連載コラム

遠藤誠の「読むワイン」 Vol.01 2017_05_26

「地図でみるブルゴーニュ・ワイン」を読む。

コートドールを歩くのは楽しい。
のどかな田園風景もさることながら、ブドウ畑の合間を縫うように歩いていくと、モザイク状の入り組んだ複雑なテロワールを体感できるからだ。

例えば、ムルソー村の中心から南に歩を進めると、ムルソーを代表する3大1級畑であるジュヌヴリエール、ペリエール、シャルムを眺めながら、じきにピュリニー・モンラッシェ村に入る。そのままに東南東向きのなだらかな斜面に沿って進むと、クラヴァイヨン、カイユレといった素敵な1級畑が現れ、その先にいよいよ真打グランクリュの登場である。
左手、斜面下方にはバタール・モンラッシェ、右の斜面にモンラッシェ、モンラッシェの上手にはシュヴァリエ・モンラッシェが見える。なるほど小道を挟んでバタールは傾斜が緩く、シュヴァリエはモンラッシェよりさらに傾斜がきつくなっている。一連の三つのグランクリュはこのわずかな傾斜の違いから、固く引き締まったシュヴァリエ、ふくよかなバタール、完璧なバランスのモンラッシェと異なるキャラクターが生まれるのだ。
面白いのはこの後だ。ピュリニー・モンラッシェ村から村境を越とシャサーニュ・モンラッシェ村に入ると、徒歩でなら小道の勾配がわずかに異なってくるのに気づくだろう。モンラッシェやバタールの畑の向きが東南東から南向きに変わってくるのだ。同じモンラッシェでもシャサーニュ村のほうが果実味豊かに感じるのは、この二つの村では斜面の向きが異なり、南を向いているシャサーニュ村のほうがブドウがより良く熟すからにほかならない。

このようにパッチワークのように複雑なブルゴーニュの銘醸畑のキャラクターは、土壌はもちろんだが、斜面の強弱や方向を把握するとさらに理解が深まる。
この本「地図でみるブルゴーニュ・ワイン」が楽しいのは、歴史や栽培、醸造や各AOCの解説もさることながら、各村の詳細な畑の地図があることだ。しかも等高線入りの!この等高線があることによって、現地を歩かなくてもお目当ての畑が平地なのか、急斜面なのか。はたまた東向きか、東南向きかなどが手に取るようにわかる。
これから飲むブルゴーニュの畑を地図上で探し、その畑に立った自分を想像しながら楽しむのはちょっとした旅行気分を味わえるだろう。さらには同じ村の異なる畑を比べる水平試飲の際に、この地図で畑の位置や斜面の状況を把握し、それが味わいに反映しているのかを確認しながらグラスを傾けるのは、非常に知的な興奮をもたらすものだ。ぜひ試してみてほしい。
ブルゴーニュワインの解説本は数多くあるが、この本はブルゴーニュ愛好家にとってはなくてはならない、お薦めの一冊だ。

出版社:早川書房
著者:シルヴァン・ピティオ、ジャン=シャルル・セルヴァン