーリ村、リストラック村は、それぞれ中野区、杉並区、華やかなマルゴー村は港区。グラーブ地区は台東区+荒川区、ポムロルとサンテミリオン地区は、荒川向こうの葛飾区と江戸川区、夢見るように甘いソーテルヌは銀座がある中央区。荒川がドルドーニュ川で隅田川がガロンヌ川。間に挟まれた墨田区はアントゥル・ドゥー・メールか?

どくさつぼうし (毒殺防止)
クリスタルのボトルがシャンパーニュで一番重くなった理由。シャンパーニュのボトルは着色してあるし高圧に耐えるよう、上げ底にするが、クリスタルは透明でペッタンコ。これは、発注者、ロシアのニコライ二世の命令による。底の窪みに毒や爆薬を隠せないよう、ボトルを透明にして凹みをなくした。凹みがないので強度上、底を分厚くせざるを得ず、あんなに重くなった。毒殺の心配をしながら、緊張して高級なクリスタルを味わうより、気楽にノンビンやクレマン・ド・ブルゴーニュを飲む方が美味いと思う。

ドクターコパのワインふうすい (『Dr. コパのワイン風水』)
ワイン関連書籍中の最高の奇書。書店にワイン系の本が300冊以上並んだワイン本出版ブームの1998年に講談社から出た。ワインの味はわからないと言い切る著者が、安くてウマいワインを探すのではなく、開運としてのワインの効用を書いた。日本を中心に、どの方角のワインを飲むかで運を操作できるそう。西のキアンティ・クラッシコには、恋愛に絶大なパワーがあり、南のオーストラリア・ワインには逆転力がある。あまりにユニークな切り口で、追従書は出そうにない。著者は建築系の博士号を持っているらしいが、こんな非科学的な本を書く人が、何をテーマにどうやって学位を取ったんだろうと不思議に思っていたら、アメリカのいわゆる「ディプロマ・ミル(学位製造工場)」で購入したいかがわしい博士号だったことが判明。同じくディプロマ・ミルで学位を買ったエジプト学の吉村作治氏とともに、バッシングを受けた。

とくていめいしょうのせいしゅ (特定名称の清酒)
質は同じなのに1級と2級があった清酒の不可解・不合理な級別制度を1992年に廃止し、その代わりとなった名称(使用は1990年から)。高級酒と一般酒を区別する画期的な、と言うより、当たり前の格付け方式。原材料、精米歩合により、8つにクラス分けしたので、畑の場所でクラス分けするフランスの格付け方式より、ブドウの糖度で分類するドイツの格付けに近い。(関連項目:精米歩合、特定名称のランク、フランスの地下鉄)

とくていめいしゅのらんく (特定名称のランク)
特定名称の清酒(=高級な日本酒)のランキング。ランクの高い順に、純米大吟醸、大吟醸、純米吟醸、吟醸(この4つがフランス・ワインのグラン・クリュに相当)、特別純米、特別本醸造、純米、本醸造(この4つがワインのプルミエ・クリュに相当)。この8つが特定名称の清酒で、いわゆる高級酒。これ以外は一般酒。税金は、特定名称も一般酒も一升当たり一律241円。(関連項目:吟醸酒、精米歩合、特定名称の清酒、フランスの地下鉄)

どどいつ(都々逸)
七七七五の定型詩。主に、男女のしっとりした情をテーマにする。例えば、「知られちゃならない二人の仲を隠しておくのは惜しいもの」。小遣いが足りないと言いながら、奥さんに内緒でロマネ・コンティを買ったときは、こんな心境?

となりのゆうめいじん(隣りの有名人)
シャブリで、自分が所有する無名の1級畑の名称ではなく、猫でも知ってる超有名な「7つの特級畑の隣にある」と称すること。40もある1級畑のほとんどは、かなりのワイン通でも覚えていない。「シャブリ1級のロム・モールですが…」「ロム・モール? 聞いたことないなぁ。どこにあるの?」「フルショームの隣りです」「それなら、よさそうだ」みたいな会話が何万回も繰り返されたせいか、マイナー1級畑は、近くの有名畑を名乗ってよくなった。古い話しだが、民謡の帝王、三波春夫邸の前の道を「チャンチキ通り」と呼んだようなもの。ただし、「便乗商法」に反発し、知名度のない畑名を使う骨太の生産者もいる。

ともあらい(侶洗い)
ワイン通用語。ワイン・グラス一つで何種類ものワインを試飲する場合、次に飲むワインをグラスに少量注いでグラスを洗うこと。何人かで試飲する場合は、洗うのに使ったワインを次の人のグラスに注ぎ、「回し洗い」をするのが普通。デキャンターも侶洗いすることがある。

ドライ (dry)
【1】ワインなどが辛口であること(名古屋では、「ドライ」を「ドリャー」、「ダルマイヤック」を「ダルミャーヤック」と言うらしいが、総務省は未確認)。【2】ドライ・コンテナーの略。リーファー・コンテナーと違い、温度調節装置のついていないコンテナーのこと。ワインの運搬には適さないが、運賃が4、5倍違うため(700ケース積み20フィート・コンテナの米西海岸・日本間運賃は、ドライで$900、リーファーで$4,000)、経費節減上、ドライで運ぶ場合がほとんど。【3】アルコールがないこと。英語で、ドライ・シティーは、酒の販売を禁じている町(でも、飲むのはOK)。

ドラモット(Delamotte)
1760年に創業した老舗のシャンパーニュ・メゾン。所在地は、あの「サロン」の隣というか、二軒長屋状態だし(ちなみに、5mの道を挟んだお向かいにギィ・シャルルマーニュがある)、「サロンの妹分(というより「娘」状態)」。ヴィンテージ物しか出さないサロンは(宣言率は30%台と異様に低い)、ヴィンテージ宣言しない年の葡萄をドラモットへ卸す。なので、ドラモットのノン・ヴィンテージ物を飲んだ時、マニアは、「おぉ、サロンの味がするぞ」と叫ぶのが礼儀になっている。

ドリアーヌ、ラ (La Doriane)
フランス、ローヌ地方の名手、ギガルがコンドリュー地区で作るヴィオニエ種の物凄い白ワイン。2haの畑は、あのシャトー・グリエの隣にある。1994年が初リリース。ランドンヌ、ムーリンヌ、トゥルクの「ギガル三兄弟」の末の妹という感じ。色はイケムのような輝きのある黄金色。花屋に迷い込んだように絢爛豪華な香りがある。上の三人のお兄ちゃん同様、相変わらずラベルのデザインは垢抜けないが、中身はワイン観が一変するほど素晴らしい。(関連項目:ギガル三兄弟、シャトー・グリエ)

トリュフ (Truffe)
フランス人が異常に珍重する香り豊かなキノコ。歯ざわりもいいらしいが、高価なのでそれが判るほど食べられない。トホホ。ポムロル、特にル・パンはトリュフ香が顕著とよく言うが、日本人には「海苔の佃煮」香と表現する方がピンとくるかも。旬は11月から1月。イタリアの白トリュフは、フランス産黒トリュフに比べ、香り、価格とも強烈。なので、イタリア人は、「黒トリュフなんぞ、フランス人に食わせとけ」と言うそう。なお、フレンチで、「ペリゴール風」とあれば、刻んだトリュフが入る。催淫作用があるらしいが、真相は謎。

タンモア(Le Temps Moelleux)
2018年9月、赤坂に新装オープンしたテーブル席が10の小さいフレンチ・レストラン。開店準備としてソムリエの求人をしたところ、飲食系は凄まじい求人難で(たぶん、「宇宙飛行の経験者1名急募」とか、「芥川賞の受賞者限定で2名募集」と同じぐらい大変)、火曜日と木曜日が埋まらず、で、2020東京オリンピックを過ぎても火曜、木曜の予定がない葉山考太郎がここでソムリエを担当している。料理は、「シェフのおまかせコース」が1つだけ。エレガント、プラス、非常に手の込んだフレンチで、しかもお腹がいっぱいになる。隠れ家的な場所にあるため、初デート、勝負の夜、接待のように、「空っぽの胃袋」と「たっぷりの下心」を持った方はぜひ。


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