連載コラム

浅妻千映子の最新レストラン事情 Vol.14 2018_11_30

海に浮かぶ寿司店も! 2018年和食

少し前に、面白い体験をした。今年できた「Suship」というレストランを訪れたのだ。
店名から想像できるだろうか。寿司+船。そう、東京湾に浮かぶ寿司屋の船である。

予約の時間に行くのは、勝どき橋のふもとだ。
すると、定員15人ほどの、椅子だけ並んだ小さな船が止まっている。
時間ギリギリに到着したので、私の一つ分以外の席は既にうまっていた。オレンジ色のライフジャケットを付けたら出発だ。

ビュンビュンと風をうけながら、お台場方面へ。
15分ほどで、「Suship」と書かれた船のすぐ脇に到着した。

ここで、Sushipへと船を乗り移る。ライフジャケットを脱いで、新たな船の中を見渡すと、テーブルが並び、料理の準備がなされている。靴を脱いで上がる船の中は立派なレストランだった。

イクラの醤油漬けやイカの塩辛といった、ちょっとしたつまみが数品。それから、大きな肉が一枚ときのこなどが入ったすき焼。旅館なんかで出てくる、下にろうそくみたいのがつく一人用の鍋だ。
蟹の入ったお椀、刺身、そして握り。たっぷりのイクラやウニ、白身やマグロ、最後は巻物まで、3度に分けてたっぷり登場した。デザートは抹茶味のわらび餅。
聞けば、オーナーは北海道の出身で、魚も肉も北海道から仕入れているそうだ。

通年、メニューは変わらない。つまり、リピーターを呼び込むわけではなく、数日の滞在の中で、日本の味を満喫したい外国人観光客に最高というわけだ。
大きな窓の外には、お台場をはじめ、東京の美しい夜景が水に浮かぶ。
このSushipの営業時間は朝の5時まで! 夜中の2時半が、勝どき橋を出る最終船だ。東京を遊び尽くしたい旅行客に、なんともピッタリのプランが組めそうではないか。

さらに驚いたのは、オーナーは、このSushipを、世界各地の海に浮かべたいと夢を抱いていることだ。ドバイの海やイタリアの海……。世界各地で、この日私が食べたものと変わらないメニューで、同じ料理を出す予定だという。つまり世界中どこに行っても入手可能な素材を吟味してメニューを組んでいるのだ。

鮨や天ぷらを含めた和食店に、外国人客が増え続けるこの頃だ。しかし、小さな和食店は、もともとあまり開かれた世界ではない上、カウンター中心で、ご主人は職人気質なことも多い。フレンチやイタリアンのようなサービススタッフというのもいないから、言葉の問題もあって、外国人が来ることをあまり好まない店も多い。こういうものこそ外国人に知ってほしい、と思う店が、少々もったいない話である。

それはさておき、2018年も、新しい和食店がいくつもできた。中から2つほどご紹介を。

黒いジャケット着た女性ソムリエがいて、外国人対応もしてくれそうなのが「久丹」だ。あの「かんだ」で修業した人が開いた店で、高級店だが、ここぞという時にはお勧めである。新富町の、渋い場所にある。私が訪れたときは、ほんわりとデコポンが香ったお椀が絶品だった。

今年一番気に入った和食店は、青山一丁目の「てのしま」だ。
小さなビルの二階にあって、少々ワサワサした雰囲気のカジュアルな店。1万円のコースがとてもいい。高級食材にお金をかけなければ、この値段でこんなにも充実した内容ができるのだと感動する。

夏に訪れたときの一品目が、トウモロコシの冷たい茶碗蒸しだった。高級店ならウニなどのせるかもしれない。ここではヨモギの濃い緑色のあんがかかっていて、トウモロコシの甘みと重なると、極上の和菓子のよう。本当に美味しかった。

最近、和食店に行くと不思議なのは、締めのご飯以外にも、もう一つ二つ、炭水化物が挟まることが多いこと。
「久丹」で出た炭水化物は、そうめん、雑炊、お寿司と3つ。
「てのしま」では寿司とにゅう麺。
もちろん、どれも少量ではあるが、最近の「炭水化物を控えよう」の流れに逆行している。みんな、普段は控えている分、こうした食事の時にはしっかり食べたいと思っているのだろうか。謎である。

■Suship
https://g207111.gorp.jp/

■久丹
https://tabelog.com/tokyo/A1313/A131301/13220750/

■てのしま
https://www.tenoshima.com/

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