連載コラム

浅妻千映子の最新レストラン事情 Vol.08 2018_03_02

〜自然派ワインと太麺〜

つい先日、渋谷の黒鉛通り近くにあるレストランがリニューアルオープンした。
「ビオディナミコ」というイタリアンで、ほんの100メートルくらいの範囲で移転。以前より広く、カジュアルになって、大勢で訪れワイワイ楽しむには最適そうな空間だ。
値段も抑えめになり、料理がストレートになった。
例えばこの日のメインは、たっぷりのポレンタに猪の煮たのをのせただけ。料理名は“ポレンタにおぼれた猪”で、肉よりむしろ、ポレンタを食べてほしいとのこと。
そもそもお皿の中には2つの食材しかないから、何を食べさせたいかが明確で、好感が持てた。
実はこの店、業界ではサローネグループと言われている、イタリアンレストランをいくつか展開している会社がやっている。
ビオディナミコという店名からも感じるかもしれないが、それぞれのレストランでは、自然派ワインの黎明期から、イタリアを中心としたその手のワインに力を入れていた。ついには昨年、山形にワイナリーまで手掛け、完全無添加のワイン造りまで始めてしまったほどだ。
新生ビオディナミコでも、種類は多くないけれど、喉に引っかからないでごくごく飲める気軽な自然派ワインを、カラフェで用意してくれているのが嬉しい。
さて、自然派ワインの充実した店といえば、どんな店が思い浮かぶだろうか。きっと皆さん、いろいろお気に入りのお店があると思うが、私のとっておきを一つ紹介するなら、下北の「ルミエルネ」だろうか。
アラカルト中心のカジュアルフレンチ(だけど〆のパスタもある)で、なんとワインリストに約300種類、倉庫まで含めると800種類ほどの自然派ワインを置いている。
これって都内一(ってことは日本一?)ではないだろうか。
下北という場所柄もあってか、全く気どりのない店内で、料理の値段も破格。特に野菜料理が美味しく、北海道の「ミッシェル・ブラス トーヤ ジャポン」出身のシェフがカウンターの向こうで腕を振るう。
ミッシェル・ブラスといえば、本店はフランス、セミのマークのナイフで有名なラギオール村にある。「ブラス ル・スーケ」。ちょっと前に、ミシュランの星返上で話題になったところだ。
もう15年ほど前に訪れたことがあるが、実は、私が海外のレストランで一番感動したレストランでもある。宿泊も素晴らしい。機会があれば再訪したいが、いかんせん不便な場所にある。
当時、やっとの思いで到着して広い敷地の中を歩いていると、料理人たちが何人も草むしりのような作業をしているのが見えた。何だろうと思ったが、ディナーに、「先ほど敷地でとれたキノコ」とか、やはり敷地でとれた野菜やハーブがたっぷりと出て、なるほど、みんなの作業に納得した。採れたてだけあり、どの皿も香りは抜群。あの時食べた、さっとソテーしただけの小さなキノコは忘れられない。
ここで一番有名なのは、ガルグイユという野菜をふんだんに使った一皿で、野菜だけでこれだけ味の幅が出せるものかと驚かされたのだが、それをアレンジした料理がルミエルネにもある。しかも、そんなグランメゾンテイストの一皿が、千円である、千円!
肉料理もレベルが高いし、美味しいチーズも仕入れている。
ワインのみならず、普段使いできる店として、ルミエルネは本当にお勧めだ。
ところで、話をビオディナミコに戻したい。
イタリアンといえばパスタ。
ビオディナミコで出るパスタは、モッチリとした太麺だ。
実はこれ、浅草の製麺所、浅草開化楼のもので、このところ、いろんなレストランでひっぱりだこ。一気に広がりを見せている生パスタなのである。
話題の店では、大人気のカジュアルカウンターフレンチ、浅草の「ペタンク」でも使っていた。あ、ここも自然派ワインの店ですね。
日本橋にあるサローネグループの「ロットチェント」もこの麺で、付近で働くサラリーマンに絶大な人気だ。
ちょっとうどんみたいで、食べごたえがある。正直に言うと私はこの麺がそれほど好みではないのだけれど、周りの意見を聞くと、特に男性からの人気がすこぶる高い。
流行りの店を訪れるとこの麺を使った一皿に出会うこともあると思うが、今すぐにでも食べてみたい人は、ビオディナミコの1200円のパスタランチが手軽だ。
皆さんの感想が気になるところである。
いくつかの店で食べると、同じ麺でも店によって、つまり作る人によって印象も異なる。技術の差というよりも、その麺のどこを見ているか、どう捉えているかというのが、料理人によって違うということなのだろう。
好みでないとは言っても、その違いを感じながら食べるのは面白い。

■ビオディナミコ
http://www.bio-dinamico.com/

■ルミエルネ
https://tabelog.com/tokyo/A1318/A131802/13170123/

■ブラス ル・スーケ
http://www.tsuji.ac.jp/college/france/blog/mail_france/bras_le_suquet.html

■ペタンク
https://tabelog.com/tokyo/A1311/A131102/13206743/

■ロットチェント
http://www.lottocento.tokyo/